2020年10月、JAXAは、2021年秋頃を目途に宇宙飛行士候補者を募集すると発表しました。前回から実に13年ぶりの募集です。
メディアでも取り上げていただき、SNS上の反響からも関心をお寄せいただいていることを実感しています。
2021年2月に開催したオンラインセミナーや、2021年3月に締め切ったパブリックコメント・RFI(情報提供依頼)の状況を中心に宇宙飛行士候補者募集準備の取りまとめ役を担っている、有人宇宙技術部門きぼう利用センターの本原 守利(もとはら もりとし)と、有人宇宙技術部門宇宙飛行士運用技術ユニット宇宙飛行士運用グループの西川 岳克(にしかわ たかよし)に話を聞きました(2021年5月)。
左:本原 守利(もとはら もりとし)、右:西川 岳克(にしかわ たかよし)
「宇宙飛行士」が子どもたちの"なりたい職業"になる日
宇宙飛行士候補者募集準備チームはどのようなチーム構成なのでしょうか?
本原:宇宙飛行士候補者の募集・選抜、基礎訓練に向けた準備を行うために、組織横断的なメンバー12名で構成されています。応募条件や選抜の方法などを中心に、それぞれの得意分野の視点を取り入れて新しい枠組みとするために検討を続けています。
2月のライブ配信イベントはニュースでも取り上げられましたが、その時の反響はいかがでしたか?
本原:特に印象的だったのは、応募条件について"自然科学系以外の方々にも門戸を広げるのか"という部分で大きな反響をいただいたことです。パブリックコメントでも、多くの方々から賛成・反対両方の意見をいただきました。その一方で、こちらの意図が正しく伝えきれていなかった部分があります。今回、自然科学系に限っていた応募条件を緩和するのか否かのご意見を伺ったのは、応募という入口の段階で、自然科学系の学歴や職歴を持たない方を対象外としてよいのかを問うためです。入口の段階で、というのがポイントで、学歴や職歴は自然科学系ではなくても、その素養を持っている方がいらっしゃるかもしれない、そのような方を学歴や職歴という履歴書上の視点から対象外としてよいのか、ということです。一方で、宇宙飛行士には、ミッションなどにおいて自然科学系の素養や考え方は必要になってきます。応募条件についてはまだ検討中ですが、仮に自然科学系を応募の条件としなかったとしても、選抜では自然科学系の素養等を見極めることになるのではないかと思います。
西川:13年ぶりに宇宙飛行士候補者が募集され、そして今後5年に1回程度の頻度で宇宙飛行士候補者の募集を行うことが発表された点です。今回応募する可能性のある方だけでなく、その次の応募者となる若い世代にも注目して頂けたのではないかと思います。
2月のオンラインセミナー後のパブリックコメントとRFI(情報提供依頼)はどのくらいの数が集まったのでしょうか?
本原:パブリックコメントとRFIの募集は宇宙飛行士募集では初めて実施しました。パブリックコメントは211件、RFIは20社からご意見をいただきました。また、RFIと並行して民間企業等と意見交換を行っていますが、今後募集や選抜をしていくにあたって更なる協力が必要だと思っています。
今回、そして今後5年ごとに行う宇宙飛行士の募集をきっかけに、これまでJAXAとは直接関係してこなかった企業も含めて、新しいビジネスが生まれていってほしいと思っています。いただいたパブリックコメントの中に『なるほど!』と感じた意見や、想像もしていなかったような意見などはありましたでしょうか?
本原:はい、ありました。例えば、先ほどの話にも出た、応募条件の自然科学系の専門性について、「多様性が求められる時代の流れに沿って、自然科学系以外の出身者にも門戸を広げるべきだ」というご意見も頂きました。一方で、「NASAやESA(欧州宇宙機関)が、STEM分野の修士以上に絞っていることから、国際チームの中で一緒にやっていくメンバーを選ぶとしたらやはり理系出身者を求めるべきだ」というようなご意見も複数頂いています。どちらの視点の意見もなるほどと思えるものがいくつもありました。
西川:宇宙飛行士選抜から落選した方に、落選した理由のフィードバックが欲しいという意見がありました。
今回の選抜の中でどの段階からフィードバックするかまだ決まってはいませんが、選抜を受けていただいた方々が、次のステップへ進む糧となり、応募したことへの納得感という部分を考えると、フィードバックは重要になると思います。
宇宙飛行士に求められる力とは?
宇宙飛行士候補者に必要な求められるものは何だと考えますか?
西川:まず今回の募集と13年前の募集で違っていることとして、13年前は国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」の組み立てが開始したばかりでした(※「きぼう」は2009年7月完成)。
今では、日本人宇宙飛行士がISSに長期滞在し、日本実験棟「きぼう」では数多くの実験を10年以上も継続して行ってきたという大きな実績があります。13年前に「きぼう」の組み立てを行った星出宇宙飛行士が、若田宇宙飛行士に続き、日本人で2人目となるISS船長として活躍し、国際パートナーからも厚い信頼を得ている状況です。
今回は、月周回有人拠点(Gateway)や、月面での活動を期待される人材を選ぼうとしていますので、今までの宇宙飛行士像に加えて、更に次のステージで活躍が期待できる人材が求められていると思います。国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」©JAXA/NASA
国際宇宙探査 月面基地のイメージ図 ©JAXA
本原:宇宙飛行士に求める素養の根本的な部分は、13年前と比較しても変わっていないと考えています。
協調性やリーダシップ、的確な判断など、言葉でいうと平たい印象になりますが、「この人凄いな」といった人間力が求められるのは今までも、これからも変わらないのではないでしょうか。
「次に進む力」をつけて前へ!
先ほど、これから5年単位で宇宙飛行士の募集を計画しているということで、応募を考えている若い世代もたくさんいると思います。そういった若い世代に対して、メッセージをお願いします。
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西川:「なぜ宇宙飛行士になりたいのか、どうして宇宙へ行きたいのか」、これらを自分の中ではっきりさせて欲しいと思っています。
「宇宙で何がしたいのか?」「宇宙で行った(おこなった)ことを地球にどう還元するのか?」ということを考えてほしいと思います。また、自分が好きなことをこれからも頑張って欲しい。それが宇宙に行くことにつながっていくことでしょう。
ISSのように地球低軌道での活動は、これからは宇宙飛行士ではない人も宇宙へ行きやすくなる時代が来ると思います。ですので、未来の宇宙飛行士を目指す方には、これまで経験したことがないことや、これまでの経験や実績を超えることにも仲間と協力して新しい道を切り拓いていく、そんな気概を持って色々なことを楽しみながらチャレンジしてほしいです。 -
本原:宇宙飛行士に求められる資質は、人間力・バランス力・総合力のように、特別なものではなく、実は普段の生活の中でも求められるものです。例えば、掲げた目標に前向きに取り組む、チームワークで頑張るなど。これは普段の学校生活・学生生活の中でも求められることだと思います。『いま自分がいるところに甘んじることなく次に進む力が重要だ』と2月のイベントの時に若田宇宙飛行士が言っていました。私もまさにその通りだと思います。「自分はここまでだ」と思うのではなく、殻を破って一歩前に踏み出す、そのような学生生活を送って欲しいですね。もしも将来、宇宙飛行士ではなく、他の職業に就きたいと思ったとしても、まさにその力が発揮できると思います。常に自分を磨いていくことを実践していただきたいと思います。
本原 守利(もとはら もりとし)
西川 岳克(にしかわ たかよし)