平成30年12月理事長定例記者会見

理事長定例記者会見

山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします

日時:平成30年12月14日(金) 13:30-14:30

場所:JAXA東京事務所 B1F プレゼンテーションルーム

司会:広報部長 鈴木 明子

イプシロンロケット4号機による革新的衛星技術実証1号機の打上げについて

 イプシロンロケット4号機による革新的衛星技術実証1号機の打上げを平成31年1月17日(木)に、内之浦宇宙空間観測所から行う予定です。今回の打上げは、今年度最後の基幹ロケットの打上げであり、平成30年11月15日、先月に施行されました「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律」(宇宙活動法)下での、最初の打上げになりますので、この法律に基づく必要な許可を頂き、打上げ準備を進めております。イプシロンロケット4号機については、宇宙活動法に基づく打上げの認可をいただくとともに、型式認定も取得し、さらに打ち上げ施設についても適合認定が得られています。

 イプシロン4号機では、革新的衛星技術実証プログラムとして小型実証衛星1号機 RAPIS-1(RAPid Innovative payload demonstration Satellite 1、ラピスワン)、超小型衛星およびCube Satを各3機ずつ、合計7機の衛星を打ち上げます。昨日、内之浦空間観測所でプレスの皆様にも機体をご覧いただきました。多くの皆様に参加いただきました。ありがとうございます。

 小型実証衛星1号機 RAPIS-1は、宇宙スタートアップ企業「アクセルスペース社」が開発・試験・運用を担当し、短期開発・低コストという開発要求に応えるための、超小型衛星等で使用実績のある機器を最大限活用する、これまでのJAXA衛星とは異なる開発手法が採用されています。また、RAPIS-1衛星の運用もアクセルスペース社の自ら準備した地上システムを使って、アクセルスペース社が実施いたします。

JAXA内之浦宇宙空間観測所での革新的衛星技術実証1号機機体公開の様子

 9月の定例会見でもご紹介しましたが、革新的衛星技術実証プログラムでは、部品単体の実証テーマも受け付け、JAXAが効果的な搭載方法を提案して衛星に組み込み、軌道上環境での技術実証を行うことができます。日本の優れた技術やアイディアを、衛星単位だけではなく、「部品・コンポーネント単位」で軌道上実証できる貴重な実証機会です。
 小型実証衛星1号機 RAPIS-1には、7つの実証機器(うち、部品が1つ、コンポーネントが6つ)が搭載されています。これまでH-IIA相乗り等では実証機会が少なかった「衛星推進系」「機械展開物」「電子部品単体」等の実験が採用されているのが特徴となります。
 来週18日には、RAPIS-1に搭載される7つの実証機器テーマについての記者説明会を東京事務所にて開催いたします。当日はマイクロソフト社が開発したMR(Mixed Reality、複合現実)を用いたデバイスでありますMicrosoft HoloLensを用いて、小型実証衛星1号機(RAPIS-1)の実物大模型に、部品、コンポーネントの実証テーマ機器の配置、機能紹介等を複合して表示することにより、衛星内部に搭載されていて、実際には見ることが出来ない部品、コンポーネントについても、直感的にご理解頂けると思いますのでぜひお越しいただければと思います。

気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)の定常観測運用への移行およびデータの提供開始について

 昨年末、平成29年12月23日に種子島宇宙センターから打ち上げられた気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)についてですが、初期校正検証を約1年かけて進めて参りましたが、本日、初期機能確認運用及び初期校正検証運用を予定通り終了しました。
 「しきさい」は、近紫外から熱赤外までの19の観測波長帯、いわゆる色を持ち、偏光・多方向、近紫外観測といった特徴的な機能を有しています。「しきさい」は、1000㎞以上の観測幅で全地球を約2日間かつ高い分解能(具体的に言いますと250mですけれども)で観測することができ、雲・エアロゾル、植生などの温暖化予測の精度向上に不可欠なデータのほか、漁場予測や、黄砂の飛来、あるいは赤潮発生状況等の把握など、私たちの生活環境に関わるデータを提供していきます。
 このしきさいデータの提供開始にあたっては、12月20日(木)に、ここ東京事務所で、初期校正検証中の結果と観測データの提供に関する説明会を開催しますので、ぜひご参集いただきますようよろしくお願い申し上げます。

