2022年(令和4年)9月理事長定例記者会見

理事長定例記者会見

山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします

日時:2022年(令和4年)9月14日(水) 13:30-14:15

場所:オンライン会見

司会:広報部長 佐々木 薫

 2ヵ月ぶりの定例会見となります。この夏の間にも、国内外で宇宙航空分野ではさまざまな取り組みが進んでいることは、皆さんもよくご存じのことと思います。
 日本も参画する「アルテミス計画」においては、最初のミッションである、ArtemisⅠの打上げが2度延期されましたが、NASAにて原因対策が進められています。現時点では、延期後に示されていた米国東部時間9月23日金曜日早朝での打上げは見送られました。今後実施する試験の結果次第にはなりますが、打上げ候補日として、現地時間9月27日(日本時間では9月28日深夜)、バックアップとして10月2日(日本時間では10月3日未明)が公表されています。同ロケットに搭載される日本のオモテナシ・エクレウスにつきましても、新たな打上げ日設定に伴う対応、準備も含め着実に実施すべく、各担当が全力を注いで取り組んでおります。
 アポロ計画から約半世紀ぶりの、非常にチャレンジングなミッションに対し、日本、およびJAXAが担う責務を果たしてまいりたいと、改めて感じております。

 次に、若田宇宙飛行士搭乗のクルードラゴン宇宙船5号機(Crew-5)の打上げにつきましては、打上げ日時が、日本時間10月4日(火)午前1時45分に決定されました。若田宇宙飛行士は、自身5回目の宇宙飛行となります。その実績を生かし、日本ならではの「和」のリーダーシップを発揮しながら、これら数々のミッションを軌道上で遂行することを期待しております。先日、若田宇宙飛行士がISSに長期滞在するインクリメント68の期間中に行われる「きぼう」利用ミッションについてご説明する機会を設けましたが、科学研究利用、有人宇宙技術の獲得、民間利用の促進について成果を創出し日本のプレゼンスを発揮できるよう、若田宇宙飛行士と共にJAXAの多くのスタッフ一同、二人三脚にて、かつ数多くの関係者のお力をお借りしながら、数々のミッションを遂行していくべく進めてまいります。

 引き続き皆様のご支援をいただけますと幸いです。

1.革新的衛星技術実証3号機/イプシロン6号機の打上げ

 イプシロンロケット6号機による革新的衛星技術実証3号機および民間SAR衛星2基の打上げを2022年10月7日(金)に、内之浦宇宙空間観測所から行う予定です。イプシロンロケットの打上げは2021年11月の5号機以来、約11か月ぶりとなります。
 今回打ち上げます「革新的衛星技術実証3号機」は、日本の優れた技術やアイデアを、衛星単位だけではなく、部品やコンポーネント単位でも軌道上で実証する機会を提供する革新的衛星技術実証プログラムの3号機です。

 2019年1月に打ち上げました「革新的衛星技術実証1号機」に搭載した実証テーマにおきましては、すでに複数のテーマで軌道上実証の成果を踏まえた事業化が進んでおります。
 一例をあげますと、日本電気株式会社殿の実証テーマで「革新的FPGA」がございます。FPGAはいわゆる半導体集積回路ですが、宇宙実証により、小型で電力消費量が低く、放射線の影響も受けにくいというナノブリッジFPGAの信頼性等が確認されたと伺っています。その成果をもとに、ナノブリッジFPGAの製造・販売を行う新会社を設立し、企業向け試作品の販売実績などの活動や、次の世代として自動車等の民生用にも事業を展開中とのことです。
 その他、複数のテーマにおいても、事業化、販売実績や採用実績が報告されています。

 昨年11月に打ち上げた2号機でも、企業や大学のほか、初めて高等専門学校の学生が開発した衛星も含めまして、9機の衛星、14の実証テーマを搭載し、現在、軌道上での実証を進めております。1号機同様、実証からその先につながる事業が生まれることを期待しております。

 革新的衛星技術実証3号機も打上げに向け準備を進めており、先日、9月2日には内之浦宇宙空間観測所において、小型実証衛星3号機(RAISE-3)の機体を公開いたしました。RAISE-3には、7つの実証テーマ機器を搭載し、世界初の実証にも取り組む計画です。

 イプシロンロケットは1段モータを5月25日に内之浦宇宙空間観測所に搬入し、その後、10月7日の打上げに向けた射場での作業を順次進めてきているところです。現在、ロケットの全段を結合し、点検する作業を進めております。なお、全8機の衛星の、ロケットへの搭載作業は完了しております。今回の打上げも無事成功させ、宇宙利用の拡大につながる成果が得られるように進めてまいります。

2.H3ロケット第1段エンジン燃焼試験の状況

 H3ロケットの第1段エンジンとして新たに開発を進めているLE-9エンジンについて、開発状況をお知らせします。
 先日9月1日に岡田プロジェクトマネージャによる記者説明会を実施いたしましたので、本日は、詳細は割愛いたしますが、ご了承ください。

 これまで認定燃焼試験の前半を7月から8月にかけて5回実施し、現在、試験機1号機に搭載するLE-9エンジン2基の領収燃焼試験を実施しております。
1基目のLE-9エンジンの領収燃焼試験は、9月6日および9月12日に実施しており、2基目の領収燃焼試験については、具体的な実施時期の検討を進めております。

 試験機1号機の打上げ時期は、今後実施を予定している実機型ステージ燃焼試験(CFT)の終了時点で見極める予定ですが、2022年度内の打上げを目指して進めてまいります。

3.地球観測分野での国際連携、産学官連携による課題解決の取り組み

 この夏の豪雨はみなさんの記憶に新しいと思います。近年の異常気象や気候変動問題は世界的な共通課題であり、国際的な連携や産学官の連携等により課題を解決していく必要性が高まっています。

