2020年(令和2年)9月理事長定例記者会見

理事長定例記者会見

山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします

日時:2020年(令和2年)9月11日(金) 13:30-14:30

場所:オンライン会見

司会:広報部長 鈴木 明子

地球観測衛星データの活用事例について

 台風10号によりまして、九州地方を中心に大きな被害が発生しています。被害を受けられた方々に、心よりお見舞い申し上げます。

 台風10号は、気象庁が最大級の警戒を呼び掛けるなど、これまでに比べて非常に強い勢力で北上してきました。JAXAでは、国土交通省の要請に基づきまして9月6日および7日に、「だいち2号」により緊急観測を実施しました。観測画像より推定された浸水等の被害情報を国土交通省に提供するとともに、水害が予想される箇所を抽出したデータを、だいち防災WEBポータル にて公開しております。
 また、全球降水観測/二周波降水レーダ(GPM衛星のDPRセンサ)で観測しましたデータから、台風にともなう雨を可視化しました。図1に、9月5日18時頃の沖縄の東側にあります台風10号の様子が示されております。また図2は、台風内部の雨の分布を可視化したものでございます。台風の眼のまわりには「壁雲(かべぐも)」と呼ばれる発達した雨雲があり、そのまわりに、図2に示すように赤色で表示された、強い雨の領域が同心円状に分布している様子が捉えられております。さらには、このDPRセンサによる立体構造から、14kmに達する高さから雨がもたらされていたことがわかりました。DPRのデータは、気象庁の気象予報にも使われておりまして、3次元の降水情報が気象予報の精度向上にも貢献しているところでもございます。
 JAXAとしましては引き続き、防災そして減災につながる正確な情報を迅速に社会に提供していくとともに、防災関係府省庁・機関と連携して、災害対応活動を支援してまいります。

図1台風10号(9月5日18時頃の沖縄の東側)による雨の3次元構造

図1 台風10号(9月5日18時頃の沖縄の東側)による雨の3次元構造

図2DPRが捉えた台風の目を中心に同心円状に分布する強雨域

図2 DPRが捉えた台風の目を中心に同心円状に分布する強雨域

火星衛星探査計画(MMX)の進捗状況について

 JAXAでは、火星衛星の起源や火星圏の進化の過程を明らかにすることを目的としまして、火星衛星探査計画(MMX;Martian Moons eXploration)を進めております。MMXは、火星の衛星でありますフォボスそしてダイモスや火星の科学観測を行うとともに、フォボスに着陸してその表面から砂を採取し、地球に帰還することを目指す国際的に注目度の高いサンプルリターンミッションです。本年2020年2月に、正式にMMXをプロジェクトに移行させ、惑星科学および技術的実現性の観点から探査対象天体をフォボスにすることを決定いたしました。現在は、2024年度の打上げを目指して、基本設計を実施しているところです。
 MMXは、欧米の主要宇宙機関と、搭載機器の提供を含む幅広い協力体制を構築している国際共同ミッションでありますが、昨日プレスリリースいたしましたとおり、国内でも、この度、日本放送協会(NHK)殿と協力して、MMXに、8K及び4Kのスーパーハイビジョンカメラを搭載することを決定いたしました。この搭載カメラは、宇宙での撮影が可能となるよう、NHK殿とJAXAで共同開発するもので、初めて間近からの火星及び火星衛星の撮影に挑むことになります。また、撮影される画像とMMXの飛行データに基づき、実際の探査機の動きも可視化する予定です。MMXによる火星圏での探査の様子が、鮮明な映像で再現されることにより、探査機の運用にも役立つこと、そして、新たな火星圏探査の世界を国内外の皆さまにお伝えできることを期待しております。
 今年は、UAE、米国、中国と複数の国で、火星探査ミッションが打ち上げられるなど国際的にも火星が注目されておりますが、JAXAとしましても、「はやぶさ」そして「はやぶさ2」の技術を継承する火星衛星サンプルリターンミッションとして着実にMMXの開発を進め、引き続き、しっかりと取り組んでまいります。

宇宙ステーション補給機「こうのとり」のミッション完了について

 「こうのとり」最終号機となりました9号機は、5月21日にH-IIBロケット9号機によって打ち上げられ、5月25日に国際宇宙ステーションISSにドッキングして、ISSの運用や宇宙飛行士の活動に必要な物資や、実験装置などを輸送しました。9号機でも生鮮食料品をISSに届けており、滞在中の宇宙飛行士も楽しみにしていたと聞いております。その後、廃棄物などを搭載して8月19日にISSから離れ、8月20日に大気圏に再突入をしました。再突入の時は私も筑波宇宙センターにおきまして、「こうのとり」シリーズ最終号機の再突入に立ち会いました。
 9号機のミッションは、新型コロナウイルス禍の中ではありましたが、関係者が一丸となって万全を期して準備をし、打上げ時には地元の皆様のご理解、ご協力を得まして、成功させることができました。ご理解、ご協力をいただきました地元の皆様、そして、各関係機関の皆様に対して、改めてお礼を申し上げます。

