2019年(令和元年)10月理事長定例記者会見

理事長定例記者会見

山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします

日時:2019年(令和元年)10月11日(金) 13:30-14:30

場所:JAXA東京事務所 B1F プレゼンテーションルーム

司会:広報部長 鈴木 明子

宇宙探査に関する動向について

 JAXAでは、人類の活動領域を地球低軌道から月周回軌道や月面など地球・月圏へ広げていくための宇宙探査に関して、国際協力国間の強固な関係の構築や、民間活力を取り入れた新たな産業の創出を目指した取組みを進めております。
 まず、国際協力の観点ですが、本年6月6日にはフランス国立宇宙研究センター(CNES)のルガル総裁と会合を設け、CNESとJAXA協力が重層的な協力になっていることを確認しました。また最近では、9月24日には、NASAのブラインスタイン長官が、10月8日には、ドイツ航空宇宙センター(DLR)エーレンフロイント長官がそれぞれ来日された機会を捉え、両機関との協力をさらに拡大、そして深化させるべく機関間の会合を持ちました。そして、再来週には米国のワシントンDCにおいて開催されます第70回の国際宇宙会議(IAC: International Astronautical Congress)の場で、各宇宙機関との会合を予定しているところです。
 中でもNASA長官との会合では、JAXA-NASA間で行われております宇宙探査、有人宇宙、宇宙科学、地球科学の各分野での協力について議論するとともに、特に宇宙探査分野では、今後の月探査に向けた双方の協力の意思について確認し、共同声明に署名をいたしました。
 Gateway計画への参画につきましては、政府で議論されているところではありますが、JAXAとしましては、月探査に国際協調のもと取り組むことは極めて重要と考えており、Gateway計画への貢献や月面での持続的な探査活動において、これまでの国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」や「こうのとり」で培ってきた技術など、日本の強みを活かして貢献できるよう、NASAとの科学的・技術的な協力を拡大していきたいと考えております。

 また、民間企業との協力の観点では、JAXA宇宙探査イノベーションハブにおきまして、様々な異分野の人材・知識を集めた新しい体制や取組みを進めておりまして、科学技術振興機構(JST)の支援のもと、将来の月、火星等における探査技術の開発と、そして民間企業による地上ビジネスでのイノベーション創出の両方を目指して、今年の4月から6月まで、第5回となります研究提案募集(RFP)を行いました。その結果、69件の提案があり、その中から20件を選定しました。その結果をホームページでも先ほど公開いたしました。
 今回の宇宙探査イノベーションハブの募集の特徴としましては、医療/健康管理技術、民生ロボット技術の課題設定を行いました。また昨年度から開始しました斬新なアイデアを対象としました「TansaX(タンサックス)チャレンジ研究」の募集も行い、多くの応募を頂きました(17件中、3件を採択)。今後、選定先企業・機関と研究計画を策定し、速やかに共同研究に着手したいと考えています。
 国際宇宙探査の機運が国内外で高まります中、引き続き本事業のブラッシュアップを図るとともに、宇宙探査と親和性のあります分野を中心に共同研究を進めていく所存です。

「こうのとり」8号機打上げと地球低軌道での活動拡大について

 「こうのとり」8号機は、先般9月25日に打ち上げられ、29日に無事に国際宇宙ステーション(ISS)に結合し、主たる搭載品でありますリチウムイオン電池や、小型衛星光通信システム「SOLISS」、そして世界唯一の大型インキュベータ「CBEF-L」(シービーイーエフエル)、さらに6種類の生鮮食品を国際宇宙ステーション(ISS)に届けることができました。「SOLISS」は、宇宙探査イノベーションハブの第1回研究提案募集(RFP)で採択しました共同研究の成果の1つでございますが、10月中旬から11月初旬の間に試験運用を開始する予定です。また、「CBEF-L」につきましては今月中を目途に初期検証を開始予定です。また生鮮食品につきましては、包装方法の工夫により、ぶどうの一種であります「オーロラブラック」も新品目として届けることができ、ISSクルーに喜んでもらえました。

 ISSでの活動ですが、先般9月30日には、「きぼう」日本実験棟にて、アラブ首長国連邦(UAE)宇宙庁とJAXAの機関間協力のもと、JAXAのカメラロボットあるいは「きぼう」船内ドローン(Int-Ball)を用いて、UAE初の宇宙飛行士でありますハッザ・アル・マンスーリー氏が宇宙機の姿勢制御に関する教育イベントを行い、筑波宇宙センターの管制室におきまして、UAEから日本への留学生が宇宙飛行士と交信しました。また、当日は、UAEアルアメリ大使にも来ていただきました。

