理事長定例記者会見
山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします
日時:平成31年3月8日(金) 13:30-14:30
場所:JAXA東京事務所 B1F プレゼンテーションルーム
司会:広報部長 鈴木 明子

はじめに
米国の新型有人宇宙船SpaceXクルードラゴン 無人飛行試験1号機(SpaceX Demo-1)が3月2日ケープカナベラル宇宙基地から打ち上げられ、3日にISS(国際宇宙ステーション)に無事到着しました。本日、日本時間の16時ごろからのISS離脱に向けまして、現在順調に最終チェックアウトを行っているところと聞いています。
2011年のスペースシャトルの退役後、有人宇宙輸送はロシアのみが実施してきたところですが、再び米国から打ち上げられること、そしてそれが民間企業の開発で行われるということに、私としては新たな時代の幕開けを感じているところです。
今後の米国有人宇宙船の本格運用、あるいは日本人宇宙飛行士の搭乗に先立って技術情報の収集と安全評価を引き続き行ってまいりたいと考えております。
「はやぶさ2」の今後のスケジュールについて
「はやぶさ2」は、2月20日から1回目のタッチダウン運用を行い、2月22日7時29分10秒、小惑星リュウグウへタッチダウンを実施しました。目標である半径3mの円内に接地したこと、そしてプロジェクタイル(弾丸)の発射も確認されており、サンプルは十分に採取できたと判断しております。
先日、記者説明会で公開したタッチダウンの前後に撮影しました動画は、国内・海外を含め、非常に多くのアクセスを頂いております。この動画を撮影した小型モニタカメラ(CAM-H/カム-エイチ)は、一般の皆さまからの寄付金により実現した機器です。支援いただいた皆さまのお力を借りて、世界中の皆さまとタッチダウンの瞬間を目撃し、シェアするために搭載されました。改めて、皆さまのご支援に感謝申し上げます。
現在「はやぶさ2」探査機は、2回目のタッチダウン候補地点を詳しく調べるための低高度降下運用を行っており、さきほどお昼すぎに、最低高度の22mに達したことを確認しております。正確な時間については後ほど広報から連絡を差し上げたいと思います。今後ですが、タッチダウンのための情報取得や人工クレーター形成のための事前観測を経て、4月1日の週には、衝突装置を用いた人工クレーターの形成運用を行う予定です。5月以降に人工クレーターの内部または周辺に、2回目のタッチダウンをすることを目指しているところです。
ワイヤレス給電技術の研究開発へのクラウドファンディングによる寄付金募集開始について
現在、JAXAは複数の募集対象事業に対して、募集特定寄附金を募らせていただいておりますが、その一環として今回初めてクラウドファンディングによる、寄付金募集を始めます。
クラウドファンディングの対象は、JAXA研究開発部門が進めております研究テーマ「ワイヤレス給電技術」です。
JAXAでは、宇宙環境下で信頼性向上を実現にする人工衛星開発の「ワイヤレス化」の研究を進めています。詳細な研究内容については、のちほど担当者からご説明させていただきますが、わかりやすく申し上げますと、機器同士のコネクタやケーブルをなくすことで、機器の取り付け位置などの自由度を上げ、断線や接触不良、放電などのトラブルを低減して、信頼性を向上するための技術開発です。結果として、人工衛星の開発期間の短縮も達成できると考えております。
この「ワイヤレス化」研究の中で、「ワイヤレス給電技術」を、「きぼう」船内に搭載予定の船内ドローン「Int-ball」の3号機以降などに適用して、宇宙空間でのワイヤレス給電技術の早期実証を目指しております。
お配りした資料の通り、先ほどホームページより募集を開始いたしました。クラウドファンディングによる資金調達によって、スピード感を持った軌道上実証を実現したいと考えております。また、集まった資金を使って、ワイヤレス電力伝送技術を確立させる上で不可欠な送受電のためのコイルの設計・製作に活用させていただきたいと考えております。
