トピックス

2021年

2021年3月

2021年3月4日 更新
GSMaPが台風委員会の地域の洪水予測に大きく貢献し「キンタナール賞」を受賞!

水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM)、国際建設技術協会(IDI)とJAXAのジョイントチームが「キンタナール賞」を受賞しました。

キンタナール賞とは、国際連合アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)と世界気象機関(WMO)の下に、台風による被害を軽減するべく設立された政府間組織である「台風委員会(Typhoon Committee)」の活動に大きく貢献した機関を対象に、年1回授与されます。

JAXAは、衛星全球降水マップ(GSMaP)※を開発・提供しており、このGSMaPが台風委員会の地域の洪水予測に大きく貢献しました。「キンタナール賞」の受賞は、気象庁を除く、日本の機関としては初となります。

受賞スピーチを行うICHARM小池センター長

2021年2月23~25日に日本の主催によりオンラインで開催された
台風委員会第53回総会にて受賞スピーチを行うICHARM小池センター長

衛星全球降水マップGSMaP

2021年3月3日 更新
JAXA機関紙「JAXA's」アンケートについて【ご協力いただいた方にオリジナルファイルをプレゼント!!】

77号にフルリニューアルして以降、現在82号まで発行しているJAXAの機関紙「JAXA's(ジャクサス)」。
リニューアルのポイントは、これから10年先を見据えた宇宙航空コミュニティの開拓です。宇宙航空コミュニティが科学と技術の分野から、日常の生活、文化や芸術の世界まで、さまざまなジャンルにつながっていくことを目指し、毎号さまざまな企画を立て発行しています。
本アンケートは、より皆さまに読んでいだくための編集に役立てることを目的としています。
アンケートにご協力いただいた方の中から抽選で「JAXA’sオリジナルファイル」をプレゼントさせていただきますので、何卒ご協力のほどよろしくお願いいたします。

【アンケート】ご回答はこちらをクリック外部リンク

【回答締め切り】 2021年3月10日(水)

【設問数】36問(個人情報の記入欄を除く)

【JAXA'sオリジナルファイル概要】クラフト紙製、A4サイズ相当、中袋12枚

【JAXA'sオリジナルファイル当選人数】 100名様
(※当選者の発表はファイルの発送をもってかえさせていただきます)

アンケート対象のJAXA's(82号~77号)

アンケート対象のJAXA's(82号~77号)

JAXA'sオリジナルファイル(イメージ)

JAXA'sオリジナルファイル(イメージ)

2021年3月2日 更新
天体表層で水はシンプルに作られる

天体表層で水はシンプルに作られる

仲内 悠祐氏(JAXA)率いる研究チームは、太陽から放出されている水素イオンが月や小天体表層で珪酸塩鉱物(地球,月や小天体の主要構成鉱物)に衝突することで水分子(H2O)が生成されることを実験から実証しました。

2021年2月

2021年2月26日 更新
フランス国立宇宙研究センター(CNES)との会談の実施について

JAXA山川理事長およびCNESルガル総裁は、2021年2月25日にオンラインで会談を行いました。
会談では、山川理事長から昨年12月に小惑星探査機「はやぶさ2」の再突入カプセルが無事地球へ帰還し、小惑星「リュウグウ」のサンプルが確認できたことが伝えられるとともに、CNESから回収したサンプルを分析するキュレーション設備に組み込む赤外分光顕微鏡(MicrOmega)の提供などで貢献いただいたことへの感謝を述べました。
その他、地球観測、宇宙科学、宇宙輸送など、広範にわたる両機関間の協力案件の進捗が確認されるとともに、引き続き協力関係を維持・発展させていくことが合意されました。

JAXA 山川理事長とCNES ルガル総裁

2021年2月26日 更新
VOS(Vehicle On Stand)作業を振り返って

H3ロケット

工場出荷から11日目の2021年2月6日、ついにH3ロケット試験機1号機が移動発射台(ML5)に据え付けられました。大型ロケット組立棟(VAB:Vehicle Assembly Building)内にそびえ立つ機体は雄々しくも愛着の持てる存在です。そんな機体に見入りながら、VOS(Vehicle On Stand)作業を振り返ってみます。

島間港に到着した1段機体

島間港に到着した1段機体

種子島の港に到着した巨大なコンテナを目の当たりにすると「いよいよ射場作業が始まる!」という興奮と共に、不安がよぎります。新しいことだらけのVOS作業。設計通りにうまくいくだろうか。出鼻をくじくように発生した島内輸送中の立ち往生事象や、VAB搬入口をギリギリでかわして入棟するコンテナが、そんな私の不安を増大させました。
しかし、不安に思っていても仕方がない、あとは現場で何とかするしかない。そういう境地に至るべきということは、経験豊富な先輩たちや現場作業員の方々の凛々しい目が語っていました。各自が今できることに集中して自分の頭で考え、かつ関係者が柔軟に連携することでVOS作業を無事に終えられると信じ、意を決して作業に臨みました。

1段VOS作業

1段VOS作業

新しいことだらけのH3ロケットのVOS作業では、新しいのは機体だけでなく、機体を組み立てるために必要な装置・設備もまたしかりです。しかも機体サイズはこれまでで最大のH-IIBロケットより更に大きくなっているのに対し、VOS作業を行うVABは大きさ変更の改修をしていません。そのため、これまで以上に「狭いところで大きなものをハンドリングする」ということとなり、「干渉リスクが高い」状況を必然的に生んでいます。

移動発射台に据え付けられた1段機体

移動発射台に据え付けられた1段機体

2段VOS作業

2段VOS作業

設計段階からわかっていたそのような厳しい作業条件に対し、事前に入念な確認をして臨んだものの、想定通りの作業ができない事態が幾度も発生しました。H3ロケットは時間にも追われる開発です。VOS作業もスケジュール遅延は避けなければなりません。そんなプレッシャーがある一方で、ひとつのミスが文字通り命取りになる可能性があるのがロケット開発です。事前に設定した作業ができないときにはまずしっかり立ち止まり、新しい作業案を関係者一同で確認するという基本動作を徹底し、時間と争いながらも慎重に、安全第一で作業を進めました。

