2019年(令和元年)11月理事長定例記者会見

理事長定例記者会見

山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします

日時:2019年(令和元年)11月8日(金) 13:30-14:30

場所:JAXA東京事務所 B1F プレゼンテーションルーム

司会:広報部長 鈴木 明子

災害時の衛星データ利用について

 ご存じのとおり、9月そして10月は相次ぐ台風や豪雨によりまして、日本各地で甚大な被害が発生しました。被害を受けられた方々に対し、心よりお見舞いを申し上げます。
 JAXAでは、最近大きな被害をもたらしました台風15号、19号、そして21号などの災害時に、国土交通省および各地方整備局からの緊急観測要請を受けまして、ALOS-2(だいち2号)衛星による緊急観測を実施し、三重県や長野県及び関東地方や東北地方の浸水範囲や土砂移動推定箇所の判読結果を提供いたしました。
 台風19号におきましては、事前に大規模災害となることが予測されたことから、政府とJAXAが連携しまして国際災害チャータおよびセンチネルアジアを発動し、米国や欧州、ロシア、中国などの海外宇宙機関による緊急観測の支援を要請して、実際に観測データの提供を受けました。これらの海外宇宙機関の観測データは、国内外の大学および研究機関により解析され、提供された浸水地図などの解析結果は緊急観測の要請元と共有しております。
 災害時の衛星観測は、安全安心な社会の実現のために必要不可欠であると認識しております。引き続き、JAXAは、様々な地球観測衛星から得られたデータと、そして数値シミュレーションの技術を駆使して、防災・減災につながる正確な情報を迅速に社会に提供できるよう、研究開発に取り組んでいきたいと考えております。

新たな社会インフラの実現を目指した共同研究について

 JAXAと日本電信電話株式会社(NTT)は、両者の技術融合による社会インフラ創出、社会課題の解決につながる革新的な光ネットワーク・インフラの構築等を目指した協力協定を締結し、「地上と宇宙をシームレスにつなぐ超高速大容量でセキュアな光・無線通信インフラの実現」を目指すべき世界観(コンセプト)として共有した共同研究に取り組むことに合意しました。
 JAXAの「宇宙機のシステム構築技術」、そしてNTTの「光・無線ネットワーク技術/IOWN(アイオウン)構想」との掛け合わせによりまして、技術障壁のブレークスルーを加速し、新たな社会インフラの実現を目指します。
 取組みを開始した研究テーマでは、衛星通信ではそのまま適用することが困難なMIMO(マイモ)技術(多入力・多出力の技術)を、低軌道衛星―地上局間通信に適用できるように世界初の低軌道衛星MIMO技術を確立し、地球観測データ等の大容量データの超高速伝送の実現に取り組んでいきたいと考えております。
 さらに、今後予定している研究テーマといたしましては、超高速宇宙無線光通信技術の確立や、次期衛星の搭載に向けました観測用、通信用のテラヘルツ帯無線デバイスの効果の実証を行うことで、宇宙からの観測データを利用した災害対策や、次世代の衛星間通信などへの適用を通じまして、安心安全な社会への貢献を目指したいと考えております。
 今後も両者の研究者で検討を進めまして、新たな共同研究テーマ探索を継続し、コンセプトを実現するための技術の研究を進めることで、より一層社会課題の解決に貢献していきたいと考えております。

宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)の近況について

 これまでも何度かお知らせしてきておりますが、昨年度始まりました第4期中長期計画の目玉の一つであります、民間事業者等を主体とする事業を出口としました共創型研究開発プログラム「宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」を昨年2018年5月から始動しております。
 これまでに約200件程度の問い合わせをいただきまして、現在、約20程度のプロジェクトや取り組みを行っているところです。これまで約150名程度のJAXAの職員もJ-SPARCプログラムに参加し、宇宙輸送や衛星利用ビジネスを目指す国内宇宙ベンチャー企業等と事業化に必要な技術の研究開発活動に取り組んでまいりました。このJAXAとの共創が契機となりまして、宇宙ベンチャー企業の新たな資金調達に繋がったほか、例えば、アバター(遠隔存在技術)や食分野などではJAXA以外の新たな企業との連携も広がり、事業化をより加速することもできております。
 さて、一昨日11月6日にプレスリリースにてご案内いたしましたが、このJ-SPARCプログラムの一環としまして、クリエイティブカンパニーである株式会社バスキュール、宇宙通信と放送事業に取り組むスカパーJSAT株式会社と共に、国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」における『宇宙メディア事業』の創出に向けた活動を始めました。
 具体的には、来年2020年夏以降、「きぼう」船内に番組スタジオとして「The Space Frontier Studio KIBO(きぼう宇宙放送局)」を開設し、宇宙と地上とでリアルタイムにコミュニケーションが楽しめる、双方向のライブ配信を開始する予定です。今後、具体的な内容がお伝えできる段階になりましたら、再度、プレスリリースを発出するなど考えております。
 今回、3者が共創し世界初の宇宙からの双方向ライブ通信番組やリアルタイム通信を実現することで、国も言語も世代も性別も違う人々がつながり合う、新しい事業創出に取り組み、国際宇宙ステーション及び日本実験棟「きぼう」の新たな使用ケースの開拓を目指していきたいと考えております。
 今後もJAXAは、民間事業の創出を後押しする「きぼう」の機能の拡充について検討を進めていき、地球近傍の宇宙空間(地球低軌道)を民間が挑戦できる経済活動の場へと発展させていくことを目指していきたいと考えております。