今回募集を開始したクラウドファンディングでは、「身近な宇宙開発」をテーマに掲げております。この活動は、ホームページを通した応援メッセージへの回答や、支援してくださる皆さまを研究開発現場へご案内し、JAXA職員が解説をする特別な見学ツアー開催などを考えておりまして、JAXAが実施する「ワイヤレス化」研究開発を皆様に知ってもらう広報活動の一環でもあります。
ぜひご関心をお寄せいただき、みなさまご支援をどうぞよろしくお願い申し上げます。
国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟からの船外利用事業民間事業者の選定結果(「きぼう」利用民間開放の第2弾)について
昨年12月の定例会見におきまして、「きぼう」利用事業の民間開放に関する企画提案募集についてのご案内をいたしました。「きぼう」船外実験プラットフォームに取り付けられました「中型曝露実験アダプタ(i-SEEP: IVA-replaceable Small Exposed Experiment Platform、アイシープ)」を使った船外利用事業の事業者としまして、この度Space BD株式会社を選定しましたので、ご報告いたします。
「きぼう」利用事業の民間開放の第1弾の取組としては、昨年5月にご報告しました超小型衛星放出事業者としても、Space BD株式会社が採択されており、既に数件の受注を獲得するなど、「きぼう」の利用の民間開放に精力的に取り組んでいらっしゃいます。
また、Space BD株式会社は、宇宙の産業化に向けたあらゆる課題にワンストップで対応可能なプラットフォームを構築する「宇宙商社」として、昨年11月には、JAXAの共創型研究開発プログラム「宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」の枠組みにおいて教育事業創出に向けた活動開始にも取り組まれております。
今回改めて選定いたしました中型曝露実験アダプタ(i-SEEP)を用いた船外利用機会を提供する事業は、2024年12月31日までの約6年間を想定しており、来週3月11日にSpace BD株式会社と基本協定の締結を行う予定です。
先般、Space BD株式会社自らがプロモーションを行って、スペインの宇宙ベンチャー企業でありますSatlantis社の間において、Satlantis社が開発します、超小型衛星のための双眼鏡の製品化を目指してi-SEEPを使用する軌道上実証のための有償利用契約が締結されているところと聞いております。今回の民間開放の第2弾としての事業者に選定される以前より、Space BD社が民間ならではのスピード感で海外ユーザを開拓されたことは、民間事業者との共創を通じて、ISSの船外利用の需要を拡大し、そして「きぼう」を含む地球低軌道利用の発展につながるものとして期待しております。
「国際宇宙探査シンポジウム2019」持続的な宇宙探査に向けて~科学、産業と社会、共創新時代へ~について
昨年3月に、宇宙探査における国際協力の促進を目的とした、閣僚級を含む政府レベルでの対話・意見交換の会合であります第2回国際宇宙探査フォーラム(ISEF2)が東京で開催されました。そのフォーラムでは、40を超える国として機関の代表により、持続的な宇宙探査事業の推進に向けた国際連携の強化について確認がなされ、産業界の参画や次世代人材育成の重要性も確認されたところでございます。
昨年4月から始まりましたJAXAの第4期中長期計画において、宇宙探査活動がJAXA事業の4つの柱の一つとして位置づけられたことを踏まえまして、All-JAXAの技術と英知を結集し、宇宙探査活動を本格的に進めていくための組織として、昨年7月に「国際宇宙探査センター」を設置しました。現在、日本政府及びJAXAの「国際宇宙探査センター」を中心として、国際的な枠組みで行う宇宙探査(国際宇宙探査)活動に関して参加に向けた検討を進めているところです。
「国際宇宙探査センター」は、このたび内閣府宇宙戦略事務局殿、文部科学省殿、経済産業省殿のご協力を頂き、3月12日(火)に虎ノ門ヒルズにて、「国際宇宙探査シンポジウム2019」を開催いたします。このシンポジウムでは、「持続的な宇宙探査に向けて~科学、産業と社会、共創新時代へ」と題しまして、国際宇宙探査における国内外の最新動向をご紹介するとともに、今後の推進方策や展望について産官学からのパネリストの皆様に多角的に議論いただく予定です。
