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F7-10エンジンを用いた試験により、持続可能な航空燃料(SAF)が気候に与える影響についての基盤的成果を取得

2026年(令和8年)2月13日

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構

 宇宙航空研究開発機構(以下、「JAXA」)は、2019年9月に導入した、F7-10エンジン(以下、「F7エンジン」)※1を用い、持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fuel:以下、「SAF」)の燃焼試験を株式会社IHI(以下、「IHI」)と共同で実施し、排気中に含まれるすす等の詳細な計測に成功しました。
 本研究により、飛行機雲の生成等を通じてSAFが気候に与える影響についての基盤的な実験データを取得するとともに、この分野における計測ノウハウを獲得しました。

背景と課題

 国際民間航空機関(ICAO)は、2050年に国際線の航空機が排出するCO2を実質ゼロとする目標を掲げており、SAFはCO2排出削減の有力な手段として期待されています。
 他方、航空機が気候に与える影響(以下「気候影響」)はCO2だけではありません。航空機が排出するすす等が生成に関与するとされる飛行機雲等は、地球が太陽から受け取るエネルギー量と、地球から宇宙に放出されるエネルギー量のバランス(放射収支)に影響を及ぼす可能性が指摘されています。
 これまで、SAF使用時に排出される非CO2排出特性(例:すすの粒子径分布・粒子数密度※2)に関する日本国内で得られたデータは限られており、気候影響を解明するため、基盤的な実験データの取得が課題となっていました。

実施内容及び意義

 2025年9月から10月までに、JAXAとIHIは共同で、100%SAF※3、混合SAF※4、従来ジェット燃料(JetA-1)を用いた試験※5を行い、①F7エンジンを用いて、国内において前例の少ない実機エンジンでの非CO2排出特性計測に成功しました。また、②100%SAF使用時の燃焼排気における粒子径分布や粒子数密度等についての詳細な計測と分析を行いました。

 分析結果は、先行研究※6で報告されている傾向と概ね整合し、従来ジェット燃料と比べて、SAF燃焼時のすす排出を低減させる効果を示すものでした。今回の計測及び分析の結果は、飛行機雲の生成特性やその気候影響評価に向けた基礎的な理解に寄与するとともに、より一層のSAF導入に向け社会的な意義を持つ可能性を有しています。

残る課題と今後の計画

 SAFによるすす低減効果は、燃料の化学組成やエンジンの特性に依存することが知られています。本研究成果は特定の条件下での実証結果であり、気候影響への定量的な評価や一般化については、今後のさらなるデータ蓄積と研究が必要です。
 JAXA航空技術部門では、今回得られた成果及び計測ノウハウを基に、飛行機雲を含む気候影響評価に資する研究基盤の構築を進めてまいります。
 なお、本研究成果の詳細については、JAXAとIHIによる共同研究の成果として、2026年3月に開催される日本航空宇宙学会主催「第65回航空原動機・宇宙推進講演会」にて報告予定です。

図1 試験を行ったF7エンジン
©JAXA 図1試験を行ったF7エンジン
図2 排気成分を採取したサンプリングプローブ
©JAXA 図2排気成分を採取したサンプリングプローブ
図3 使用した燃料の外観(左:従来ジェット燃料(JetA-1)、中央:混合SAF、右:100% SAF)
©JAXA 図3使用した燃料の外観(左:従来ジェット燃料(JetA-1)、中央:混合SAF、右:100% SAF)
図4 すすの粒子径分布における粒子数密度最大値の比較(エンジン低圧軸が高回転数の時)
©JAXA 図4すすの粒子径分布における粒子数密度最大値の比較(エンジン低圧軸が高回転数の時)

注釈

  1. ※1 F7エンジンの概要
    F7エンジンは防衛装備庁(旧 防衛省技術研究本部)によってP-1固定翼哨戒機用に開発され、IHIによって設計・製造されている純国産ターボファンエンジンです。哨戒機に求められる長時間飛行を実現するため、低燃費特性に優れかつ低騒音であり、民間旅客機でも広く使われる高バイパス比エンジンとして開発されました。その後、2016年12月14日に防衛装備庁とIHIとの間でJAXAへの販売を可能とする契約が締結されました。
  2. ※2 粒子径分布・粒子数密度
    粒子径分布:
    排気成分中に含まれる粒子径は単一ではなく、様々なサイズからなることが知られています。排気成分に含まれるすすの中に、どのような大きさのすす粒子がどれくらいの割合で含まれているかを表し、粒子の均一性やばらつきがわかります。
    粒子数密度:
    単位体積当たりに含まれるすす粒子の個数を表します。
  3. ※3 100%SAF(Neat SAF)
    本報での100%SAF(Neat SAF)とは、ASTM※7 D7566 のAnnex-2で定められるHEFA(Hydroprocessed Esters and Fatty Acids)と呼ばれる廃食油・獣脂・非可食植物油などの脂肪酸エステルを水素化処理することにより、製造される航空燃料を示す。三井物産エネルギー株式会社様を通じて、海外サプライヤーから購入いたしました。
  4. ※4 混合SAF
    本報での混合SAFとは、従来ジェット燃料とHEFAにより製造したNeat SAFを混合した航空燃料を示す。当該試験において、混合SAFはNeat SAFが約30%、従来ジェット燃料が約70%の混合割合で、商用として販売されている航空燃料を利用しました。伊藤忠商事株式会社様を通じて、海外サプライヤーから購入いたしました。
  5. ※5 試験における運転条件
    総運転時間:約42時間(総始動回数41回)のうち、100%SAF:約16時間(始動回数18回)、混合SAF:約15時間(始動回数11回)、従来ジェット燃料:約11時間(始動回数12回)の運転条件で、燃料種別による比較試験を実施しました。
  6. ※6 先行研究
    ECLIF3プロジェクト:A350(Rolls-Royce製Trent XWBエンジン)を用いたフライト試験
    R. Dischl et al., Measurements of particle emissions of an A350-941 burning 100 % sustainable aviation fuels in cruise, Atmos. Chem. Phys., 24, 11255-11273, 2024.
  7. ※7 ASTMインターナショナル
    世界最大規模の国際標準・規格設置機関の名称、旧称はAmerican Society for Testing and Materials(米国試験材料協会)。航空用ジェット燃料(ASTM D1655規格)をはじめ工業規格のASTM規格を発行している。SAFとして用いられる航空用代替燃料はASTM D7566にて規定されている。

参考

  1. 1) プレスリリース2020年12月24日「航空エンジン技術の実証に向けたF7-10エンジンの運用開始について
  2. 2) JAXA航空シンポジウム2021「技術実証用ターボファンエンジンの導入と技術実証試験の開始

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