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温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)による大都市等における
二酸化炭素観測データと人為起源排出量との関係について

平成26年12月5日

宇宙航空研究開発機構
国立環境研究所
環境省

 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)は、環境省、(独)国立環境研究所(NIES)及び(独)宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同で開発した、世界初の温室効果ガス観測専用の衛星です。二酸化炭素とメタンの濃度を宇宙から全球で均一に観測し、その吸収・排出量の推定精度を高めることを主目的にしており、さらに炭素循環の将来予測の高精度化への貢献を目指して、平成21年1月23日の打上げ以降、現在も観測を続けています。
 今般、平成21年6月から平成24年12月までの3年半に大都市等とその周辺で取得された「いぶき」データを解析した結果、世界の大都市等においてその周辺よりも二酸化炭素濃度が高い傾向が見られました。さらにその濃度差と化石燃料消費量データから算出した濃度差との間に正の相関があることから、「いぶき」は大都市等における化石燃料消費による二酸化炭素濃度の上昇を捉えている可能性が高いことが分かりました。
 今回の研究結果により、衛星で二酸化炭素濃度を観測することが、化石燃料による温室効果ガス排出(インベントリ)の監視ツールとして有効利用できる可能性があることがわかりました。
 今後は、衛星等による二酸化炭素等大規模排出源の監視に関する研究を進め、その成果の「いぶき」及び平成29年度打ち上げ予定の「いぶき後継機」(GOSAT-2)への応用を進める予定です。

1.「いぶき」(GOSAT)による人為起源二酸化炭素濃度データの概要

 温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)の大気中濃度は、人間活動の影響により産業革命前に比べて約1.4倍に増加しました。この人為起源CO2排出は、大規模な火力発電所や大都市における化石燃料消費が大きな原因であると考えられています。このため温室効果ガス排出量の監視に向け、これらの大規模発生源における人為起源CO2排出量を精度良く評価することが求められています。

 「いぶき」に搭載されている「温室効果ガス観測センサ」により観測されたCO2カラム平均濃度注釈ア(以下「CO2濃度」といいます。)データの精度は約0.5%(2ppm程度)であることが地上観測データとの比較により既に示されています。本研究では、平成21年6月から平成24年12月までの「いぶき」によるCO2濃度データを使用して、衛星観測から人為起源CO2排出によるCO2濃度上昇が検出できるか調べました。

 「いぶき」によるCO2濃度は、人為起源排出によるCO2だけではなく、植物の光合成による吸収と呼吸による排出や、森林火災による排出、海洋による吸収・排出を含むCO2濃度です。このため、「いぶき」によるCO2濃度と、人為起源CO2排出との関係を調べるためにはこれらの過程を考慮することが必要です。そこで本研究では以下の手順で「いぶき」による人為起源CO2濃度を求めました。

 はじめに、人工衛星から見た夜間の地球表面の明るさと火力発電所のデータベースに基づく化石燃料消費による人為起源CO2排出量データ(排出インベントリ注釈イ)と大気輸送モデルを用いて、人為起源CO2排出によるCO2濃度の時空間分布を推定します。つぎに、この推定結果をもとに「いぶき」によるCO2濃度データを人為起源CO2排出の影響を受けているデータ(図1上)と受けていないデータとに分類します。最後に、人為起源CO2排出の影響を受けていると判断されたデータとその周辺で影響を受けていないと判断されたデータの差の平均値を求め、更に森林火災やコンピュータシミュレーションで推定した植物の影響等を取り除いたものを「いぶき」による人為起源CO2濃度(図1下)としました。

2.「いぶき」による人為起源CO2濃度の推定結果

 以上のようにして算出した「いぶき」による人為起源CO2濃度の全球分布等を図1に示します。

図1 (上)人為起源CO2濃度が0.1ppm以上と考えられる「いぶき」の観測点
(平成21年6月~平成24年12月)。

(下)「いぶき」により高濃度(平成21年6月~平成24年12月の平均)の人為起源CO2が観測された領域(1度グリッド。赤道で100kmグリッドに相当。25個以上の「いぶき」データがあるグリッドのみ表示。)。色は「いぶき」による人為起源CO2濃度を示す。表1で抽出している地域のおよその位置を赤い四角で示す。また図3で用いる4領域のうち、日本(黄)、東アジア(緑)、北アメリカ(青)の範囲を示している。



図2

図1(下)の拡大図(上:北米、下:東アジア)。
表1で抽出している地域のおよその位置を赤い四角で示す。



表1 図1中に示された「いぶき」により高濃度の人為起源CO2が観測された領域。(平成21年6月〜平成24年12月の間で25個以上「いぶき」データがあり、かつ人為起源CO2濃度が平均1ppm以上となるグリッドが、複数近接している領域を抽出した。)

地図上
の番号
人為起源CO2濃度が
高い領域の概略範囲
国・地域・主な都市等 左記範囲の人為起源CO2濃度
(1度グリッド/3.5年間
の平均)の最大値
1 北緯33〜46度
東経114〜127度
中国:張家口市、鞍山市、ハルビン市、天津市 3.8ppm
2 北緯20~23度
東経84〜89度
インド:コルカタ(カルカッタ) 2.0ppm
3 北緯40〜41度
東経67〜73度
ウズベキスタン東部/カザフスタン南端/キルギス西部/タジキスタン北端 2.6ppm
4 北緯30〜32度
東経37〜38度
サウジアラビア北西部/ヨルダン 1.8ppm
5 北緯38〜41度
西経79〜83度
米国:ピッツバーグ 2.1ppm
6 北緯33〜35度
西経114〜119度
米国:ロサンゼルス 4.5ppm
7 北緯17〜19度
西経99〜102度
メキシコ:アカプルコ 2.4ppm

