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銀河団も太陽も化学組成は同じだった
~高温ガスが語る超新星爆発の歴史~

平成29年11月14日

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構

概要

 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)を中心として国際協力により開発されたX線天文衛星ASTRO-H(ひとみ)搭載の軟X線分光検出器(SXS)による観測結果から、ペルセウス座銀河団中心部の鉄属元素の組成比は太陽のものと同じであることが明らかになりました。従来、銀河団の高温ガスの元素組成比は太陽の値とは異なると言われており、これを覆す結果です。本研究成果から、太陽の元素組成は、現在の宇宙の平均的な化学組成であることが示唆されます。また、鉄属元素の主要生成源であるIa型超新星爆発の性質にも制限を与える結果です。

 本研究成果は、日本時間2017年11月14日(火)、イギリスの科学誌Natureのオンライン版に掲載されました。

 銀河団は宇宙最大の天体で、数千万度の高温ガスや数百以上の銀河が重力に束縛されています。銀河団の高温ガスは、宇宙誕生から現在までに恒星や超新星爆発で合成された元素をため込んでいます。そのため、銀河団の高温ガスの化学組成を調べると、現在の宇宙の平均的な化学組成がわかるのです。超新星爆発にはさまざまなタイプがあります。その中でもIa型超新星爆発の数は全体の1-4割を占めると考えられています。またIa型超新星爆発は鉄属元素(クロム、マンガン、鉄、ニッケル)の主要な生成源です。そして鉄属元素はIa型超新星が爆発するときの特性や爆発メカニズムを明らかにするための鍵となります。爆発のメカニズムによって、鉄属元素の組成比が異なるためです。

 銀河団の高温ガスの化学組成は、これまでにもX線天文衛星によって精力的に調べられてきました。しかしこれまでの観測機器では分解能が不十分で、強い鉄の特性X線とニッケルの特性X線が混ざっていました。そのため元素量を見積もっても正確に元素量を測定できているのか、という疑問がつきまとっていました。従来の測定方法は、鉄やさまざまな元素を含む塊からニッケルの量を見積もるようなものだったのです。

 研究チームはX線天文衛星ASTRO-Hによる銀河団中心部の観測データを解析し、ケイ素からニッケルまでの特性X線の強度から、銀河団ガスに含まれるそれぞれの元素の組成を導きました。研究対象となった銀河団は、ペルセウス座銀河団です。ペルセウス座銀河団は太陽系から約2億4千万光年遠方にあり、近くの銀河団としては最大級で、X線で最も明るい銀河団です。その高温ガスの温度は約5000万度に達します。

 図1に示すように、ASTRO-H搭載の軟X線分光検出器で取得されたX線スペクトルは、エネルギー決定精度(スペクトルの分解能)が劇的に向上しました。その結果、これまでの検出器では分解できなかった、鉄とニッケルの特性X線を分離し、さらに微弱なクロムやマンガンの特性X線を検出することにも成功しました。この精密X線分光により、鉄属の元素量を初めて正確に測定することに成功したのです。結果、図2に示すように、銀河団中心部の高温ガスに含まれるケイ素、硫黄、アルゴン、カルシウム、クロム、マンガン、鉄、ニッケルの元素の比がすべて太陽と同じであることがわかりました。太陽の元素組成は現在の宇宙で平均的な組成と言えそうです。本研究結果以前の研究では、鉄属元素の組成比は太陽のそれとは違い、太陽組成と比べて高いと報告されてきました。

図1: ペルセウス座銀河団の可視、X線合成画像と、ASTRO-Hにより得られたペルセウス座銀河団中心部のX線スペクトル。青は観測領域、黄色はASTRO-H以前に得られていたX線スペクトル。
クレジット:JAXA / NASA / Ken Crawford (Rancho Del Sol Observatory)

図2: ASTRO-Hにより観測されたペルセウス座銀河団中心部の銀河団ガスの元素組成比 (赤丸)。青のデータは、これまでのX線天文衛星に搭載されていたCCD検出器による結果。緑の星印は可視光観測による楕円銀河に所属する星の元素量

 太陽は渦巻銀河である天の川銀河に位置しています。一方、銀河団中心部では楕円銀河やS0銀河が主要メンバーです。今回、太陽の鉄属の組成比が銀河団中心部のそれと一致していることがわかりました。つまり、鉄属元素の主要な生成源であるIa型超新星爆発の性質は、母銀河の性質(渦巻銀河か楕円銀河、S0銀河か)に依存しなさそうです。

 本研究結果は、Ia型超新星の爆発メカニズムに対しても新たな知見を付け加えました。Ia型超新星爆発の原因となる天体は白色矮星です。白色矮星は太陽質量の約6倍より軽い恒星の進化の最終段階の天体で、白色矮星の質量は太陽質量の約0.17倍から1.33倍と見積もられています。白色矮星が、連星の相手の恒星からの物質の輸送で質量が増加したり、白色矮星同士の合体が起こったりすると爆発に至る場合があると考えられています。そして、白色矮星がどの程度の質量に達してIa型超新星爆発を起こすかによって、マンガンやニッケルと鉄の組成比が変わることが予想されています。太陽質量の約1.4倍の質量で爆発すると、マンガンやニッケルと鉄の比は太陽組成比と同程度か若干高くなります。逆に、より軽い質量で爆発すると、マンガンやニッケルと鉄の比は太陽組成比よりも低くなります。今回、ペルセウス座銀河団中心部で得られた鉄属の組成比は太陽と同じだったことから、図3のように、この組成比を再現するためには、太陽質量の約1.4倍の質量で爆発するタイプと、もっと軽い質量で爆発するタイプがともに必要とわかりました。

図3: ASTRO-Hの観測から求められた鉄族元素の組成比(黒丸)。青、赤、緑、灰色の 色の範囲は、Ia型超新星と重力崩壊型超新星の組み合わせを考えた場合の組成比。

 ASTRO-Hは打上げ後約一ヶ月で不具合が発生し、衛星の機能を喪失してしまいました。現在、JAXAは国内外の大学・研究機関との協力の下、X線天文衛星代替機の計画を進めています。今後、軟X線分光検出器を搭載したX線天文衛星が実現すれば、元素の生成現場である超新星爆発の残骸や、銀河間空間に流れ出す元素、銀河団ガスに含まれる元素まで元素量を測定し、宇宙の化学進化史や物質循環の歴史を解明することができると期待されます。

発表媒体
雑誌名: Natureオンライン版 2017.11.13付、印刷版 November 23 issue(共に英国時間)
論文タイトル: Solar Abundance Ratios of the Iron-Peak Elements in the Perseus Cluster
著者: Hitomi collaboration
責任著者: Hiroya Yamaguchi, Kyoko Matsushita
DOI番号: 10.1038 / nature24301

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