固体ロケットブースタ(SRB-3)VOS作業

固体ロケットブースタ(SRB-3)VOS作業

初めて尽くしの現場では、上手くいかないことも含めてたくさんの発見がありました。多忙を極める現場でしたが、そんな合間を縫って作業者・技術者が入り混じっての改善検討が自然発生的かつ積極的に行われたことに、感動を覚えました。「このH3ロケットを、さらに”次”のロケットを、より良くしたい」現場にはそんな思いがたくさんあった気がして、次世代を担うべき一人として嬉しく、やや興奮しながら議論を交わした経験はとてもありがたいものでした。

そんなこんなで無事にVOS作業を終えたH3ロケット試験機1号機。作業者の方がとても丁寧に機体を扱われていたのが印象的で、すみずみまでとても美しく仕上がっている機体を見ると、疲れも吹き飛びます。とは言え、今後も機器や装置を搭載し、機能を確認していく作業が待っています。射場作業は始まったばかり。引き続き気を引き締めて頑張ります。

JAXA構造系担当 長福 紳太郎

2021年2月22日 更新
小惑星探査機「はやぶさ2」帰還カプセル公開【相模原市立博物館・国立科学博物館】

このたび、相模原市立博物館・国立科学博物館にて、小惑星探査機「はやぶさ2」が地球へ届けた再突入カプセルを公開いたします。
カプセルの各部パーツを展示するとともに、「はやぶさ2」が成功させた6年間にわたるミッションの軌跡をご紹介します。

クーバーペディの火球

2021年2月22日 更新
観測ロケット実験CLASP2による太陽大気磁場測定:太陽表面からコロナ直下に迫る

石川遼子助教(国立天文台)とJavier Trujillo Bueno教授(カナリア天体物理学研究所)を中心とした国際研究チームは、ロケット実験CLASP2と「ひので」衛星による観測を組み合わせ、太陽表面からコロナ直下に至る磁場構造を世界で初めて明らかにしました。CLASP2は、日米仏が共同開発した観測装置で、NASAの観測ロケットにより2019年4月に打ち上げられました。そして、約6分半の間、太陽表面上空に広がる彩層からの紫外線の偏光観測に成功しました。同時に、宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所が国内外の研究機関と協力して運用する「ひので」は太陽表面の磁場を精密に観測しました。これにより、太陽表面に点在して見られる磁束管が、彩層で急激に膨張し互いにひしめき合っていくという、今まで想像のみであった太陽磁場の彩層での姿が明らかになりました(図1)。本研究成果は、太陽物理への新しい知見をもたらすとともに、太陽観測研究に彩層磁場の測定という新しい窓を切り拓きました。

本研究成果は、2021年2月19日(アメリカ東部標準時)に米国科学振興協会が発行するScience系雑誌「Science Advances」に掲載されました。

研究概要

太陽大気は表面(6千度)よりも、その上層にある彩層(1万度)、さらにその上層に広がるコロナ(100万度)の方が温度がはるかに高く、いかなる仕組みでこのように高温な大気層が作られているのかよくわかっていません。また、彩層はコロナに比べて密度が高く、コロナを加熱・維持するよりも多くのエネルギーが必要であることが知られています。これを「彩層・コロナ加熱問題」と呼び、観測と理論の両面からさまざまな研究が活発に行われ、太陽表面とコロナの間に位置する「彩層」が重要な役割を果たしていると考えられています。しかし、加熱に必要な大気の運動やエネルギー輸送の担い手である「磁場」の彩層での様子はこれまでほとんど明らかになっておらず、その理解を阻む大きな障壁となっていました。

彩層・コロナ加熱問題解明に大きな一歩をもたらすべく、彩層の磁場測定を目的とした新たな観測装置の開発が世界中で活発に行われています。このような世界的情勢の中で、国立天文台をはじめとした日米欧研究チームが着目したのが、近年の理論研究により磁場測定が可能であることが示唆された「紫外線の偏光」です。紫外線は宇宙からの観測が必須となること、またその偏光を精度良く測る観測装置の開発も極めて困難であることから、「紫外線の偏光」は長らく未踏の領域となっていました。これに挑戦したのが、観測ロケット実験CLASP(2015年打ち上げ)、そしてCLASP2(2019年打ち上げ)です。

今回、石川遼子(国立天文台)とJavier Trujillo Bueno(カナリア天体物理学研究所)が率いる国際研究チームが解析を行ったのが、観測ロケット実験CLASP2で取得されたデータです。CLASP2はその飛翔中、活動領域を2分半にわたって観測し、電離マグネシウム線(波長280nm)近辺の紫外線偏光スペクトルを世界で初めて取得しました(図2)。そして驚いたのが、CLASP2打ち上げ前からの標的であった電離マグネシウム線(図2右でMg II k, Mg II hと表記)に加え、その近傍にある2つのマンガン線(図2右でMn Iと表記)にも、ゼーマン効果によって有意な円偏光が検出されたことです。電離マグネシウム線はコロナ直下の彩層中〜最上部から放射される一方、マンガン線は彩層底部から放射されます。これら複数の偏光情報により、彩層底〜中〜最上部の連続した磁場情報を得ることができるのです。さらにCLASP2は、太陽表面の磁場を測定する「ひので」衛星との共同観測にも成功しました(図2左下)。

このようにCLASP2と「ひので」の観測を組み合わせて得られたのが、太陽表面から彩層底部、彩層中部、そしてコロナ直下の彩層上部に至る活動領域の磁場の様子です(図3)。図3の緑線で示された、大きく変動した空間分布は、太陽表面ではキュッとすぼまったチューブ状の「磁束管」が、互いに少しずつ離れて分布していることを示しています。一方の彩層では(図3の青、黒、赤の丸)その振る舞いは大きく異なり、[1]太陽表面に比べて急激に磁場強度が弱まること、[2]彩層の中でも上空に行くに従って徐々に磁場が弱くなっていること、[3]太陽表面で磁場が弱い場所でも彩層では比較的強い磁場が存在すること(例えば図3の黒矢印で示した場所)、がわかりました。これらのことから、磁束管が彩層で急激に膨張し互いにひしめき合っていくという、これまで太陽研究者が想像するも、その証拠が得られなかった彩層磁場の様子が初めて観測から明らかになったのです(図1)。

