理事長定例記者会見
山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします
日時:2023年(令和5年)10月20日(金) 13:30-14:15
場所:JAXA東京事務所 B1F プレゼンテーションルーム
司会:広報部長 佐々木 薫
1. H3原因究明状況・開発状況、イプシロンS開発状況など
H3ロケット試験機2号機の確実な打上げに向け、これまで調査・安全小委員会にてご報告したH3ロケット試験機1号機原因究明の直接対策、および背後要因に基づく対策や信頼性向上対策の設計等を進めております。
H3ロケット試験機2号機に搭載するLE-9エンジンの領収燃焼試験を10月15日に実施し、現在取得したデータの詳細評価を行っております。
また、領収のために追加のデータ取得が必要なため、2回目の領収燃焼試験の準備を進めております。本領収燃焼試験終了後にLE-9エンジンタイプ1Aの認定燃焼試験の後半を実施する予定です。
イプシロンSロケット第2段モータ地上燃焼試験における爆発・火災事故の原因調査につきまして、現在、解析と試験検証による原因の絞り込みを継続しております。また、SRB-3への水平展開も原因調査と並行して行っており、次回の調査・安全小委員会にて進捗をご報告する予定です。
2. 第74回国際宇宙会議(IAC)参加報告
10月2日から4日にかけまして、アゼルバイジャン共和国・バクーで行われた第74回国際宇宙会議(IAC)に出席して参りました。本会議は、国際宇宙航行連盟(IAF)によって毎年開催されているものですが、各国宇宙コミュニティが集まり学術研究成果の発表、宇宙開発に関する情報交換やネットワーキングを行う世界最大規模の会議です。
私は、宇宙機関長セッションやパネルに登壇し、宇宙探査や宇宙活動の持続性への貢献等に関するJAXAの取り組みを紹介しました。
また、NASAをはじめとする各国の宇宙機関や政府関係者との会談を実施し、機関間の更なる協力関係の強化や、将来に向けた協力の可能性について議論を行いました。英国宇宙庁とは、英国Viasat社の静止衛星ネットワークを活用したロケット追尾サービスをH3ロケットに適用することで、国際競争力の観点としてH3ロケットの飛行経路計画の柔軟性を向上し、さまざまな打上げニーズに応えることなどを目指すための開発プロジェクト「InRange」について、協力を開始することに合意しました。この開発プロジェクトは、英国宇宙庁とJAXA、英国Viasat社、三菱重工業株式会社、NECスペーステクノロジー株式会社が参画し、技術開発およびH3ロケットでの飛行実証を行う予定です。
会期中には、NASAの提案により、アルテミス合意に署名した国々との会合も開催されました。私はNASA副長官、ポーランド宇宙機関の長官とともに共同議長を務めました。活発化する月面活動を背景として、自国の月面活動の他国への干渉を回避するための方法や、新興国の月探査への参画を促す方法について議論を行いました。今回の会合では、月面活動の干渉を回避するための一つの方法として、透明性確保の観点から、近い将来に行われる民生ミッションの月探査計画についての活動の情報公開を始める必要性を確認しました。
海外におけるJAXAのプレゼンス向上、機関間協力の推進、そして国際宇宙探査に向けた国際的なコンセンサスに向けて大きな一歩を踏み出すことに貢献でき、JAXAとても大きな意義があったと考えております。
3. 地球規模課題「気候変動」に対する取り組み
10月に入って随分と涼しくなってきましたが、今年の夏は大変な猛暑となりました。特に7月は、日本でも、世界でも月間平均気温が観測史上最高を記録したと聞いています。
このように、地球規模で進む温暖化などの気候変動を把握するには、世界各国の地球観測衛星が活用されています。海洋や南極の海氷といった極地の状況や、地球全体を均質に観測することは人工衛星が得意とするものです。
JAXAでは、2023年の高温傾向に関連する話題について、地球観測衛星のデータを使って、一般の方にも分かりやすくまとめた「気候変動2023特設サイト」を開設しております。本特集は全3回を予定しており、現在は第2回までの記事を公開しました。年内に第3回目の記事掲載を予定しています。
この特設サイトでは、3つの観点に着目して解説をおこなっています。第1回は「海洋」、いわゆる「海面水温」。第2回は「南極海氷の面積」で、これらはJAXAの水循環変動観測衛星「しずく」、高性能マイクロ波放射計シリーズの観測成果に基づいております。また第3回では「熱波や森林火災」を採り上げますが、気候変動観測衛星「しきさい」の観測データを中心に解析を行っています。
JAXAとしては高性能マイクロ波放射計シリーズの後継センサを搭載した温室効果ガス・水循環観測技術衛星GOSAT-GWや、地球の温度変化に影響を与える雲やエアロゾル、すなわち大気の微粒子を観測する衛星であるEarthCAREに搭載する雲プロファイリングレーダの開発も進めております。打上げおよび運用に向けた準備を着実に進めてまいります。また、現在運用中の衛星、センサにおいても引き続き成果を示せるよう取り組んでいくとともに、地球規模課題に対応すべく、国内外の研究機関やコミュニティとの連携も密に進めてまいります。