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金星探査機「あかつき」が金星の雲の中に巨大な筋状構造を発見
数値シミュレーションによる再現・メカニズム解明にも成功

平成31年1月10日

国立大学法人 神戸大学
国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構
慶應義塾大学
京都産業大学 惑星気象研究センター
国立研究開発法人 海洋研究開発機構

 神戸大学大学院理学研究科の樫村博基助教ら研究グループは、日本の金星探査機「あかつき※1」による観測で、金星を覆う雲のなかに巨大な筋状構造を発見しました。さらに、大規模な数値シミュレーションにより、この筋状構造のメカニズムを解き明かしました。
 この研究成果は、1月9日に、英国科学誌「Nature Communications」に掲載されました。

ポイント

  • 金星探査機「あかつき」の赤外線カメラ(IR2※2)による観測画像を解析し、金星の分厚い雲の中に巨大な筋状構造を発見しました。
  • スーパーコンピュータ「地球シミュレータ※3」を駆使した数値シミュレーションにより、この巨大な筋状構造を再現することに成功し、その形成メカニズムを解明しました。
  • この筋状構造は、地球の温帯低気圧や移動性高気圧、ジェット気流※4をもたらす大気現象「傾圧不安定※5」が、金星を覆う雲の中でも発生していることを示すものだと判明しました。
  • 本研究は、日本の「あかつき」による金星探査と「地球シミュレータ」による大規模シミュレーションの連携による世界初の成果であり、金星気象学が新たな段階に達したことを示すものです。

研究の背景

 金星は、地球の双子星と呼ばれるように、太陽系内でその大きさや重力が地球とよく似た惑星ですが、金星に吹く風や気温は、地球のそれとは大きく異なっています。金星の自転は地球と比べて逆回転で非常にゆっくり(約243地球日で1回転)ですが、上空60km付近では自転よりもはるかに高速な、約4地球日で金星を1周するほど(時速約360km)の東風が吹き続けており、「大気スーパーローテーション(超回転)」と呼ばれています。金星の空は高度45~70kmにわたる分厚い硫酸の雲で全体が覆われているため地上望遠鏡や金星を周回する探査機からの観測は限られており、また気温は地表付近で摂氏460度にも達する厳しい環境であるため、大気に突入しての観測にも大きな困難が伴います。そのため、大気スーパーローテーションをはじめとする金星の大気現象については、未知・未解明の部分が多くあります。地球の双子星である金星の気象について調べることは、この宇宙の中での、現在地球の気象の特殊性や普遍性について理解を深めることにも繋がります。

 金星大気の謎に迫るため、日本の金星探査機「あかつき」は2015年12月に金星周回軌道に到着し、様々な観測を実施しています。なかでも波長2μmの赤外線を捉えるカメラ「IR2」は、可視光線や紫外線では上層の雲に遮られて分からない高度50km付近の下層雲※6を詳細に観測することができ、その結果、これまで知られていなかったダイナミックな構造の詳細が明らかになりつつあります。

 気象学の研究には観測のほか、数値シミュレーションによるアプローチも非常に重要です。気象の数値シミュレーションとは、大気の運動や状態を支配する物理法則の方程式をコンピュータを用いて計算することで、風や気温の状態や変化の様子を調べることを言います。地球では、日々の天気予報や台風の進路予報だけでなく、地球温暖化による気候変動予測など、あらゆる規模の大気現象が数値シミュレーションによって研究・予報されています。観測の乏しい金星の場合、数値シミュレーションによる研究がより重要になってきますが、観測が乏しいがゆえにシミュレーションの正確さを確認することが難しいという側面もありました。また、気象の数値シミュレーションは、大気全体を3次元メッシュに分割して計算するため、細かな構造を表現するには、処理能力の高いスーパーコンピュータを利用する必要があります。

 我々の研究グループでは、あかつきが観測をはじめる以前から、金星大気の数値シミュレーションのための計算プログラム「AFES-Venus※7」を開発してきました。AFES-Venusはこれまでにも、大気スーパーローテーションや「周極低温域」と呼ばれる金星の極域に特有な温度構造の再現に成功するなどの成果を上げています。また、海洋研究開発機構のスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を利用することで、高い空間解像度での数値シミュレーションを実現してきました。一方で、あかつき以前の観測的知見の乏しさから、AFES-Venusの高解像度シミュレーションが金星大気の細かな構造まで正しく再現できるのか定かではない状況でした。