さらに、電離マグネシウム線の強度スペクトルから彩層上部のエネルギー密度(電子密度と温度の積)を求めたところ、彩層上部の磁場(図3の赤丸)と非常に高い相関が得られました。これは、彩層加熱が磁場起因であること、さらにはその加熱機構に迫る上で太陽表面の磁場情報では不十分であり、彩層上部での磁場測定が必須であることを明瞭に示しました。今後、CLASP2で明らかになった太陽表面からコロナへ連なる磁束管の姿を元に、磁場がどのようにして太陽大気層を結合させているのか、異なる大気層間でどのようにエネルギーが伝達されていくのか、といった研究が進んでいくと期待されます。

今回のCLASP2は、NASAの観測ロケットに搭載され、米国ホワイトサンズ砂漠にて打ち上げられました(図4)。CLASP2観測装置は観測終了後、パラシュートで砂漠に無傷で帰還し、現在NASAマーシャル宇宙飛行センターに保管されています。CLASP2チームは、この観測装置をもう一度飛翔させるCLASP2.1計画を進めています。CLASP2の観測はスリットを固定して行ったため、スリットに沿った磁場情報しか得られませんでした。CLASP2.1計画ではスリットを少しずつ横に動かすことで、(空間2次元+高さ=)3次元の磁場マップの取得を目的としています。観測ロケットを使った実験は、計画立案から実施まで迅速に進めることが可能であり、将来の太陽衛星計画につながるような挑戦的な研究やそれを可能にする技術実証を行うことができます。また、将来の太陽衛星計画などで装置開発を主導して活躍できる若手研究者や大学院学生を育てる機会としても、有効な機会となっています。今後、CLASP2以外にも、SUNRISE-3気球実験やハワイで科学観測が始まりつつある巨大太陽望遠鏡DKIST(Daniel K. Inouye Solar Telescope)など、世界中の様々な観測装置での彩層磁場観測への挑戦は続きます。

最後に忘れてならないのが、彩層〜コロナの温度、ダイナミクスの詳細な観測により加熱の現場を捉えるということです。これに取り組むのが、日本が中心となって欧米と開発を進めている次期太陽観測衛星Solar-C (EUVST)です。CLASP2では、電離マグネシウム線(波長280nm)近辺の紫外線スペクトルに着目し、観測装置の光路内にて波長板を精密に一様回転させることを実現させ、そのスペクトルの偏光を精密に測定しました。一方EUVSTは、偏光計測は行いませんが、さらに波長が短い真空紫外線(波長17nmから120nm)に存在する彩層〜コロナの温度を起源とする様々なスペクトル線を高分解能に観測します。これにより、エネルギーが輸送され加熱が起きる現場を初めて詳細に捉えることができると期待されます。

用語説明

・磁場の測定と彩層磁場
スペクトル線に生じる偏光(光の偏り)を観測することで、磁場の測定を行う。これまで、太陽表面の磁場は、ひので衛星や地上望遠鏡などによって精力的に観測が行われ、その性質がとても詳しく調べられてきた。しかし、彩層の磁場は太陽表面の磁場に比べて弱く、また、偏光が発生する過程もより複雑であるために、生じる偏光の検出は容易ではない。近年、彩層磁場観測に最適なスペクトル線や観測技術の開拓がはじまった。

・CLASP (Chromospheric Lyman-Alpha Spectro-Polarimeter)
CLASP2の前身。2015年に打ち上げを行った観測ロケット実験で、彩層中の水素が出すライマンアルファ線(波長122nm)の偏光分光観測を行った。理論的に予測されていた散乱偏光及び磁場による散乱偏光の変化(ハンレ効果)の観測に世界で初めて成功し、大きな成果を挙げた。また、3次元太陽大気モデルを用いた模擬観測との比較により、彩層上部が、これまで考えられていたよりも複雑な大気構造を持つことも明らかとなった。一方で、ベクトル磁場情報を得るのに重要なゼーマン効果による円偏光は、ライマンアルファ線には生じないため、直線偏光のみの観測であった。

・CLASP2 (Chromospheric LAyer Spector-Polarimeter)
日本、アメリカ、フランス、スペインが共同で開発を進めた観測ロケット実験。電離マグネシウム線(波長280nm)の観測を行えるよう、CLASP打ち上げ後無事回収した観測装置を日本へ持ち帰り、改造を施した。国立天文台先端技術センターにあるクリーンルームで組み立てと性能評価試験を行った後は、アメリカ合衆国に輸出し、2019年4月11日ホワイトサンズミサイル実験場にて打ち上げられた。

・活動領域
黒点などの強い磁場が集中した領域。今回CLASP2が観測したのは、活動領域の中でもプラージュと呼ばれる明るくて磁場が比較的強い場所。

・ゼーマン効果
磁場によってスペクトル線が分離する量子力学的効果。黒点のように磁場が強い場所であれば、スペクトル線の分離を容易に検出することができる。また、分離が顕著でなくても、磁場強度に応じた偏光が発生することを利用し、CLASP2では各スペクトル線の円偏光から視線方向の磁場強度を導出した。

宇宙探査時代の新たな宇宙飛行士選抜への挑戦

図1観測ロケット実験CLASP2と「ひので」衛星の共同観測から明らかになった、太陽表面から彩層最上部に至る磁束管の様子。4つの高さ(太陽表面、彩層低・中・最上部)で磁場を観測した。©国立天文台

図1観測ロケット実験CLASP2と「ひので」衛星の共同観測から明らかになった、太陽表面から彩層最上部に至る磁束管の様子。4つの高さ(太陽表面、彩層低・中・最上部)で磁場を観測した。©国立天文台

