理事長定例記者会見
山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします
日時:2020年(令和2年)12月11日(金) 13:30-14:15
場所:オンライン会見
司会:広報部長 鈴木 明子
光データ中継衛星搭載の光通信機器の現状
先月11月29日に種子島宇宙センターから、H-IIAロケット43号機によって打ち上げられました「光データ中継衛星」ですが、衛星に搭載しております光衛星間通信システム(LUCAS)の光通信機器の現状についてご報告をいたします。
打上げ後、当初の予定どおり、約10日間ほどかけまして目的の静止軌道に無事投入されました。そして、12月9日にLUCASの光通信機器を起動させ、軌道上での初期機能確認が可能な状態になったことを確認いたしました。
この後、個別に各機能が正常であることを確認する初期機能確認のフェーズを経て、定常運用に移行し、技術実証を開始する予定です。国立研究開発法人情報通信研究機構殿と協力しました光地上局との光通信実験とその評価を進めるほか、来年度に打上げを予定しております、先進光学衛星(ALOS-3)に搭載します光通信機器との間で、取得した観測データを用いて光衛星間通信の技術実証そして運用実証を順次進めてまいります。
光データ中継衛星のこの圧倒的な広域性・即時性、および高速そして大容量通信の特徴を活かして、災害対策への活用など、「宇宙からデジタル社会を支える」高速宇宙通信ネットワークの中核となるべく、社会実装を目指してまいります。技術実証の成果が出たタイミングにてまた皆さまにお伝えしたい思っております。
小惑星探査機「はやぶさ2」ミッションについて
今週の12月6日に、小惑星探査機「はやぶさ2」の再突入カプセルは、地球の大気圏に突入して、美しい火球の姿を見せながら、計画どおり、豪州ウーメラ立入制限区域内に着地し、回収することに成功いたしました。国際宇宙ステーションからは地球へ再接近する直前の探査機の撮影にも成功いたしました。改めまして、これまでご支援をいただきました国内外の関係者の皆さま、そして多数のご声援をいただきました国民の皆さまに御礼を申し上げます。
これにて、小惑星「Ryugu」(リュウグウ)を目指しました、打上げから約6年間の探査は完了いたしました。探査機「はやぶさ2」は、拡張ミッションのフェーズに入りまして、次なる探査対象であります小惑星「1998 KY26」に向けて、地球スイングバイ後の健全性を確認しており、現在も順調に飛行を続けております。
回収後のカプセルですが、12月7日に、オーストラリアの現地本部において、カプセルからガスの採取作業を実施した後、翌8日には、相模原の宇宙科学研究所内にあります、地球外試料キュレーションセンターのクリーンルーム内に搬入いたしました。
現在、カプセルのヒートシールドの取り外しに取り掛かっており、電子機器部やパラシュート等のサンプルコンテナ以外のカプセル部品についても外観の確認や検査を始めているところです。来週以降、サンプルの光学観察、重さの測定や、分光観察などの最初の確認を開始いたしますがサンプルの具体的な分析は、初期分析チームにて来年2021年6月頃から本格的に開始する予定です。太陽系の成り立ちや、生命の起源に迫る手掛かりになるような科学的な意義のある成果に繋がっていくことを私も楽しみにしているところあります。
ところで、現地にてカプセル回収にあたったメンバーは、数名はすでにカプセル運搬のために帰国いたしましたが、来週早々には残り全員が帰国予定でございます。
「はやぶさ2」は2014年12月に種子島宇宙センターから打ち上げられ、約3年半かけて小惑星「Ryugu」(リュウグウ)に到着、そして2度のタッチダウンを成功させました。特に2回目は人工クレーターを生成させて、有機物や水を含むとされる炭素質のC型小惑星からの噴出した内部物質の採取に世界で初めて試みました。
「はやぶさ2」ミッションを通じて、日本が世界をリードする技術を有していることを国内外に向けてまたひとつ実証できたこと、そして、海外の機関や政府のご支援をいただきながら、「はやぶさ2」プロジェクトメンバーはもちろんのこと、ALL JAXAで力を結集してこの成果を成し得たことを、大変嬉しく思っております。JAXAは、ひとつひとつ実績を積み重ねて、今後の科学探査、そしてさらなる国際宇宙探査に向けて、また気を引き締めて取り組んでまいりたいと思います。
