2025年(令和7年)6月理事長定例記者会見

理事長定例記者会見

山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします

日時:2025年(令和7年)6月13日(金) 13:30-14:15

場所:JAXA東京事務所 B1F プレゼンテーションルーム

司会:広報部長 佐々木 薫

 先月の記者会見から今日までの間においても、さまざまなミッション、事業に取り組んでおります。種子島宇宙センターでは、5月15日から6月3日にかけて、計4回のH3ロケットLE-9エンジン燃焼試験、そして6月2日には新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)1号機の機体公開、また、大樹航空宇宙実験場においても、今年度に予定している気球実験のうち2件を6月6日6月12日に実施するなど、一つひとつ着実に進めております。

 また6月9日には、リトアニアのイノベーション・エージェンシーとの間で、「平和的目的での宇宙分野の活動における相互の利益のため、両国の協力を強化することの重要性を認識」し、「同分野における協力の可能性を探求するための対話を開始する」との共同声明を発表いたしました。
 国際連携の面では、大阪・関西万博を契機に来日される、さまざまな国の方々との対話の機会も増えております。これまで主に、アラブ首長国連邦、オーストラリア、イタリア、パラグアイなどをはじめ多くの国や機関と、私や各理事にて対応、そして意見交換などを実施しています。各国との対話を通じて、日本の宇宙航空技術の利用促進や、双方における宇宙航空産業の振興、人材育成支援など、お互いにメリットとなる連携につなげていきたいと考えております。

1. 大西卓哉宇宙飛行士のISS活動状況・成果など

大西宇宙飛行士は、国際宇宙ステーション(ISS)の長期滞在を開始してから約3ヶ月が経過しました。4月19日からはISS船長を務め、現在も順調に、軌道上での技術実証や科学実験などに、精力的に取り組んでおります。

 最近の活動としては、「きぼう」日本実験棟において「細胞における重力感知メカニズムを研究するためのライフサイエンス実験」を担当しています。この実験では、微小重力下で培養した細胞を、「きぼう」に設置されるライフサイエンス実験用の顕微鏡システムで、生きたまま観察を行います。大西宇宙飛行士らISSクルーは、地上の管制チームや研究者との連携のもと、実験期間中に計7回の観察を、無事、実施しました。
 また、「タンパク質結晶実験」や、「燃焼現象を観察する実験」などの科学実験も担当しています。タンパク質結晶実験では、「船内ドローン(Int-Ball2)」が大西宇宙飛行士の担当したタスクを撮影し、地上管制チームとの連携をサポートしています。
 さらに、大西宇宙飛行士は「きぼう」船内のメンテナンスとしての機器点検や、ロボットアーム搭載機器の取り換えなど、多岐にわたる任務を的確に遂行しております。JAXAとしても、「きぼう」の環境を最大限に活用した、科学的・技術的利用を、今後も推進してまいります。

 大西宇宙飛行士は、広報活動にも積極的に取り組んでおり、宇宙から松山市内の高校に向けて、特別授業を実施しました。約170名の生徒・先生に、宇宙での生活や仕事の様子をわかりやすく伝え、生徒たちからの質問に答えるなど、貴重な交流の機会となりました。さらに、東京都などが主催するスタートアップの国際展示会「SusHi Tech Tokyo 2025」では、ISSから地上の会場とリアルタイムで交信し、参加者からの質問に答えるとともに、「きぼう」船内にある実験機器を紹介し、「きぼう」利用の魅力を直接伝えることができました。

 ISS滞在中は、日本だけでなく各国のミッションが設定され、限られた時間の中で、非常に多くのタスクを実施する必要がありますが、大西飛行士は、引き続き、一つひとつの業務に精力的に取り組んでくれると確信しております。
 また7月以降のISS長期滞在に向けて準備を進めている油井亀美也宇宙飛行士も、先日一時帰国し、筑波宇宙センターでの訓練、そして記者会見なども行いました。
 両宇宙飛行士が高い成果を発揮できるよう、JAXAとして全力で支援してまいります。宇宙飛行士個々の努力はもとより、国民の皆さまからの温かいご理解とご支援があってこそ、こうした活動が実現いたします。改めまして、深く御礼申し上げます。

2. 実利用衛星技術等に関する話題

小型技術刷新衛星研究開発プログラムの一環として、準天頂衛星や衛星測位システム(GNSS)の信号を使用して、軌道上でリアルタイムにセンチメートル級の高精度単独測位(PPP:Precise Point Positioning)を行う技術の開発を進めています。

JAXAの第一宇宙技術部門の、人工衛星の軌道情報、つまり「位置」や「時刻」の情報を高精度に得る測位技術と、JAXAの研究開発部門の高性能な計算技術を組み合わせることで、軌道上でリアルタイム処理を行う技術の実現を目指すものです。
軌道上における技術実証は段階的に計画しておりますが、将来的に本技術の実現によって効果が見込まれる分野をいくつか紹介しますと、

①準天頂衛星や衛星測位システムの軌道時刻推定精度向上
②地球観測衛星ユーザへの画像データ提供時間短縮、画像精度向上

などがございます。
 将来的な観点から、もう少し具体的な効果の例を申し上げますと、地球観測衛星画像データの提供時間において、これまで地上作業で推定してきた撮影位置や時刻情報が、軌道上で撮影した瞬間に判るようになるため、ユーザが観測画像を使用するまでの待ち時間を、「数日」から「数時間」まで短縮できることが見込まれています。

 そして、この「オンボード高精度単独測位技術の実証機器」を搭載した、株式会社QPS研究所様のQPS-SAR10号機「ワダツミ-Ⅰ」が、5月17日に米国Rocket Lab社 のElectronロケットによって打ち上げられました
QPS研究所様からも、衛星運用は順調と伺っており、今後、準備が整った段階で、オンボード高精度単独測位技術の軌道上実証実験を開始する予定です。
引き続き、第一宇宙技術部門と研究開発部門がタッグを組み、実利用衛星の基盤技術強化に努めてまいりたいと思います。

 最後になりますが、6月24日の打上げを控えた、温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)の射場作業も、順調に進んでおります。5月20日には衛星実機の機体公開も行いました。打上げ、また、その後の運用に向けた準備を、共同開発を行う環境省様国立環境研究所様、また衛星製造プライムメーカの三菱電機株式会社様をはじめ、衛星運用に携わる企業、機関の皆さま一丸となり、気を引き締めて取り組んでまいります。

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