 「こうのとり」は、11年前の今日2009年9月11日に打ち上げられました技術実証機から、日本の物資に限らずISS国際パートナーの物資も輸送し、我が国の責務を果たしながら、大型の実験装置をISSへ輸送できる唯一の宇宙船として、ISSの運用そして利用に欠かすことができない重要な役割を担ってまいりました。特に、設計寿命を超えて使用されておりましたISSの旧型バッテリに替わる新型バッテリを6号機から継続して輸送したことにより、今後のISSの安定的な運用に大きく貢献できました。あわせて世界の宇宙開発における日本のプレゼンスが向上したものと考えております。
 また、「こうのとり」の開発・打上げ・運用を通じて多くの技術や知見を獲得してまいりました。有人宇宙施設に飛行そして接近する宇宙機に課せられる厳しい安全基準を満足するために、宇宙機をISSに対して相対的に停止させてISSのロボットアームで把持する技術「ランデブ・キャプチャ技術」を開発し、「こうのとり」に適用してまいりました。この技術は、1997年に打ち上げられました技術試験衛星VII型「きく7号」のおりひめ、そしてひこぼしによるランデブ・ドッキング実証で獲得した技術を利用して開発されたものでもあります。「こうのとり」の実績により、このドッキング機構は2012年に米国のドラゴン補給機に、その後のシグナス補給機にも採用されるなど、国際標準となるまでに至りました。さらに、「こうのとり」7号機では、小型回収カプセルを搭載し地球に帰還させることもできました。9号機では将来の自動ドッキング技術獲得に向けた無線LAN伝送など、「こうのとり」の運用機会を活用して、様々な技術実証も行いました。ISSへの物資輸送という日本の責務に加え、今後の有人宇宙活動の進展に繋がる様々な技術成果も上げたと考えております。
 また、「こうのとり」を打ち上げたH-IIBロケットも100%の成功率を誇り、大きな役割を果たしました。H-IIAそしてH-IIBロケットは、現在15年間、シリーズで45機連続成功を継続しており、安定的に衛星を軌道上に打ち上げ続けております。
 現在、JAXAでは、「こうのとり」の後継機として新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」の開発を進めております。これまでに蓄積してきました技術や知見をいかして、輸送能力や運用性を向上させた新しい補給機として、また月周回有人拠点「Gateway」への物資補給等にも活用可能な発展性のある宇宙機として、着実な開発を進めてまいります。
 最後に、「こうのとり」の開発・打上げ・運用に対してこれまで多大なご協力、ご支援をいただきました国内外の関係機関の皆様及び国民の皆様方に心よりお礼申し上げます。

野口宇宙飛行士の活動状況について

 野口宇宙飛行士は、スペースX社が開発を進めておりますクルードラゴン宇宙船の運用初号機に搭乗するため、同乗します3名の宇宙飛行士とともに、クルードラゴンのシミュレーション訓練や、大型プールでの船外活動訓練などを実施しております。約6か月間のISSでの長期滞在ミッションに向けまして、現在、順調に準備を進めているところです。野口宇宙飛行士からも意気込みを聞いております。「訓練も数を重ねて、搭乗に向けて着々と準備できていることを実感しています。引き続き、気を引き締めて訓練を続けて万全の体制で打上げに臨みたいと思います。」との言葉をいただいています。
 打上げ時期につきましては、NASAとスペースX社より、10月23日以降での打上げを目指している、と聞いております。まだ確定には至っておりませんけれども、決まり次第、お知らせいたします。

H3ロケットの開発計画の見直しについて

 JAXAは2014年度からH3ロケットの開発を進めており、今年度の打上げを目指しておりましたが、その計画を変更することをご報告いたします。

 現状でのH3ロケットの開発状況ですが、開発した各種サブシステムをシステムレベルで統合・検証を行う等の作業を進めており、実機タンクと第2段エンジンを組み合わせた試験などを行っているところです。
 H3ロケットは第一段エンジンとしてLE-9エンジンを新たに開発しており、これは世界にも類を見ない大推力のエキスパンダーブリードサイクルを用いたエンジンです。このLE-9エンジンの開発は、これまで実機相当で複数の燃焼試験を実施してきておりますが、本年5月に、エンジンの設計を確定させる一連の試験において、推進薬をエンジンに送り込む役割のターボポンプのタービンに疲労破面が認められるとともに、燃焼室壁面に開口が確認されました。
 この事象の原因究明を進めるとともに対応策の検討を進めた結果、ターボポンプのタービンの再設計等が必要と判断し、確実な対応策の実施に十分な時間を確保する必要があることから、開発計画の見直しをすることとなりました。この見直しにより、当初2020年度の打上げを目指していた試験機初号機の打上げを2021年度とし、2021年度の打上げを目指していた試験機2号機の打上げを2022年度として、開発を進めることとなります。
 H3ロケットは、H-IIA/Bロケットに続く、我が国の新たな基幹ロケットとなるため、LE-9エンジンの技術的課題への対応は万全を期すべきとの判断をいたしました。今回計画を見直すことで当初設定していた打上げ年度からは遅れることになりますが、H3ロケットのより確実な打上げに向けて、関係者一丸となって開発を進めてまいります。引き続き、皆様のご理解、ご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます。

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