2020年(令和2年)10月理事長定例記者会見

理事長定例記者会見

山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします

日時:2020年(令和2年)10月9日(金) 13:30-14:15

場所:オンライン会見

司会:広報部長 鈴木 明子

2021年度予算概算要求について

 2021年度のJAXAに関連する概算要求につきまして、過去最高となります約2,831億円を文部科学省から要求していただきました。
 新宇宙基本計画などにおけるJAXAの役割を推進してまいりたいと思います。
 主なポイントですが、米国の提案する国際宇宙探査「アルテミス計画」参画に向けた研究開発、また、前回、開発計画の見直しについてご報告いたしましたH3ロケット開発やそのペイロードとなります先進レーダ衛星(ALOS-4)の開発、そして、次世代の航空科学技術の研究開発などの推進に必要となります予算を要求していただきました。
 まず、「アルテミス計画」への参画につきましては、我が国としては、昨年10月の政府の宇宙開発戦略本部において参画方針が決定され、本年の6月に宇宙基本計画において位置付けられたところでございます。さらに、日米両国の協力内容を具体化すべく、文部科学省とNASAとの間で調整が進められ、本年の7月に月探査協力に関する共同声明の署名が交わされました。これらを踏まえまして、今回の概算要求におきましては、「アルテミス計画」関係経費として、月周回有人拠点の中核的機器の開発、開発中の新型補給機(HTV-X)をGateway補給機としても活用するための開発、小型月着陸実証機(SLIM)の開発、月極域探査計画(LUPEX)、国際宇宙探査に向けた開発研究、さらに宇宙探査オープンイノベーションの研究について、合計約810億円を要求していただきました。
 H3ロケットにつきましては、開発計画の見直しを実施したところでありますが、来年度は、LE-9エンジンの技術的課題に対応するための設計変更等を行って、LE-9エンジン認定試験を実施し、試験機となる初号機の地上総合試験を実施したうえで、万全な準備のもと確実な打上げを目指しております。そのための予算として、約206億円を要求していただきました。
 また、先進レーダ衛星(ALOS-4)につきましては、現在、衛星バス、そしてミッション機器のプロトフライトモデル(PFM)の製作と組立及び地上設備の適合性試験などを実施しており、来年度も引き続き、衛星バス・ミッション機器のPFMの製作と試験、地上設備の整備・試験等を実施するための予算として、約157億円を要求していただきました。
 そして、次世代の航空科学技術の研究開発予算としましては、航空分野の脱炭素化の早期実現に向け、航空機の燃費の効率を大幅に向上させる抵抗低減技術と軽量化技術の研究開発及びエミッションフリー(電動推進)航空機に搭載する電動ハイブリット推進システムの研究開発などを推進していくため、前年度比で約8億円増となります約44億円を要求していただきました。
 これらの重要な既定のプロジェクトに加えまして、さらに小惑星探査機「はやぶさ2」のカプセル回収後の運用を行う「はやぶさ2拡張ミッション」、将来の宇宙輸送システム構築に向けた「将来宇宙輸送システム研究開発プログラム」、及び、将来の革新的な衛星開発技術の獲得に向けた「小型技術刷新衛星研究開発プログラム」に必要な予算を、新規に要求していただきました。
 「はやぶさ2」拡張ミッションにつきましては、将来の深宇宙長期の航行技術に資する技術的そして科学的知見の獲得を目指すとともに、小惑星「リュウグウ」への探査で実証した探査技術を最大限活用して、我が国の科学国際競争力の強化に資する活動を増強するために、約4億円を要求していただきました。
 「将来宇宙輸送システム研究開発プログラム」につきましては、H3ロケットの開発後も、我が国として宇宙輸送システムの自立性の継続的な確保や新たな宇宙輸送市場の形成と獲得に向け、抜本的低コスト化なども含めた革新的技術による将来宇宙輸送システムを構築することが重要と考え、約3億円を要求していただきました。
 「小型技術刷新衛星研究開発プログラム」につきましては、開発期間の短縮や低コスト化につながる衛星の開発、そして製造方式の刷新に取り組むことを目的として、小型・超小型衛星による、より挑戦的な衛星技術の短サイクルの開発とその実証を実施する取り組みに必要な予算として、約6億円を要求していただきました。
 以上、宇宙基本計画、そしてJAXAの第4期中長期目標に則り、我々に与えられました役割と責務を自覚して、皆様のご期待に応えるべく、研究開発を引き続き推進してまいりたいと思います。