※日本(図1下の黄色の五角形の範囲)の人為起源CO2濃度の3.5年間の平均値は0.2ppmである。

 図1上より、人為起源CO2排出の影響を受けていると判断されたデータ(灰色の点)の多くは北半球に集中していること、特に大都市域等の周辺に多いこと等がわかります。
 また図1下、図2において特に人為起源CO2濃度の高かった領域を表1にまとめます。これらの領域は、人口が密集した、または火力発電、油・ガス田開発を含めた産業活動が盛んな領域と考えられます。

 次に、図1下に示す4つの領域(日本、東アジア、北アメリカ、全球)におけるインベントリ等による人為起源CO2濃度注釈ウと「いぶき」による人為起源CO2濃度との関係(過去3年半の平均値)を図3に示します。

 図3より

  • 「全球」「北米」において、「いぶき」による人為起源CO2濃度とインベントリ等による人為起源CO2濃度の相関は高く、その差は「いぶき」の誤差の範囲内である(各点のエラーバーが1対1ラインにほぼかかっている。)。
  • 「東アジア」において、「いぶき」による人為起源CO2濃度とインベントリ等による人為起源CO2濃度の相関は良い。ただしその差は一部で誤差を越えている。
  • 「日本」において「いぶき」による人為起源CO2濃度とインベントリ等による人為起源CO2濃度は正の相関を示すが、「いぶき」のデータ数が少ないため「いぶき」による人為起源CO2濃度の誤差はかなり大きい。

といったことが分かります。

 以上より、「いぶき」は大都市等における化石燃料消費によるCO2濃度の上昇を捉えている可能性が高いと言うことができます。

 ただし現時点では地上観測によって本研究の結果を検証することができていないこともあり、今回の結果にはまだ多くの不確実性が残されていることに注意が必要です。

図3

4領域におけるインベントリ等による人為起源CO2濃度と「いぶき」による人為起源CO2濃度との関係。(左)全球、(中央)北米及び東アジア、(右)日本。インベントリ等による人為起源CO2濃度を0.2ppm毎に階級分けし、各階級における「いぶき」による人為起源CO2濃度の平均値とバラツキ(「いぶき」データの誤差)を示した。なおインベントリ等による人為起源CO2濃度が1ppmを超えるデータは数が少ないため、本解析の対象外とした。



3.今後について

 今回の結果より、「いぶき」や将来の衛星によるCO2濃度データを人為起源CO2排出(インベントリ)の監視注釈キに利用できる可能性も示されました。今後は衛星による人為起源CO2濃度の推定精度を高めるために、より高頻度・多数の衛星CO2濃度データの取得方法注釈クを検討するとともに、大規模排出源周辺での地上観測を行うなど人為起源排出量を衛星CO2濃度データから推定する手法を確立するための研究及び推定結果の実証に取り組む予定です。



注釈

(ア)CO2カラム平均濃度

地表面から大気上端までの乾燥空気に対するCO2分子の割合。現在は晴天域のみ算出されている。

(イ)排出インベントリ

ある期間内に特定の物質(大気汚染物質や有害化学物質など)がどこからどれくらい排出されたかを示す一覧表。温室効果ガスインベントリはその一種で、二酸化炭素など地球温暖化の原因となるガスの排出量や吸収量を、排出源・吸収源ごとに示すもの。

http://www-gio.nies.go.jp/faq/ans/outfaq1a-j.html

(ウ)インベントリ等による人為起源CO2濃度

本研究では「インベントリ等による人為起源CO2濃度」の算出に、

  • 化石燃料によるCO2排出インベントリ (注釈エ)
  • 森林火災によるCO2排出インベントリ (注釈カ)
  • 陸域生態系モデル
  • 大気輸送モデル

を用いている。

(エ)化石燃料によるCO2排出インベントリ

本研究では「化石燃料によるCO2排出インベントリ」として、ODIAC(Open-source Data Inventory for Anthropogenic CO2)を利用している。ODIACは化石燃料によるCO2排出量は人工衛星から見た夜間の地球表面の明るさと火力発電所のデータベース注釈オから算出されているインベントリである。
Oda et al., Atmos. Chem. Phys., 11, 543-556, 2011

http://odiac.org

(オ)火力発電所のデータベース

ODIACでは火力発電所のデータベースとしてCARMA(Carbon Monitoring for Action)を使用している。CARMAには全世界の60,000以上の火力発電所が登録されている。

http://www.carma.org/plant

(カ)森林火災によるCO2排出インベントリ

本研究では「森林火災によるCO2排出インベントリ」として、GFAS(Global Fire Assimilation System)を使用している。GFASでは火災からの放射エネルギーを衛星から観測することにより、火災の範囲や強度、CO2の排出量等を推定している。 Kaiser et al., Biogeosciences, 9, 527-554, 2011

(キ)衛星CO2濃度観測による人為起源CO2排出(インベントリ)の監視

一例として『衛星による人為起源CO2濃度とインベントリ等による人為起源CO2濃度の差が衛星の誤差より大きい場合には、インベントリに問題が生じている可能性があるため、インベントリの内訳の精査を行なう』といったことが考えられる。

(ク)より高頻度・多数の衛星CO2濃度データの取得方法

衛星CO2濃度データの数は「温室効果ガス観測センサ」の視野内への雲の混入に大きく左右される(「いぶき」では雲の混入のないデータは全データの10%程度。)ため、

  • 過去のデータから雲が少ないと考えられる場所の観測を優先する。
  • 軌道上で雲の有無を判別し、雲のない領域を自分で探し、観測する機能を衛星に付加する。

といった方法が考えられる。




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