2020年(令和2年)2月理事長定例記者会見

理事長定例記者会見

山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします

日時:2020年(令和2年)2月14日(金) 13:30-14:15

場所:JAXA東京事務所 B1F プレゼンテーションルーム

司会:広報部 報道・メディア課課長 村上 桂一

「おおすみ」打上げ50周年について

 今からちょうど50年前、1970年2月11日に、日本初の人工衛星がラムダロケットL-4S型5号機で打ち上げられました。その衛星は、発射場の内之浦宇宙空間観測所のある鹿児島県大隅半島にちなんで「おおすみ」と名付けられました。「おおすみ」は5度目の打上げ挑戦で地球を周回することに成功しまして、日本は世界で4番目の人工衛星自力打上げ国となり、日本の宇宙探査・宇宙開発の幕開けとなりました。
 「おおすみ」50周年を記念して、2月11日に国立科学博物館にて、「宇宙科学・探査とおおすみシンポジウム」を開催いたしまして、152人の参加がありました。当日は2件の基調講演がありましたが、糸川英夫先生のもとでペンシルロケットのころから実験に関わられた秋葉鐐二郎先生の基調講演でのお話を聞きながら、先人たちのロケットや衛星開発への情熱や当時のご苦労に思いを馳せました。後半のパネルディスカッションでは、これまでの宇宙科学・探査の50年を振り返るとともに、新たな50年に向けての活発な議論が行われました。
 「おおすみ」の打上げに成功したラムダロケットは固体燃料ロケットでありましたが、ラムダロケットをもとに科学衛星打上げ用に開発されましたM(ミュー)ロケットシリーズでは、その後改良を重ね、本格的な惑星探査機打上げ用ロケットM-V(ミュー・ファイブ)に至り、2003年にはM-V 5号機で小惑星探査機「はやぶさ」を打ち上げるなど、多くの科学衛星を打ち上げてきました。現在では、M-Vの後継機となりますイプシロンロケットを開発し、運用しているところです。一方、通信・放送・気象などの大型衛星の打上げのための液体燃料ロケットの開発は、現在運用中のH-IIA/Bロケットに至り、多様な人工衛星や探査機、そして宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)を打ち上げてきました。
 このように我が国は、ロケットや人工衛星、地上系設備など宇宙活動のための優位なキー技術を既に有しておりまして、自律的に宇宙活動を行うことができる世界の中でも数少ない国の1つであることは皆さまにご案内のとおりでございます。JAXAでは、H-IIAロケットの後継機でありますH3ロケットの開発を進めておりまして、いよいよ次年度に打上げが迫っております。H3ロケットの開発では、固体ロケットブースタをイプシロンロケットの第1段モータと共通化したり、あるいは姿勢制御用ガスジェットやアビオニクス(搭載電子機器)についても共通化の検討を進めておりまして、2つ(H3ロケットとイプシロンロケット)の基幹ロケットの開発は相乗効果(シナジー効果)を発揮することを目指しています。
 今後もJAXAは、我が国の宇宙輸送能力を維持し、発展させるために、新たな50年に向けまして、基幹ロケットの開発を着実に進めていきたいと考えております。

原子状酸素照射による材料の抗菌活性発現の成果について

 先ほどプレスリリースをさせていただいておりますが、研究開発部門における株式会社クレハ殿との共同研究成果としまして、原子状酸素照射によって材料の抗菌性能が発現するという成果が得られましたのでご報告をいたします。
 原子状酸素とは、国際宇宙ステーション(ISS)や地球観測衛星が飛行する高度数百kmの低軌道に多く存在します、太陽からの紫外線の影響で原子の状態に分解された酸素のことですが、この原子状酸素と衝突をしますと、宇宙機で使用しておりますプラスチック材料の表面が削られてしまうためにその材料の性能を低下させる原因として認識されています。それゆえ、JAXAでは長年、原子状酸素による宇宙機材料への影響及び対策について研究を進めてまいりました。
 この度、株式会社クレハ殿との共同研究におきまして、原子状酸素を照射したプラスチック表面に対し、日本産業規格(JIS規格)「抗菌加工製品−抗菌性試験方法・抗菌効果」に準拠しました評価試験を実施したところ、複数のサンプルで大腸菌、黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性が発現したことを確認することができました。
 宇宙空間におきましては宇宙機材料の性能を低下させる原子状酸素ですが、地上では、材料自体に含まれない他の物質(従来の抗菌剤など)を添加することなく、材料表面の微細形状を変化させることで抗菌性を付与することが可能となることが分かりました。
 これによりまして、抗菌持続性や耐性菌対策など安全性の観点から利用範囲の拡大が期待されますとともに、本共同研究で得られました知見は、例えば多様な材料に対し、シンプルな後加工(追加工)プロセスにより、微細な凹凸構造を形成できる可能性につながるものであり、今後の応用の拡大が期待されるところです。JAXAは、引き続き本共同研究を進め、実用材料への応用展開に取り組んでいきたいと考えております。