図2:本研究で用いた観測データ。CLASP2は緑実線で示されたスリットの位置での偏光スペクトル(右側の上下のパネル)を得た。スリットを当てていた位置とその周辺の太陽彩層の様子は、CLASP2に同じく搭載された撮像カメラ(SJ)で示されている(左上のパネル)。太陽表面磁場の詳細は、ひので衛星に搭載された可視光望遠鏡から得られた(左下のパネル)。白黒がN極, S極で磁場の強いところを表している。背景は、SDO衛星で観測された太陽彩層の全面像。©国立天文台, IAC, NASA/MSFC, IAS

図3: 太陽表面からコロナ直下に至る磁場分布。CLASP2のスリット(図2の緑線)に沿った各高さでの磁場強度を示す。©国立天文台, IAC, NASA/MSFC, IAS

図3: 太陽表面からコロナ直下に至る磁場分布。CLASP2のスリット(図2の緑線)に沿った各高さでの磁場強度を示す。©国立天文台, IAC, NASA/MSFC, IAS

図4:  観測ロケットCLASP2の打上げ。Credit: US Army Photo, White Sands Missile Range

図4: 観測ロケットCLASP2の打上げ。Credit: US Army Photo, White Sands Missile Range

論文情報

タイトル:“Mapping Solar Magnetic Fields from the Photosphere to the Base of the Corona”
掲載雑誌:Science Advances, 19 Feb 2021: Vol. 7, no. 8, eabe8406 (2021年2月19日出版)
DOI: 10.1126/sciadv.abe8406 外部リンク

共同研究グループ

石川 遼子 自然科学研究機構国立天文台 助教
Javier Trujillo Bueno カナリア天体物理学研究所(スペイン)
Tanausú del Pino Alemán カナリア天体物理学研究所(スペイン)
岡本 丈典 自然科学研究機構国立天文台 NAOJフェロー
David E. McKenzie NASAマーシャル宇宙飛行センター(米国)
Frédéric Auchère フランス宇宙天体物理学研究所(フランス)
鹿野 良平 自然科学研究機構国立天文台 教授
Donguk Song 自然科学研究機構国立天文台 特任研究員
吉田 正樹 自然科学研究機構国立天文台/総合研究大学院大学 博士課程
Laurel A. Rachmeler アメリカ海洋大気庁(米国)
小林 研 NASAマーシャル宇宙飛行センター(米国)
原 弘久 自然科学研究機構国立天文台 准教授
久保 雅仁 自然科学研究機構国立天文台 助教
成影 典之 自然科学研究機構国立天文台 助教
坂尾 太郎 宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所 准教授
清水 敏文 宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所 教授
末松 芳法 自然科学研究機構国立天文台 准教授
Christian Bethge コロラド大学 (米国)
Bart De Pontieu ロッキードマーチン太陽天体物理研究所 (米国)
Alberto Sainz Dalda ロッキードマーチン太陽天体物理研究所 (米国)
Genevieve D. Vigil NASAマーシャル宇宙飛行センター (米国)
Amy Winebarger NASAマーシャル宇宙飛行センター (米国)
Ernest Alsina Ballester ロカルノ太陽研究所(スイス)
Luca Belluzzi ロカルノ太陽研究所(スイス)
Jiri Stepan チェコ科学アカデミー天⽂学研究所(チェコ)
Andrés Asensio Ramos カナリア天体物理学研究所(スペイン)
Mats Carlsson オスロ大学(ノルウェー)
Jorrit Leenaarts ストックホルム大学(スウェーデン)

研究助成

CLASP2の開発は、国立天文台、宇宙航空開発機構・宇宙科学研究所(ISAS/JAXA)、アメリカ航空宇宙局マーシャル宇宙飛行センター(NASA/MSFC)、フランス宇宙天体物理学研究所(IAS)、カナリア天体物理学研究所(IAC)他の共同で行いました。

本研究を含む日本でのCLASP2の研究開発は以下の研究資金で進めました。

  • 2019〜2021年度 JSPS科研費 JP19K14771(若手研究 研究代表者:石川遼子)
  • 2019年 国立天文台若手研究者海外派遣プログラム(石川遼子)
  • 2017〜2019年度 JAXA 宇宙科学研究所小規模計画「小規模太陽観測プロジェクト(CLASP2+SUNRISE-3)」
  • 2016〜2018年度 JSPS科研費 JP16H03963(基盤研究(B) 研究代表者:石川遼子)
  • 2016年度 国立天文台共同開発研究(研究代表者:石川真之介)
  • 2015年度 宇宙科学研究所国際共同ミッション推進経費(研究代表者:石川遼子)
  • 2013〜2017年度 JSPS科研費 JP25220703(基盤研究(S) 研究代表者:常田佐久)

また、国外でのCLASP2の開発は、

  • NASA Award 16-HTIDS16_2-0027(アメリカ, 研究代表者: David McKenzie)
  • The European Research Council (ERC) under the European Union’s Horizon
    2020 research and innovation programme (Advanced Grant agreement No. 742265, スペイン, 研究代表者: Javier Trujillo Bueno)
  • 2CNES funds CLASP2-13616A and 13617A(フランス, 研究代表者:Frédéric Auchère)

で進めました。

関連リンク

各共同発表機関のプレスリリース

各共同発表機関へのリンク

2021年2月15日 更新
第2回「きぼう」ロボットプログラミング競技会参加チームの募集開始について

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、国際宇宙ステーション(ISS)・「きぼう」日本実験棟において、ISS船内ドローンを使用した第2回「きぼう」ロボットプログラミング競技会を2021年度に開催します。この度、参加チームの募集を開始しましたのでお知らせします。

【募集詳細と参加申し込み】
【募集締切】

2021年5月16日 午後11時59分(日本時間)まで

【募集対象】

日本を含むKibo-ABC加盟国の大学院生までの学生によるチームであること

第2回「きぼう」ロボットプログラミング競技会

2021年2月10日 更新
アルファヒーム駐日アラブ首長国連邦大使表敬について

2021年2月8日、JAXA山川理事長、石井理事が昨年12月に着任されたアルファヒーム駐日UAE大使を表敬訪問しました。
JAXA山川理事長からは、昨年7月にJAXA種子島宇宙センターからH-IIAロケットにより打上げた火星探査機「HOPE」が、UAE建国50周年の記念すべき年に火星に到達することへの祝意を伝えるとともに、今後の宇宙分野における両国の協力可能性について意見交換を行いました。