 さらにこの度、NASAとJAXAのISS船内用ドローン(NASA側はAstrobee、JAXA側はInt-Ball)を使用したプログラミング競技会を開催することになり、この競技会への参加募集を本日開始しました。本競技会は、2015年12月に日本政府と米国政府が締結した日米オープン・プラットフォーム・パートナーシップ・プログラム(JP-US OP3)の下で実現するものであり、日本及びアジア太平洋地域の学生に対して、宇宙でのロボット操作やコンピュータプログラミングに関する教育機会を提供するものです。

 このようにJAXAでは「きぼう」での様々な活動を行っておりますが、我が国は、2024年までISSそして「きぼう」日本実験棟を運用継続することとしております。2025年以降については、今後、我が国を含むISS参加国間で議論がなされることとなりますが、いずれはISSそして「きぼう」も設計寿命を迎え、その運用を終了することとなります。
 このような状況に対して、JAXAでは、費用対効果を考慮しつつ、宇宙環境利用実験を含む地球低軌道活動の機会を継続的に確保し、さらに新たな利用拡大について積極的に検討したいと考えておりまして、先日、「地球低軌道活動の継続的な実施と拡大に向けた情報提供依頼(RFI)」を発出しました。このRFIは、ISS・「きぼう」に代わって、打上げから軌道上利用環境の提供、そして地上回収に至る一連の手段を提供するシステムの構築を検討するために、地球低軌道活動に関係する幅広い業種・業界の皆さまから、情報提供を依頼するものです。JAXAは提供いただいた情報を元に、システム要求と開発計画・調達計画の案を策定し、政府に提案、そして調整していくことを考えております。なお、計画策定にあたっては、事業者が一連の手段を一貫したサービスとして提供する形態で、自立的な事業として運営されることを目指す考えです。

超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)運用終了について

 2017年12月23日に打ち上げられた超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)の軌道保持運用を2019年9月30日に成功裏に終了し、2019年10月1日に停波作業を実施しました。「つばめ」は、停波から数時間で大気圏に再突入しました。

 この「つばめ」は、推力は極めて小さいものの推進効率の高いイオンエンジンを用いて、高度271.1km~181.1kmの間で6段階の軌道高度におきまして軌道保持技術を実証し、高分解能の衛星画像を取得する実験にて、良好な画質の画像を取得することができました。また、その過程で大気密度、原子状酸素の密度や大気に曝露した材料サンプルの劣化状況など、これまでにない長期間のデータを取得することができました。さらにJAXAが開発した材料が長期間の原子状酸素の曝露に耐えることも実証しました。このようなイオンエンジンを用いた超低高度からの地球観測運用や原子状酸素対策に関する基盤的な技術・ノウハウを獲得したのは、JAXAが世界初となります。「つばめ」の開発・運用で得られた技術や知見が、科学技術の発展や社会課題の解決に今後使われることを期待しているところです。

 これまでの「つばめ」の開発・運用にあたり、ご協力・ご支援をいただいた関係各機関及び関係各位に深く感謝いたします。

産官連携による研究開発成果の社会実装への取組みについて

 産官連携による研究開発成果の社会実装について、航空分野での取組み事例と、そして衛星データ活用に関連した受賞についてご報告をいたします。

 最初は航空分野の取り組みです。航空業界の用語でMRO(Maintenance, Repair & Overhaul)という略語があります。MROは航空機が定期的に行う整備点検のことで、航空機の安全性維持を支える重要な役割を担っています。そのMRO市場への参入を目指す日本企業とJAXA航空技術部門との産官連携による成果として、新明工業株式会社、同グループの新明東北マシナリー株式会社とJAXAの3者が共同開発しました「CFRP損傷修復装置」を紹介いたします。CFRPとは、炭素繊維強化プラスチックのことです。
 この装置のポイントは、2つあります。1つ目のポイントは使いやすさです。「誰でも、簡単に、精度よく」を目標に研究開発されたこの装置は、修復位置に設置後、簡単なボタン操作のみで、安全性に悪影響を及ぼす機体の傷を全自動で除去することができます。この装置の作動の仕組みは、歯車や梃子などの単純な部品を、巧みに組み合わせることによって実現しています。この仕組みは「からくり機構」と呼ばれており、「煩雑な操作ソフトウェアの習熟」が不要で、「簡単なボタン操作のみ」で品質や精度の良い修復作業が可能となります。
 装置のポイントの2つ目は市場投入のタイミングです。全日本空輸株式会社(ANA)が世界で初めて導入したボーイング787は、ボーイング社が製造する中型機で最も多く運航されている機体です。CFRPを多用したこの機体は、数年後に大量の大規模整備が必要な時期を迎えます。日本が世界に先駆けて実施することになるこの大規模な整備に、我が国の技術で生まれたCFRP修復装置を投入することは、日本の技術を世界にアピールできる絶好のタイミングと考えております。CFRP損傷修復装置の正式なお披露目は、2020年にイギリスで開催されますファンボーロ―航空ショーを目指しておりますので、今後も注目していただければと思います。