日本実験棟「きぼう」を使ったLHPラジエータ軌道上実験について

 2020年代における世界の商業通信衛星市場において、我が国の民間事業者が現状より多くのシェアを獲得することに貢献することが、宇宙政策の中長期目標となっていることが背景にございます。その実現に向けて、現在、技術試験衛星9号機の開発を進めているところであります。
 次世代静止通信衛星に想定される電気推進系や大電力通信系を搭載する、いわゆる大電力衛星では非常に大きな排熱能力が必要となりますが、従来の衛星を許容温度範囲内に保つための技術として、大きな放熱面を要する既存技術のみでは、この排熱要求を満たせないことが課題として挙げられています。
 そのために、大きな排熱要求に応える技術として、ループヒートパイプ(Loop Heat Pipe: LHPと略しておりますけれども)と呼ぶ熱制御デバイスを利用した高排熱技術の検討を進めているところでございます。LHPとは、作動流体の蒸発潜熱を利用して、衛星表面にある放熱面まで熱を運び出す、導く仕組みのことです。
 これまでは衛星の排熱量が多く求められる際には、衛星自体を大型化して大きな放熱面(ラジエータ)を確保することにより対応してきましたが、衛星は打ち上げ時にロケットのフェアリング内に収納できるサイズにしなければならず、この大型化には限界がありました。更に排熱能力を大幅に向上させるために、打ち上げ後に、衛星に搭載したラジエータを軌道上で展開する「展開ラジエータ技術」を構築して、LHPを利用して、機器が搭載されております衛星構体から展開ラジエータまで熱を運ぶことを考えております。
 技術試験衛星9号機でのLHP展開ラジエータの技術実証に先立ち、LHPの微小重力環境下での挙動を事前に確認するために、今回は国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」曝露部での軌道上検証試験を2018年10月22日~11月16日までの約1ヶ月にわたり行ってまいりましたので、その結果を報告させていただきます。

 軌道上実験用LHP(LHPラジエータ技術実証システム(LHPR))は、2018年9月23日にHTV7号機でISSに輸送され、エアロックを通じて、日本実験棟「きぼう」のロボットアーム先端取付型実験アダプタ(MPEP)に取り付けられました。「きぼう」近傍の曝露空間で、ロボットアームに把持された状態で、LHPの動作確認や熱輸送特性に及ぼす影響の評価に必要なデータの取得が行われました。

「きぼう」船内でロボットアーム先端取付型実験アダプタ(MPEP)に取り付けられた軌道上実験用LHP

「きぼう」船外に搬出され、ロボットアームに把持された軌道上実験用LHP

「きぼう」近傍の曝露空間で、ロボットアームに把持された状態

 結果として、微小重力環境下でもLHPが安定して起動・動作することと、軌道上で作動流体を止めたり流したりして動作を任意にON・OFFをする機能が確認できました。また、熱を運ぶ作動流体の動作温度を目標温度±0.5℃以内で高精度に制御することも確認しました。
 本実験の成果は、技術試験衛星9号機への適用が予定されております。この技術試験衛星9号機は、現在、衛星システム、サブシステム、コンポーネントの仕様を制定する基本設計を進めているところでございます。具体的には、機能を確認する試作試験用モデル(BBM)の試験、及び打上げ実機の機能・性能を確認する地上試験モデル(EM)の製造に着手しているところでございます。

「きぼう」利用事業の民間開放に関する企画提案募集について

 JAXAでは、「きぼう利用戦略」、これは平成29年8月に第2版が制定されましたが、この「きぼう利用戦略」に基づき、国際宇宙ステーション・日本実験棟「きぼう」の利用事業について、民間等による利用事業の一部自立化、つまり民間等の主体的な利用サービス提供、及び更なる利用拡大を目指しています。
 その第1弾の取組として、今年の5月に、「きぼう」日本実験棟からの超小型衛星放出事業の民間事業者としてSpace BD株式会社並びに三井物産株式会社の選定をすでにご報告いたしたところでございますけれども、Space BD株式会社においては本年8月に第1号案件の受注を公表するなど、両事業者とも来年度にはいくつかの衛星を放出できるよう積極的な事業展開を実施中と聞いております。
 今回、第2弾の取組として、ISSの「きぼう」だけが持つ強みであるロボットアームとエアロックの機能と、JAXAが開発をしました「きぼう」船外実験プラットフォームに取り付けた「中型曝露実験アダプタ(IVA-replaceable Small Exposed Experiment Platform)」、i-SEEPと書いてアイシープと呼んでおりますけれども、これを使った船外利用事業の事業者および企画提案をこの12月から募集を開始しています。
 i-SEEPとは、「きぼう」船外で、電力、映像やデータ通信、排熱機能を利用者が開発した実験機器に提供するアダプタで、人工衛星に例えると衛星バスに相当するものでございます。利用者にインフラ機能を提供できるので、利用者は観測センサ等のミッション機器だけの開発に注力でき、これまでは衛星全体を開発しなければできなかった、新型センサの技術実証や、民生品のカメラで地球を撮影するといったミッションが「きぼう」の船外で簡易に実現可能となります。
 このi-SEEPを用いた船外利用機会を提供する事業者募集の企画提案を平成31年1月31日、来月末まで受け付けております。選定された事業者との契約対象期間は、2024年12月31日までの約6年間を想定しております。
 本事業募集を通じまして、更なるISSの船外利用の需要を拡大し、「きぼう」を含む地球低軌道利用の発展につなげてまいりたいと考えております。
 なお、来年度初頭にはi-SEEPを用いた初めての有償利用案件でありますSONYコンピュータサイエンス研究所による光通信機器の実証実験を予定しています。

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