2019年(令和元年)5月理事長定例記者会見

理事長定例記者会見

山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします

日時:2019年(令和元年)5月10日(金) 13:30-14:30

場所:JAXA東京事務所 B1F プレゼンテーションルーム

司会:広報部長 鈴木 明子

超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)定点観測運用終了について

 「つばめ」は2017年12月23日に打ち上げられまして、先月4月2日から高度271.5kmを保持する運用フェーズに入っております。超低高度軌道と呼ばれる300kmより低い軌道は大気の抵抗が大きいために、人工衛星が高度を維持するのが困難なこれまでは未開拓の軌道でした。しかし、JAXAが培ってきましたイオンエンジン技術を利用しまして、長期間にわたって超低高度軌道を維持するための技術を実証してまいりました。
 いま申し上げましたように「つばめ」衛星は、いま高度271.5kmの軌道にありまして、この高度においては、毎日同じ方向から同じ地点を観測する、いわゆる定点観測が可能な軌道でございます。また、超低高度軌道の特色を生かして小型のカメラでも高い分解能を実現することが可能であること、そしてもう一つは広い時間帯、つまり昼間だけではなく夕方等も観測可能なカメラを搭載しているといったことが特徴となります。
 定点観測の例としましては、例えば東京の都心を1か月以上にわたりまして毎日16時半頃に観測してきました。このような夕刻の定点観測によって、都市の経済活動が活発な時間帯の交通渋滞の有無や駐車場の利用状況、公園や野球場等の集客状況などの観察に衛星データが活用されることが考えられております。更に、既存の衛星データやその他のビックデータと組み合わせることによって、今までにない衛星の価値の向上や利用の拡大が期待されると考えております。
 「つばめ」の高度はいま271.5kmと申し上げましたけれども、この定点観測運用は、本日5月10日をもちまして終了予定ですが、今後は、段階的に高度を下げまして、250km、240km、230km、220km、そして180kmにおいて所定の期間にわたる軌道保持、及び、観測運用を継続して、引き続き超低高度衛星技術を実証していく予定です。その後、9月頃より後期運用に移行しまして、残っている推進薬を用いて運用を行う予定でございます。
 これまでの定点観測にて取得してまいりました代表的な画像は、既にJAXAのWebサイトのサテライトナビゲータのページにて公開しております。また、さらに画像データにつきましては、衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」におきましても近日中に公開し、ご利用いただける準備を進めておりまして、今後も衛星データの価値や利用拡大に向けた活動を進めてまいります。

少量生産システム(ミニマルファブ)による宇宙機搭載に向けた集積回路製造の共同研究成果について

 先ほどプレスリリースをさせていただきましたけれども、JAXAは産業技術総合研究所(産総研)とともに、「少量生産システム(ミニマルファブ)」で宇宙利用を視野に入れました集積回路が製造可能であることを世界で初めて実証することに成功いたしました。少量生産システム(ミニマルファブ)とは、産総研が提案しております少量そして多品種に適応しました集積回路の生産システムです。
 一般的に、人工衛星などの宇宙機に使用される半導体の数量規模は、1機あたり数個~100個程度のオーダーで、宇宙においては少量でかつ多品種が求められる状況にあります。そのため、一般的な大量生産を必要とする、地上の民生機器市場をターゲットとしております従来の半導体の製造方法では、チップ当たりの製造コストが現状、非常に高くなります。
 そこで、この課題を踏まえまして、一昨年の2017年よりJAXAが持ちます宇宙用半導体集積回路の設計・製造ノウハウと、産総研が持ちますミニマルファブを持ち寄りまして、ミニマルファブの宇宙利用研究を共同で進めてまいりました。今回の製造の実証成功はその研究成果でございます。
 ミニマルファブを用いました製造が今後実用化すれば、製造装置の小型化や工程の最適化によりましてクリーンルームが不要となり、従来3カ月ほどかかっておりました集積回路の製造を、3~5日と大幅に短縮ができるようになります。また、製造の1ラインあたりの設備投資額も、従来の1/1000程度にまで抑えることが可能となります。
 今回の集積回路の試作製造と動作実証の成功は、宇宙機器の製造プロセスに劇的な変化をもたらすことが期待できます。さらに、宇宙機向けのみならず、広く他の産業への展開も期待しているところであります。今後も継続してミニマルファブの実用化検討を進めてまいりたいと思っております。

「はやぶさ2」のクレーター生成成功と今後の計画について

 先月4月23日から25日にかけまして、いわゆるクレーター探索運用(CRA2)を実施いたしました。4月25日には小惑星リュウグウから高度1.7kmの地点で観測を行いまして、「はやぶさ2」に搭載している光学航法カメラ(ONC-T)の観測画像を衝突装置(SCI)運用前のものと比較した結果、世界で初めて衝突装置によりクレーターが生成されたことが確認できました。このONC-T画像から、直径10mを超えるほぼ円形の地形変化が確認され、掘り起こしとそれに伴う地形変化も見られたところであります。その直径からリュウグウの表層強度や表面年代を推定することが期待されているところです。
 今後は、生成されましたクレーター周辺へのタッチダウンを目指しまして、5~6月に低高度での降下観測運用による着陸候補地点の詳細な地形観測をするとともに、状況に応じて着陸への布石となりますターゲットマーカを投下するなど、2回目のタッチダウン運用の実施判断を行ってまいりたいと考えております。

「きぼう」完成・「こうのとり」初号機の10周年について

 3回にわたるスペースシャトルでの打上げによって、2009年7月19日に完成しました国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟が、今年10周年を迎えます。また、宇宙ステーション補給機「こうのとり」も9月11日に、初号機の打上げから同じく10周年を迎えるところであります。
 「きぼう」日本実験棟の建設と10年にわたる運用によって、日本は有人宇宙技術を獲得してまいりました。また、「こうのとり」は、日本による無人輸送を達成し、現在、現役の補給船で唯一の成功率100%を誇るまでになり、昨年2018年11月にはISSからの実験試料の回収にも初めて成功いたしました。これまでの10年間の活動によりまして、国際パートナーからの信頼を確固たるものにすることが出来たと考えております。
 そこで、来る8月30日に、これらの10年間にわたる有人宇宙活動の成果と、そして、今後の展望について様々な角度からご意見を頂戴する公開シンポジウムを有楽町にて開催いたします。参加者の募集は7月中旬から開始する予定です。また、9月2日に、NASAを始めとしました国際宇宙機関の責任者を筑波宇宙センターにお招きしまして、今後の低軌道有人宇宙活動の展望を議論する記念会合を開催したいと考えております。いずれも詳細につきましては、今後、Webページなどを通じてお知らせしてまいりますので、是非とも、取材をしていただければと思います。

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