JAXA Activity Report Interview

濱本 昂

世界規模で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により社会・経済活動が制限される状況下で、今この地球に何が起こっているのか地球観測衛星データで見てみようというのが今回のプロジェクトです。
本プロジェクトが実現した舞台裏をNASA、ESAとの調整、広報利用などを含む運営の取りまとめ役となった
第一宇宙技術部門 衛星利用運用センター 濱本 昂に聞きました。

3機関合同による地球観測データを用いたCOVID-19に対する解析Webサイト
「Earth Observing Dashboard」

https://eodashboard.org

COVID-19に関わるJAXA衛星データポータルサイト「JAXA for Earth on COVID-19」

http://earth.jaxa.jp/covid19/

きっかけは?

JAXA内で衛星観測データを利用して困難に直面した世界に何かできることはないかという検討をしていたところに、NASAとESAからも同じような発想のもとCOVID-19対策のロックダウンなどによって起こった社会活動や地球環境の変化を客観的に観測して記録に残そうという動きがあり、NASAとESAから一緒にやりましょうと提案があったのが始まりです。これまでもNASAやESAと一対一で協力する機会は多くありましたが、より調整に時間のかかる三者間の協力である今回のプロジェクトがスタートしたのは2020年4月後半で、6月25日の成果の公開まで短期間で実現させました。

まず、どこから着手したのか、またプロジェクト完遂
の中で一番苦労した点は?

まず初めに行ったのは、既にNASAとESAが見当をつけていた観測テーマに対して、JAXA側からも追加提案をしたことです。
一番苦労した点としては、その後の観測の対象地を絞り込むことでした。
「こういう変化が見られればCOVID-19の影響がわかるのではないか」という仮説のもと観測する対象地を決め、本当に興味深い結果が見えるかどうかは実際に観測データを解析してみる必要があります。その結果が思ったものでなければ対象地を変えて改めて解析するといった、トライ&エラーを繰り返す必要があり、短期間の中限られた人員で作業を進めることは解析担当者の負荷が大きく大変でした。

テレワーク環境下で海外の外部機関とのプロジェクト。いつもと違う業務の変化は?

日米欧ではそれぞれ時差がありますので3機関での打合せの際は通常の勤務時間帯を変更したり自宅に持ち帰ることのできるPCで解析を進める必要などがありましたが、コロナ禍の中でこのプロジェクトに取り組んだことで、時差や距離に関係なく仕事を進められるということを改めて実感しました。
国や組織が違っても宇宙機関で地球観測に携わる人たちなので、仕事のやり方に大きな違いを感じることはありませんでした。ただ、どうしても祝日などの文化は異なるため、ちょうどプロジェクトの立ち上げ時期と重なったゴールデンウィーク中は、結果的に自分は休日返上となってしまいました(笑)。

テレワークで勤務時間が国内対応の昼間と三機関ミーティング対応の夜中など分断される日もあったと思いますがプライベートとの切り替えで意識していたことは?

昼間の仕事と夜のテレコンの間が数時間空くこともよくあります。そういう時は夕方仕事の区切りがついたときに散歩や運動などで一旦リフレッシュして休み、夜のテレコンの前には熱いコーヒーを飲んでスイッチを入れなおしていました。ただ、テレコンの後に目が冴えて寝られなくなってしまうこともあり、最近はカフェインレスコーヒーを飲むようにしています。

地球観測データ利用という分野におけるJAXAの強みとは?

地球観測衛星の分野において、高分解能光学・レーダ衛星や環境観測衛星などによる幅広い分野かつ長期間にわたる観測データとその解析・利用技術をもっていることです。また幅広いだけでなく、温室効果ガス、降雨、マイクロ波放射観測やLバンド合成開口レーダ(SAR)などの海外と差別化できる観測技術とデータを持ち合わせていること。
今回でいうと、特に「いぶき」GOSATによる温室効果ガス観測データや「だいち2号」ALOS-2によるLバンドSARの観測データについてはNASA、ESAからの関心も高かったです。
温室効果ガスはロックダウンや自粛の影響を受ける車といった交通手段などからも排出されますし、雲などを透過し気象条件や昼夜に左右されずに観測可能なSARはロックダウン・自粛期間などの特定の時期に確実に観測データを収集する上での強みといえます。

観測画像

「いぶき2号」(GOSAT-2)によるCO2濃度増加量の全球分布の変化
サイト上で中央のグレーのバーを移動させることによりCO2濃度の変化が一目瞭然でわかる

観測画像

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行前後の空港の変化について
羽田空港の駐機場に留まる飛行機が以前より増加していることが衛星観測画像から読み取れる

地球観測データの今後の展望は

最近では、地球観測衛星データを専用のPCなどがなくても解析できるようなオンラインのプラットフォームの整備が国内外で進みつつあります。今後は、これまで衛星データに馴染みのなかった学生や研究者、企業などがこうしたプラットフォームを通してデータに触れ、新しいデータ利用が生まれるコミュニティが出来上がるかどうかが課題だと考えます。

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