水循環変動観測衛星「しずく」の
米国海洋大気庁(NOAA)での利用開始について
平成26年9月5日
宇宙航空研究開発機構
米国海洋大気庁
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が平成24年5月に打ち上げた水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)に搭載された高性能マイクロ波放射計2(AMSR2)の観測データにつきまして、このたび、米国海洋大気庁(NOAA)により、本格的な利用が開始されました。この観測データにつきましては、平成25年2月からNOAAへ提供し、NOAAにより全球及び米国周辺の陸、海洋、大気の監視等の気象予報のための準備が進められてきたものです。これにより、地球表面から放出される微弱なマイクロ波を雲の影響を受けずに観測できる事から、ハリケーンや台風の目など内部構造がより正確に把握でき、その強度や進路の予測等に役立ちます。
なお、AMSR2の観測データは、昨年9月から気象庁の数値予報システムに組み込まれ、降水予測精度の向上のために利用されていますが、これに引続きNOAAでも定常的な気象予報での利用が開始されたことになります。
(別紙)
NOAAでは、JAXAが開発した、「しずく」搭載AMSR2及び本年2月に打上げの全球降水観測計画(GPM)主衛星搭載二周波降水レーダ(DPR)のデータの活用が検討されており、JAXAとNOAAは協力について話し合いを進めています。その第一歩として、今回AMSR2のデータが米国で定常的に気象予報に利用されることとなりました。またNOAAでは、JAXAと米国航空宇宙局(NASA)共同で開発したGPMに搭載されたDPRについても、米国付近の熱帯低気圧の予測向上のために利用する検討が進んでおります。
AMSR2は、地球表面から放出される微弱なマイクロ波を雲の影響を受けずに観測でき、またGPMに搭載された降水レーダは、雨や雪の状況を3次元で観測できるので、静止気象衛星などに搭載されている可視・赤外観測機器に比べてハリケーンや台風の目などの内部の構造がより正確に把握できるという特長があります。そのため、より正確にハリケーンや台風の強度や進路を予測することが可能となります。
NOAAはAMSR2データの有効性を昨年発生したハリケーンや台風で評価しており、NOAAに所属する国立ハリケーンセンターでは、6月1日からAMSR2観測データの定常的な利用を開始し(注1)、図1に例のように、すでに複数のハリケーンの進路予測の改善などに効果を発揮しています。
静止衛星赤外観測
マイクロ波観測(GCOM-W/AMSR2)
図1 平成26年7月3日のハリケーン アーサー(Arthur)
赤外観測(左)による雲画像からは台風の内部構造を把握できないが、マイクロ波観測(右)は地表面や大気中から放射される特定の周波数の電波を示す輝度温度(89GHz-H)を観測することにより、米国東海岸に上陸直前の台風の目の二重構造を明瞭に捉えている。(NOAA及び米国海軍研究所(NRL)提供)
また、NOAAは観測データをいち早く利用するために、7月29日にウィスコンシン州及びカリフォルニア州に2局のNOAAのデータ受信局で直接受信を開始しました。これらの2局で直接受信を開始することにより、NOAAは受信局周辺の観測データを直ちに利用できるようになります。
図2にウィスコンシン州の地上局で受信したデータの例を示します。NOAAの共同極軌道衛星システム(JPSS:Joint Polar Satellite System)チーフプログラムサイエンチストのミッチ・ゴールドバーグ博士は、次のように述べています。
「AMSR2データは気象各分野で、中でもハリケーンや台風の強度の評価に利用されている。AMSR2の観測データを米国内で直接受信できるようになると、これまで2時間かかっていた観測データの入手までの時間が数分となり、生命や財産を脅かす極端気象現象の予報を行う上で、NOAAにとって大きな成果である」(「参考」に原文)
NOAAでは現在の2局に加えて、さらに他の州での直接受信計画もあり、全米及び北太平洋をカバーする領域のハリケーン及び台風の監視に利用するとしています。
図2 平成26年7月29日に受信が成功したウィスコンシン大学でのAMSR2観測データ
(NOAA提供)
なお、JAXAでは気象庁へAMSR2観測データを定常的に提供しており、気象庁においてもAMSR2観測データは日々の気象予報や台風解析などに既に利用されています。(注2)
(注1)http://www.nesdis.noaa.gov/news_archives/jaxa.html
(注2)https://www.jaxa.jp/press/2013/09/20130912_shizuku_j.html
(参考)
"The direct readout of GCOM-W1 AMSR2 data over US areas of interest is a major accomplishment for NOAA," said NOAA Joint Polar Satellite System (JPSS) Chief Program Scientist Mitch Goldberg. "AMSR2 data are used for many applications, including assessing the strength of hurricanes and typhoons. GCOM-W1 data will now be available in minutes instead of upwards of two hours, enabling the National Hurricane Center to have faster access to critical data used in forecasting extreme weather events that can have catastrophic impacts on lives and property."