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北極の冬季海氷域面積が広がりにくく、昨年に続き衛星観測史上最小を更新
-衛星搭載マイクロ波放射計による長期北極海氷モニタリング-

2026年(令和8年)4月17日

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構国立極地研究所

 2026年の北極の冬季海氷域面積※1(年間最大面積)は、衛星観測が開始された1979年以降で最も小さい値となり、2025年3月に続き最小記録を更新しました(図1)。

図1:北極海氷域面積の年間最大値の変化(1979年から2026年までの48年間)。2026年は3月13日に年間最大面積の1376万平方キロメートルを記録し、年間最大面積としては最も小さい値となった(赤丸)。海氷域面積の計算には5日平均の確定値を使用した。青色実線:長期変化傾向(約4.4万平方キロメートル/年)。
©NIPR/JAXA 図1:北極海氷域面積の年間最大値の変化(1979年から2026年までの48年間)。2026年は3月13日に年間最大面積の1376万平方キロメートルを記録し、年間最大面積としては最も小さい値となった(赤丸)。海氷域面積の計算には5日平均の確定値を使用した。青色実線:長期変化傾向(約4.4万平方キロメートル/年)。

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)と国立極地研究所(NIPR)は、北極域研究強化プロジェクト(ArCS III)※2の一環で、水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)に搭載された高性能マイクロ波放射計2(AMSR2)をはじめとしたマイクロ波放射計による観測データをもとに、40年以上にわたる長期的なデータセットを整備しています。北極・南極の海氷域面積の時間的・空間的な変化の可視化や、北極域データアーカイブシステム(ADS)※3のウェブサイトでの公開を通して、極域環境変動監視に貢献しています。

今冬の北極海氷域面積の特徴

 例年、北極の海氷域面積は10月から3月に拡大し、4月から9月に縮小する季節変動を繰り返しています。今冬(2025年11月から2026年2月)の海氷域面積は、直近の2010年代の平均と比べても小さい値で推移しました(図2橙色実線と黒色破線参照)。結果として、3月13日に記録した1376万平方キロメートルが2026年の北極の冬季海氷域面積の最小値となりました。この値は、冬季海氷域面積の最小記録であった昨年2025年よりも約3万平方キロメートル小さく、衛星観測開始以来で最も小さい値となります(図2橙色実線と青色実線参照)。

図2:【灰色実線】
1979年から2026年までの48年間の北極海氷域面積の変化(1月1日から5月31日まで)。【橙色実線】2026年(但し、3月18日まで)。【青色実線】2025年(1979年から2025年の47年間で北極海氷域面積の年間最大値が最も小さかった年)。【黒色破線】直近10年の2010年代(2010〜2019年)平均。【黒色実線】2012年(1979年から2025年の47年間で北極海氷域面積の年間最小値(9月)が最も小さかった年※)を表している。※参照:https://www.jaxa.jp/press/2012/09/20120920_arctic_sea_j.html*海氷域面積の計算には5日平均の確定値を使用した。*青色丸印と橙色丸印はそれぞれ2025年および2026年の年間最大面。
©NIPR/JAXA 図2: 【灰色実線】1979年から2026年までの48年間の北極海氷域面積の変化(1月1日から5月31日まで)。
【橙色実線】2026年(但し、3月18日まで)
【青色実線】2025年(1979年から2025年の47年間で北極海氷域面積の年間最大値が最も小さかった年)。
【黒色破線】直近10年の2010年代(2010〜2019年)平均。
【黒色実線】2012年(1979年から2025年の47年間で北極海氷域面積の年間最小値(9月)が最も小さかった年)を表している。
参照:北極海海氷の観測データ解析結果について
*海氷域面積の計算には5日平均の確定値を使用した。
*青色丸印と橙色丸印はそれぞれ2025年および2026年の年間最大面積を表す。

