2024年(令和6年)3月理事長定例記者会見

理事長定例記者会見

山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします

日時:2024年(令和6年)3月8日(金) 13:30-14:15

場所:JAXA東京事務所 B1F プレゼンテーションルーム

司会:広報部長 佐々木 薫

 先月の定例会見以降も、宇宙航空に関する話題が数多くございました。H3ロケット試験機2号機打上げでは、目的であった飛行実証および小型副衛星分離を完遂することができました。小型月着陸実証機SLIMも、越夜できる設計にはなっていない中で、1回目の夜を乗り越え、探査機運用を実施することができました。また、株式会社アストロスケール様の商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」も打ち上がり、現在、衛星運用は順調との報告を受けています。JAXAとしましてもアストロスケール様と連携して、このADRAS-J衛星によるJAXAミッションであるCRD2フェーズIの実施に向けた準備を進めております。

 もう一つ、大変名誉な話題をご紹介いたします。
 國中均宇宙科学研究所・所長に米国航空宇宙学会(AIAA)から名誉会員(Honorary Fellow)の称号が授与されました。AIAAは世界最大の航空宇宙工学の学会です。今回授与された名誉会員はAIAAの称号において最上位となり、これまで91年間で238名が授与されています。ちなみに第1号の授与は、1932年にライト兄弟の弟Orville Wright氏、日本人では唯一お一人、1988年に日本の流体力学、航空力学において多大なるご貢献を果たした谷一郎先生が授与されています。

 これらプロジェクトの遂行や研究活動は、個人の努力はもちろんのこと、チーム内の相互連携、内外の多くの皆様からのご支援のうえに成り立っております。関係者の皆様に対する感謝を忘れることなく、引き続き取り組んでまいりたいと思います。

1. X線分光撮像衛星(XRISM)の定常運用移行

 X線分光撮像衛星(XRISM)は、昨年9月の打上げ以降、初期機能確認運用を実施しておりましたが、3月4日にプレスリリースにてお知らせしましたとおり、定常運用に移行いたしました。
 定常運用段階では、観測機器の観測精度を高めるための較正・初期性能検証を実施するとともに、観測機器の特徴を生かす天体観測などを実施する予定です。8月頃からは、世界中の研究者からの観測提案に基づいた観測を開始する予定です。
 XRISMは、これまでの運用においても、当初の目標を上回る分光性能など、優れた機器性能を軌道上で発揮しております。引き続き科学的な成果が得られるよう、着実な運用を行ってまいります。

2. 古川宇宙飛行士・Crew-7地球帰還

 古川聡宇宙飛行士は、今回の長期滞在において「宇宙でしか見つけられない答えが、あるから。」をミッションテーマに掲げて取り組んでまいりました。微小重力という環境を利用したさまざまな実験や、今後の国際宇宙探査に向けた技術実証、そして産業界の参加促進などを柱に、各国の宇宙飛行士そして地上スタッフたちと連携し、ミッションを遂行してきました。

 古川宇宙飛行士が取り組んだ主な実験や活動をご紹介いたします。
 まず1つ目は、細胞レベルでの重力感受メカニズムを解明することを目的とした実験、「細胞の重力センシング機構の解明」です。この実験では、細胞培養装置等のセットアップ、実験中の培地交換、細胞や組織の立体構造を生きたまま観察できるライブイメージングシステムを使用した観察などを行いました。実験試料は既に地上に回収され、分析が進められています。
 そして2つ目は、国際宇宙探査に向けた「次世代水再生実証システム」の研究開発です。2019年より軌道上での技術実証を実施してきましたが、2023年9月に最後の試料を採取し軌道上実証を終えました。
 またこのほかにも、宇宙での火災安全を科学的に追求する「固体材料の燃焼性を評価する実験」の実験装置設置や、船内ドローンロボット(Int-Ball2)」の実証を地上と連携して実施しました。

 さらに、アジア・太平洋地域等を対象とした広報・教育活動である、アジアントライゼロG「きぼう」ロボットプログラミングチャレンジでは、選定された実験を古川宇宙飛行士が実施したり、地上と協力して軌道上大会の準備や競技運営を行ったりしました。その様子は、インターネット中継などで配信し、実験を提案した各国・地域の学生はもちろん、世界中の皆様にもご覧いただきました。

 2度目のISS長期滞在となる古川宇宙飛行士は、自身のバックグラウンドも活かしながら、重要な責務を見事に果たしてくれたと思います。今後も引き続き、ISSや「きぼう」等地球低軌道における利用の拡大や国際宇宙探査の推進に貢献してくれるものと期待しております。
 帰還が目前となりましたが、皆様にも、無事の帰還を共に見守っていただければ幸いです。