国際交流および体験学習機会の提供について

 JAXAでの教育分野における活動の1つとしまして、APRSAF-26(Asia-Pacific Regional Space Agency Forum: アジア・太平洋地域宇宙機関会議)における国際水ロケット大会についてご紹介をいたします。
 APRSAFというのは、アジア・太平洋地域における宇宙利用の促進を目的として1993年に設立され、毎年、文部科学省とJAXAに加えまして、開催国の宇宙機関との共催で開催しており、主にアジア・太平洋地域の約30ヵ国から約400人が参加する規模の宇宙関連会議です。参考までに昨年はシンガポールで開催されました。
 今年は26回目となりますが、今月11月26日(火)~29日(金)にかけまして、「Advancing Diverse Links Toward a New Space Era」(新たな宇宙時代を拓く多様な繋がりの発展)をテーマとしまして名古屋コンベンションホールで開催いたします。
 そのAPRSAFの“宇宙教育分科会”の活動の一つとしまして国際水ロケット大会があります。この水ロケット大会は、国際交流および体験学習機会の提供を目的としまして、2005年に北九州で開催されて以来、毎年APRSAF年次会合開催国で開催されまして、ここ5年ほどは13か国前後の国から約60人(12歳~16歳)の生徒およびその指導者が参加しております。
 JAXAの宇宙教育センターは、第1回から大会運営に携わっており、日本代表チームの選考と派遣を行っております。海外での開催時は現地の宇宙機関と共催をし、大会の成功に協力してきました。この度の日本開催では、主催者および事務局として大会運営に携わっておりまして、11月22日から24日にかけて、神奈川県相模原市にあります国民生活センター研修施設やキャンプ淵野辺留保地にて開催する予定です。競技は、主催者が用意した材料と用具で水ロケットを製作し、11月24日に80m先の定点を目標に打ち上げます。日本からは、JAXA宇宙教育センターによる審査そして選考を経た結果、3チームが日本代表として参加する予定です。
 日本を含むアジア・太平洋地域から参加した生徒は、工夫しながら目標地点への飛行を目指すとともに、同世代の生徒たちとの交流を通じて、異文化理解と同時に自らの文化に対するより深い理解を目指しております。また参加国の科学・理科教育や宇宙教育への取り組みと成果に関する知見・情報の共有を進めるため、指導者を対象としましたワークショップも行う予定です。

第70回国際宇宙会議(IAC)への参加報告について

 先月10月21日~25日まで米国のワシントンDCで開催されました第70回国際宇宙会議(International Astronautical Congress: IAC)に参加してまいりました。今回のIACには、80か国以上から6,000人以上の参加があったと聞いております。
 10月18日に日本政府の宇宙開発戦略本部におきまして、月周回有人拠点(ゲートウェイ)の整備を含む月探査に参画することが決定されましたが、安倍首相からも「米国の新たな挑戦に、強い絆で結ばれた同盟国として、これまで『きぼう』や『こうのとり』で培った我が国の強みをいかして参画することといたしました。」と発言がございましたが、その翌週にIACが開催されたということもございまして、開会式でスピーチをされました米国のペンス副大統領からも、「日本の参画決定を歓迎する。」「日本はバイタルパートナーである。」とのご発言があり、月探査の実現に向けては、日本および米国のハイレベルからもサポートを得られていることに、JAXAとしても非常に心強く、また身の引き締まる思いでございます。
 IACの期間中は、各国の宇宙機関長が登壇しますパネルなどを通しまして、私からも、日本政府の宇宙開発戦略本部での決定の報告をするとともに、日本の宇宙探査に関する取り組みをご紹介したほか、各国宇宙機関、具体的には、ESA(欧)、CNES(仏)、UKSA(英)、NOSA(ノルウェー)、ISRO(印)、ASA(豪)、UAESA(UAE)、MBRSC(UAE)、ISA(イスラエル)、SSAU(ウクライナ)の10機関、及び他にも政府機関や産業界ともバイ会談をそれぞれ行いまして、将来の探査協力や現在進行中の協力案件の進捗に関する確認や、今後の協力について議論を行いました。
 またこの他、IACでの会場内でJAXAの展示ブースも出展させていただき、将来的な国際宇宙探査への日本の貢献や、産学官の連携をアピールしたほか、国際宇宙教育会議(International Space Education Board: ISEB)が主催します参加各国の学生とのインタラクティブセッションに参加するなど、この機会を捉えて広報・教育分野における活動も行ったところです。

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