福井県との航空科学技術の研究開発促進に係る包括協定の締結について

 JAXAは、全国の地方自治体を含む地域の皆さまと、教育分野や衛星データ利用などの連携を進めております。また、宇宙や航空の分野に限らず、さまざまな業種の方々にも参加いただき、イノベーション創出に取り組んでおります。本日は、その中でも福井県の例をご紹介いたします。
 JAXAは、先月9月14日に、福井県と航空科学技術の研究開発促進に係る包括協定を、杉本知事と張替航空技術部門長が締結いたしました。これは、JAXAが推進する、航空機の運航に大きな影響を与える気象への課題解決につながる取り組みです。
 今回の包括協定に基づいて福井県と取り組む最初の活動として、滑走路雪氷検知技術(雪氷モニタリングシステム)の機能実証試験を行います。このシステムは、航空機運航と空港運用を安全の観点から支える技術です。滑走路上の積雪、雪氷の詳しい状態をリアルタイムかつ継続的に計測する世界初のセンサ技術により、航空機離着陸の遅延や欠航の低減、事故などの低減、滑走路の除雪作業の適切な実施など、多様な場面での判断に寄与できるデータ提供が可能となります。実証試験は、福井県内の企業で道路・鉄道における雪氷計測技術を専門とする企業などにも加わっていただき、2021年頃に福井空港で実施する予定でございます。
 企業の宇宙航空業界への新規参入を積極的に推進する地方自治体との連携は、JAXAにとって非常に重要であると考えておりまして、日本の宇宙航空分野の発展、そして強化に欠かせないものと思っております。

BepiColombo(ベピコロンボ)探査機の金星スイングバイの実施と金星共同観測の予定について

 「BepiColombo」(ベピコロンボ)は、JAXAの水星磁気圏探査機「みお」(MMO)と、欧州宇宙機関(ESA)の水星表面探査機(MPO)の2機から構成される国際水星探査計画です。
 2018年10月に打ち上げられまして、2025年12月に探査機の水星への到着が予定されております。この7年間のクルーズ期間中には、軌道変更のため、地球で1回、金星で2回、水星で6回の計9回のスイングバイを実施しますが、これは惑星探査機としては世界最多となります。
 次の金星スイングバイは、来週10月15日に予定されております。12時58分頃(日本時間)に金星に最接近し、高度約11,000 kmを通過する予定です。この金星スイングバイによりまして、「BepiColombo」探査機の軌道はさらに太陽系の内側へとシフトし、太陽に近づくことになります。
 今回は、このスイングバイの前後1週間にわたって、JAXAの金星探査機「あかつき」、そして惑星分光観測衛星「ひさき」でも金星の共同観測を行うことを計画しております。
 現在、金星探査機「あかつき」は、金星を11日の周期で周回しておりまして、搭載されております中間赤外カメラで金星上空の雲の温度分布や、紫外線カメラでスーパーローテーションと呼ばれます、金星上空の広範囲で吹く、自転速度を遥かに超える強い風を観測しています。一方、「ひさき」は、地球周回軌道から紫外線で金星大気のさらに高い部分にある薄い大気と電離圏を観測しております。
 このように「BepiColombo」「あかつき」「ひさき」の合計3機の探査機で、同時に金星を観測することは世界で初の試みとなります。
 JAXAの水星磁気圏探査機「みお」には、プラズマの観測装置を搭載しておりますので、金星周辺の宇宙環境を計測することできます。この「みお」による金星周辺のプラズマ粒子の検出結果と、「ひさき」による金星電離圏のモニタ観測結果を組み合わせて分析することなども可能となると考えております。
 また、欧州の水星表面探査機(MPO)にも、赤外線と紫外線のカメラが搭載されておりますが、JAXAの「あかつき」と「ひさき」とは異なった広い範囲の波長をカバーしておりますので、別の高度からも観測をすることができると考えております。
 このように、「BepiColombo」、「あかつき」、「ひさき」のそれぞれの探査機と観測機器を組み合わせて、金星の下層から上層までの大気や、外側の電離圏、プラズマなどを同時に観測することで、これまで見えなかった新たな発見や成果が期待できると考えております。
 今後、成果が得られた場合には、プレスリリースなどで改めてご紹介できればと思っております。

