理事長定例記者会見
山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします
日時:2024年(令和6年)5月16日(木) 13:30-14:15
場所:JAXA東京事務所 B1F プレゼンテーションルーム
司会:広報部長 佐々木 薫
1. CRD2およびADRAS-J近接運用状況
JAXAの商業デブリ除去実証CRD2のフェーズIミッションを行う、株式会社アストロスケール様の商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」は、今年2月の打上げ以降、軌道上にてミッション運用を継続中です。
先月4月26日には、株式会社アストロスケール様より、ADRAS-Jが非協力的ターゲットであるスペースデブリへの接近中に撮影した画像が公開されました。
JAXAミッションとしてのCRD2は、軌道上実証を段階的に進める計画となります。CRD2フェーズIでは、世界的にも情報の少ない、軌道上に長期間存在するデブリの運動や損傷・劣化がわかる映像を取得することを目的の一つとしており、今回の公開画像は、その最初の成果のうちの一枚となります。
まずは、CRD2フェーズIミッションの達成に向け、JAXAも引き続き、技術支援などを通じて尽力してまいります。
そして、フェーズIで得られた技術、知見等は、CRD2の次の「フェーズIIミッション」で計画している大型デブリ除去の軌道上実証のチャレンジに引き継いでまいります。
2. EarthCARE/CPR打上げ準備
日本と欧州宇宙機関(ESA)が共同開発している雲エアロゾル放射ミッション「EarthCARE」衛星の打上げが5月下旬に予定されています。
2004年のESAによるミッション選定から20年、長きにわたり開発計画を進めてまいりましたが、いよいよ打上げ間近となりました。
現在、JAXAはESAと共に、米国の射場、ドイツの衛星運用センターおよび日本において、打上げに向けた最終準備を進めております。
EarthCARE衛星は、ESAと日本が1つの地球観測衛星を開発する初めての計画であり、衛星には日本としてJAXAと国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)様と共同で開発した、雲の内部構造を高感度で観測するとともに、世界で初めて人工衛星から雲の上下方向の速度を計測する雲プロファイリングレーダ(CPR)が搭載されています。EarthCARE衛星およびCPRの開発にあたっては地球観測衛星データの利用関係者、科学者、研究者の皆さまをはじめ、大変多くの方のご尽力のお陰でここまで進めることが出来ました。これまで御協力頂いた方々に改めて感謝を申し上げます。
なお詳細な打上げ日時については現在も調整中と聞いています。ESA、または打上げロケットであるファルコン9のSpace-X社より情報が入り次第、お知らせいたします。
引き続き、EarthCARE/CPRプロジェクトはじめ関係者一同、打上げおよび打上げ後の衛星運用に向けて、気を引き締めてまいります。
3. 活動20年目を迎えた宇宙教育センターの取り組み
JAXA宇宙教育センターは、2005年5月1日に設立し、今月からは活動20年目に入る節目の年を迎えております。設立当初から「宇宙が子どもたちの心に火をつける」をモットーに掲げ、「宇宙を学ぶ」のではなく、「宇宙で学ぶ」、つまり宇宙航空を素材にした学びを通じて、子供たちの「好奇心」、「冒険心」、物事を追求し、自分の手でモノを作り出す「匠の心」を育てる機会を提供していくことを目指しています。
大きな特徴の一つは、学校教育や社会教育の現場において、次世代の人材育成に携わられている先生、指導者の方々が実践している授業や取り組みに対して、JAXAが支援をする形をとっている点です。主役は子供たちであると同時に、先生や指導者の方々も主役と考えております。先生や指導者の方々が「宇宙航空」を「教育」に活かすために必要な素材の提供や工夫のお手伝いをさせていただいているということになります。
その理念のもと、宇宙教育センターでは、次の3つを活動の柱として行っております。
一つ目は、「学校教育支援」。二つ目は「社会教育活動支援」で、両方とも先生・指導者の方々自ら行う授業づくりなどの支援が中心となります。三つ目は「国内外における体験的学習機会の提供」です。こちらはJAXAならではの宇宙航空分野の体験プログラムを、国内だけでなく世界の宇宙機関とも連携して提供し、若い世代の皆さんが経験を積み、自身の視野を広げるための一助となることを目指しています。
最近の主な活動として、教材制作事例の一つを紹介いたします。
昨年度、3Dブロックで構成された仮想空間メタバース内で生活するゲーム「マインクラフト」を活用し、月の環境を再現した「ルナクラフト」という教材を制作しました。これは学校教育および社会教育の双方で活用できる教材となっています。
「ルナクラフト」では、月周回衛星「かぐや」が取得した月の地形データを用いるとともに、SLIMの着陸地点を含む地形や、月の重力などの環境も可能な限り再現し、月の世界を疑似体験できるものとなっています。仮想空間の中で建築をしたり、その際にプログラミングで効率化を図ったりするなど発展的な遊び方も可能です。学校等をはじめ各地域、ご家庭において、皆さんの「想像力・創造力」を発揮して、自分ならでは月の世界を構築いただきたいと思います。またこのソフトウェアを介して、先生や友達、家族、世界の皆さんとも広くコミュニケーションを図るきっかけにもなれば嬉しい限りです。
ちなみにルナクラフト日本語版は2023年12月に、英語版は2024年2月にそれぞれ公開し、5月上旬時点で約7000件ダウンロードされています。また英語版については、北米、中南米、欧州、中東、アジアといった約20か国のウェブメディアなどでも紹介されています。
そのほかには、宇宙教育センターが有人宇宙技術部門と連携し、国内の児童を対象に実施した、国際宇宙ステーションから回収したバジルの種を栽培するプログラム「うちゅうのたね」を含む、国際宇宙ステーション「きぼう」の教育利用活動が、「令和6年度科学技術分野の文部科学大臣表彰・科学技術賞(理解増進部門)」を受賞し、JAXAの幅広い人材育成活動への評価をいただきました。
学校や地域、ご家庭など「教育の現場」の特徴に応じた支援を工夫するとともに、さまざまな現場の特徴に応じた教材・素材の提供ができるよう、今後も注力してまいります。
4. おわりに(今後のミッション予定など)
EarthCARE/CPRについて先ほどお伝えしましたが、5月から6月にかけてJAXAミッションが多く予定されています。
先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)およびH3ロケット3号機については、6月30日打上げにむけて、種子島宇宙センターでの射場準備作業を順調に進めております。
今年2月にISSから地球に帰還した古川聡宇宙飛行士も、6月には日本へ一時帰国する予定となりました。帰国中の6月23日には一般の方々にむけた帰国報告会開催も計画しております。
そのほか、世界的にも活動が本格化している宇宙探査分野では、国際宇宙探査シンポジウム2024を6月12日に開催いたします。今回は日本として国際プレゼンスを発揮するため、産学官が連携したオールジャパン体制での取り組みなどを議論する予定です。
申し上げた項目は主なものとなりますが、ミッション達成に向けて、JAXA一丸となり、一つひとつ着実に取り組んでいきたいと考えているところです。