2024年(令和6年)4月理事長定例記者会見

理事長定例記者会見

山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします

日時:2024年(令和6年)4月19日(金) 13:30-14:15

場所:JAXA東京事務所 B1F プレゼンテーションルーム

司会:広報部長 佐々木 薫

 2024年度が始まり、既に4月中旬となりました。4月からJAXA役員の顔ぶれが大きく変わりました。石井副理事長、新たに着任した理事5名、岡田理事、瀧口理事、松浦理事、稲場理事、佐藤理事、そして昨年度から引き続きとなる原理事、國中理事とともに一致団結し、JAXAをより強い組織にするべく努めてまいりたいと思います。

 さて、3月から4月にかけても宇宙航空の話題が多くございました。
 3月12日には、古川聡宇宙飛行士が、約半年間の国際宇宙ステーション滞在から、無事地球に帰還しました。以降、古川飛行士は米国ヒューストンにて地球環境に慣れるリハビリを順調にこなしているとの報告を受けております。
また既にご報告しましたとおり、JAXAの商業デブリ除去実証CRD2のフェーズIミッションを行う、株式会社アストロスケール様の商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」が、2月18日(日本時間) にRocketLab社Electronロケットにて打ち上げられました。アストロスケール様からも衛星運用が順調で、対象となる大型デブリへの接近を経て、さらに近傍制御等の運用が今後進められるとのご報告をいただきました。JAXAとしても技術支援などを通し、ミッション達成に尽力してまいります。
 さらには、日本と欧州宇宙機関(ESA)が共同開発している雲エアロゾル放射ミッション「EarthCARE」衛星は、打上げ射場である米国カリフォルニア州ヴァンデンバーグ基地に3月10日に搬入され、打上げに向けた整備が進められています。5月打上げに向け、JAXAにおいてもEarthCARE/CPRプロジェクトを中心に、打上げおよび打上げ後の衛星運用に向けたリハーサルなど、入念な準備を進めております。

 このように、年度当初からJAXA各部門において数々のミッションが目白押しですが、今年度は、第4期中長期計画7年間の最終年度となります。中長期計画期間としての成果創出を果たすべく、着実に取り組んでまいりたいと思います。

1.「与圧ローバによる月面探査の実施取決め」署名式等への参加について

 日本時間、2024年4月10日に、米国ワシントンDCのNASA本部にて盛山正仁文部科学大臣およびビル・ネルソンNASA長官による「与圧ローバによる月面探査の実施取決め」署名式が行われました。本実施取決めは、昨年2023年1月に岸田内閣総理大臣立会いの下、日米政府間で締結した「日・米宇宙協力に関する枠組協定」の下で署名される初めての実施取決めです。
 また、署名式の翌日にはJAXAワシントン駐在員事務所で「文部科学大臣とNASA長官による共同記者会見」が行われました。
 署名式および記者会見には、JAXAから私と星出宇宙飛行士も同席いたしました。署名の瞬間に立ち会えたことを大変光栄に思います。

 この実施取決めの下、JAXAは有人与圧ローバーの開発とローバー運用期間中のメンテナンスや地上からの操作などの運用等を実施します。有人与圧ローバーは、宇宙服無しで居住及び移動ができる、世界初・唯一の月面走行システムとなります。
 また、本実施取決めでは、日本人宇宙飛行士の2回の月面着陸機会が規定されました。
 そして日米首脳共同声明や米国公式訪問のファクトシートにおきましても、「アルテミス計画の将来のミッションで日本人宇宙飛行士が米国人以外で初めて月面に着陸する」という共通の目標が発表されるとともに、「月面での有人宇宙飛行協力に関する歴史的な実施取決めへ署名した」ことが確認されました。

 岸田首相の米議会演説においても「日米間の宇宙協力をより一層後押しする言葉」を発言していただき、大変嬉しく思うと同時に、非常に身が引き締まる思いです。

 今後、持続的な月面活動及び月面探査において人類の活動領域を大幅に拡大していく役割を日本が担うこととなります。文部科学大臣とNASA長官による共同記者会見の場でも述べましたが、アルテミス計画における日本の役割を果たすため、JAXAは有人与圧ローバーの研究開発を着実に実施するとともに、日本人宇宙飛行士による月面活動機会に向け、必要な準備を進めてまいります。そして、この日米協力においても、これまでの数々の協力と同様に、NASAとの長年培ってきた深い信頼関係を基礎として、国際および産業界のパートナーと連携してまいります。