アルファヒーム駐日UAE大使(右)と山川理事長(中央)、石井理事(左)による意見交換(出典:UAE大使館)
JAXAメダル贈呈

アルファヒーム駐日UAE大使(右)と山川理事長(中央)、石井理事(左)による意見交換

(出典:UAE大使館)

2021年2月10日 更新
【オンライン配信】宇宙飛行士候補者の募集等に向けたイベント情報

 日本人宇宙飛行士の月面での活躍が想定される2020年代後半以降に向けて、約13年ぶりの日本人宇宙飛行士候補者の新規募集を今年秋頃に開始予定です。今回の募集では、より多くの方からのご応募や日本中からの応援につなげるために様々なプレーヤーと連携した新たな取り組みにも挑戦したいと考えております。このような背景を踏まえ、本イベントではこれからの時代に求められる飛行士の資質や新たな選抜プロセスの可能性について様々な業界の多様な視点から議論いただきます。

宇宙探査時代の新たな宇宙飛行士選抜への挑戦

2021年2月9日 更新
JAXAのアルゴリズムとエムティーアイの航空気象情報を活用し航空気象システム『ARVI』での被雷予測エリアの可視化に成功

 JAXA航空技術部門と株式会社エムティーアイ(以下、エムティーアイ)は、2019年11月より航空機の被雷回避に向けた共同研究を実施しています。
 今回、JAXAが研究する「被雷危険性予測技術」から算出されるアルゴリズムの誘発雷の検出率85.1%※1のデータに気象状況を加え、エムティーアイが企画・開発した航空気象システム『ARVI(アーヴィー)』上で被雷予測エリアの可視化に成功しました。
 本共同研究の結果は、2021年1月10日から1月15日(現地時間)に行われた「第101回アメリカ気象学会年次大会(The American Meteorological Society 101st Annual Meeting)※2」にて発表されました。

『ARVI』被雷エリアの比較画像

(株)エムティーアイ提供※『ARVI』被雷予測エリアの比較画像

※1:冬季の小松・庄内エリア、夏季の羽田・成田エリアにおいて、過去の航空機被雷事例の一部を活用した検証結果。

2021年2月5日 更新
欧州宇宙機関(ESA)との会談の実施について

JAXA山川理事長およびESAヴァーナー長官は、2021年2月4日にオンラインで会談を行いました。
会談では、地球観測、宇宙科学・探査など、広範にわたる両機関間の協力案件の進捗状況を確認するとともに、今年3月にESA長官に就任される予定のアッシュバッカー地球観測局長も同席されていたところ、引き続き両機関間の協力関係を維持・発展させていくことを確認しました。

また本会談の機会をとらえ、ESAの二重小惑星探査計画(Hera)及びJAXAの火星衛星探査計画(MMX)の各協力に関する協定が締結されました。

Hera協定署名の様子

Hera協定署名の様子
(JAXA山川理事長、ESAヴァーナー長官) 

MMX協定署名の様子

MMX協定署名の様子
(JAXA國中理事、ESAハシンガー局長) 

ESA主導で行われるHeraは、米国航空宇宙局(NASA)の小惑星衝突機「DART」が二重小惑星ディディモスの衛星に衝突後、Heraにより当該小惑星の詳細観測等を行うという国際共同ミッションです。今回、JAXAが熱赤外カメラを提供することのほか、サイエンスを通じて本ミッションに貢献することが合意されました。
MMXは、火星衛星の一つであるフォボスからのサンプルリターンを行うJAXAのミッションです。今回、ESAが探査機に搭載する通信機器を提供すること、地上局による追跡管制支援を行うことのほか、サイエンス協力を通じて本ミッションに参画することが合意されました。

2021年1月

2021年1月28日 更新
試験機1号機用機体を工場から出荷しました

H3ロケット試験機1号機出荷

2021年1月26日、試験機1号機の1段、2段機体が三菱重工業株式会社飛島工場での製造と試験を終え、打上げ射場である種子島宇宙センターに向けて出荷の日を迎えました。
ロケットを構成する多くの機器が次々と開発を完了し、飛島工場で組み上げられて機能試験を開始したのが2020年6月上旬。大小様々、数多くのトラブルに遭遇し、それらを一つ一つ解決して万全の状態を整えるために、約7カ月を要したことになります。
更に思い起こせば、私が担当する電気系システムの試験をこの飛島工場で開始し、試験立会を始めたのが2018年2月。この時から多くのトラブルに見舞われ、1件1件コツコツと解決してきた結果、3年の月日が流れました。
3年前、まだ開発途中だった技術試験用の電気系機器を組み上げてシステム試験を開始した時は、H3の製造に向けて飛島工場内に増設途中だった真新しくも殺風景なエリアにミカン箱サイズ程の機器十数個を並べて、機器と機器の間のネットワーク通信のデータインタフェースを確認する試験(本当に地味で映えない試験)から着手しました。そこから3年間の時を経て、見上げるような大きさの格好良いロケットに仕上がったことに感慨無量です。

新型コロナの影響で、世の中が大きな変革の時を迎えています。我々JAXAをはじめ、ロケット全体の設計を取りまとめていただいている三菱重工業や、機器の設計、製造を担当されているメーカの技術者の方々とは、ネットワーク越しの設計資料の送受信やWEB会議という代替手段によって、これまでのやり方に劣らない設計やレビューを進め、開発を継続することができましたが、ロケットの製造は現場での人の手に代る手段がありません。Beforeコロナ時代と変わらない多くの製造のプロや技術者がこの飛島工場で7カ月間、夜間休日を問わず奮闘してきました。変わりゆく日常の中で、変わらないパフォーマンスを発揮し続ける製造現場のチームの方々にいつも感心するとともに、世の中が変革しても失ってはいけないことがこの現場にはあると強く感じていました。そしてこの飛島工場での立会の日々は私にとっては、新しい知見と経験と多くの同志を得る貴重な機会となりました。

多くの人々に支えられて仕上がったこの1段、2段機体ですが、工場を出荷して射場に搬入された以降も、まだまだ、総合システムとしての検証という長い道のり、険しい道のりが待ち構えていることでしょう。でも不安やネガティブな感情は殆ど感じなくて、この機体を眺めていると、ワクワク感や「全て乗り越えてやるぜ!」という感覚がみなぎってきます。打上げ成功というゴールに向かって、気持ちを新たに立ち向かいたいと思います。

JAXA電気系担当 Y.K.

