担当者に聞くプロジェクトのバックステージ ~革新的衛星技術実証プログラム「もっと多くの企業や研究者に、宇宙ビジネスのチャンスを」~

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革新的衛星技術実証プログラム(以下本文中は革新プログラムに省略)とは、宇宙基本計画上の「産業・科学技術基盤を始めとする宇宙活動を支える総合的な基盤の強化」の一環として、大学や研究機関、民間企業等が開発した部品や機器、超小型衛星、キューブサットに宇宙実証の機会を提供するプログラムで、部品単位で軌道上実証できる機会としては唯一のものとなっています。
※革新プログラムについて詳しくはこちら

革新的衛星技術実証2号機は、革新プログラムの2回目の実証機会であり、「小型実証衛星2号機(RAISE-2)」(6つの実証テーマを搭載)と8機の超小型衛星・キューブサットの計9機の衛星で構成されています。
※革新的衛星技術実証2号機について詳しくはこちら

今回は、公募により選定された6つの部品・機器の実証テーマを軌道上で実証する「小型実証衛星2号機(RAISE-2)」の開発、運用を取りまとめている研究開発部門革新的衛星技術実証グループ鳥海強に本プロジェクトの内容や今後について話を聞きました。(2022年2月)

革新的衛星技術実証プログラムの参加者とJAXAのサポート

これまで革新的衛星技術実証プログラムには、どのくらいの大学・高専、研究機関、民間企業が参加したのでしょうか。

鳥海:
これまでにご応募頂いた実証テーマは、次に打上げを予定している3号機のものを含めると89件ありました。
その中から選定された27の実証テーマが、すでに1号機・2号機で宇宙に飛び立っています。約半分が大学または高専からの実証テーマで、残りの約3割が研究機関から、約7割が民間企業からのものでした。
次に打上げ予定の3号機では15の実証テーマが選定されていますが、こちらも約半分が大学または高専からのもので、残りは民間企業からのものです。
一口に民間企業と言っても、大企業もあればとても小さなスタートアップ企業もあります。また宇宙分野での経験が豊富な企業もあれば、まったく経験が無い企業もあります。この革新プログラムは、とても多彩な組織から数多くの方々にご参加いただいているのが大きな特徴です。そこでJAXAでは参加者に合わせた多様な対応を行い、実証テーマの成功に向けて参加者を全面的に支援しています。
また革新プログラムへの参加者が増えることで、参加者同士の横のつながりもでき始めています。先日2日間にわたって、いままでの成果や現状を報告していただく「革新的衛星技術実証ワークショップ2022」をオンラインで開催しました(2022年2月17日(土)・18日(日))。軌道上実証が始まったばかりの2号機実証テーマの最新状況について、喜びと興奮を織り交ぜた報告をしていただいたり、3号機の実証テーマ提案者がその意気込みを伝えていただいたり、活気のある充実したワークショップとなりました。参加者同士での情報交換をはじめ、技術的な課題を相談したり、実証された機器を使ってみたいという申し出があったりと、有益でにぎやかなコミュニティの輪が広がっています。
※2022年2月17日のワークショップの様子はこちらから
※2022年2月18日のワークショップの様子はこちらから

鳥海氏と革新的衛星技術実証2号機の模型

鳥海氏と革新的衛星技術実証2号機の模型

JAXAでは参加者や実証テーマに合わせて、どのような支援を行っていますか。

実証テーマは大きく2つに分けられています。
ひとつは、単体では宇宙に飛ばすことができない部品や機器によるもの。もうひとつは、単体で宇宙空間を飛翔できる超小型衛星やキューブサットによるものです。JAXAでは、それぞれの実証テーマに合わせて、様々な技術的支援を行っています。
部品・機器の実証テーマに対しては、JAXAがそれらを搭載するための衛星を開発し、軌道上での実証環境を提供しています。この衛星は「実証テーマを実証するための小型衛星」という意味で小型実証衛星と呼ばれ、1号機ではRAPIS-1、2号機ではRAISE-2という名前が付けられました。部品・機器では民生技術を活用したものが多くありますが、そういった実証テーマを提案される参加者の中には初めて宇宙事業に関わる方もいらっしゃいます。そういった方にはご要望に合わせて宇宙に関する知識や技術をレクチャーさせていただきます。例えば、軌道上の放射線が電子部品に及ぼす影響や宇宙環境を模擬した試験の方法など、一般の方には馴染みのない技術や知識を解説するといった感じです。
超小型衛星・キューブサットでの参加者には、ロケットとのインタフェース調整、ロケット搭載に必要となる安全審査の資料作りや、宇宙活動法や無線免許申請の支援など、開発経験が少ない参加者にとっては容易でない作業を支援させていただきます。ご要望に応じて設計や試験のアドバイスをすることもありますね。
より多くの方々が宇宙分野で活動できるようにする支援は、JAXAの重要な役割と考えています。参加者が開発に戸惑うことがないように、JAXA研究開発部門にいる各分野のスペシャリストが、必要に応じて専門的なアドバイスを行える体制を整えています。

