理事長定例記者会見
山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします
日時:2021年(令和3年)6月11日(金) 13:30-14:15
場所:オンライン会見
司会:広報部長 佐々木 薫
「はやぶさ2」サンプルのキュレーション実施状況
小惑星探査機「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウのサンプルについては、昨年12月より現在まで、サンプルの初期観察、カタログ化などのキュレーション活動を連携する大学や研究機関とともに進めてまいりました。このキュレーション活動では、サンプルの科学的価値を損なうことなく、基本情報となります顕微鏡画像や重量、サイズ、形状などの初期記載を実施し、カタログ化すること、及び、今後のより詳細な科学分析に資する情報を提供することを目的としております。
サンプルの分析作業は、最初に、昨年12月から今年2021年6月頃までの6か月程度をキュレーション活動Phase-1として、サンプルの取り出し、仕分け、そして基本的な状態等の解析を実施しております。次に2021年6月以降から約1年間(2022年6月頃)にかけまして、基本的な情報等が整理されたサンプルの一部におきまして、高次キュレーション活動Phase-2、そして初期分析を実施する計画です。その間、残りのサンプルに関する基本的なキュレーション作業も並行して実施いたします。
今年12月には、NASAとの連携協力において、小惑星リュウグウのサンプルの一部の提供を予定しております。一方でNASAのオシリス・レックス(OSIRIS-Rex)探査機の帰還後に提供を受けます小惑星ベンヌのサンプル受け入れの準備も進めているところです。
予定通り進めば、1年後の2022年6月頃には、サンプル研究の国際公募なども計画しているところです。
この度、キュレーション活動Phase-1が順調に進み、次の段階に移行する準備も整ったことから、順次、キュレーション活動のPhase-2、そして初期分析を開始する予定です。
まず、キュレーション活動Phase-2では、2つのチームによって、サンプルにおける高次の詳細記載データの取得、より高度なキュレーション技術の開発と、それらによる分析等に取り組む予定です。なお、2つのチームは、岡山大学惑星物質研究所殿が率いる「高次(Phase-2)キュレーション三朝チーム」と、そして国立研究開発法人海洋研究開発機構高知コア研究所殿が率いる「高次(Phase-2)キュレーション高知チーム」があります。三朝チームでは、地球惑星物質総合解析システム等を用いた総合解析法の確立や、データ管理システムの開発などを進めていただくこととなります。また、2つ目の高知チームにおいては、大気非暴露環境下におけるリュウグウ試料の詳細な物質科学的データの取得や、多くの研究機関との連携によります地球外物質リンケージ分析手法の開発と評価などをご担当いただきます。
そしてもうひとつ、初期分析につきましては、6つの分析チームから成ります「初期分析チーム」にご担当をいただきます。各チームは、①化学分析、②石の物質分析、③砂の物質分析、④揮発性成分分析、⑤固体有機物分析、⑥可溶性有機物分析で構成されておりまして、6つの大学の研究者がそれぞれリーダーとなって解析を進めていただきます。
これら高次(Phase-2)キュレーション、そして初期分析ともに、日本の研究者、そして研究機関が持つ英知と技術力を結集して行います。それぞれにおきまして、リュウグウのサンプルから新たな発見が得られる可能性があることを考えると一人の研究者としても期待が膨らむところです。
JAXAは、これまでにも多くの大学そして研究機関の方々に協力いただいておりまして、1年後には海外の研究者、そして大学・研究機関にも参画いただくことから、皆さんの力を最大限発揮していただくためにもサンプル分析にかかる計画を引き続きしっかりと推進してまいります。
そして、「はやぶさ」(初号機)、および「はやぶさ2」の成果によりまして、国際的な強みとなりました日本のサンプルリターン技術をさらに高め、太陽系形成の理解へと迫る小天体探査における世界からの期待に応えるためにも、火星衛星探査計画「MMX」の2024年度打上げ、そして2029年度地球帰還の確実な実施に向けて取り組んでいきたいと考えております。この「MMX」探査計画は小天体からのサンプルリターン計画であると同時に、各国の火星探査計画が進む中で、日本が世界初の火星圏往復を成し遂げ、火星本体のサンプルが混じる可能性があります試料を火星の衛星でありますフォボスの表面から持ち帰る計画です。日本が国際宇宙探査計画への貢献を果たすためにも、この「MMX」計画による火星圏からのサンプルリターンの実現を成し遂げたいと考えております。
星出宇宙飛行士のISS軌道上活動状況
星出宇宙飛行士は、4月24日に国際宇宙ステーションで長期滞在を開始してから約1か月半が経過いたしました。このISS船長としての責務を果たしながら、「きぼう」日本実験棟で行う実験の準備、実験装置の整備等、個々の宇宙飛行士に割り当てられた作業を緊張感をもって着実に取り組んでいると聞いております。
最近では、静電浮遊炉(ELF)実験において実験サンプルの交換作業を星出宇宙飛行士が行うなど、順調に実験が行われているところです。そのほかにも、細胞の重力感受メカニズムを解明し、微小重力や寝たきりによる筋萎縮の予防に貢献することを目的としました細胞の重力センシング機構の解明実験の準備作業としまして、ライブイメージングシステム(COSMIC)のセットアップ、そして9月に開催予定の第2回「きぼう」ロボットプログラミング競技会決勝大会に向けて、NASAのドローンロボット「Astrobee」を使用したテクニカルリハーサルの実施なども行いました。
6月5日には、ドラゴン補給船がISSにドッキングし、JAXA搭載品も無事にISSに到着しました。JAXA関連の搭載品には、高品質のタンパク質結晶生成実験のサンプルや、JAXAと国連宇宙部による、超小型衛星放出機会提供に関する連携協定(KiboCUBE)の第3回にて選定されました、モーリシャス共和国の超小型衛星「MIR-SAT1」などがありましたが、無事に軌道上に到着して安堵しております。
昨晩(日本時間6/10夜)には、今回の滞在期間中で最初となります地上とのリアルタイム交信イベントが実施されました。今回は全国で宇宙活動に関わっている方の代表として高校生や企業の方が参加し、宇宙に詳しい方ならではの質問など、活発な意見交換が行われました。
星出宇宙飛行士は船長としての責務もあり、今後も緊張が続いていくと思います。筑波宇宙センターの「きぼう」運用管制チーム、そして実験支援等のメンバーとともに一致団結して、今後の活動を着実に進めてくれると信じております。