2019年(令和元年)7月理事長定例記者会見

理事長定例記者会見

山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします

日時:2019年(令和元年)7月12日(金) 13:30-14:30

場所:JAXA東京事務所 B1F プレゼンテーションルーム

司会:広報部長 鈴木 明子

欧州との協力進展について

 先月6月13日から18日にかけて欧州に出張してまいりました。
 まず、欧州宇宙機関(ESA)のヴァーナー長官からのご招待を受け、6月14日に、ESAに加盟しております22か国の代表に向けましてJAXAとESAの宇宙協力に関して講演を行いました。ESAは本年11月に今後数年間の宇宙プログラムを決定するESAの閣僚級会合を予定していると聞いておりますが、今後の日欧協力案件への支持を確実なものとしていくためにも、日本と欧州の強固な協力関係をESA加盟各国にアピールできたのではないかと思っております。また、この場で、2021年度の打上げを目指して開発中のX線天文学に貢献しますX線分光撮像衛星(XRISM)に関するESAとの協力協定の署名を行いました。
 続く6月17日と18日には、パリエアショーに参加いたしました。フランス国立宇宙研究センター(CNES)主催の宇宙探査ラウンドテーブルや、アポロ月面着陸50周年を記念する米国主催の宇宙機関セッションに登壇し、各国と協力して宇宙開発を進めていく意向をそれぞれの宇宙機関とともに共有いたしました。このパリエアショーのタイミングにおきまして、ドイツ航空宇宙センター(DLR)と、現在JAXAで検討中の火星衛星探査計画(MMX)に関する協力の実施取り決めの署名を行いました。
 また帰国の後になりますが、6月26日には、柴山昌彦文部科学大臣およびフレデリック・ヴィダル フランス高等教育・研究・イノベーション大臣の御臨席のもと、CNESとMMXにおける協力、および小惑星探査機「はやぶさ2」が回収する試料の分析の協力に関する実施取り決めの署名を行いました。
 このDLR、CNESとの両実施取り決めにつきましては、その後、エマニュエル・マクロン(Mr. Emmanuel Macron)フランス共和国大統領が来日されたタイミングで、安倍首相及びマクロン大統領の御臨席のもと、首相官邸にて文書の交換を行いました。
 欧州との協力関係は、ESAの前身の機関と締結した交換公文に基づく情報交換によって始まっております。これまで40年以上にわたって積み重ねてまいりました連携協力の歴史の重みを深く実感するとともに、日本と欧州の関係をさらに深めていくべきとの思いを新たにいたしました。

高精度ガス計測センサ(Twin-QCMセンサ)の海外展開について

 先ほどプレスリリースをさせていただきましたが、JAXAが日本電波工業株式会社殿と共同で開発を進めてまいりました高精度ガス計測センサ(Twin-QCMセンサ)についてご報告をいたします。
 衛星やロケットなどの宇宙機は、宇宙空間で飛んでいる間に自らの機体に使われておりますプラスチックや接着剤等の材料からガスを放出いたします。これをアウトガスと呼んでおりますが、このガスが、宇宙機に搭載しているセンサや望遠鏡の表面に付着し、コンタミネーション(汚染)が生じると、光学性能や画質を低下させる原因となります。このコンタミネーションを防止するため、出来るだけガスを出さない材料を選定したり、あるいは打ち上げる前に真空中で高温にしたうえで、ガスを積極的に放出(ベーキング)させたりする対策をとっていますが、その際に、材料がどれだけガスを放出しているかを正確に計測する必要があります。
 本QCMセンサは、海外の従来品に比べまして、安定した温度補償機能により優れた計測精度を実現することができます。また、冷却水とペルチェ素子を使って温度の制御を行っているため、-80℃から+125℃までの範囲で温度をコントロールすることができ、更に、装置の簡素化が可能となるため、汎用的な活用が期待できるところです。
 現在、JAXAでは、銀河団やブラックホールの成り立ちの解明を目指してNASAと共同で開発中の、X線分光撮像衛星(XRISM)などで使用されます材料のアウトガス測定に使用しております。宇宙機関ではJAXAの他、フランス国立宇宙研究センター(CNES)も本センサの採用を決定したと聞いております。また、共同開発相手方であります日本電波工業株式会社殿は、国内外に向けて販売を行っており、宇宙産業のみならず、接着剤業界においても広く市場の形成を目指していると伺っているところです。
 今後、JAXAは、測定技術の高度化に取り組むとともに、材料だけではなく、衛星規模の実機スケールでのアウトガス測定にも本センサを活用し、人工衛星のコンタミネーション対策を最適化するために活用してまいります。