野口宇宙飛行士の搭乗について

 9月30日(日本時間)にNASAで行われましたクルードラゴン宇宙船運用初号機のクルー4名による記者会見におきまして、運用初号機となる今回の宇宙船の名称が、「Resilience(レジリエンス)」に決定したと発表がありました。
 野口宇宙飛行士の話にもありましたが、クルー4名がこれまでの厳しい訓練において、それぞれの経験、多様性、協調性を発揮して、困難な状況に打ち勝ってきた点を、「レジリエンス(強靭性、立ち直る力)」の言葉に重ねております。新型コロナウイルス感染症の拡大によって、人類は今、実にさまざまな困難に直面しております。JAXAとしても、宇宙航空の分野で、これらの課題に向き合い、国内のみならず、世界に貢献していかなければならないと改めて考えた次第であります。
 10月31日の打ち上げ予定時刻(10月9日時点*)は、現地では深夜ですけれども、日本は午後3時40分と皆さまに応援していただくには非常によいタイミングと考えております。民間機の初ミッションに挑んでいる野口宇宙飛行士をはじめ、クルー4名のフライトが新たな宇宙時代の一歩となることを期待しております。

オンラインでの開催イベントについて

 これまで、新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、イベントの開催中止または延期の判断をしておりますが、いくつかオンラインにて開催するイベントも予定しておりますので、ご紹介させていただきます。
 まずは、今年の10月にベトナムでの開催を本来予定しておりましたが、延期になっておりました「アジア・太平洋地域宇宙機関会議(Asia-Pacific Regional Space Agency Forum:APRSAF)」です。第27回目は来年2021年に延期し、今年は特別に、4時間のオンライン会議を11月19日に開催いたします。文部科学省及びJAXAに加えまして、一昨年の開催国であるシンガポール、そして来年以降の開催予定国でありますベトナム、インドネシアの4か国で主催をします。
 今年のテーマは、「Sharing Space Visions Beyond Distance」です。人と人とが会う機会が大きく制限される中で、距離を超えて宇宙分野のビジョンを共有していきたいという意味が込められております。
 新型コロナウイルスによって世界的に困難な状況にある中で、宇宙活動が社会や人々の生活にどう役立っているのかを改めて見つめ直す機会と捉え、アジア・太平洋地域の宇宙機関長十数名が一堂に会してビジョンを共有するなど、さまざまな議論を行う予定でおります。
 2つ目ですが、今年3月に開催を予定しておりましたが延期になっておりました「革新的衛星技術実証ワークショップ2020」を、来月11月5日~6日にオンラインで開催いたします。
 昨年の1月に打ち上げました「革新的衛星技術実証1号機」の実証成果をご報告するとともに、「革新的衛星技術実証プログラム」が今後果たすべき役割についてご紹介をいたします。革新的衛星技術実証プログラムへの参加をご検討中の方々や、実証テーマの技術にご関心をお持ちの方をはじめ、幅広く多くの方々にご覧いただきたいと考えております。
 最後に、今年度のJAXAシンポジウムも、11月21日にオンラインで開催いたします。
 今年は、日本初の、そして世界で4番目の人工衛星となります「おおすみ」の打上げからちょうど50年にあたることから、“「おおすみ」打上げ50周年記念『宇宙開発 今昔物語』”というテーマで、日本の宇宙開発の歴史を振り返りたいと思っております。また、「はやぶさ2」のカプセル帰還も間近にその時点ではなりますので、その話題も取り上げます。インターネット上に仮想会場を作り上げ、リアルなトークと合わせた新しい形のシンポジウムを目指しています。今年もチャレンジングなJAXAシンポジウムをご期待ください。詳しくは改めてお伝えできればと思います。
 いずれのイベントも是非、ご参加いただければと思います。

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