2021年(令和3年)2月理事長定例記者会見

理事長定例記者会見

山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします

日時:2021年(令和3年)2月19日(金) 13:30-14:15

場所:オンライン会見

司会:広報部長 鈴木 明子

山川理事長

光データ中継衛星に搭載した光通信機器と情報通信研究機構(NICT)光地上局との捕捉追尾に成功

 昨年11月に種子島宇宙センターから打ち上げました光データ中継衛星に搭載している光衛星間通信システム(LUCAS)は、現在、軌道上にて、機器動作の確認等のチェックアウト作業を継続して実施しているところです。このチェックアウト作業の一環としまして、1月27日から実施した試験において、約4万km離れたLUCASの光通信機器と、そしてNICT殿の光地上局との間で、双方向の光リンクを確立し、捕捉そして追尾に成功いたしました。
 光データ中継衛星の実際の通信相手としては、「だいち3号」(ALOS-3)等の低軌道衛星となります。本試験では、NICT殿の光地上局を低軌道衛星とみなして実施したものです。光データ中継衛星と光地上局がお互いに信号を捕捉できること、そして通信を維持するために必要な追尾動作が正常に機能したことなど、宇宙空間において計画通りに性能を発揮することが確認できました。これは、LUCASの最重要技術要素であります、4万km離れた場所から直径約0.5kmの範囲にある通信相手を捕捉・追尾する機能性能をまさに実証したことになります。
 LUCASの通信相手となります「だいち3号」衛星は、打上げ計画が変更となっておりますが、衛星軌道上での光通信の運用実証に備えて、今回の試験のように準備を一つひとつ、着実に積み重ねてまいります。

 関連して「はやぶさ2」の話題ですが、昨年12月、カプセル回収の後に拡張ミッションに移行しており、地球から遠ざかりつつある「はやぶさ2」においても、レーザ高度計(LIDAR)を用いて、LIDARと地上局とをレーザ光で結ぶ光リンク実験を実施して成功しております。
 この「はやぶさ2」の実験におきまして、フランスのコートダジュール天文台・グラース局とは双方向の光リンクを確立しました。グラース局と「はやぶさ2」との距離は、昨年12月9日では約100万km、そして12月21日では約600万kmでの実験でした。その他にも、NICT殿の小金井局及びオーストラリア・ストロムロ衛星レーザ測距施設とも、地上から「はやぶさ2」に向けた光通信(地上から「はやぶさ2」に向けるアップリンク)を行い、「はやぶさ2」が受信できたことを確認しました。
 今回の「はやぶさ2」の光リンク実験の意義は、太陽によるノイズが多い昼間にリンク確立することに成功したこと、そして将来の深宇宙レーザ測距の可能性と高精度の軌道決定に向けた技術蓄積などが挙げられます。

静止軌道における国内初のGPS航法の実現について

 引き続き、光データ中継衛星の話題となりますが、光データ中継衛星に搭載いたしました静止衛星用のGPS受信機において、このたびJAXAは、静止軌道上でリアルタイムかつ安定そして継続したGPS航法を実現できることを確認いたしました。この静止衛星用GPS受信機は、JAXAと日本電気株式会社殿、NECスペーステクノロジー株式会社殿が共同で開発をしました。開発しましたのは、微弱なGPS信号の捕捉そして追尾、さらにメッセージ復号を可能とする技術で、これを用いた今回の取り組みとなります。
 GPS航法は、低軌道衛星においては、高精度な軌道決定や衛星搭載システムの正確な時刻基準、そして衛星搭載システムによって衛星自身が軌道制御を行う自律軌道制御などに広く普及しているものです。しかし、GPS衛星よりも高い高度に位置する静止衛星は、地球のほぼ反対側にありますGPS衛星からの信号であれば受信をすることはできますが、距離が遠いために微弱となるGPS信号をとらえることが難しく、利用は普及しておりませんでした。
 GPS測位には最低4つの衛星が必要ですが、本受信機は静止軌道上で平均8~9機の衛星を捕捉そして追尾しており、安定したGPS航法を継続できることを確認いたしました。
 静止軌道上でのGPS航法を安定的に利用することができれば、軌道決定の精度が飛躍的に高まります。また、静止衛星自身がリアルタイムで高精度な軌道情報を利用することで軌道制御を自動化することができ、衛星の能力が大きく向上します。また、地上局で行っていた運用も効率化を図ることが可能となります。
 今回の実験で得られた成果を踏まえまして、商業衛星を含む静止衛星市場に向けて、NECスペーステクノロジー株式会社殿が本受信機を販売開始されると聞いております。GPS航法の利用そして普及が進むことを期待しております。JAXAは、今後、さらに受信機に改良を加えて、現在開発中の技術試験衛星9号機(ETS-9)に搭載して自律的な軌道制御を実施することを目指します。

