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1.5μm衛星間光通信を使った超大容量ミッションデータ伝送に世界で初めて成功
~JAXAとNECによる宇宙空間での光通信の取り組み~

2025年(令和7年)1月23日

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
日本電気株式会社

 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(以下「JAXA」という)と、JAXAの光衛星間通信システム「LUCAS」※1における光通信機器のプライムメーカー日本電気株式会社(以下「NEC」という)は、先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)※2と約40,000km離れた静止軌道の光データ中継衛星との間で、「LUCAS」を利用した世界最速の光通信(通信光波長1.5μm帯、通信速度1.8Gbps)を行い、静止衛星経由で観測データを地上局へ初伝送することに成功しました。

図1:「LUCAS」によってデータ伝送した「だいち4号」の観測画像。初期校正検証運用において取得 。帯状の範囲の観測データを一度にダウンリンクし、地上局直接伝送では複数のパスに分割する必要があるような大量のデータを、即時的に取得することに成功した(北極海の海氷等、観測範囲の1部を拡大して表示。疑似カラー画像処理)。

©JAXA

図1:「LUCAS」によってデータ伝送した「だいち4号」の観測画像。初期校正検証運用において取得。帯状の範囲の観測データを一度にダウンリンクし、地上局直接伝送では複数のパスに分割する必要があるような大量のデータを、即時的に取得することに成功した(北極海の海氷等、観測範囲の1部を拡大して表示。疑似カラー画像処理)。

 2024年10月、JAXAとNECは、「LUCAS」の地球観測衛星用の光ターミナル(OLLCT)を搭載した「だいち4号」と、静止衛星用の光ターミナル(OGLCT)を搭載した「光データ中継衛星」との間で光衛星間通信を確立し※3、技術的な実証を続けてきました。その後の光通信確立状態において、「だいち4号」の観測データの伝送に成功しました。今回の「LUCAS」を利用したデータ伝送の成功により、利用可能な地上局が無い領域において、地上局との直接通信によるデータ伝送では難しかった大量の観測データの即時的なダウンリンクを行うことができるようになります。図1は「LUCAS」を経由してダウンリンクした初めての画像であり、北極からヨーロッパ、アフリカ大陸を縦断するようにして30分間に渡り「だいち4号」が観測した大容量のミッションデータを画像化したものです。地上局への直接伝送では、複数回に分けて伝送する必要があるところ、「LUCAS」を利用することによって非常に広大な領域における観測データを一度の通信で取得できました。

OLLCT:低軌道衛星用の光ターミナル
(低軌道衛星用光衛星間通信機器)

OGLCT:静止衛星用の光ターミナル
(静止衛星用光衛星間通信機器)

■写真は光ターミナルのうち、衛星外部に搭載される光学部のみを示しています。
■OLLCTはOGLCTより光学部の口径を小さくし、小型化を図ることで搭載性を向上させています。

©JAXA/NEC

図2:「LUCAS」の概要

 JAXAとNECは1990年代より宇宙空間での光通信に取り組んでおり、政府が令和5年度に策定した宇宙技術戦略でも宇宙空間での光通信は戦略的重要技術に位置づけられています。JAXAはこれからの地球観測衛星のデータ伝送の大容量化、即時性要求に対するソリューションとして光通信の研究開発を進めており、NECはLUCASのシステム設計、光ターミナルの製造、衛星システム試験支援、衛星システムの初期機能確認運用支援を担当してきました。今回の成功を機に、関係機関・協業先と連携しながら、衛星間光通信の技術開発をさらに加速し、引き続き日本の宇宙開発の発展に貢献していきます。

※1:

JAXAが開発・運用する「光衛星間通信システム」(「LUCAS」:Laser Utilizing Communication System)は、地球観測衛星(低軌道衛星)⇔光データ中継衛星(静止衛星)間のデータ中継を、波長1.5µmの目に見えないレーザ光を用いた宇宙空間での光通信により実現するシステム。
https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/project/lucas/

※2:

JAXAが開発・運用する地球観測衛星。前号機「だいち2号」の高い空間分解能を維持しつつ観測範囲を最大4倍に拡大したレーダ衛星。
https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/project/alos-4/


別紙

【LUCASについての詳細】
 光は電波と比べて桁違いに広い帯域(波長1.5μm帯で、5THz)を有するので、電波より多くの情報を送ることが出来ます。また非常に絞ったビームを使用するため、干渉や傍受の恐れがありません。将来の宇宙での高速大容量通信の実現には、光の活用が不可欠です。「LUCAS」では、この光通信を、静止衛星を用いたデータ中継システムにおける地球観測衛星と静止衛星との間に適用することで、前世代の電波を用いたデータ中継技術衛星「こだま」(DRTS)(注1)の伝送速度「240Mbps」に比べて7.5倍の「1.8Gbps」で地球観測衛星からのデータ伝送を可能としています(図3)。

図3:「LUCAS」は光通信により1.8Gbpsの速度で大容量データの伝送が可能

©JAXA

図3:「LUCAS」は光通信により1.8Gbpsの速度で大容量データの伝送が可能

 低軌道を周回する「だいち4号」と静止軌道上にある光データ中継衛星の間には、約40,000kmの距離があり、かつ高速に移動する相手衛星を捕捉し、通信を行うには、精密な光学系とその制御技術が求められます。具体的には、高度約36,000kmの静止軌道の光データ中継衛星が約3.1km/秒、低軌道周回の地球観測衛星が約7.6km/秒という高速で移動している中で、相手衛星へ向けて、約40,000km離れた位置でも500m程度にしか広がらないレーザ光を正確に照射し続けるため、レーザ光の高出力光増幅技術とレーザ光を相手衛星へ指向させる捕捉・追尾技術が必要です。

 NECは本プロジェクトにおいて「LUCAS」全体のシステム設計と、「LUCAS」の主要素である光データ中継衛星用と地球観測衛星用の双方の光通信ターミナル機器を開発しました(注2)。「LUCAS」の最大の特徴である1.5μm帯の使用は、地上や海底の光ファイバ通信システムでのNECにおける開発実績に基づくものであり、また将来的な同システムとの連携を視野に入れて先行開発されたものです。1.5μm帯は電力効率が相対的な弱点とされますが、今回の静止軌道衛星-低軌道衛星間の長距離高速伝送の成功により、宇宙光通信での利用が今後加速されるものと考えます。

【参考】
 「だいち4号」には、JAXAとNECが開発した「衛星搭載船舶自動識別システム実験3」(SPAISE3)(注3)も搭載されており、とくに船舶密集地域における船舶の動きを観測します。SPAISE3の観測データについても、光通信によるデータ伝送を利用することで多くのデータ量をリアルタイムで伝送できるようになります。このように「LUCAS」による高速データ通信は、SARデータだけではなく様々な衛星データの利活用促進(注4)に貢献し、人々の暮らしと安全を守る社会インフラの役割を果たします。

(注1):

「こだま」:2002年9月10日H-IIAロケット3号機で打ち上げ2017年8月5日 運用終了
https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/project/drts/

(注2):

NEC、JAXA光衛星間通信システム「LUCAS」向け衛星用光通信装置を開発
https://jpn.nec.com/press/202012/20201210_02.html外部リンク

(注3):

衛星搭載船舶自動識別システム実験3(SPAISE3:SPace based AIS Experiment3)。
SPAISEは、船舶自動識別装置(AIS: Automatic Identification System)を衛星に搭載した実験(衛星搭載船舶自動識別システム実験:SPace based AIS Experiment)の略。AISとは、船舶の航行安全のため、全旅客船と300トン以上の国際航行船および500トン以上の全ての船舶に搭載が義務付けられている装置。
https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/spaise/index.html

(注4):

JAXA第一宇宙技術部門サテライトナビゲーター 「衛星利用分野」
https://earth.jaxa.jp/ja/application/index.html

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