出荷に向けて1段機体、2段機体をコンテナに入れている様子(2021年1月24日撮影)

出荷に向けて1段機体、2段機体をコンテナに入れている様子(2021年1月24日撮影)

2021年1月28日 更新
深宇宙探査技術実証機「DESTINY⁺」システム担当企業の選定

深宇宙探査技術実証機「DESTINY⁺」システム担当企業の選定

DESTINY⁺チームは、システム要求審査(SRR:System Requirement Review, 2020年7月1日実施)の結果を踏まえ、2020年8月~12月にかけて探査機バスシステム開発を担当する企業の選定を行いました。

2021年1月27日 更新
射場の電力基盤におけるD&3E確立 ― 種子島宇宙センター 大容量電力貯蔵システム ―

大容量電力貯蔵システム導入の背景

 種子島宇宙センターにおいては、打上げ整備作業に必要な電力を自ら保有する複数の自家用発電機により、24時間365日発電し、センター内施設に送配電しています。また、落雷や台風等の自然災害が多く発生することから、事業継続のため、複数機を用いた冗長運転を行い電力の安定供給に努めています。
 今回、電力システムの更なる信頼性向上、将来のスマート射場化を見据え、先ず発電機故障停止時のバックアップ運転、更に既存発電機運転の高効率化、信頼性向上を目的として大容量電力貯蔵システムを導入することとなりました。各協力会社との連携により仕様と運用方法の最適化を図り2021年4月より本格運用を開始する予定です。

大容量電力貯蔵システム導入の背景

イメージ図

2021年1月20日 更新
宇宙飛行士募集にかかるRFIとパブコメ募集

宇宙飛行士候補者の募集・選抜・基礎訓練に関する情報提供依頼(RFI)と意見募集(パブリックコメント)を開始します。詳しくは下記のリンクをご参照ください。

2021年1月19日 更新
オーロラ粒子の加速領域は超高高度まで広がっていた -オーロラ粒子の加速の定説を覆す発見-

 今城峻特任助教(名古屋大学宇宙地球環境研究所)を中心とする国際共同研究グループは、宇宙航空研究開発機構のジオスペース探査衛星「あらせ」(以下、「あらせ」)搭載の高角度分解能低エネルギー電子分析器(LEPe)を含む包括的な宇宙空間観測機器と米国THEMISチームの展開する高時間空間分解能の地上全天カメラを用いたオーロラ協調観測によって、オーロラアーク上空の高度約3万km以上もの超高高度までオーロラ電子が加速されている領域が広がっていることを発見しました。過去50年にわたり、オーロラの電子は高度数千kmで加速されると信じられてきましたが、電子がその十倍もの高さから加速を受けていることを示した今回の発見は、この定説を大きく覆すものです。
 本研究成果は、2021年1月18日付(日本時間1月18日19時)に、Nature系学術誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載されました。

研究概要

1.背景
 明るく東西に長くのびるオーロラアークは、夜側極域において一般的に見られるオーロラの形態であり、その美しさで多くの人々を惹き付けてきました。オーロラアークは、U字型の電位構造を持った磁力線に平行な準静電的電場が形成されるオーロラ加速域に於いて数キロ電子ボルト(keV)程度に加速された磁気圏の電子が、高度100km程度の地球の超高層大気に降り込み、中性大気との衝突による励起・緩和によって発光していると考えられています。この高いエネルギーを持った降り込み電子は、地球の磁気圏(宇宙空間)と電離圏(超高層大気)を電磁力学的に結合する上向きの電流を担い、宇宙空間に形成される巨大な電気回路の一部をなします。そのため、電子を加速する準静電的平行電場は、単にオーロラ発光にとって大切というだけではなく、宇宙空間と地球の超高層大気を繋ぐ結合システムの重要な物理過程の要素の一つです。
 過去50年間にわたるロケットや人工衛星の観測から、オーロラ加速域は低い高度の冷たいプラズマと高い高度の熱いプラズマが混じり合う高度数千kmの領域を中心とすることがわかっています(高度2万km以下まで存在しうるが、加速への寄与は小さいと考えられている)。高度数千km以下の低高度の加速域は、日本の「あけぼの」衛星や「れいめい」衛星、米国のS3-3衛星やFAST衛星により、その典型的描像を明らかにしてきました。オーロラ加速域の準静電的平行電場の形成メカニズムは、1970年代初頭より研究が進み、磁気ミラー力抵抗、プラズマ不安定性による電気抵抗、電気二重層、運動論的アルフベン波など、様々な仮説が提唱されていますが、どのプロセスが最も重要なものなのか、未だにはっきりと特定されていません。
 これまで提唱された準静電的平行電場理論は、背景のプラズマ密度や磁場強度に左右されます。プラズマ密度・磁場強度は高度によって大きく変化するため、電子がどの高度で加速されているかを知ることは、準静電的平行電場形成の謎を解く重要な鍵です。しかし、準静電的平行電場の生成を説明するこれまでの様々な理論は、加速領域が高度数千kmに存在することを前提として考えられてきたものです。一方で、高度2万km以上の高高度側では加速全体への寄与は小さいと考えられていることから、高高度領域における加速についてはほとんど検討されていませんでした。したがって、今回の発見は、従来の低高度を中心とした加速域形成の考え方の大きな見直しを迫る結果になります。

図1:典型的なオーロラ加速域の描像。加速電場はU字型の電位構造をもっている。衛星が横切ると、下向き加速された電子、上向き加速されたイオン、上向き電流の作る磁場変動、中心に収束する電場、プラズマ密度の低下が見られる。(Credit: ERG science team)