海氷域面積が縮小した要因とオホーツク海における顕著な変化

図3で示される2026年3月13日の海氷縁(白色と青色領域の境界)を2010年代平均(平年、橙色線)と比較すると、オホーツク海では昨年に続き海氷域が顕著に小さい状態となっていました。また、グリーンランドとカナダの間に位置するバフィン湾・ラブラドール海の南側でも海氷が小さい状態でした。

図3:2026年3月13日の北極海の海氷域分布。白と青の境界が海氷縁(海氷密接度15%に対応)にあたる。茶色実線は2010年代(2010〜2019年)平均の同月同日の海氷縁を表している。
©NIPR/JAXA 図3:2026年3月13日の北極海の海氷域分布。白と青の境界が海氷縁(海氷密接度15%に対応)にあたる。茶色実線は2010年代(2010〜2019年)平均の同月同日の海氷縁を表している。

 海氷域面積が縮小した要因を詳しく見ていくと、2026年1月から2月にかけて、オホーツク海やバフィン湾・ラブラドール海では気温が平年より高く(図4)、海氷が南側へ広がりにくい状態が続いていました※4。さらにオホーツク海では、2月中旬から3月中旬の期間も東〜南東からの風が卓越し、2025年の同時期よりも気温が高かったことが示されています(図5)。その結果、オホーツク海では2月19日を境に海氷域面積が減少に転じ、このことが北極域全体の海氷域面積が広がりにくい要因になったと考えられます。

図4:大気再解析データ(NCEP-NCAR Reanalysis 1)※5に基づいて算出した2026年1月(左)、2026年2月(右)の925hPa気圧面における気温偏差(℃)の空間分布。偏差は2010年代(2010-2019年)平均からのズレと定義している。黒色の等温線は同年同月の気温(℃)を示している。暖(寒)色系の場所は、10年平均と比べて、気温が高(低)いことを表している。
©NIPR/JAXA 図4:大気再解析データ(NCEP-NCAR Reanalysis 1)※5に基づいて算出した2026年1月(左)、2026年2月(右)の925hPa気圧面における気温偏差(℃)の空間分布。
偏差は2010年代(2010-2019年)平均からのズレと定義している。黒色の等温線は同年同月の気温(℃)を示している。暖(寒)色系の場所は、10年平均と比べて、気温が高(低)いことを表している。
図5:(左)2026年2月19日(オホーツク海の海氷域面積が今年最も広がった日)から3月13日までの期間で平均された、
925hPa面における気温(カラー、℃)、高度10mにおける風ベクトル(m/s、黒色ベクトル)、海面更正気圧(hPa、白色
等圧線)の空間分布。
(右)2025年と2026年の2月19日から3月13日までの期間で平均された925hPa面における
気温の差。暖(寒)色系の場所は、2025年と比べて気温が高(低)いことを表している。
©NIPR/JAXA 図5: (左)2026年2月19日(オホーツク海の海氷域面積が今年最も広がった日)から3月13日までの期間で平均された、925hPa面における気温(カラー、℃)、高度10mにおける風ベクトル(m/s、黒色ベクトル)、海面更正気圧(hPa、白色等圧線)の空間分布。 (右)2025年と2026年の2月19日から3月13日までの期間で平均された925hPa面における 気温の差。暖(寒)色系の場所は、2025年と比べて気温が高(低)いことを表している。

今後の北極環境の変化予測と海氷域の観測

 AMSR2は13年を超える運用を続けており、JAXAでは後継センサであるAMSR3※6の観測データの一般公開に向けて、準備を進めています。図6はAMSR3による海氷域分布を示すものですが、これまでの検証結果から、AMSR2と同等のデータ品質を有していることを確認できています。
 海氷は気候システムの重要な要素であり、その変化は極端気象や海洋環境にも影響を及ぼす可能性があります。また、北極海氷は地球温暖化の進行の中で変化に歯止めがかからなくなる可能性があり、気候システムに連鎖的な影響を及ぼすことが予測されます※7
 さらに、AMSR3はセンサの新たな特長として、海氷だけにとどまらず降雪観測も可能となり、北極をはじめとする寒冷域の環境をより多角的に分析できるようになります。今後は、AMSR3を含む衛星搭載マイクロ波放射計の観測データを活用し、気候変動に関わる継続的なモニタリングと、より精緻な分析および情報発信を進めていきます。