欧州宇宙機関(ESA)との協力について

 今月2月4日に、欧州宇宙機関(ESA)のヴァーナー長官とオンラインで会談を行いました。会談では、地球観測、宇宙科学・探査など、広範にわたる両機関の協力案件につきまして進捗状況を確認するとともに、引き続き、相互に協力関係を維持・発展させていくことを確認いたしました。
 また、この会談の機会をとらえまして、ESAとJAXAの間で、ESAの二重小惑星探査計画「Hera(ヘラ)」、およびJAXAの火星衛星探査計画「MMX」における協力協定を締結いたしました。
 「Hera」は、欧米共同の小惑星衝突・軌道変更実験(AIDA)の一環となります、ESAが主導する小惑星観測機です。米国航空宇宙局(NASA)の小惑星衝突機「DART」とESAが担当する「Hera」観測機で構成されるミッションであり、将来地球に接近・衝突する可能性のある小惑星の軌道を変えて被害を未然に防ぐための取り組み“プラネタリー・ディフェンス(惑星防衛)”に貢献することを目的としているものです。
 今回のJAXAとESAの間の協定におきましては、JAXAは、ESAの観測機「Hera」に小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載実績を持ちます熱赤外カメラを提供すること、また、サイエンス協力を通じてJAXAもミッションに貢献することに合意をいたしました。

 また、JAXAは、火星衛星の起源や火星圏の進化の過程を明らかにすることを目的としまして、火星衛星探査計画「MMX」を進めております。火星を周回している火星の衛星でありますフォボス・ダイモスや火星自体の科学観測を行うとともに、衛星でありますフォボスに着陸をして、その表面から砂を採取して地球に帰還することを目指す、国際的に注目度の高いサンプルリターンミッションです。
 今回の協定におきましては、ESAは「MMX」に通信機器を提供すること、ESAの地上局を使って「MMX」探査機の追跡管制支援を行うこと、そして、サイエンス協力を通じてESAもミッションに貢献することに合意をいたしました。
 今後もJAXAは、欧州をはじめ、各国との宇宙分野における国際協力を積極的に推進してまいります。

野口宇宙飛行士の国際宇宙ステーション(ISS)活動状況/星出宇宙飛行士打上げに向けた訓練最新状況

 現在、ISSに滞在中の野口聡一宇宙飛行士は、順調に軌道上の作業を実施しております。「きぼう」上では、野口宇宙飛行士の作業で固体燃焼実験装置(SCEM)を設置し、火災安全性向上に向けた固体材料の燃焼現象に対しての重力の影響を評価する、FLAREという名前の実験の実施に向けて装置の準備を進めているところです。
 また、野口宇宙飛行士は、来週22日の日本時間18時40分頃、ロボットアームを操作してノースロップ・グラマン社のシグナス補給船の運用15号機を把持(キャプチャ)する予定です。このシグナス補給船は、近日中に米国のバージニア州にありますNASAのワロップス飛行施設からアンタレスロケットで打ち上げられる予定です。今後予定している船外活動とともにISSでの活動を支える重要な運用業務ですが、これまでの経験や訓練の成果を活かして任務を遂行してくれると信じております。

 また一方、星出宇宙飛行士は、米国商業宇宙船運用2号機(クルードラゴン2号機)の搭乗に向けて、同乗します3人の飛行士と共に訓練を実施しているところです。この1月から2月にかけましては、米国カリフォルニア州のスペースX社でクルードラゴンに関する訓練をしており、また、ロシア、ドイツでISSの運用に関する訓練を順調にこなしました。現在は米国テキサス州ヒューストンで引き続き訓練を実施しております。

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