理事長定例記者会見
山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします
日時:2024年(令和6年)9月13日(金) 13:30-14:15
場所:JAXA東京事務所 B1F プレゼンテーションルーム
司会:広報部長 佐々木 薫

1. 最近の取り組み、成果など
● EarthCARE/CPR運用状況
今年5月に打ち上げた雲エアロゾル放射ミッション「EarthCARE」衛星(はくりゅう)および同衛星搭載の雲プロファイリングレーダ(CPR)は、現在、初期機能確認運用を進めております。
これまでの運用において、情報通信研究機構様とJAXAが共同開発したCPRによる観測画像の取得をはじめ、欧州宇宙機関(ESA)が開発した3つの観測センサにおいても観測画像が取得、公開されており、同衛星搭載の4つのセンサ全て機能することが確認できています。なお、9月20日に初期機能確認の結果確認および初期機能性能評価の確認を行う予定です。
情報通信研究機構様、日本電気株式会社様をはじめ関係企業、機関の皆さまとともに、次の運用段階である、取得データの精度や品質、処理アルゴリズムなどの確認、校正、評価などを行う「初期校正検証運用」に向けて、着実な運用を継続してまいります。
● だいち4号運用状況
「だいち4号」におきましても、7月に打ち上げられて以降、初期機能確認運用を行っております。Lバンド合成開口レーダ(PALSAR-3)の画像取得をはじめ、衛星搭載船舶自動識別システムの実証を行うSPAISE3や光衛星間通信機器「光ターミナル」の単体性能確認を完了するなど、各機器の機能確認を順次実施中であり、今後、光データ中継衛星と双方向での光通信を行い、性能等の評価を行う予定です。
「だいち4号」も「初期校正検証運用」への移行を見据え、三菱電機株式会社様、日本電気株式会社様などの関係企業、機関の皆さまとともに、引き続き着実に取り組んでまいります。
● 衛星レーザ測距用小型リフレクター(Mt.FUJI) 軌道上性能実証実験
次は、超小型衛星に搭載した機器の軌道上実証試験結果についてご紹介いたします。
今年2月、H3ロケット試験機2号機で打ち上げたキヤノン電子株式会社様の超小型衛星(CE-SAT-IE)には、JAXAが開発した衛星レーザ測距用小型リフレクター(Mt.FUJI)が搭載されています。
8月に、筑波宇宙センターに設置した、衛星にむけてレーザを照射し距離を測る地上局「つくばSLR局」から、CE-SAT-IEに対してレーザ測距を行い、Mt.FUJIからの反射光の取得に成功しました。これにより、Mt.FUJIが軌道上でレーザ測距反射器として必要な性能を発揮することが実証できました。
人工衛星や宇宙ゴミの増加によって、宇宙状況把握(SSA)の重要性が高まる中、Mt.FUJIは、特に低軌道にある宇宙機の視認性向上を目的として、かつ軽量小型で汎用的に利用可能なリフレクターとして開発いたしました。
運用を終えた人工衛星やロケット上段などはスペースデブリとなり、運用中の人工衛星にとって衝突の脅威を与えます。これらは自発的な信号を出さないため正確な軌道を把握することが困難でした。これらスペースデブリにMt.FUJIを搭載することにより、地上からの視認性があがり、軌道の把握が容易になります。加えて、このレーザ測距は、宇宙機と地上局との距離を高精度(ミリメートル精度)に計測することが可能であり、人工衛星の精密軌道決定などにも役立ちます。
Mt.FUJIをCE-SAT-IEに搭載いただいたキヤノン電子様に、この場をお借りして感謝申し上げます。JAXAではこの軌道上実証成果を踏まえ、Mt.FUJIが汎用的に利用できるよう、産業界への技術移転など企業の皆さまとも連携し、量産化、普及を図ってまいります。
● SLIM月面活動終了
次は宇宙探査、宇宙科学の話題となります。
8月26日にプレスリリースいたしましたとおり、小型月着陸実証機SLIMは、8月23日に実施した停波運用をもって、月面での活動を終了いたしました。昨年9月の打上げ後、今年1月に世界初となるピンポイントでの月面軟着陸を成功させ、月面においてもマルチバンド分光カメラ(MBC)による観測を実施しました。当初は計画していなかった月面での越夜にも3回成功するなど、月探査分野において大きな成果が得られたと考えております。SLIMプロジェクトとしての活動および成果のとりまとめは、今後、秋以降を目途に行う予定です。また、マルチバンド分光カメラ観測においても、大学等の研究者によって研究が進められており、その成果は学術論文としてまとめられると思います。
SLIMプロジェクトの成果は、三菱電機株式会社様をはじめ多くの開発・運用に携わる皆さまのご尽力と、プロジェクトを応援してくださった全ての皆さまのお陰と考えております。改めて感謝申し上げます。
● 小惑星Bennuサンプル受け渡し
その他にも、8月22日には、米国航空宇宙局NASAの小惑星サンプルリターンミッション「OSIRIS-REx」が小惑星Bennuから回収したサンプルが、JAXAへ無事に受け渡されました。これは、JAXAとNASAの協力覚書により、JAXAからは「はやぶさ2」の小惑星リュウグウサンプルの一部を2021年11月にNASAに引き渡し、この度NASAからBennuサンプルをJAXAが受け取ったというものになります。リュウグウのサンプル、Bennuのサンプルという、双方の貴重なサンプルに対する分析、科学研究が進み、多くの知見が得られることを期待しています。
● XRISM、BepiColombo/「みお」
宇宙科学分野での成果という観点では、SLIMとともに打ち上げられたX線分光撮像衛星(XRISM)による科学観測、データ分析等が進んでおります。近々、現時点での運用、科学観測などの状況、最新の研究成果に関する説明会も計画しております。
また国際水星探査計画「BepiColombo」に関しては、9月2日にESAから発表のあったとおり、ESAが担当する電気推進モジュールの電源系に不具合が発生し、イオンエンジンを最大出力で噴射できないことについて対策検討を行った結果、今後は当初計画よりも出力を下げて運用する方針となりました。それを受けた新たな計画では、水星到着時期が約1年遅れ、2026年11月に見直されました。JAXAが開発した水星磁気圏探査機「みお」、ESAの水星表面探査機「MPO」の運用、および計画している科学観測には支障はないことが確認できています。来るべき水星到着、科学観測にむけて、入念に準備を整えたいと思います。