2.研究手法
 「あらせ」は軌道傾斜角が約31度という独特な軌道により、過去の人工衛星があまり観測を行ったことがない、オーロラ発生頻度の高いオーロラ帯の上空、高度約3万km付近領域を飛翔しています。「あらせ」は地球の放射線帯の高エネルギー電子の加速・消失メカニズムの解明を主なターゲットとした衛星ですが、非常に高い角度分解能を持った電子観測機器を搭載しているほか、総合的な宇宙プラズマの観測機器を搭載しているため、オーロラ加速域に特徴的な電磁場、粒子の振る舞いを高い精度で検知することもできます。
 共同研究チームは、これまで数百から数千kmの低高度で観測されてきた典型的な加速域の特徴と非常によく似た粒子や電磁場の変動が高度3万km付近もの超高高度でも観測されることに気がつきました。これまで低高度に於ける観測でよく知られてきた典型的なオーロラ加速域の描像を図1に示します。U字型の電位構造を持つ加速電場を衛星が横切ると、地球に向かって(下向き)加速された電子と地球から遠ざかる向き(上向き)に加速されたイオン、これらのイオンと電子の運動が作る上向き電流が発生させる磁場変動、U字型電位構造の中心に向かって収束する電場変動、プラズマ密度の低下をみることになります。共同研究チームは、観測された現象が、超高高度まで広がったオーロラ加速域である可能性を疑い、「あらせ」と地上のTHEMISの高空間分解能オーロラ全天カメラとのオーロラ協調観測から、「あらせ」の飛翔する超高高度でも電子が十分に加速され、加速された電子が実際にオーロラの発光領域まで降り込んでいるかどうかの検証を試みました。
 「あらせ」の軌道が夜側で地上カメラの充実した北半球を通る期間は日照時間が長い2017年の夏期(5から9月)であるため、オーロラとの同時観測可能な時間は限られました。しかし、そのような状況でも、北米全体を20点もの観測点でカバーするTHEMIS全天カメラネットワークとの協調観測によって、オーロラアークに繋がる磁力線を「あらせ」が高度3万km付近にて、降り込み電子の高角度分解観測を行うことができました。超高高度における加速領域の存在を検証するためには、地上からオーロラアークを観測すること、同時に上空を「あらせ」が通過すること、そのタイミングで電子の高角度分解観測が実施可能であること、これらの条件がすべて揃う必要がありますが、そのような観測結果を得られたことは非常に幸運なことでした。

3.結果
 同時観測が行われた2017年9月15日の事例を解析した結果を図2に示します。前述のように、低高度におけるオーロラ加速域で見られる、全ての特徴が現れていることがわかります。特に、単一エネルギーのU字型分布を持った下向きの電子が観測された一方で、正の電荷を持った下向きイオン(陽子)は観測されなかったことは、衛星より上側での上向き静電場による加速の強い証拠です。また、「あらせ」が取得した様々な物理量データから衛星の周りから下側にかけても加速域が存在していることが裏付けられます。加速域では電子だけではなく同時にイオンも電子とは逆向きに加速されますが、観測されたイオンは衛星より下側から飛んできており、数keVまで加速されていました。観測された磁場は、オーロラ電子が運ぶ上向きの電流があるときの周りの磁場変動と一致しました。加速域のU字電位構造を横切ったときに見られる、加速域中心を向く電場も観測されました。加速域の内部はプラズマ電子密度の低下が起こりますが、衛星電位の観測から、プラズマ電子密度がオーロラアーク中にあるときに低下していることがわかりました。

図2:オーロラの緯度分布と「あらせ」観測の時系列データ。粒子、電場、磁場の特性はこれまで低い高度で観測された典型的なオーロラ加速域の描像(図1)と整合する。(Credit: ERG science team)

 これらの結果からわかることは、超高高度の加速域は下側の加速域から続いて広がっているということです。電子とイオンの持つエネルギーから、衛星の上側と下側と加速電位差を推定すると、上側の加速電位差のみでもオーロラの発光に十分な数keVに電子を加速するだけの電位差があり、そのオーロラ発光域までの加速全体への寄与は20から45%にも及ぶことが分かりました。
 さらに、「あらせ」の低エネルギー電子分析器(LEPe)のもつ高角度分解能チャンネルにより、下向きに加速された電子がオーロラ発光高度で消失し、対応する上向き電子が欠損する様子を高高度で初めて捉えました。図3は磁力線に対する電子速度の分布を示します。電子速度の向きが磁力線に平行であるほど電子は降り込み易くなりますが、高い高度ではより磁力線に平行な電子だけがオーロラ発光領域に降り込むことができます。LEPeはその高い角度分解能により、幅の狭い降り込み可能な速度幅内にある約1keVの加速電子を特定しました。通常、磁気圏の電子は磁力線に沿って南北の極域の間を往復運動していますが、オーロラを発光させた地球大気に電子は失われ、再び磁気圏に戻ることはありません。降り込み可能な速度幅内に対応する上向きに戻る電子の欠損が観測され、その幅は図中青線で示される理論からの予測とも一致していたことから、高度3万km以上から加速された電子が実際に降り込み、オーロラ発光に寄与していることが明らかです。
 これらの結果から、図4で示すように、これまで考えられていた高度より遙かに高い高度にわたりオーロラ加速域が広がっており、非常に高い高度から加速されてきた電子が観測されたオーロラの発光領域まで降り注いでいることを初めて明らかにすることができました。

図3:図2の(1)の時刻での、電子の位相空間密度の速度分布と、衛星より下側の加速から予測される降り込み可能な領域の境界(青線)。下向き加速された電子が、降り込み可能な領域の内側で観測され、さらに対応するオーロラ発光高度での消失による上向き電子の欠損が観測された。(Credit: ERG science team)