広がる宇宙ビジネスへの挑戦

今回の2号機打上げでは、1号機打ち上げ時と比較して、宇宙ビジネスの進展や実証テーマ、参加者の構成に大きな変化はありましたか。

鳥海:
革新プログラムがターゲットにしている小型衛星ビジネスの世界は、年々すごい勢いで拡大しています。すでに米国では多数の小型衛星を飛ばして通信ネットワークを構築する事業も始まっています。また日本でもベンチャー企業が複数の小型衛星を軌道上に乗せており、宇宙を専門としない企業でも小型衛星事業をビジネスチャンスとして捉えるところが増えてきました。革新プログラムの参加者もこの大きな流れに乗り遅れないよう、実証テーマの開発を必死に進めています。
小型衛星ビジネスで重要なのはスピードとコストです。そのためには民生技術とデジタル技術の活用が鍵となります。1号機では従来の宇宙用機器を発展させた実証テーマが多くありましたが、2号機では民生技術やデジタル技術をそのまま活用したものが多くなりました。具体的には、既に市販されているマイコンボードやMEMSあるいは3Dプリンタ技術などを活用した実証テーマです。
参加者の構成も、1号機の部品・機器では民間企業は1社だけでしたが、2号機では4社に増えて、3号機では7社にまで増えています。小型衛星ビジネスに立ち向かっていく民間企業の意気込みが感じられます。

1号機で得られた経験や結果を元に、2号機で取り組んだことはありますか?

鳥海:
まず2号機で取り組んだことは、応募時の対応です。
実証テーマを提案される方が、革新プログラムの内容や制約を良く理解されないまま応募されると、実証テーマが決定された後に長時間の調整が必要になったり、提案内容を修正せざるを得なくなったりする可能性が高まります。また応募者が革新プログラムのことをよく理解できれば、応募前に自らの組織に向けて革新プログラムに挑戦する意義や事業への貢献について自信を持って説明でき、必要な予算や支援を確認・検討した上でご応募いただけます。
そこで、標準的な実証テーマと衛星のインタフェース仕様を提示し、わかりやすく、しっかりとした応募要綱をご用意しました。具体的には、実証テーマが部品・機器の場合には、衛星のインタフェース仕様や大きさなどの制約を詳しく明示したりしています。

次に取り組んだことは、参加者とのコミュニケーションです。
実証テーマの決定後、実際に開発が始まるといろいろな問題が発生します。例えば、我々JAXAが思っている常識は宇宙業界だけの常識だったりすることもあり、宇宙との関わりがなかった参加者と話したときに思い描くものが異なったりすることがあります。
そこで参加者と話す際は出来るだけ具体的に話をするようにし、曖昧なまま納得することを避けるように努めました。また、宇宙開発に不慣れな参加者には開発で起きやすいトラブルや対策など、JAXAの持つ知識やノウハウを可能な限り細かく丁寧にお話させていただきました。

さらに搭載までのテストや安全審査のレクチャーにも力を入れました。
2号機では参加者の機器が接続される衛星を模擬したシミュレータを部品・機器の実証テーマ提案者に事前に配布し、参加者には機器を衛星側に引き渡す前にシミュレータに接続して試験していただくことをお願いしていたため、実際の衛星との接続試験をスムーズに行うことができました。
実証テーマが超小型衛星やキューブサットの場合はロケットに搭載するための安全審査を受けていただく必要があるのですが、資料作りは初めての参加者には結構大変で、戸惑われることもあります。そこで半日のレクチャーを実施し資料作りを支援しました。加えて3号機では無線免許申請に関するレクチャーや内之浦射場の調査も実施しています。

昨年2021年11月に打ち上げられ運用フェーズに入った小型実証衛星2号機(RAISE-2)ですが現在の運用状況はいかがでしょうか。

鳥海:
現在RAISE-2は元気に軌道上を飛翔しています。実証テーマ機器も立ち上げられ、機器が正常であることを確認する初期チェックアウトも完了し、実証テーマの本格的な実証も開始されています。宇宙機器は、激しいロケットの振動に耐え、過酷な宇宙環境にも耐え続けなければなりません。このテストを地上で完全に行うことは出来ないため、軌道上実証が必要となっていて、参加者はまさにその実績を獲得しつつあるところです。既に外部への公表を始めている参加者もおり、ビジネスに向けた準備にも弾みがつくことを期待しています。

