プレスリリース・記者会見等

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第一期水循環変動観測衛星「しずく」の
気象庁での利用について

平成25年9月12日

気象庁
宇宙航空研究開発機構

 平成24年5月に独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げた第一期水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W1:Global Change Observation Mission 1st - Water)には高性能マイクロ波放射計2(AMSR2:Advanced Microwave Scanning Radiometer-2)が搭載されており、その観測データはリアルタイムで気象庁に送信されています。このAMSR2のデータには大気中の水蒸気や海面水温の情報が含まれていることから、気象庁とJAXAは共同でそのデータの有効利用のための調査や技術開発に努めてきました。

 この結果、気象庁が発表する天気予報の基礎資料を作成する数値予報システムにおいて、降水予測精度の向上が期待できることが確認できましたので、平成25年9月12日よりその利用を開始します。詳細は別紙1を参照下さい。また、気象庁では地球全体の海面の温度を1日1回解析しており、その解析システムにおいてもAMSR2データの利用により品質の向上が見込まれたことから、平成25年5月27日より利用を開始しています。詳細は別紙2を参照下さい。

 気象庁とJAXAは、今後も貴重な衛星観測のデータをより有効に活用するための開発に努めてまいります。

別紙1

気象庁数値予報システムにおけるAMSR2データ利用について

 気象庁では、天気予報や注意報・警報発表のための基礎資料を作成するため、数値予報システムを運用しています。数値予報システムは、地球上の大気を細かい格子に分割し、それぞれの格子に風や気温、水蒸気量などの値を割り当て、それらの値の時間変化を物理学の法則に基づいてコンピュータで計算し、将来の気象の状態を予測するものです。この際、その計算の出発点となる風や気温などの値を、全ての格子に事前に割り当てることが必要です。この事前に割り当てられる値「初期値」は、ある時刻の現実の大気の状態をコンピュータ上に、出来る限り正確に再現するもので、その再現精度が予測精度に大きく影響します。従って、初期値の作成には、人工衛星を含む出来る限り多くの気象観測データを利用しています。

 この初期値作成に利用できる気象衛星データのうち、日本周辺の海上の水蒸気分布情報を得られる測器が「マイクロ波放射計」です。現在は、米国のDMSP(※1)衛星16号、17号、18号、及び宇宙航空研究開発機構と米国航空宇宙局の共同計画であるTRMM(※2)衛星のマイクロ波放射計データを使っています。しかしながら、その軌道の制約から、DMSP衛星が日本の上空を通過するのは朝晩6~9時の時間帯に限られています。またTRMM衛星は日々観測時刻が変わります。

 このため、午後や深夜すぎに定期的に得られるマイクロ波放射計のデータがありませんでした。大気中の水蒸気の分布は時々刻々と変化しますので、このような観測データの空白時間帯があると、その時間帯に数値予報との間の誤差が拡大することになります。このような観測データの空白時間帯を埋め、水蒸気分布の誤差の拡大を防ぐ役割を果たすのが「しずく」に搭載されたマイクロ波放射計AMSR2です。

 図1.1は、AMSR2データの利用による気象庁メソモデル(MSM)の降水予測の改善例です。日本時間2012年7月11日9時初期値のMSMによる予測では、翌日早朝の九州の大雨の降水強度予想が弱く、予測精度が不十分でした(図1.1左列)。この予測がAMSR2データを利用することにより、より強くなり、改善することが示されました(図1.1中列)。これはAMSR2データにより、九州の上流にあたる東シナ海の水蒸気量がより適切に解析され、その結果として降水予測が改善したと考えられます。

 図1.2は、気象庁で事前に実施したAMSR2利用実験(夏期及び冬季それぞれ一カ月ずつ実施)における降水強度別エクイタブルスレットスコア(※3)の統計結果です。赤線がAMSR2利用時、緑線がAMSR2未利用時のスコアですが、ほぼ全てのしきい値で赤線の値が緑線の値を上回って1に近づいており、降水予報精度が向上していることが分かります。

 以上の結果より、気象庁の数値予報システムにおける降水予測精度の向上が期待できることから、平成25年9月12日より気象庁の数値予報システムにおいてAMSR2データの利用を開始します。

※1 Defense Meteorological Satellite Program
※2 Tropical Rainfall Measuring Mission
※3 予測の的中率を示す指標で、1に近いほど成績が良い(予測精度が高い)ことを示す。
図1.1. MSMによる、日本時間2012年7月11日9時からの21時間予報における前3時間降水量予測分布、左列がAMSR2なし、中列がAMSR2あり、右列が観測値(解析雨量)。この事例では九州の降水強度の予測が、AMSR2なしでは不十分でしたが、AMSR2ありではより強い予想となり、より観測値に近い結果となりました。
図1.2. 図1.2. MSMによる2012年夏期(2012年6月22日~7月29日、左)及び2012年冬期(2012年11月24日~2013年1月1日、右)のAMSR2利用実験における降水強度別スコア(エクイタブルスレットスコア)。縦軸がスコア、横軸が降水強度別しきい値(3時間降水量)、赤線がAMSR2利用時、緑線がAMSR2未利用時の成績を示します。特に夏期において、ほぼ全てのしきい値で赤線が緑線を上回っており、降水予報が統計的に向上していることが示されました。

別紙2

気象庁海面水温解析におけるAMSR2データ利用について

 気象庁では、船舶やブイ等による現場観測データに加え、複数の人工衛星によるリモートセンシングデータを利用して、1日1回、地球全体の海面の温度(海面水温)を解析しています(図2.1)。海面水温のリモートセンシングでは、米国のNOAA衛星搭載のAVHRR(※4)などの「赤外放射計」と「しずく」搭載のAMSR2をはじめとする「マイクロ波放射計」による観測データを利用します。前者は雲に覆われた海域を観測することはできませんが、後者よりも空間的に細かい分布を把握することができます。後者は強い降水のある海域を除くと雲に覆われた海域も観測できる一方で、前者よりも空間的な解像度は低く、また、陸地の近傍は観測できないという短所もあります(図2.2)。

 気象庁では、それぞれの観測データの長所を生かしながら観測成果を解析に取り込んでいます。解析に際しては、観測データの数が多く観測データの得られる海域が広いほど品質の向上が期待されます。

※4 Advanced Very High Resolution Radiometer

 2013年4月を対象とした調査では、AMSR2による観測データを利用することで、太平洋の北海道東方からカムチャツカの南にかけてや日本海、東シナ海において、解析結果に違いが表れていることがわかります(図2.3)。AMSR2による観測データを利用することによって気象庁の海面水温解析の品質向上が期待できることから、平成25年5月27日より本システムにおいてAMSR2データの利用を開始しています。

図2.1. 海面水温の分布(2013年4月14日。単位:℃)。海氷のために海面水温のデータがない海域は薄い灰色で示しています。
図2.2. 人工衛星により観測された海面水温の分布(2013年4月14日。単位:℃)。左:「しずく」搭載のAMSR2、右:NOAA衛星19号搭載のAVHRR。薄い灰色は海面水温の観測データがない海域を示します。海氷や厚い雲に覆われている海域を除くと、AMSR2ではAVHRRに比べて広い範囲で観測データが得られていることがわかります。
図2.3. 2013年4月について海面水温解析システムにAMSR2の観測データを利用した場合としなかった場合との解析結果(海面水温)の差の2乗平均平方根(RMSD)。単位は℃。

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