3. 革新的将来宇宙輸送システム研究開発プログラム第3回研究提案募集(RFP)選定結果

 将来の我が国の宇宙輸送システムの自立性確保と、新たな宇宙輸送市場の形成・獲得に向けて、抜本的低コスト化等を含めた革新的技術を用いた将来宇宙輸送システムを実現し、我が国の民間事業者による主体的な事業展開を切り拓くことを目的として、2021年より「革新的将来宇宙輸送研究開発プログラム」を行っています。
 本プログラムでは、宇宙分野の枠にとらわれず、これまで宇宙分野と関連性のなかった事業分野や業種からの参入を促し、成果をさまざまな分野で活用することを目指し、オープンイノベーションによる共創体制で取り組んでおります。

 昨年11月1日から12月6日にかけては、第3回目となる研究提案募集を行いました。今回は、「高頻度往還飛行型宇宙システムの実現」に着目したテーマを設定し、それに基づく提案5件も採択しているのが特徴となります。まずテーマ設定にあたっては、宇宙輸送システム事業者と議論し、実現に必要な技術課題を抽出いたしました。研究課題テーマのうち、例えば「水平着陸式宇宙輸送システム用の軽量な降着装備の設計・製造の研究」、「大気飛行中の姿勢推定システム構築に向けたエアデータ取得センサのコンセプト研究」などがそれにあたります。公募全体の結果としましては、21件の応募があり、12件の提案が採択されました。詳細はJAXAウェブサイトに掲載しておりますので、ご参照ください。

 なお2021年の第1回の募集では、再使用輸送機への活用可能性を持つ新規要素技術のフィージビリティスタディを中心としたテーマで募集、選定を実施。2022年の第2回では、既存要素技術を低コストかつ高性能な新規技術への置き換えをはかるテーマで募集、選定を行いました。これまでの公募における最近の研究成果事例としましては、第2回で採択された清水建設株式会社様との共同研究「金属積層造形を用いたロケット液体燃料タンク製造技術」がございます。この研究では、次期基幹ロケットや民間主導による新たな宇宙輸送システムに向け、ロケット構造の抜本的な低コスト化を目指すものです。これまでに実施した部分的な要素試作などの評価、技術検討において、積層造形技術の基礎的な成立性を確認できたことから、将来の大型タンクへの適用に向けて、サブスケール供試体の試作検討など次のステップに進むことになりました。詳細は1月10日のプレスリリースをご参照ください。

 このプログラムを開始して、まもなく3年がたとうとしています。今後も利用促進を推し進め、社会実装を図りつつ、民間企業間の新たな協業体制構築の支援を引き続き進めてまいります。

4. 航空機運航時の被雷など悪天候遭遇リスク軽減にむけた取り組み

 雪氷・雷・火山灰等の特殊気象による航空機運航への影響は、航空機事故および運航遅延などの原因となるなど、日本において特に問題となっています。
 航空技術部門ではかねてより、気象影響防御技術(WEATHER-Eye)の研究開発として、気象影響がおよぼす課題の解決に必要な技術開発に取り組んでいます。
 一つの事例をあげますと、株式会社エムティーアイ様と航空技術部門では、2019年11月から2024年3月にわたり、「被雷危険領域予測技術」の実用化に向けた共同研究、技術検証などを実施しています。そこではエムティーアイ様の「気象現象を3Dで可視化する技術」と、JAXA航空技術部門の「被雷危険領域予測技術」を組み合わせ、航空機被雷が発生しうる領域を予測し、視覚的かつ直感的に分かりやすく情報提供をおこなう気象情報サービス「3DARVI」の機能構築に至っています。構築に際しては全日本空輸株式会社(ANA)様にもご協力いただき、同社が持つ運航オペレーションに関するノウハウも組み合わされております。そして2021年には、ANA様において、「3DARVI」を利用して地上運航従事者から運航乗務員へ、被雷危険域をアドバイスする運用を開始いたしました。

 そして、先月2月28日にプレスリリースにてお知らせしましたとおり、「3DARVI」の機能・サービスの向上を目指し、航空と宇宙の技術連携にも取り組んでおります。
 具体的には、「3DARVI」にJAXAの衛星全球降水マップ「GSMaP」による人工衛星から検知した世界中の雨雲・降水情報を搭載し、飛行中のコックピット内で、パイロットがリアルタイムに最新の天候、気象情報を認知できる機能を実現させたものです。これにより安全な運航ルート選択が可能となり、かつパイロットの飛行中作業の負担軽減にもつながります。
 この機能は、2024年4月以降、体制が整い次第、株式会社ZIPAIR Tokyo様が運航する航空機において実際のフライト時で運用し、効果検証などを行う予定です。

 今回の事例のように、JAXAが持つ航空および宇宙の研究開発成果をつなぐことで、航空宇宙分野をはじめ、さまざまな分野における課題解決、社会実装などに役立てまいります。

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