2025年(令和7年)3月理事長定例記者会見

理事長定例記者会見

山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします

日時:2025年(令和7年)3月7日(金) 13:30-14:15

場所:JAXA東京事務所 B1F プレゼンテーションルーム

司会:広報部長 佐々木 薫

 先月2月は、H3ロケット5号機による「みちびき6号機」の打上げから始まり、X線分光撮像衛星XRISMにおける観測成果論文の科学誌Natureへの掲載、スポーツ庁と連携協定締結、イプシロンSロケット再地上燃焼試験に関する原因調査状況についての記者説明会など、多くの話題がありました。
 これらのように、多岐にわたる事業を展開し、実施していくためには、政府、関係府省、国内外の機関・企業の皆さまとの連携の重要性、また、事業を支える共通的な基盤技術や情報システムセキュリティ、組織マネジメントなど、さまざまな観点での強化や、JAXA内の横断的な連携を一層高めていく必要性などを実感した話題が多かったと感じています。
 本日はそれらの中から、いくつかの話題に触れたいと思います。

1. 最近のプロジェクト等の取り組み、成果など

● 宇宙戦略基金

 最初の話題は、宇宙戦略基金に関してです。 昨年7月より、令和5年度補正予算に基づく基金として22の技術開発テーマについて公募を開始し、10月以降順次、各テーマにおける実施機関決定のお知らせをしてまいりました。先週2月28日のプレスリリースにてお知らせした分をもちまして、第一期22テーマ全てにおける採択結果の公表1となりました。

 今後、各実施機関が主体となって具体的に技術開発が進められていくことになります。JAXAは、宇宙戦略基金に係る政府の基本方針・実施方針を踏まえ、各実施機関の成果創出に向けて技術的な支援など行い、産学官の結節点としての役割を果たしてまいりたいと思います。

● 商業デブリ除去実証フェーズIの成果

 続いては、商業デブリ除去実証フェーズIの成果についてです。
 昨年2024年2月に、JAXAの商業デブリ除去実証CRD2のフェーズIミッションを行う、株式会社アストロスケール様の商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J(読み:アドラス・ジェイ)」が打上げられた後、約1年にわたる軌道上でのミッションが、この度終了しました。
 先週2月26日には報道メディアの皆さま向けにミッションの成果説明会を開催(外部リンク)させていただきましたが、JAXAのCRD2フェーズIミッションに関する技術実証として、「デブリ接近計画に対する実績の確認」や、対象デブリの「定点観測」と「周回観測」、「ミッション終了のための安全な軌道への離脱」の4つの実証項目全てが、パートナー企業であるアストロスケール様により達成されました。
 この場をお借りして、アストロスケール様はじめ関係者の皆様に深く感謝申し上げます。
 CRD2は既に次のミッションとなるフェーズIIを開始しています。フェーズIIでは、フェーズIで状況を把握した同じスペースデブリを対象に、近傍運用に加え、捕獲、えい航による軌道降下、軌道離脱までの技術実証を予定しています。
 フェーズIIにおいても、アストロスケール様とパートナーシップ型契約を締結しており、引き続き両者連携して、2027年度の打上げ、また軌道上でのミッション達成を目指してまいります。

2. 大西卓哉宇宙飛行士の国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在に向けた準備状況

 先週2月28日のプレスリリースにてお伝えしましたとおり、大西卓哉宇宙飛行士が搭乗する、クルードラゴン宇宙船運用10号機(Crew-10)は、日本時間3月13日木曜日、午前8時48分の打上げを目標に準備を進めることを、国際パートナー間で合意いたしました。

 大西宇宙飛行士は、自身2回目の宇宙飛行となり、第73次長期滞在においてISS船長に就任する予定です。大西宇宙飛行士は、フライトディレクタとして「きぼう」日本実験棟の運用管制業務などを通じて培った知識と経験を活かし、他国の長期滞在クルーや地上の運用管制チーム、実験関係者と協調して、ミッションの成功に向けて思う存分力を発揮してくれるものと期待しています。

 大西宇宙飛行士のISS滞在中のミッションについて、JAXAは、これまでに構築してきた「きぼう」日本実験棟の実験技術を活用し、将来の有人宇宙探査に向けた「二酸化炭素除去技術の軌道上実証」や、微小重力環境が、がん治療薬の効果にどのような影響を与えるのかを調べる実験、重力影響を考慮した固体材料の燃焼評価手法で宇宙火災安全性を向上させるための「宇宙火災安全技術研究」などを進め、「きぼう」の環境を最大限活用した多様な利用を推し進めていきます。

 大西宇宙飛行士のISS長期滞在及び船長就任は、日本がこれまで培ってきた有人宇宙技術開発に対する信頼のあらわれであり、今回のミッションを通じて、科学的成果の創出、有人宇宙技術の獲得、民間利用の拡大を推進し、人類の更なる発展に貢献してまいります。引き続き皆様のご支援をいただけますと幸いです。

3. 地球観測分野における観測成果、データ利用、成果など

 温室効果ガスを観測する人工衛星GOSATシリーズの開発、運用は、環境省と国立研究開発法人国立環境研究所、JAXAが連携して取り組んでいる地球観測衛星プロジェクトです。GOSATシリーズでは、宇宙から温室効果ガスである二酸化炭素やメタンの大気中濃度の観測などを主な目的としています。
 シリーズの1号機となる温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)は2009年に打上げ、2018年には2号機の「いぶき2号」(GOSAT-2) を打上げており、それぞれ現在も現役で運用中です。これまで16年分以上にわたる観測データの蓄積に貢献しております。来年度には、シリーズ3号機として開発中の、温室効果ガス・水循環観測技術衛星GOSAT-GWの打上げを計画しており、地球規模の観測データを追加し、研究解析を続けていくことは、データ継続性の観点において非常に重要であり、それらを通じ、気候変動の監視や地球温暖化対策への貢献を更に目指してまいりたいと考えております。

 なお、2月6日にプレスリリースにて「いぶき」(GOSAT)による二酸化炭素濃度観測の成果に関する速報をお伝えいたしました。前方モニターに投影したスライドでもグラフを表示しておりますが、まず黒色折れ線グラフで示した二酸化炭素の全大気平均濃度が年々増加していることが分かります。そして、その年増加量を赤の棒グラフで示していますが、2023年から2024年にかけての年増加量が、同データ提供を開始した2011年以降で過去最大を示したことが分かりました※。想定される理由は、2023年から2024年にかけて発生していたエルニーニョ現象に起因する高温や干ばつ、森林火災による二酸化炭素排出量の増加・陸域植生の面積や光合成量の減少、人為起源二酸化炭素排出量の増加の影響などが考えられます。これらの解明に向けては、今回得られた「いぶき」のデータのみならず、GOSATシリーズのデータ全体を活用し、詳細な解析を引き続き実施してまいります。

 12月の定例記者会見においても、JAXA、環境省、国立環境研究所、NASAとの間で、温室効果ガスに関する衛星データ相互比較等の協力継続を行うための実施取り決め署名したこと、また地球温暖化対策は、地球規模かつ人類における喫緊の課題である点に触れました。改めてとなりますが、この分野において、引き続き日本としても継続的なデータ取得、研究解析を実施し、国際的なプレゼンスを発揮していくことが重要だと認識しております。

1:1テーマは再公募中(2024年11月29日に「採択者なし」として採択結果を公表したテーマ)

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