 JAXAは、地球で起こっている様々な気象現象を地球観測衛星で捉え、この課題解決のために提供することが重要と考えており、2020年6月から、米国航空宇宙局(NASA)および欧州宇宙機関(ESA)と連携し、地球観測データの共同解析結果を「Earth Observing Dashboard」というWebサイトから発信しています。また、本年7月には、この取り組みを2024年6月まで継続することに合意し、共同宣言を発出しました。
 このサイトでは、地球環境の変化や、その変化が社会活動へどう影響するのか、ストーリー形式で解説しています。科学者・政策決定者はもちろん、人工衛星や地球観測データに馴染みのない方々にもご活用いただけることを期待し、アクセスしやすく便利な方法で情報を提供することを目指しました。

 次に、JAXAが事務局を務め、本年9月7日に設立した「衛星地球観測コンソーシアム(CONSEO)」の活動について紹介します。
 本コンソーシアムは、産学官により、日本の衛星地球観測分野における総合的な戦略提言をまとめることで宇宙基本計画や工程表等の政策議論へ貢献すること、日本の地球観測に基づく地球科学の強みを伸ばし、世界との協調による気候変動対策を先導すること、さらに産学官の連携共創活動を推進し、コンソーシアムの参加者が多様な産業に拡大することによって、日本の成長産業となることなどを目指します。当日に開催した設立総会・シンポジウムは現地とオンライン合わせて700名以上の方々にご参加いただきました
 シンポジウムに登壇いたしました際にも申し上げたことですが、安全保障、社会経済情勢、地球環境等の激変する環境において、新しい地球観測活動の姿を実現するためには、地球観測と測位、通信の境目をなくし、宇宙からのリモートセンシングを数多くのセンサネットワークの一つとしてとらえ、新しい価値を世の中に創出していく必要があると考えております。そして、その創出にあたり、様々なプレーヤーが、オープンなパートナーシップのもと、連携共創していく必要があります。
 シンポジウムにご登壇された皆様からも、「デジタル化やAIの活用により、デジタル・ツインの構築やグローバルネットワークの強化が図られる中、衛星観測データも当然その一部となることが必然である」というご発言や、観測なしに予測はできないことから、「宇宙からの観測はもはや社会インフラであり、公共財としての性質を持つ地球観測情報を誰でも自由に使えるようにしつつ、ビジネスとしても成立させていく新たなモデルが必要」といったご発言をいただき、地球観測衛星データの重要性を改めて認識したところです。

 JAXAは地球観測衛星データを通じた社会課題への貢献を目指し、新しい地球観測活動と成果の実現、そして利用のすそ野を広げる取組の強化に向けて、国内外の関係者と手を携え取り組んでまいります。

4.アフリカ-日本CubeSat協力ワークショップおよびKiboCUBE Academy in Tunis

 先月8月末、日本政府が主導する第8回アフリカ開発会議(TICAD8)が、チュニジアで開催されました。
 JAXAでは、アフリカ諸国など宇宙新興国の宇宙技術の能力構築および人材育成への貢献を目的として、2015年より、国連宇宙部(UNOOSA)とともに、国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟からの超小型衛星放出の機会提供に関する連携協力「KiboCUBEプログラム」を実施しております。今年2月には、第6回公募の選定結果2件を公表いたしましたが、2件のうち1件は、アフリカ・チュニジアの工学応用技術大学を選定しております。
 また、日本におけるアフリカ諸国への人工衛星開発支援としましては、JAXAのほかにも、九州工業大学、東京大学など各大学が、それぞれ特色を生かしたプログラムを実施しております。

 なお「きぼう」日本実験棟からは、これまでアフリカ6か国のCubeSat衛星が放出されており、また来年にかけて3か国のCubeSat衛星の放出が予定されています。

 そのような背景のなか、チュニジアにてアフリカ開発会議が開催された機会をとらえ、チュニジアおよびアフリカ諸国の方々を対象に、超小型衛星開発に関するワークショップなどを実施いたしました。

 一つは、8月26日、JAXAと九州工業大学、東京大学空間情報科学研究センター、チュニジア側機関との共催による「アフリカ‐日本CubeSat協力ワークショップ」です。
 JAXAがアフリカでこうしたワークショップを開催するのは初めてでしたが、アフリカ各国や国際機関も含め120名の参加となりました。
 ワークショップでは、7か国からCubeSatミッションを通して得られた能力や識別された課題について報告がなされました。また、各国で持続的な宇宙活動を定着させていくための効果的な取組みについてパネルディスカッションも行い、衛星技術の蓄積に加え、社会課題解決に貢献する衛星データ利用を促進していく重要性が共有された、大変貴重な機会となったと思います。
 二つ目は、8月25日、チュニジアおよびアフリカ諸国の方々を対象に行った、超小型衛星開発に関する技術講座「KiboCUBE Academy」です。
 当日はチュニジアでの現地参加およびオンライン視聴のハイブリッド形式で、超小型衛星の開発、ISSからの放出および運用に係る技術等の講義を行い、「KiboCUBEプログラム」の第6回で選定されたチュニジアの大学関係者をはじめ、幅広い年齢層から現地・オンラインを合わせて200名以上の参加を頂き、超小型衛星開発への関心の高さを確認することができました。

 両イベントは、開催国チュニジアの宇宙活動の推進を支援するとともに、宇宙分野における日本とアフリカ諸国のネットワークの強化につながるものと考えております。
 今後もこのような機会を活用し、アフリカ諸国など宇宙新興国の宇宙技術の能力構築や人材育成に貢献してまいりたいと思います。

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