研究の内容

 本研究では、あかつきIR2カメラが捉えた金星下層雲の詳細な観測データと、AFES-Venusによる高解像度シミュレーションの両者を比較・解析しました。図1左は、IR2カメラが捉えた金星下層雲の画像です。可視光線や紫外線を利用した通常の雲画像とは異なり、雲の薄い領域を下から透過してくる赤外線を観測しているため、明るいところほど雲が薄いことを示しています。注目すべきは、北半球では北西から南東にかけて、南半球では南西から北東にかけて、幅数百kmの幾本もの白い筋が束になり、1万km近くにわたって斜めに延びている構造です。しかも、赤道を挟んでおよそ南北対称に位置しています。このように細長く、南北対称性を有する構造は、あかつきIR2カメラによって初めて明らかになったものであり、我々はこれを「惑星規模筋状構造」と呼ぶことにしました。このような惑星規模の巨大な筋状構造は地球で観測されたことがなく、金星に特有の現象であると考えられます。

図1

図1:(左)あかつきIR2カメラで観測された金星下層雲(エッジ強調処理後)。明るい部分が雲の薄い領域を表す。黄色破線で囲った部分に惑星規模筋状構造が見られる。(右)AFES-Venusのシミュレーションで再現された惑星規模筋状構造。明るい部分が強い下降流を表す。(Nature Communications誌掲載論文の図を一部修正。CC BY 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/


 我々はAFES-Venusの高解像度シミュレーションで、この惑星規模筋状構造の再現を試み、成功しました(図1右)。このような細かな構造が観測とよく一致することは、AFES-Venusのシミュレーションの正しさを示すものだと言えます。

 次に、AFES-Venusのシミュレーション結果を詳しく解析することで、惑星規模筋状構造の成因を明らかにしました。筋状構造形成の鍵となるのは、意外にも日本の日々の天気とも関わりの深い「寒帯ジェット気流」でした。地球の中高緯度帯では、南北の大きな温度差を解消しようとする大規模な流れ(傾圧不安定)が、温帯低気圧や移動性高気圧、そして寒帯ジェット気流を形成しています。我々のシミュレーションの結果から、金星大気の雲層でも同様のメカニズムが働き、高緯度帯にジェット気流が形成されうることが示されました。一方、低緯度帯では、大規模な流れの分布や惑星の自転効果を復元力とする大気波動(ロスビー波※8)によって、赤道から緯度60度付近にまたがる巨大な渦が生じます(図2左)。そこにジェット気流が加わることで、渦が傾き、引き伸ばされ、北風と南風がぶつかる収束帯が筋状に形成されます。収束帯で行き場を失った南北風は、強い下降流となり、雲の薄い領域からなる惑星規模筋状構造を作り出していると考えられます(図2右)。また、このロスビー波は、雲層下部に存在する赤道をまたぐ波動(赤道ケルビン波※9)と結合しており、これによって南北対称性が維持されていることも分かりました。

図2

惑星規模筋状構造の形成メカニズム。ロスビー波によって生じた巨大な渦(左)が高緯度のジェット気流によって傾き、引き伸ばされる(右)。引き伸ばされた渦の内部では、筋状の収束帯が形成され、下降流が生じ、下層雲が薄くなる。金星は西向きに自転しているため、ジェット気流も西向きに吹くことに注意。

今後の展開

 本研究では、金星下層雲に惑星規模の巨大な筋状構造が見られること、それがAFES-Venusによるシミュレーションで再現されたこと、そして筋状構造が2種類の大気波動と傾圧不安定、およびジェット気流によって形成されている可能性が高いことを示しました。いくつもの大気現象が組み合わさった結果である惑星規模筋状構造が、シミュレーションでよく再現されているということは、シミュレートされた個々の大気現象も実際の金星で発生している可能性が高いことを示しています。

 これまでの金星気象学は、観測データもシミュレーションも空間解像度が粗く、東西方向に平均した量での議論や理解が主でした。本研究は、あかつきの観測とAFES-Venusの高解像度シミュレーションを用いることで、金星気象学を、細かな水平構造も議論できる新たな段階に引き上げたと言えます。今後も、あかつきとAFES-Venusの連携によって、地球の双子星でありながら、分厚い硫酸雲のベールに包まれた、金星気象の謎が解き明かされることが期待されます。

用語解説

※1 あかつき

日本の金星探査機。金星大気の謎を解明するために開発され、観測波長の異なる5台のカメラと電波掩蔽観測用の超高安定発振器を搭載する。日本の惑星探査機として初めて地球以外の惑星を回る軌道に入ることに成功した。2010年5月に打ち上げられた。同年12月に金星周回軌道に入る予定であったが、メインエンジンの故障により失敗。2015年12月に再挑戦の結果、金星を周回する軌道に入り、観測を開始した。