具体的には、国際宇宙探査で当面の対象としております、月・火星の探査に向けた活動につきまして、JAXAの若田理事からご紹介するとともに、海外からは、NASA、ESAの代表をお迎えして最新の取り組みについてご紹介いただく予定でございます。
午後には二つの対談を予定しています。一つ目は、理化学研究所の松本理事長と宇宙飛行士山崎直子さんに人類的な視点からの宇宙探査について語っていただく予定でございます。
二つ目は、トヨタ自動車の寺師副社長をお迎えして、JAXAの若田理事との間で、“宇宙探査×モビリティ”に関する共同検討について語っていただきます。
また、対談に加えまして二つのパネルを予定しておりまして、持続的な宇宙探査に向けた産業界の事業構想や課題・期待などを紹介いただき、さらに、最後のパネルでは、アカデミアも交えまして、今後、日本での取り組みを盛り上げていくための方策について議論をいただく予定でございます。トヨタ自動車の寺師副社長およびJAXAの若田理事のぶら下がり取材の機会もございますので、ぜひご参加ください。
宇宙探査イノベーションハブの共同研究成果公開~月での無人による有人拠点建設をイメージした、自動化建設機械2機種によるデモンストレーションの実施~
宇宙探査イノベーションハブでは、研究成果を将来的に宇宙探査へ応用することを目的として、地上での事業化/イノベーション創出の実現性や可能性がある課題や分野を設定し、幅広い分野での共同研究を行っております。有人・無人開発の両分野を視野にいれまして、「探る」、「作る」、「建てる」、「住む」といった活動で最先端の技術を有している民間企業や大学、研究機関の皆さまと協同して、将来の月・火星探査に必要な技術かつ地上技術へ転用することで、我々の生活が大きく変わる(イノベーションにつながる)研究開発を実施しているところです。
JAXAおよび鹿島建設株式会社は、芝浦工業大学、電気通信大学、京都大学とともに、宇宙で拠点建設を実現するために、2016年から共同で「遠隔操作と自動制御の協調による遠隔施工システムの実現」に関する研究を進めてまいりました。
宇宙応用としては、JAXAは将来月面で燃料プラント等を建設することを検討しているところですが、その際には、通信の時間遅れがあり、かつ、JAXAが経験したことがない自然環境において複数台の車両を効率的に遠隔操作する必要が予見されております。一方、地上では、労働人口の減少に備え建設作業を自動化する試みが進行しております。こうした背景から、本共同研究では建設作業の遠隔化・自動化に取り組んでまいりました。
このたび3月28日(木)に、本共同研究の成果を公開いたします。鹿島建設株式会社 小田原市西湘テクノパーク内の「鹿島西湘実験フィールド」におきまして、月での無人による有人拠点建設をイメージしました、自動制御化した建設機械でありますバックホウ(油圧ショベル)とキャリアダンプ、この2機種の遠隔操作デモンストレーションを実施いたしますので、ぜひご参加いただければ幸いです。
最後に
このたび「はやぶさ2」ミッションについて、3件の賞を頂きましたので、最後にご紹介させていただきます。
まず「はやぶさ2」プロジェクトチームですが、2つの賞を受賞しております。
一つ目は、Aviation Week Networkというメディアがございますが、「Aviation Week Network's 62nd Annual Laureate Awards 2019 Winners」のTechnology & Innovation部門の受賞がございまして、3月14日にワシントンにて表彰式が行われる予定です。津田プロジェクトマネ―ジャー、中澤サブマネ―ジャーが参加予定です。
「はやぶさ2」プロジェクトチームの二つ目の受賞ですが、日本航空宇宙学会賞の中の、プロジェクト部門 技術賞を受賞しております。
これは4月の日本航空宇宙学会総会で授与される予定と聞いております。
また、個人の受賞ですが、科学技術で優れた業績をあげた方の表彰としまして、「マイクロ波放電式イオンエンジンの研究開発と太陽系探査の推進」に注力してまいりましたJAXA宇宙科学研究所所長および理事の國中が、第59回東レ科学技術賞を受賞しております。こちらも3月14日に受賞式が日本国内で予定されていると聞いております。