小型実証衛星2号機(RAISE-2)軌道上イメージCG

小型実証衛星2号機(RAISE-2)軌道上イメージCG

コロナ禍という困難な時期に、多くの組織をまとめ、開発の歩みを揃えていくために取り組んだことはありますか。

鳥海:
実証テーマ機器の開発が遅れればそれを搭載する衛星の完成も遅れ、打上げに影響します。超小型衛星やキューブサットも1機でも完成が遅れれば打上げに影響を与えます。
しかし開発中にはいろいろな困難に直面します。例えば、参加者の組織の事業計画が変更されることもありますし、想定していなかった技術的な難題に見舞われることもあります。
そんな状況を解決し、衛星としての高い品質を確保しつつスケジュールの遅延を発生させないことも、我々の大切な役目だと考えています
そこで革新プログラムでは、実証テーマごとにJAXAの担当者を配置しています。その担当者は実証テーマを自分自身のテーマと考え、参加者とともに悩み・考え、状況の改善に努めています。必要があれば、マン・ツー・マンの個別授業も行っています。この担当者の働きが革新プログラムの自慢のひとつですね。
それでもコロナ禍は厳しい状況となり、どの参加者も通常の業務を続けることができなくなりました。工場の稼働も難しくなったり、設計者が出勤できなくなったり、大学が閉鎖され学生が作業を続けられなくなったり…。部品や機材の入荷も遅れ、そもそも厳しいスケジュールが更に厳しくなってしまいました。実証テーマ機器と衛星本体との嚙み合わせ試験には多少時間の余裕を確保していたのですが、ほとんどピンポイントのタイミングで試験しなければなりませんでした。ここで頑張ってくれたのも各実証テーマのJAXA担当者たちです。コロナ禍の限られたコミュニケーション手段を屈指し、関係者との調整を繰り返して、できる限り準備をして実証テーマ機器と衛星との嚙み合わせ試験で問題が起きないよう努力してくれました。

小型実証衛星開発をリードする鳥海氏

小型実証衛星開発をリードする鳥海氏

3号機と宇宙ビジネスの未来

元々、鳥海さんはイプシロン初号機で打ち上げられた「SPRINT-A(ひさき)」開発のチーフエンジニア(*)をされており、そこで"新しい衛星の作り方"の話をされています。この時の考え方がこの革新的衛星技術実証プログラムへと繋がっているように思うのですがいかがでしょうか?

(*)当時、日本電気株式会社宇宙システム事業部チーフエンジニア

鳥海:
当時はメーカーの技術者として小型衛星を開発していました。毎回ミッションが異なる小型衛星を短期開発するための方法として、ミッションインタフェースの標準化やミッションによらない部分の共通化なども行いました。革新プログラムの衛星も基本的には同様です。ただ搭載される実証テーマは数も多く多彩になっていますし、与えられる開発期間もずっと短くなっています。
開発期間は、単に短くするだけでは実証テーマの参加者にとって必ずしも有益にはなりません。衛星は搭載する全機器を組み込んでから総合的な試験について時間をかけて行いますので、組み立て完成から打上げまでの期間が長くなる特徴があります。実証テーマ機器も打上げのかなり前に衛星側に引き渡されることになる。例え衛星の設計から組み立て完成までの期間が短縮されても、その後の試験期間が長くなると、参加者にとってあまり嬉しい状況ではありません。開発全体を適切に短縮することが必要ですが、なかなか難しい問題です。
また、打ち上がった後も、実証テーマのデータが少しでも早く参加者に渡され、次の実験計画に素早く反映できることも望まれます。理想は参加者が直接自分の機器にアクセスしてデータを受け取れるよう、衛星や地上局がクラウド的な存在になることだと考えています。
開発上の課題を解決していくために3号機ではデジタル開発も取り入れています。今後も新しい手法を積極的に取り入れ実証テーマ決定から軌道上実証までの期間を一日でも短縮し、ビジネス機会の創出に貢献したいと考えています。

これから宇宙ビジネスに挑戦しようと考えているスタートアップ企業や若い学生たちに、伝えたいことはありますか。

鳥海:
2号機では高知高専をはじめとした10高専による高専初のキューブサットKOSEN-1が既に軌道上実証に成功しています。その開発成果が評価され「みんなのラズパイコンテスト2021(ラズパイマガジン、日経Linux、日経ソフトウエア主催)」の特別賞も受賞されました。多くの⾼専⽣が開発に取り組み、貴重な経験と知識を獲得されたと聞いています。そして3号機では米子高専をはじめとした6高専によるKOSEN-2が打ち上げられます。2号機に続く3号機の成功を期待しています。
革新的衛星技術実証グループ長の金子は革新プログラムを「しきいを下げる」と表現しています。宇宙は夜空を見上げれば見ることが出来ますが、そこに自分の機器を飛ばす機会は限られています。革新プログラムはそのしきいを下げるものです。小型衛星を中心とした宇宙ビジネスはこれからもますます大きくなっていくことが予想され、若い方が思いっきり飛び込んでいける世界が広がっています。JAXAも成功に向けて一生懸命支援させていただきますので、多くの方々の参加をお待ちしております。

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