2020年(令和2年)1月理事長定例記者会見

理事長定例記者会見

山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします

日時:2020年(令和2年)1月10日(金) 16:30-17:15

場所:JAXA東京事務所 B1F プレゼンテーションルーム

司会:広報部長 鈴木 明子

年頭挨拶

 皆様、あけましておめでとうございます。本年もどうぞ宜しくお願いします。

 今年は、4月より第4期中期計画の3年目に入りますが、宇宙を取り巻く環境が激変する中で、国際的な競争を、産官学の力を結集して勝ち抜いていく必要があると認識しておりまして、2020年はJAXAにとって、或いは日本の宇宙開発にとっても勝負の年になると考えております。そのような状況の中で、次年度も含め予定されております計画をいくつか挙げたいと思います。
 まず宇宙輸送技術に関してですが、いよいよ2020年度は、新しい基幹ロケットでありますH3ロケットの試験機初号機を打ち上げます。我が国は、自律的に宇宙活動を行うことができる世界の中でも数少ない国の1つでありますけれども、このH3ロケット開発はまさにその根幹を支えていくものであります。現在、H3の開発は、まさに正念場を迎えておりますが、引き続き、万全を期して着実に取り組んでまいりたいと思います。
 また、昨年、宇宙活動法(人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律)施行後の初の打上げとなりました「こうのとり」8号機に引き続き、HTVとしては最後となる9号機の打上げが予定されております。この9号機の打上げを確実に遂行するとともに、これに続く、新しい基幹ロケットであるH3ロケット及び新型宇宙ステーション補給機HTV-Xの開発を着実に進めていきたいと考えております。
 さらに2020年度は、H-IIAロケットによる光データ中継衛星とH3ロケットによります先進光学衛星「だいち3号」(ALOS-3)の打上げを予定しております。昨年は大きな台風が立て続けに上陸するなど災害の非常に多い年ではありましたが、衛星データの利用を通して、防災・減災に貢献していきたいと考えております。
 そして、国際宇宙探査についてですが、昨年10月の政府の宇宙開発戦略本部会合で、安倍首相より、米国が構想する月周回有人拠点「Gateway」への日本の参画が正式に表明されました。国際協調の中での日本のプレゼンスを維持するためにも、昨年10周年を迎えました「こうのとり」や「きぼう」の運用や、国際宇宙ステーションISSにおける活動を通して、これまで培ってきました日本の強みを生かしつつ、我が国の優位性や波及効果が大きく見込まれます有人滞在技術等での貢献を目指した研究開発を着実に進めてまいります。
 さらに今年の年末には、「はやぶさ2」のカプセルの地球帰還が予定されております。ご存知のとおり、昨年の2回のタッチダウンによるサンプル採取をしておりますので、その最後のミッションでありますカプセル回収を確実に成功できるよう、しっかりと準備して臨みたいと思います。「はやぶさ2」のミッションで得られました知見や技術は、今後の小型月着陸実証機SLIMや火星衛星探査計画MMXなどの宇宙探査ミッションへ着実に引き継ぎ、それぞれのミッションの成功へつなげてまいりたいと思います。
 今後もJAXAは、様々なプロジェクトや研究開発を通じて着実に進められるよう努力し、政府全体の宇宙航空活動を技術で支える中核的実施機関としての役割をしっかり果たしていきたいと考えております。

新年度(2020年度)予算について

 2020年度予算の政府原案が決定されましたが、原案によりますと、JAXAの本予算額は1,571億円、前年度比でいいますと15億円の増、また、今年度の補正予算は317億円、対前年度比で26億円増ですので、今年度の補正予算と2020年度本予算を合わせまして1,888億円、対前年度比で41億円増で計上していただきました。主な予算事項をご紹介いたします。
 まず、2020年度は、いよいよ次期基幹ロケットでありますH3ロケット試験機初号機の打上げの年度になります。その開発費に補正予算を含めまして322億円を計上していただいております。現在、H3ロケット初号機の開発は最終段階に差し掛かっておりますが、引き続き、確実な打上げに向け、総力を挙げて開発を進めてまいります。また、初号機のペイロードとなります先進光学衛星(ALOS-3)の開発費として、補正予算と合わせて149億円が計上されております。
 二つ目は、国際宇宙探査の推進についてです。昨年10月の政府の宇宙開発戦略本部会合におきまして、安倍首相より、米国が構想する月周回有人拠点「Gateway」への日本の参画が正式に表明されましたが、その「Gateway」関連予算として、我が国の優位性や波及効果が大きく見込まれます有人滞在技術等での貢献を目指した研究開発費や、深宇宙補給技術として、「Gateway」への補給も可能とすることを目指した新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)の研究開発費など、補正予算と合わせて約120億円が計上されております。国際宇宙探査への我が国の参加は、外交・安全保障上、国際競争力、産業拡大、深宇宙探査など多くの重要な意義があると考えております。JAXAはISS計画への参画を通じて得られた技術や成果を最大限活かしつつ、着実に研究開発に取り組んでいきたいと考えております。
 三つ目は、次世代航空科学技術の研究開発についてです。燃費や環境負荷性能を大幅に改善するコアエンジン技術や、静粛超音速機やエミッションフリー(いわゆる電動推進)航空機の実現に向けた研究開発費として、36億円が計上されております。これらの研究開発によりまして、我が国の航空機産業の飛躍に向けて、先導的・基盤的な研究開発の加速を図っていきたいと思います。
 昨今、厳しい財政事情が続いておりますが、我々に与えられました役割と責務を自覚し、成果の最大化に向けて、引き続き、効果的そして効率的な研究開発を進めていきたいと考えておりますので、ご理解とご支援のほどよろしくお願いいたします。