研究成果の社会実装について

 JAXAでは、企業との連携を通じて技術の出口を念頭に置いた研究開発を進めているところですが、その成果を社会インフラの中に実装することを目指しております。その例を2つご紹介します。
 はじめに、安全・安心な社会の実現を目指して取り組んでおります航空安全技術の研究開発プログラム(STAR)おける研究成果が1つの形となりましたのでご紹介いたします。
 JAXAでは、「低層風情報提供システムSOLWIN」を、株式会社ソニックと共同で開発し、検証を進めてまいりました。SOLWINは、離着陸直前の滑走路上空の風向・風速に関する情報をパイロットや運航関係者に提供するシステムです。従来から類似のシステムはございましたが、SOLWINは離着陸時に航空機が大きく影響を受けます上下方向の風の情報も提供できる世界初のシステムとなります。
 このSOLWINの有用性を評価するために、昨年8月から鳥取空港で実証試験を続けてまいりました。その結果、9割以上のパイロットからSOLWINの利用を継続したいという高い評価を頂いたことから、来月8月1日より、鳥取県が鳥取空港でSOLWINを運用することを決定されました。SOLWINの運用により、鳥取空港におけるより安全・安心な航空機の運航が実現すると期待しております。
 もう1つの事例は、こちらも先ほどプレスリリースをさせていただきましたが、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)事業の下で開発した「衛星SAR(合成開口レーダ)データによるインフラ変位監視ツールANATIS」です。ANATISは、「だいち2号(ALOS-2)」による衛星データを利用して、特に長大な河川堤防、そして広大な港湾、空港などの広域を面的に監視することができるだけでなく定期的にミリメーターレベルで監視ができるインフラ変位監視ツールです。
 このANATISの有用性は、例えば、円山川(兵庫県)、小名浜港(福島県)や関西国際空港などの地域インフラで実証してまいりました。そして、この度、ANATISは、国土交通省が公共事業等での新技術の利活用促進のために運用しております新技術情報提供システムNETISへ登録がされ、ANATISが公共事業に役立つツールとして社会実装される道が広がりました。ANATISの活用で、我が国の老朽化が進むインフラの予防保全による維持管理水準の向上を低コストで実現することが期待されるところです。
 今後もご紹介した2件のようにJAXAでは、研究成果や衛星データなどを利用した社会実装を進めてまいります。

「はやぶさ2」の状況と今後の計画について

 7月9日から昨日11日にかけまして、「はやぶさ2」の2回目のタッチダウン運用を行いました。「はやぶさ2」は、我々がC01-Cbと呼んでいる領域に投下したターゲットマーカを見ながら降下していき、昨日7月11日に小惑星リュウグウにタッチダウンして、無事に成功したことを10:51(日本時刻)に確認しました。
 この成功は、2回目のタッチダウン運用に向けての十分な検討結果による実施判断のもと、プロジェクトチームの力を結集して達成されたものと考えております。
 今後「はやぶさ2」は引き続き、小惑星「リュウグウ」での近傍での観測を行い、年内には地球への旅路に就きます。来年末にリュウグウのサンプルを無事に回収して、世界初となる小惑星の地下物質の採取や意図した複数個所からのサンプル採取が確認され、科学的な意義のある成果に繋がることを期待しているところです。

「こうのとり」8号機の打上げに向けた状況について

 今年度打上げを予定しております、宇宙ステーション補給機「こうのとり」8号機(HTV-8)ですが、打上げに向けた準備は、現在、順調に進んでおります。
 「こうのとり」8号機では、国際宇宙ステーション(ISS)運用に欠かせないISS電源システム用バッテリや生鮮食品、各種実験装置などの補給物資をISSに送り届けるほか、JAXAの宇宙探査イノベーションハブという枠組みを利用して、株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所、ソニー株式会社およびJAXAの共同研究にて開発されました光通信技術実証を行うための実験装置「SOLISS」や、また、月や火星重力環境を模擬したマウスの長期飼育等を可能にする、世界唯一の大型インキュベータ装置「CBEF-L」等を搭載して、宇宙探査に向けた技術実証を行うことを予定しているところです。また、「きぼう」日本実験棟から放出予定の超小型衛星も搭載予定であり、地球低軌道の利用拡大が期待されるところです。
 「こうのとり」は、7号機までの着実な運用実績によりまして、国際的にも高く評価され、ISS運用に大きな貢献を果たしてまいりました。引き続き、補給分野における世界からの信頼を獲得できるように、「こうのとり」8号機のミッション成功に向けて準備を怠ることなく、着実に進めてまいりたいと考えております。
 いよいよ来週7月19日(金)は、種子島宇宙センターにおきまして、報道関係者の皆さまに「こうのとり」8号機の機体を公開いたします。「こうのとり」8号機の機体を直接ご覧いただける唯一の機会となりますので、ぜひご参加いただければと思います。

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