2. 地球観測衛星委員会 第39回戦略実施チーム会合の開催

 4月9日~11日の3日間、JAXAは地球観測衛星委員会 第39回戦略実施チームの会合を東京において主催しました。

地球観測衛星委員会(CEOS)は、地球観測衛星を運用する宇宙機関の会合で、今年40周年を迎えます。北米では、NASAやアメリカ海洋大気庁(NOAA)、カナダの宇宙機関、欧州では、欧州宇宙機関(ESA)や欧州委員会に加えて、仏・独・伊・英等の宇宙機関、アジア太平洋州では、JAXAをはじめ、オーストラリアの宇宙機関など、世界の主要宇宙機関34機関における地球観測部門のリーダほぼ全てに加えて、国連機関など30機関が参画しています。CEOSは、地球観測衛星データの標準規格を定める等の国際的なルール形成の役割を担うとともに、気候変動、生物多様性、SDGs、海洋、災害等の課題解決への貢献に向けて宇宙機関・国際機関間の連携強化や知見の共有、人材育成などを推進し、国際協力による地球観測衛星による貢献の最大化を図っております。
 JAXAは、2024年から2025年の2年間、CEOSの実質的な活動の指揮をとる戦略実施チーム(SIT)の議長に就任しています。SIT議長の就任は13年ぶりで、CEOS参加機関を結集し、戦略計画の立案・実行、およびCEOS運営全体における司令塔の役割を担います。

 JAXAでは、議長の優先活動として、世界の地球観測衛星を連携し、①衛星観測が気候変動政策に活用されるための連携方策、および②温室効果ガス観測の継続性の確保と連携の強化、という2つのテーマを掲げています。
 今回の会合では、気候変動枠組み条約や気候変動に関する政府間パネル、世界気象機関等の宇宙機関外のステークホルダや専門家を招き、地球観測衛星技術やデータの政策利用における課題や今後の連携方策について議論を行いました。国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定には、目標達成に向けた世界全体での実施状況をレビューし、気候変動対策の進捗を評価する「グローバルストックテイク」という仕組みが定められています。次回5年後の第2回グローバルストックテイクにおいて、地球観測衛星データがその意思決定の基礎となるための戦略計画立案に取り組むことを合意しました。

 JAXAは、本年度、EarthCARE/CPR、だいち4号、GOSAT-GWの3機の地球観測ミッションの打上げを予定しております。これら衛星のデータは、気候変動対策において、現状の把握と将来の予測のために、重要な役割を果たすものであり、世界中で利用され、政策決定への貢献、つまり気候変動への適応や緩和策に役立つことが期待されています。
 JAXAは、2年間の任期を通じて、日本の衛星観測技術の強みを生かし、パリ協定のグローバルストックテイクや森林および温室効果ガス監視の取り組みにおいて、世界の主要宇宙機関を主導し、具体的な政策貢献事例を創出できるよう、取り組んでまいります。

3. ビジネス共創プラットフォーム「THINK SPACE LIFE」の民間主導体制への移行の採択結果

 先月3月27日、JAXAは、宇宙イノベーションパートナープログラム(J-SPARC)で企画・運営してきた、暮らし・ヘルスケア分野における新たな宇宙関連市場の創出を目指すビジネス共創プラットフォーム「THINK SPACE LIFE」(以下「本プラットフォーム」)の運営を、特定非営利活動法人ミラツク様に移管いたしました。
 本日は、本プラットフォームを民間主導に運営を移行するに至った経緯、意義、JAXAの今後の関わりをご紹介いたします。

 本プラットフォームは、これまで2020年7月から約3年8カ月の活動をおこなってまいりました。JAXAは、プラットフォームの全体スキームの企画運営と宇宙実装などに関する知見提供や技術支援を担うとともに、新たなビジネスや事業の立ち上げ・推進を支援するインキュベーションパートナー企業との協働で推進してまいりました。活動期間中、「宇宙生活のQOL(Quality Of Life)向上」という新しい領域において、230社以上の企業・団体に参画いただき、それぞれが、特徴や得意分野などにおける技術、サービス、アイデア等を持ち寄り、事業創出を目指すオープンイノベーション方式で取り組んでまいりました。その結果、2024年3月末時点で既に国際宇宙ステーション(ISS)に搭載され宇宙飛行士が使用した製品数は13製品2025年以降ISSに搭載される予定の製品が7製品あります。宇宙実装された事例を挙げますと、ISSで運動を行う際の不快感の軽減、抗菌機能のある宇宙飛行士向け運動ウェアや、衣類用洗浄成分しみこませたシートで衣類の汚れやニオイをとる製品などがございます。また7製品が地上で新規販売されるなどの成果が得られています。
 この参画企業230社のうち95%が非宇宙産業の企業であるのも特徴と言えます。この特徴を踏まえて、さらなる新しい事業活動、事業展開が求められています。このため、運営主体者には、各企業の課題やニーズを考慮し、相談に対応しながら、宇宙生活のプロジェクトの企画や推進をしていくことが必要となります。

 これまで本プラットフォームのインキュベーションパートナーとして活動し、知見・ノウハウを有するミラツク様に運営を継承し、さらなるプラットフォーム活動の発展と、新たな成果を創出するフェーズに移行することといたしました。
 JAXAの今後の役割は、運営支援となります。これまで共創したインキュベーションパートナーが自立的な活動に至るよう協力を惜しまず、参画いただく企業・団体の間でコミュニケーションが深まり、さらなる事業展開が実現できるよう、後押しをしてまいりたいと考えています。

 今回の事例のように、JAXAは民間との共創活動を通して新たな事業を生み出すことをさらに推し進め、民間との協力関係のもと、宇宙航空関連市場の拡大につなげる取り組みに一層注力してまいります。

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