 続きまして、「衛星SARデータによるインフラ変位監視ツール」ANATISの受賞についてです。SARとは、合成開口レーダのことです。
 近年、我が国の空港や堤防などのライフライン設備でありますインフラの老朽化が進み、重大な事故リスクの顕在化、維持管理コストの急激な高まりやさらに点検技術者の減少が、社会課題となっています。この課題に対しまして、衛星データを利用することにより、これらインフラを広域かつ高頻度で監視することができるようになり、点検の効率化や定期測量の空間的・時間的な補完が可能となります。ANATISは、陸域観測技術衛星「だいち2号」(ALOS-2)の観測データの自動解析ツールであり、このツールを用いることで、衛星に関する専門知識がなくても衛星データを使ったインフラモニタが可能となります。
 衛星データを扱ったことのないユーザでも容易に解析できるツール(ANATIS)を開発したことが、インフラの調査・点検の新たな価値創出に向けた取組みと評価され、この度、インフラメンテナンス大賞の中の「情報通信技術の優れた活用に関する総務大臣賞」を受賞しました。JAXAでは、今後も研究成果の社会実装を目指し、それが安全で豊かな社会につながるように努力していきたいと考えております。

商業デブリ除去実証について

 軌道上の宇宙ゴミ(スペースデブリ、またはデブリ)は、年々増加の一途をたどっており、将来的には人類の宇宙活動の妨げになると予想されています。宇宙空間の持続的な利用のために、国内にもデブリ除去の事業化に意欲を持つ民間事業者が増えているところです。
 JAXAは、宇宙空間の持続的利用への貢献と、そして新たな市場創出と我が国の国際競争力確保を目的としまして、『世界初の大型デブリ除去』の実現を目指しているところです。そこでこの度、本事業のフェーズIにかかるRFPを発出し、スペースデブリ対策の事業化を目指す民間事業者の活力を利用したパートナーシップ型の取り組みとして実施していきます。ここでいうフェーズIとは、除去効果が大きく、技術的に高度な我が国由来の大型デブリ除去を実証する計画のうち、デブリへの接近、近傍制御を行い、世界的にも情報の少ない軌道上に長期間放置されたデブリの運動や損傷・劣化がわかる映像を取得することを目的とした計画です。
 なお今回は、民間事業者の自立、そして国際競争力確保を促すため、新たな取り組みを行います。JAXAは従来のように衛星を調達するのではなく、軌道上デブリ研究に必要な軌道上データや、民間の競争力ある信頼性・品質保証プロセスの知見を調達します。また、開発段階の達成基準をクリアするごとに、契約時に定めました金額を支払っていく、そういった支払方式をとることになります。そのため、民間事業者の自由度が大きくなり、かつJAXAの将来に向けた技術開発活動とタイアップ可能な仕組みとなっています。
 最終提案書の提出期限は本年2019年11月21日までとなっており、来年1月末頃に民間事業者選定の予定です。詳細はこちらもJAXAホームページに掲載しておりますのでご覧いただければと思います。

「くるみん」認定について

 9月3日付けで、仕事と子育ての両立支援に取り組んでいる機関としまして、厚生労働大臣による認定(愛称「くるみん」)を受けることができました。
 「くるみん」は、ご承知のように、次世代育成支援対策推進法(平成17年施行)に基づく認定制度および、その認定マークの愛称です。認定を受けるためには、「行動計画に定めた目標の達成」、「男性労働者のうち育児目的休暇の取得者割合」、「女性労働者の育児休業取得率」等、10項目の認定基準を全て満たす必要があります。
 またJAXAは、以前2017年9月に女性の活躍推進に関する状況などが優良な企業として、厚生労働大臣による最上位の認定(愛称「えるぼし」)も受けています。さらに、内閣府が進める企業主導型保育事業を活用し、調布航空宇宙センター内に地域に開かれた保育園(「JAXAそらのこ保育園」)を昨年2018年度に開設しました。筑波宇宙センター内に2012年4月に開設しました「JAXA ほしのこ保育園」に続き、2か所目です。
 これからも職員一人一人が生き生きと働ける「宇宙航空の理想の職場」を目指しまして、職場環境の整備やワーク・ライフ・バランスの向上を推進していきたいと考えております。

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