4.成果の意義
 図4で示したように、本研究の結果は、高度数千kmの領域を中心とした加速域の高度方向の広がりの定説を覆し、低い高度を前提とした加速域の考え方の見直しを迫るものです。「あらせ」の高度では、典型的な加速域の高度での背景のプラズマ・磁場の状態が大きく異なることから、これまで提唱されてきたどの加速領域生成メカニズムでも今回発見された高度3万km以上の加速領域の広がりを説明することはできません。したがって、本研究成果は、「高度3万km以上の超高高度加速域を含む幅広い高度域にわたって、なぜ、どのように電子を加速する準静電的平行電場が存在しうるのか?」という新たな大問題を提起しています。
 本成果は「あらせ」のユニークな軌道と高い性能により実現した、本来の目的を大きく越えた予想外の成果でした。オーロラは木星や土星など磁場を持った天体に普遍的に見られる現象です。超高高度加速域の発見から生まれた新たな謎を解き明かすことは、これらの他惑星磁気圏や、パルサー磁気圏など、異なるプラズマ環境を持った太陽系や天体磁気圏における準静電的電子加速メカニズム過程の解明にも大きく貢献することが期待されます。
 今回のような超高高度の加速域とオーロラアークと同時観測が行える事例は稀ですが、共同研究チームは「あらせ」のみの観測で超高高度の加速域をしめす観測例を10例以上発見しており、複数事例の解析から今後超高高度の加速域の詳細な描像が明らかになっていくことが期待されます。さらに、低高度衛星との同時観測、電位構造の数値シミュレーションにより超高高度まで加速域が形成される物理メカニズムを追究します。

図4:本研究のまとめ。高高度の「あらせ」と地上の全天カメラにより、オーロラ加速領域は「あらせ」の上側にまで広がり、超高高度から加速された電子がオーロラ発光領域まで降り注いでいることが示された。(Credit: ERG science team)

用語説明

オーロラ(電子)加速領域/加速域
 ディスクリートオーロラと呼ばれる、明るく境界のはっきりしたオーロラ(オーロラアークもその一種)を光らせるもととなる電子を加速する静電場のある領域。中心に向かうほど電位の低いU字型の電位構造を持っている。電子を下向きに加速する上向き電場があるのは、主に高度数千kmの領域とされる。この電場が生成される仕組みには多くの仮説があり、今のところはっきりとはしていないが、典型的な加速域高度では性質の異なるプラズマが混じり合うことで生じる局所的な電子とイオンの分離(ダブルレイヤー)が有力な説の一つとされる。

電子ボルト
 エネルギーの単位で、eVと表示される。1ボルト(V)の電位差により加速された電子の運動エネルギーに相当するため、もともと電子が持つエネルギーが低い場合には、例えば1キロeVに加速された電子の上流側には1キロVの電位差があると推定できる。

LEPe(low-energy particle experiments–electron analyzer):
 台湾Academia Sinicaの研究グループによって開発された「あらせ」搭載機器の一つで、19eVから19keVの電子を観測する。内部磁気圏の赤道面付近で、プラズマ波動によって電子がその運動の方向を変えられて地球に向かって降下できるようになる過程を観測するために、約5度もの高い角度分解能を持つ「fine channel」が密に配置されている(標準的な電子観測器の角度分解能は20度程度)。本研究ではこの高角度分解能を準静電的加速によって高高度から降り込む電子の観測に活用した。

共同研究グループ
今城 峻 名古屋大学宇宙地球環境研究所 特任助教
三好 由純 名古屋大学宇宙地球環境研究所 教授
風間 洋一 Academia Sinica 客員研究員
浅村 和史 宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所 准教授
篠原 育 宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所 准教授
塩川 和夫 名古屋大学宇宙地球環境研究所 教授
笠原 禎也 金沢大学総合メディア基盤センター 教授
笠羽 康正 東北大学惑星プラズマ・大気研究センター 教授
松岡 彩子 京都大学地磁気世界資料解析センター 教授
Shiang-Yu Wang Academia Sinica 主任研究員
Sunny W. Y. Tam National Cheng Kung University 教授
Tzu‑Fang Chang National Cheng Kung University 客員助教
Bo‑Jhou Wang Academia Sinica 補助研究員
Vassilis Angelopoulos カリフォルニア大学ロサンゼルス校 教授
Chae-Woo Jun 名古屋大学宇宙地球環境研究所 特任助教
小路 真史 名古屋大学宇宙地球環境研究所 特任助教
中村 紗都子 名古屋大学宇宙地球環境研究所 特任助教
北原 理弘 名古屋大学宇宙地球環境研究所 特任助教
寺本 万里子 九州工業大学工学部 助教
栗田 怜 京都大学生存圏研究所 准教授
堀 智昭 名古屋大学宇宙地球環境研究所 特任准教授
論文情報

雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Active auroral arc powered by accelerated electrons from very high altitudes
DOI: 10.1038/s41598-020-79665-5 外部リンク

2021年1月12日 更新
農林水産省『農業気象情報衛星モニタリングシステム(JASMAI)の公開について』

JAXAとの連携協定(農林水産分野における地球観測衛星データ等の利用の推進に関する協定)に基づき、農業気象情報衛星モニタリングシステム(以下、「JASMAI」という。)が農林水産省で構築され、2021年1月15日(金)14時から一般公開されます。※1

JASMAIは、JAXAによる農業気象データ(土壌水分量、日射量、降水量など)や作物の生育状況(植生指標)をWeb上で準リアルタイムに閲覧することができるシステムの研究開発成果を利活用したものです。(参考:JAXAが運用しているアジアの水稲作況判断のためにカスタマイズした農業気象データに関するシステム「JASMIN」※2

なお、JASMAIは、JAXAと米国航空宇宙局の衛星観測データを活用し、海外の主要穀物生産地帯における穀物・農作物の生育に関わる情報を地図やグラフ形式で提供します。
この情報は、主要穀物の作況判断のための補助情報として国内外での官民での活用が見込まれます。

JAXAにおいては、引き続き農林水産省との協力の推進によるJAXA衛星データおよびそれから得られた知見を活用した社会課題解決への貢献を進めていく予定です。

関連リンク:※1 農林水産省プレスリリース外部リンク
-農業気象情報衛星モニタリングシステム( J A S M A I )の公開について-
JASMAI閲覧サイト外部リンク
※JASMAIについては、1月15日(金曜日)14時以降に公開されます。

※2 JAXA「JASMIN」
- JAXA's Satellite based MonItoring Network system for FAO AMIS Market Monitor -

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