理事長定例記者会見
山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします
日時:2023年(令和5年)6月9日(金) 13:30-14:15
場所:JAXA東京事務所 B1F プレゼンテーションルーム
司会:広報部長 佐々木 薫
久しぶりの対面開催となります。よろしくお願いいたします。
6月3日から本日(9日)まで、福岡県久留米市にて、宇宙分野における日本最大の国際学術会議「第34回宇宙技術および科学の国際シンポジウム(ISTS)」が開催されています。本大会の組織委員会では、JAXA宇宙科学研究所嶋田徹名誉教授が組織委員長を務めており、複数の下部委員会の委員長や幹事・委員としてJAXA職員が運営協力を行っております。
今回のテーマは「Space for All of Us」。このテーマの趣旨は、国連採択の「誰一人取り残さない」持続可能で多様な包括的社会の実現に向けた17の目標、つまりSDG‘Sに対し、宇宙科学技術に携わる者としての取り組み、宇宙開発利用の貢献などを念頭においたものです。国内外から多くの関係者が集い、活発な議論が行われていますが、私も6月5日、会議初日に参加してまいりました。2大会、4年ぶりの対面中心の開催で、研究者、関係者と直接議論、対話を行うことができ、とても有意義な時間であったと思います。学術的成果はもちろんですが、産業面でも様々な技術革新で宇宙分野が広がりを見せている昨今、開催地である福岡、久留米にもその基盤が確実に根付いている様子を感じてまいりました。
1.イプシロンロケット6号機に関する原因究明結果
イプシロンロケット6号機打上げ失敗に関する原因究明結果に係る報告を、5月19日の調査・安全小委員会にて行いました。プロジェクトや社内外の有識者はもちろんのこと、文部科学省、関係企業の多くの方々に多大なるご協力をいただき、迅速な原因特定に至ることができました。この場をお借りして御礼申し上げます。
私といたしましても、今回取りまとめた報告内容を真摯に受け止め、イプシロンのみならず、全社のプロジェクト等の今後の研究開発、事業活動を着実に遂行するとともに、さらなる発展につなげるためにも、得られた知見、経験を的確に反映、継承してまいります。
またH3ロケット試験機1号機に関する原因究明においても、鋭意検証、調査を進めております。調査状況につきましては、適宜、調査・安全小委員会にてご報告いたします。
H3ロケット試験機2号機について、5月24日開催の宇宙開発利用部会において、性能確認用ペイロードを搭載する方向性をご審議いただき、また、2号機以降の当面の打上げに向けてLE-9エンジンのタイプ1Aエンジンの開発を進めていることをご報告させていただきました。
現在、タイプ1Aエンジンのデータ取得を行うための燃焼試験を、種子島宇宙センターにおいて実施しております。試験は2回を予定しており、1回目は6月1日に実施しております。2回目は準備ができ次第実施する予定です。
イプシロンロケットの後継機であるイプシロンSロケットの開発の一環として、第3段及び第2段モータの燃焼試験を、能代ロケット実験場において実施しています。第3段モータは6月6日に試験を実施いたしまして、現在取得したデータの詳細評価を進めております。第2段モータの試験は7月中旬頃の実施を予定しています。
2.フランス国立宇宙研究センター(CNES)と機関間協定を締結
5月25日、フランス国立宇宙研究センター(CNES)のフェリペ・バティスト総裁が相模原キャンパスに来訪されました。
CNESとJAXAとの協力関係は1980年代より30年以上続いております。主な協力ミッションの例といたしましては、「はやぶさ2」に搭載され、小惑星リュウグウ探査で活躍した小型着陸機MASCOTがございます。その他にも、火星衛星探査計画(MMX)におけるCNESの開発機器等の搭載、CNES及びドイツ航空宇宙センター(DLR)との3機関協力でロケット第1段の再使用化を目指すCALLISTOプロジェクト、温室効果ガス排出に関する衛星のデータの交換・共同検証、スペースデブリ低減技術研究などがございます。
今回、これまで両者が構築してきました協力実績、信頼関係を基に、将来の連携をさらに深めるための体制強化を目的として機関間協定の改定に署名をいたしました。
合わせて、改定した協定を適用した最初の協力案件として、小惑星サンプル分析における協力を拡大する実施取り決めにも署名しております。
これまで小惑星「リュウグウ」サンプル分析の性能向上を図るため、CNESより「赤外分光顕微鏡(MicrOmega)」を提供いただき、JAXAの地球外試料キュレーション設備に組み込むことで、サンプル解析作業に大きな成果を上げてまいりました。今回の協力実施取り決めにおいては、これらの連携を継続することに加えて、新たにNASA「OSIRIS-Rex」が持ち帰る予定の小惑星「ベンヌ」のサンプルについても、リュウグウと同様の研究協力を実施することに合意いたしました。
今後もCNESやフランスの産業界と対話を行い、協力を一層促進させてまいります。
3.オーストラリア気球実験と大樹航空宇宙実験場における気球実験の実施
JAXAでは日本国内での実施が困難な「長時間飛翔」、「陸上回収」、「南半球での天体観測」などをキーワードとする宇宙科学研究を実現するために、オーストラリア北部準州アリススプリングスの気球放球場を利用して、「オーストラリア気球実験」を行っています。実験はJAXAとオーストラリア連邦科学産業研究機構との間の実施取決めに基づくもので、ニューサウスウェールズ大学ほか、関係各方面から支援をいただき実施しています。今回は新たにオーストラリア宇宙庁からも大きな支援をいただいており、またオーストラリア宇宙庁長官が実験現場の視察もされています。
2023年のオーストラリア気球実験として、2つの実験を行いましたのでご紹介いたします。
まず一つ目は、宇宙からのガンマ線を高解像度で観測すること目指した実験です。エマルションガンマ線望遠鏡という観測機器を吊った大型気球は、4月30日に放球され、高度約36㎞で24時間余り飛翔したのち、機器とともに地上に無事降下しました。
二つ目は、5月11日に実施した、将来のサンプルリターンミッションにむけた実験です。「はやぶさ」カプセルと同じ形状ながら、将来のミッションへ向けて大型化した実験機を高度約39㎞から降下させ、遷音速から低速域の飛行挙動を取得するとともに、パラシュートを開く際の挙動を計測しました。
日本国内でも北海道の大樹航空宇宙実験場において気球実験を予定しております。記者の皆様には5月25日の説明会でもお知らせしましたとおり、2機の大型気球および3機の小型気球の実験を6月19日より実施する予定です。結果等については、JAXAウェブサイト等でご報告いたします。