EarthCARE衛星(はくりゅう)データ、世界最高水準の気象予報精度を誇る欧州中期予報センターが利用を開始
2026年(令和8年)6月25日
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
宇宙航空研究開発機構(JAXA)と欧州宇宙機関(ESA)が共同開発したEarthCARE衛星(はくりゅう)※1に搭載された雲プロファイリングレーダ(CPR:Cloud Profiling Radar)※2の観測データについて、欧州中期予報センター(ECMWF:European Centre for Medium-Range Weather Forecasts)の気象予報における利用が開始されました。CPRによって得られる雲の高さ方向の情報の利用は、ECMWFの全球予報の精度向上を実現しただけでなく、同センターのデータを活用する世界各国の気象機関の予報精度も向上させることが期待されます。
欧州中期予報センター(ECMWF)について
ECMWFは、全球モデルの予測※4の分野で世界最高水準の精度を誇る機関として認識されています※5。そのデータは欧州23の加盟国および12の協力国※6で、公式な気象予報の基盤として利用されるだけではなく、国連の世界気象機関(WMO:World Meteorological Organization)などで活用されています。さらに、その高精度の気象予報を通じて気候監視や防災、水資源管理、航空機運航など幅広い分野で利用されています。
CPRデータが実装された理由
CPRは、JAXAが国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)と共同で開発した世界初の衛星搭載雲ドップラーレーダです。今回、CPRのデータが実装されたECMWFの統合予報システム(IFS:Integrated Forecasting System)は、ECMWFの気象予報の中核となるシステムです。IFSは、最新の観測データから現在の地球の状態を正確に推定し(データ同化※7)、大気・海洋・陸面を一体的に計算する「数値予報モデル」によって、将来の気象を高精度に予報します。
ECMWFはIFSにCPRデータを実装した理由について、雲が気象予報における不確実性の主要因である点を挙げています。さらに、世界で初めて雲の鉛直(高さ方向)運動を観測した雲観測用ドップラーレーダであるCPRのデータにより、雲の鉛直構造と運動に関する情報がIFSに提供され、予報精度の向上に貢献したと説明しています※8。
ECMWF事務局長のフロリアン・パッペンベルガー氏はこの実装が世界初のものであることにも言及し、「これは気象予報センターによる、世界初の運用レベルでの雲レーダ観測データの実装です。CPRからの新しいデータは、雲が気象に与える影響に関する不確実性を低減する上で極めて重要な一歩となります。」と述べています。
実装の経緯と精度向上がもたらす社会の利益
実装が打上げから2年で達成された背景には、ECMWFとESA、JAXAの継続的な研究開発があります。ECMWFは衛星搭載雲レーダ観測を予報に取り込むための準備を長期間にわたって進め、「はくりゅう」打上げ後、CPRの観測データをスーパーコンピュータによるシミュレーションと突き合わせることで予報精度を高める実験を開始しました。
2024年12月からの約5か月間のデータを用いて行われた同実験の結果、CPRデータを加えることが気象予報の精度を向上させることを確認し、CPRデータのIFSシステムへの実装完了を経て、2026年6月10日から現業システムでの利用(定常運用)が開始されました。
日本においては、気象庁が国内外の数値予報モデルの結果も台風進路予報などに活用しており、ECMWFの予測データもその参考情報の一つとして利用されています※9。民間気象会社においても気象庁のモデルだけでなく、同モデルを参照して独自の予報を行っています※10。
こうした精度向上の取り組みは、台風や豪雨といった極端気象の予報精度を高め、洪水や土砂災害の早期警戒の強化につながります。これにより防災・減災に直接的に寄与するだけでなく、航空運航の安全確保、農業の効率化、水資源管理など気象予測が不可欠な幅広い分野にも恩恵をもたらし、我が国の安全・安心な社会の実現に貢献することが期待されます。
JAXAは、今後も「はくりゅう」の観測データを用いた研究開発に取り組み、日本と世界の気象予報および気候予測の精度向上への貢献を目指します。
- ※1
EarthCARE(Earth Cloud Aerosol and Radiation Explorer)衛星(和名:はくりゅう)
欧州宇宙機関(ESA)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同で開発した、雲・エアロゾル・放射の相互作用を解明するための地球観測衛星。 - ※2
CPRの詳細については同資料を参照:EarthCARE/CPR 概要説明書
- ※3
データ実装
検証されたプログラムを日々の予報業務で使えるシステムに組み込むことを指す。 - ※4
全球モデルの予測
地球全体を格子状に分割し、大気や海洋の物理法則に基づく方程式をスーパーコンピュータで計算して未来の気象や気候を予測するシミュレーションを指す。
天気予報、台風の進路予報などに活用されている。
(参照:気象庁 令和7年度数値予報解説資料集
)
- ※5
資料(ページ内「Download」押下で表示)の図12は世界各国の気象機関による全球モデルの予報誤差を示したグラフで、赤線で示されたECMWFは他と比べて小さな誤差であり、世界最高水準であることを示している。
Evaluation of ECMWF forecasts (ECMWF)外部リンク - ※6
23の加盟国および12の協力国(出典:ECMWF WEBページ)
Member States (ECMWF)外部リンク - ※7
データ同化
実際の観測データと数値シミュレーションの予測結果を融合させ、現在の最も正確な大気状態を計算する手法のこと。 - ※8
ECMWFのプレスリリースの参照:
https://www.ecmwf.int/en/about/media-centre/news/2026/earthcare-cloud-radar-data-world-first外部リンク
CPR以外でもJAXAの地球観測衛星(GCOM-W、GOSAT、GOSAT-2)のデータは統合予報システムIFSで利用されている。 - ※9
Annual Report on the Activities of the RSMC Tokyo - Typhoon Center 2024 P6-7
- ※10 ウェザーニュース WEBページ参照: 気象のプロも使う「数値予報モデル・天気図」を追加! (ウェザーニュース)外部リンク