H3ロケット用フェアリング分離放てき試験の実施について

 来年度2020年度の試験機1号機の打上げに向けまして開発を進めておりますH3ロケットですが、この開発は、ロケットの安全及び確実な打上げを実現するべく、ロケットシステム、地上施設設備システム、打上安全監理システムから成るロケットの総合システムとしての開発を進めているところです。
 その開発はまさに佳境を迎えておりますが、例えばプライムコントラクタの三菱重工業株式会社殿とともに開発を進めているロケットシステムでは、実機を模擬した厚肉タンクとエンジンを組み合わせて燃焼試験をすることで、推進系としての機能・性能を確認する第一段厚肉タンクステージ燃焼試験(BFT)などの規模の大きな試験を実施しています。また、試験機1号機用のエンジン取付構造部や第1段の2つのタンクをつなぐ構造部等の実機の製造は概ね完了しました。
 先月12月17日に、このロケットシステムの主要コンポーネントの一つであるフェアリングについて、川崎重工業殿の播磨工場にてH3ロケット用に新たに開発したフェアリングの分離放てき試験を実施いたしました。今回の試験では、大気圏外に到達したのち確実にロケットからフェアリングを分離し、内部の衛星に影響を与えないように切り離す機能について、実際に地上でフェアリングを分離させ、分離時の挙動や内部に与える影響などの評価を実施しました。試験は無事終了し、所定のデータを取得しました。現在、データの詳細な評価を実施しているところです。
 フェアリングは、ロケットが大気中を飛行する間に大気によって生じる力や、空力加熱から衛星を保護するための重要な役割を担っています。H3ロケットでは、このフェアリングについて形状を見直すことにより性能を向上させるとともに、低コスト化を図っております。この試験は約4年間にわたるフェアリング開発の最後を飾る試験であり、この試験のデータの評価を含め、これまでの開発結果をしっかり確認し、開発の総仕上げをしていく予定です。
 これからもロケット機体と地上設備を組み合わせた総合的な試験としてのIST(Integrated System Test)等、多くの山場がありますが、JAXAは関係する企業の協力のもと引き続きH3ロケットの2020年度の試験機1号機の打ち上げに向けて開発を進めてまいります。

超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)のギネス世界記録®への認定について

 昨年の話題にはなりますが、12月24日に超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)がギネス世界記録®に認定されました。
 「つばめ」は9月23日から7日間、高度167.4kmの軌道を保持し、「最も低い地球観測衛星の軌道高度」として認定されました。
 一般的に、「超低高度」と呼ばれる軌道高度300km以下では、通常の地球観測衛星が飛行する高度(600km以上を想定)に比べまして大気抵抗の密度が1,000倍以上となり、衛星材料を劣化させる原子状酸素が主成分となります。このため、超低高度では、精密な姿勢・軌道制御や長期間の衛星運用が求められる地球観測衛星には不向きとされていました。
 そのような環境の中、「つばめ」はギネスに認定されました高度167.4kmの軌道保持におきましても、実験において高分解能の良好な画質の衛星画像の取得を実現いたしました。また、大気密度、原子状酸素の密度、そして大気に曝露した材料サンプルの劣化状況などのデータを取得するとともに、JAXAが開発しました材料が長期間の原子状酸素の曝露に耐えることも実証いたしました。
 今後、「つばめ」で得られました知見をさらに発展させ、我が国の科学技術の発展や社会課題解決への貢献となる将来の宇宙利用につなげていきたいと考えております。

 なお、再来週の1月24日(金)に、TKP新橋カンファレンスセンターにおきまして、「超低高度衛星の利用に向けたワークショップ(第5回)」を開催いたします。今回のワークショップが最終となりますが、「つばめ」で得られました成果に基づいて、超低高度技術の将来の宇宙利用への展開を目指しまして、「つばめ」の運用成果や「つばめ」により実証された最新研究成果に加え、将来の超低高度ミッションへの展開に関する検討などについても発表を予定しております。ぜひご参加いただければと思います。

「きぼう利用シンポジウム2020」の開催について

 来月2月13日(木)そして14日(金)に、「日本橋ライフサイエンスハブ」におきまして、「きぼう利用シンポジウム2020」を開催いたします。
 国際宇宙探査が立ち上がりつつある今、日本実験棟「きぼう」の強みは、そのアクセス性や安定した利用環境を生かした、技術実証や新たな利用需要を創出する場であるということです。それらの魅力をご紹介するとともに、「きぼう」日本実験棟を、政策的・経済的な視点、科学技術イノベーションの視点から捉えまして、各界の方によるディスカッションや発表を予定しております。
 特に、今回は、ポストISSを見据えた地球低軌道の利用需要創出に向けまして、民間企業による新たな利用活動(例えば、衣・食・住)や、ロボティクスなどの最新技術の活用などについて議論する予定です。また、JAXA/NASAの共同シンポジウムとして、「日米オープン・プラットフォーム・パートナーシップ・プログラム(JP-US OP3)」に基づく国際協力の進捗状況や最新の日米政策なども、本シンポジウムの中でご紹介する予定です。
 幅広く一般の方々や研究者・事業者・政策立案者の皆さまにお越しいただきたいと考えておりますので、こちらも、ぜひご参加いただければと思います。

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