理事長定例記者会見
山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします
日時:2024年(令和6年)10月11日(金) 13:30-14:15
場所:JAXA東京事務所 B1F プレゼンテーションルーム
司会:広報部長 佐々木 薫

二重小惑星探査計画Heraの探査機は、先日、日本時間の10月7日深夜、ファルコン9ロケットで打ち上げられ、所定の軌道に投入されました。Heraは欧州宇宙機関(ESA)が主導するミッションで、その探査機にはJAXAが開発した熱赤外カメラを搭載しています。この熱赤外カメラも、昨晩(10月10日夜)、電源を立ち上げ、機能の健全性が確認できております。目標とする二重小惑星ディディモスとディモルフォスへの到着は2026年12月を予定しており、引き続きESAともしっかりと連携してまいります。
1. 最近の取り組み、成果など
本日ご紹介する話題は、3つとなります。
● 光衛星間通信システム(LUCAS)と「だいち4号」との間での光衛星間通信に成功
まず最初は「だいち4号」の運用状況に関してです。
先月の定例会見にて、初期機能確認運用の一環として予定している、光データ中継衛星との双方向での光通信試験について紹介いたしました。光データ中継衛星および地上設備等を含めて「光衛星間通信システムLUCAS」と呼んでおりますが、このLUCASと「だいち4号」の間での光通信による相互捕捉、追尾を確立し、「だいち4号」からのコマンド送信、また「だいち4号」からのテレメトリデータの取得に成功いたしました。
LUCASと「だいち4号」の距離は約4万キロメートル離れています。光データ中継衛星、「だいち4号」ともに軌道上を高速で飛行しているため、移動しながらお互いに捕捉、追尾することは難易度が高くなります。
そして、両衛星間の通信確立に加えて、「だいち4号」からLUCASまでのデータ伝送において、「1.8Gbps」の通信速度が出ていることも確認いたしました。静止衛星と低軌道衛星間の通信光波長1.5マイクロメートル帯における通信速度「1.8Gbps」での光通信成功は世界初であり、前世代のデータ中継技術衛星「こだま」の伝送速度「240Mbps」に比べて約7.5倍になります。
この1.5マイクロメートルの波長帯は、地上の光ファイバケーブル通信網で用いられる汎用的な波長であることや、今後、宇宙での利用が見込まれていることも踏まえると、今回の光通信確立の意義は大きいと考えております。
さらに低軌道衛星の観測データの地上伝送時間においても、LUCASで中継することのメリットが活かされます。一般的な低軌道衛星と地上局との間では、1日あたり約1時間の通信時間になります。LUCASを中継することで、1日あたり約9時間に増えることになります。低軌道衛星が地上局と直接通信できないエリアで取得したデータを、静止軌道衛星経由でほぼリアルタイムに地上へ送ることが可能となります。同様に、災害発生等の緊急時には、地上から静止軌道衛星を経由してコマンドを送り、迅速な観測データ取得が可能になります。
引き続き、LUCASと「だいち4号」を用いて、衛星間の距離や互いの位置関係の違いがどのように通信品質に影響するかなどの実証、評価を実施し、機能の実用化を見据えて取り組んでまいります。
今回の光通信試験において、政府関係機関、プライムメーカの日本電気株式会社様をはじめ本システムの開発・製造、および運用に携わる企業、機関の皆さまにご支援を賜りました。この場をお借りして御礼申し上げます。
● つくば市でこどもMaaSサービスに関する実証実験を実施
次は、JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)における、高精度測位技術の社会実装に向けた共創活動をご紹介します。
東海クラリオン株式会社様とJAXAは、2023年6月より衛星測位技術を活用した「後のせ自動運転システム“YADOCAR-iドライブ”」に関する共創活動を行っております。YADOCAR-iドライブは東海クラリオン様が開発した既存の自動車に後から自動運転機能を組み込むシステムで、この自動運転の測位精度向上、安全性向上などを目指し、JAXAのセンチメータ級測位補強信号を活用した高精度測位補強サービス「MADOCA-PPP」を組み合わせ、システムの有効性や利便性の実証、最適化を図っているところです。
この度、茨城県つくば市様との連携により、つくば駅周辺の歩道を利用した自動運転実証実験の機会が実現いたしました。つくば市様は、子育て世代に向け、こどもや保護者などが外出する際の安全な移動を支援するサービスとして、歩道とそこに接する主要公園などを結ぶ「低速自動走行モビリティの社会実装」を目指しています。
実証実験は、9月30日から10月9日まで行われ、小学生から高校生を中心に約170名に乗車いただきました。乗車したお子さんからは「実現が楽しみ」、また保護者の方からは「実現したら共働き世帯にとって親の送迎負担が軽くなる」といったご意見などをいただきました。実証実験の結果については今後まとめてまいりますが、人通りが多い環境での自動運転走行の実証事例はまだ少ないとも聞いておりますので、貴重なデータが得られたと考えています。
JAXAとしましては、MADOCA-PPPにおける建物等の影響評価などの解析を進め、さらなる高度化を目指してまいります。
実証実験にご協力いただきましたつくば市民の皆様に感謝申し上げます。
● 宇宙探査イノベーションハブ第12回研究提案募集(RFP)の選定結果
宇宙探査イノベーションハブでは、民間企業等による地上および宇宙でのビジネス創出と、将来の月、火星等の探査に適用できる技術の掘り出しの双方に重点を置いた「Dual Utilization」をコンセプトに据え、特に過去に宇宙分野と関連性のなかった事業分野や業種の皆様に新たに探査活動へ参画いただくことを重要な目的として2015年から公募による研究提案募集(RFP)による共同研究事業を続けてまいりました。
これまでに260の機関と186件の共同研究を締結し、このうちの9割は非宇宙企業から参画いただいております。今年1月に月面に着陸し、SLIMの写真を撮像した変形型月面ロボット(LEV-2)愛称「SORA-Q」はこのコンセプトによって生み出されたものと言えると思います。
一方、日本も参画するアルテミス計画をはじめとした国際宇宙探査計画が進展し、企業による宇宙活動も活発化し、探査を取り巻く環境は変化しています。そこで、宇宙探査イノベーションハブでは、これまでの「Dual Utilization」をさらに発展させ、「Space Dual Utilization」というコンセプトを新たな目標に掲げており、新たな研究活動「Moon to Mars Innovation」に取り組んでいます。これは、JAXAにとっては「宇宙探査ミッション化」、企業にとっては「宇宙事業化」の両方を同時に目指す試みになります。
この研究活動のもと、今年7月から8月にかけて研究提案の公募を行いました。今回の公募では6つの課題設定をしており、主な例をあげると、①「月面における高効率な無線電力伝送システム」、②2030年代の月面での電力供給源を担うことを目指した「月面固定型スマート太陽電池タワーシステム」に関する研究課題などがあります。
各課題に対し合計20件のご応募を頂き、7件のテーマを採択いたしました。具体的な採択課題名につきましては、各採択機関と調整ののち、宇宙探査イノベーションハブのウェブサイトにて順次掲載予定です。
宇宙探査イノベーションハブでは、引き続きオープンイノベーション拠点として、政府・JAXAが進める将来の月・惑星探査における技術開発の促進とともに、民間企業による将来有望な技術の発掘と育成を進め、地上分野の事業化だけではなく宇宙分野の事業化の促進にも貢献をしていきたいと考えております。
また、これまで宇宙とは関係の薄かった民間企業や大学、機関等との共創体制の拡張を継続することで、宇宙分野参入への敷居を下げ、人材育成の観点においても貢献をしていきたいと考えております。