今年一年間の活動総括
今年は、日本初の人工衛星「おおすみ」打上げから50年という節目の年でありました。その節目に相応しく、また次の50年につながる多くの成果を達成できたと考えております。
まず、人工衛星そして探査機の観点で例を挙げますが、「はやぶさ2」のほかにも、水星磁気圏探査機「みお」及び欧州宇宙機関(ESA)の水星表面探査機(MPO)による国際水星探査計画「BepiColombo(ベピコロンボ)」におきまして、その探査機が10月に金星スイングバイを行った際に、現在金星を周回しておりますJAXAの金星探査機「あかつき」、そして、現在地球を周回しております惑星分光観測衛星「ひさき」とともに3機による金星の同時観測を世界で初めて実施しました。金星周辺のプラズマ環境などの同時観測を行いまして、貴重な観測データが得られております。
また、ロケット打上げの観点では、1月の観測ロケットS-310-45号機の打上げに始まりまして、5月には、宇宙ステーション補給機「こうのとり」9号機をH-IIBロケット9号機で打ち上げました。7月のH-IIAロケット42号機によるUAE(アラブ首長国連邦)の火星探査機「HOPE(ホープ)」の打上げでは、日本の基幹ロケットが海外の需要に応えることができて大変嬉しく思いました。11月のH-IIAロケット43号機打上げをもって、H-IIA、H-IIBロケット及びイプシロンロケット合わせて50機連続成功となり、まさに我が国の基幹ロケットにとって節目ともなりました。
そして次期の基幹ロケットとして開発を進めておりますH3ロケットは、打上げの目標時期を延期しましたが、着実な打上げを目指して開発試験を進めているところです。来年1月13日には、H3ロケット試験機1号機のコア機体を報道関係者の皆さまに公開する予定です。
今年は世界的に新型コロナウイルス感染が拡大して、多くの人々の安全を脅かし、また、経済活動や社会生活にも甚大な影響を及ぼす事態となりました。JAXAにおきましても2月に対策本部を設置し、4月には政府の緊急事態宣言発出を受けて事業継続計画(BCP)を発令しましたが、基幹ロケット打上げ、宇宙飛行士を含む国際宇宙ステーション及び「きぼう」日本実験棟の運用、軌道上の人工衛星、そして探査機を喪失しないための運用などを最も重要と考えまして取り組んでまいりました。
また、アメリカ航空宇宙局(NASA)、そして欧州宇宙機関(ESA)と協力して、地球観測衛星データを用いて新型コロナウイルスよる地球上の変化を解析し、世界に発信したことは新たな試みとなりました。
宇宙ステーション補給機「こうのとり」9号機は、シリーズの最終号機となりました。2009年の初号機から今年の9号機までの約11年間、国際宇宙ステーションの維持運用、軌道上の宇宙飛行士の安全とライフラインを守るという重要な責務を担っておりました。全号機においてその責務を全うし、国際貢献を果たすことができたと自負しているところです。
また11月には、野口宇宙飛行士が民間機初となりますクルードラゴン運用初号機に搭乗し、3度目の国際宇宙ステーション滞在を開始いたしました。これから約半年にわたるミッションを確実に遂行してくれると信じております。また宇宙飛行士に関しては、来年度、新たに宇宙飛行士募集を開始することに加え、若田宇宙飛行士そして古川宇宙飛行士の国際宇宙ステーション長期滞在も決定するなど、こちらも節目を迎えていると考えております。引き続き我が国が国際貢献を果たすべく、取り組んでいきたいと考えております。
新型コロナウイルス感染症の影響が極めて大きい一年でしたが、JAXAは関係各方面の皆さまと協力し、一丸となってこの一年間の事業に取り組んでまいりました。ロケットの安定した打上げ、そして大切なミッションを守り抜くことができたことに、束の間ですがほっと安堵しているところです。ご協力いただきましたすべての方々に心より感謝を申し上げます。また、国民の皆さまから頂きました激励は、なによりの私たちの力となり支えでもありました。改めまして御礼を申し上げます。
最後になりますが、報道メディアの皆さまにもたくさんの取材をしていただきました。一年間大変お世話になり有難うございました。また対面での記者会見や取材ができなくなり、大変ご不便をおかけしました。この状態はいましばらく続きそうですが、引き続きご理解ご協力をお願いいたします。
それでは少し早いですが、良いお年をお迎えください。