図6:「いぶきGW」搭載のAMSR3による2026年3月13日の北極海の海氷域分布。白い領域が海氷域、青色が海面を示している。
©NIPR/JAXA 図6: 「いぶきGW」搭載のAMSR3による2026年3月13日の北極海の海氷域分布。白い領域が海氷域、青色が海面を示している。
  1. ※1 海氷域・海氷域面積
    海氷域は、海氷密接度(ピクセル内に含まれる海氷の割合)が15%以上の領域と定義している。海氷域面積は、通常の北極・南極海氷域面積の計算では、データ欠損による算出エラーを防止するため、複数日データの平均から算出している。本記事では、5日平均の確定値を使用した。2日平均の速報値は、ADSを参照外部リンクのこと。また、「北極の海氷域面積」とは、オホーツク海、ベーリング海、バフィン湾、ハドソン湾、ラブラドール海など、北極海の周辺海域を含む海氷域面積を指す。
  2. ※2 北極域研究強化プロジェクト(ArCS III: Arctic Challenge for Sustainability III)外部リンク
    2025年4月に始まった、国の北極域研究プロジェクト(代表機関:国立極地研究所、副代表機関:海洋研究開発機構・北海道大学)。内閣府総合海洋政策本部が推進する北極政策の一つでもある。このプロジェクトでは「北極域の環境と社会の変化に起因する社会的課題の解決に向けた総合知の創出」をプロジェクトゴールとして掲げている。ここでいう「総合知」とは、自然科学と人文・社会科学など異なる分野の知見を組み合わせ、複雑な課題に多面的にアプローチする知の在り方を意味している。単なる分野横断にとどまらず、研究者間や地域社会との連携を通じて、実社会の課題解決につながる知を創出することを目指している。実施期間は2030年3月までの5年間。
  3. ※3 北極域データアーカイブシステム(ADS)外部リンク
    GRENE北極気候変動研究事業(2011年~2016年)、北極域研究推進プロジェクト(ArCS、2015年~2020年)、北極域研究加速プロジェクト(ArCS II、2020年~2025年)およびArCS IIIにおいて、北極・南極で取得された観測データやモデルシミュレーション等のプロダクトを保全・管理するためのデータアーカイブシステム。
  4. ※4 北極・南極の2026年2月の海氷情報外部リンク
  5. ※5 NCEP-NCAR Reanalysis 1(Kalnay et al.(1996))外部リンク
    米国環境予測センター(NCEP)と米国国立大気研究センター(NCAR)で開発・提供されている大気再解析データ。
  6. ※6 高性能マイクロ波放射計3 (AMSR3)
    現在校正検証中の温室効果ガス・水循環観測技術衛星「いぶきGW」(GOSAT-GW)に搭載。2025年10月に定常運用を開始している。
  7. ※7 出典:IPCC, 2021: Climate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [Masson-Delmotte, V., P. Zhai, A. Pirani, S.L. Connors, C. Péan, S. Berger, N. Caud, Y. Chen, L. Goldfarb, M.I. Gomis, M. Huang, K. Leitzell, E. Lonnoy, J.B.R. Matthews, T.K. Maycock, T. Waterfield, O. Yelekçi, R. Yu, and B. Zhou (eds.)]. Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom and New York, NY, USA, 2391 pp. doi:10.1017/9781009157896.

参考文献:
Kalnay et al., The NCEP/NCAR 40-year reanalysis project, Bull. Amer. Meteor. Soc., 77, 437-470, 1996

以上

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