地球観測研究成果の社会実装化の成果について

 JAXAにおける地球観測研究の成果が社会実装に繋がった成果を2つご報告したいと思います。

 1件目ですが、先月プレスリリースをいたしましたが、JAXAと国連食糧農業機関(FAO;Food and Agriculture Organization)の連携協力について、です。
 日本政府との年次戦略協議のために来日されました国連食糧農業機関(FAO)のグスタフソン事務局次長に、先月1月23日、JAXA筑波宇宙センターにお越しいただき、地球観測衛星データ等の利用に関するJAXAとFAOとの連携協力協定を締結いたしました。具体的には、FAOが運用しております「SEPAL(セパール)」という森林や土地被覆情報をオンラインで作成できるプラットフォームに、JAXAが毎年作成しております全球の森林・非森林およびマングローブのデータセットや「だいち」等の観測データを提供し、「SEPAL」というプラットフォームで利用可能にいたします。
 現在、「だいち2号」に搭載されているLバンド合成開口レーダは、昼夜や天候の影響を受けずに定期的に観測できる特長があり、雨期等で雲に覆われることが多い熱帯域の地表面観測に適しております。
 この協力を通じまして、JAXAおよびFAOはJAXAのLバンド合成開口レーダ(SAR)衛星を用いた世界の森林やマングローブの監視を推進していきたいと考えております。
 世界の森林資源を把握、評価すること、また途上国に森林保全などのトレーニングを実施しているFAOと協力することは、途上国を含む世界各国に対して、JAXAの技術を活用したより精度の高い森林資源や土地利用に関する情報を提供することができ、日本の科学技術外交にも資する取り組みである、と考えているところです。

 もう1件は、こちらも先月プレスリリースをいたしましたが、1月29日から気象庁より新たな黄砂解析予報図の提供が開始されました。
 これは気象衛星「ひまわり」の観測データを、データ同化手法により黄砂解析予測モデルに取り込んだ、新しいシステムによる情報提供サービスで、JAXAおよび気象庁殿、気象研究所殿、九州大学殿との共同研究の成果です。
 黄砂解析予測モデルの全体システムとして、主に2日先までの予測で、従来と比べ予測精度が10%程度改善されることが確認されております。黄砂などエアロゾルと呼ばれる大気浮遊物質を予測する現業のシステムに、静止気象衛星で観測されましたエアロゾルの光学特性を組み込むことは、世界の気象機関では初めてのことになります。
 JAXAは、これまでの地球観測衛星プロジェクトで積み上げてきました衛星観測データからエアロゾルを推定するアルゴリズムを、気象衛星「ひまわり」8号および9号に応用する部分を担当しました。その結果として、ゴビ砂漠やタクラマカン砂漠といった主な黄砂の発生源を含む広範囲の黄砂分布を推定することに貢献いたしました。
 JAXAにおける地球観測研究の成果が、気象庁のような現業機関での社会実装につながった好例と捉えており、今後も関連機関と協力して、同化・予測手法の改良や最新の衛星データの導入に向けて研究を進めるなど、さらなる精度向上を進めてまいりたいと考えております。

「革新的衛星技術実証ワークショップ2020」の開催について

 「革新的衛星技術実証1号機」が内之浦宇宙空間観測所より打ち上げられましてから、本年1月でちょうど1年を迎えました。
 「革新的衛星技術実証プログラム」は日本国内の企業や研究機関、そして大学等の優れた技術やアイディアに宇宙実証の機会を提供することを目的としたプログラムですが、昨年1月に打ち上げられました「革新的衛星技術実証1号機」では、全10機関13の実証テーマ、例えば、新たなグリーンプロペラント推進系の実証や、薄膜太陽電池パドルの展開、我が国独自の革新的FPGA、キューブサットによるアマチュア無線通信の実証等など、それぞれのテーマにおいて、打ち上げ後、軌道上での実証を行ってまいりました。
 そこで、この1年を迎えましたタイミングに、来月3月5日(木)秋葉原にて、これまでの実証成果をご報告するとともに、「革新的衛星技術実証プログラム」が今後果たすべき役割についてご紹介するワークショップを開催いたします。今後、革新的衛星技術実証プログラムへの参画を検討中の方々や、実証テーマの技術にご関心をお持ちの方を始め、幅広く多くの方々にお越しいただきたいと考えておりますので、ぜひご参加いただければと思います。

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