※2 IR2カメラ

あかつきに搭載されたカメラの1つで、波長約2μmの赤外線を観測する。この波長の赤外線は、高度30km付近の高温大気から射出されるが、高度50km付近の下層雲によって一部遮蔽される。下層雲の薄いところは、この赤外線が多く宇宙に達するので、IR2カメラで撮像したときに明るく写る。

※3 地球シミュレータ

海洋研究開発機構に設置されたスーパーコンピュータシステム。ベクトル型の大型計算機としては世界最高レベルの性能を誇る。2002年に初代地球シミュレータの運用が開始されて以降、システムが2度更新され、現在は3世代目。

※4 ジェット気流

惑星を東西帯状に一周する、高速な大気の流れ。地球大気中の主要なものとして、中高緯度帯の傾圧不安定にともなう寒帯ジェット気流と、低緯度帯のハドレー循環にともなう亜熱帯ジェット気流がある。

※5 傾圧不安定

南北の大きな温度差を解消しようとする大規模な流れの不安定現象。温帯低気圧や移動性高気圧の生成メカニズムとして、地球の中高緯度の気象において重要な役割を果たしている。

※6 金星の雲(下層雲)

高度45kmから70kmに存在する硫酸エアロゾルからなる雲。雲粒の大きさによって3種類に分類され、下の方に存在する最も粒径の大きいものをここでは下層雲と呼んでいる。

※7 AFES-Venus

金星大気全体の数値シミュレーションを実施するための計算プログラム。地球シミュレータの性能を最大限活用できるように最適化された、地球大気シミュレーション用プログラム「AFES(Atmospheric GCM For the Earth Simulator)」を、金星大気用に改修したものである。地球シミュレータ上で動かすことで、世界最高レベルの高解像度シミュレーションを実現した。

※8 ロスビー波

惑星の自転の影響(コリオリの力)や大規模な流れ場による回転の効果が緯度によって異なることによって大気中を伝わる波動。回転の向きが異なる渦を交互に生み出しながら伝播する。通常、地球では西向き、金星では東向きに伝わる。

※9 赤道ケルビン波

赤道域に存在する大規模な大気波動のひとつ。水面の波のように重力を復元力とする。惑星の自転の影響を受けて、赤道で波の振幅が最大となる南北対称な構造を維持しながら、地球では東向き、金星では西向きに伝わる。

謝辞

 本研究は、地球シミュレータ利用課題「AFESを用いた地球型惑星の大気大循環シミュレーション」及び「AFESを用いた金星・火星大気の高解像度大循環シミュレーション」と文部科学省ポスト「京」萌芽的課題3「太陽系外惑星(第二の地球)の誕生と太陽系内惑星環境変動の解明」の一環として実施しました。また、日本学術振興会科学研究費助成事業16H02225、16K17809、17H02961の助成を受けました。AFES-Venusの高解像度計算には、海洋研究開発機構の支援のもと地球シミュレータを使用しました。最後に、金星探査機あかつきに関わるすべての方に感謝申し上げます。

論文情報

  • タイトル
    “Planetary-scale streak structure reproduced in high-resolution simulations of the Venus atmosphere with a low-stability layer”
  • 著者
    樫村 博基(神戸大学 大学院理学研究科 惑星学専攻/惑星科学研究センター)
    杉本 憲彦(慶應義塾大学 法学部 日吉物理学教室/自然科学研究教育センター)
    高木 征弘(京都産業大学 理学部 宇宙物理・気象学科/惑星気象研究センター)
    松田 佳久(東京学芸大学 教育学部)
    大淵 済(神戸大学 大学院理学研究科 惑星学専攻/惑星科学研究センター)
    榎本 剛(京都大学 防災研究所 気象・水象災害研究部門; 海洋研究開発機構 アプリケーションラボ)
    中島 健介(九州大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)
    石渡 正樹(北海道大学 大学院理学研究院 宇宙理学専攻)
    佐藤 隆雄(北海道情報大学 経営情報学部 システム情報学科)
    はしもと じょーじ(岡山大学 大学院自然科学研究科 地球科学専攻)
    佐藤 毅彦(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 太陽系科学研究系; 総合研究大学院大学 物理科学研究科 宇宙科学専攻)
    高橋 芳幸(神戸大学 大学院理学研究科 惑星学専攻/惑星科学研究センター)
    林 祥介(神戸大学 大学院理学研究科 惑星学専攻/惑星科学研究センター)
  • 掲載誌
    Nature Communications

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