理事長定例記者会見
山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします
日時:2020年(令和2年)7月10日(金) 13:30-14:15
場所:オンライン会見
司会:広報部長 鈴木 明子
7月の九州豪雨での緊急観測の実施について
7月3日から降り続いている豪雨で、九州地方を中心に河川の氾濫や土砂災害による甚大な被害が発生しています。被害を受けられた方々に対しまして、心よりお見舞いを申し上げます。
JAXAでは国土交通省からの要請に基づき、7月4日から7日にかけまして「だいち2号」による緊急観測を実施し、国土交通省などの防災関係機関等にデータを提供するとともに、だいち防災Webで処理済みデータであるプロダクトを、地球観測研究センターのホームページに河川の氾濫域や浸水域などを示した解析結果をそれぞれ公開いたしました。
皆さまご覧になっております画面右側の図(リンク先ページ図3)は、熊本県人吉市球磨郡周辺の7月4日の推定浸水域を水色で表示した結果です。球磨川沿いの約30kmとそこから延びる支流の流域でも河川が氾濫している様子がわかります。
また、全球降水観測計画(GPM)主衛星や衛星全球降水マップ(GSMaP)など、宇宙から雨の状況を観測したデータを用いて降水状況の解析を実施し、7月5日の一日の降水量の分布や3次元の降水構造についても、公開しております。
画面左側がGSMaPによる図(リンク先ページ図1)です。梅雨前線に伴う降水帯が東西に長くのびている様子が確認できます。特に九州南部では、赤色で示されるように、一日に250mmを超える大雨が降ったことがわかります。
JAXAは引き続き、災害発生時には迅速に正確な情報を社会に提供してまいりたいと思います。
豪州宇宙庁との機関間協力協定の締結について
昨日9日に行われました日豪の首脳会談の機会を捉えまして、JAXAは7日に、豪州宇宙庁(Australian Space Agency)との間で機関間協力協定(Memorandum of Cooperation)を締結いたしました。本協力については、日豪首脳会談でも触れられ、今後宇宙分野における日豪間の更なる協力推進への期待が示されました。
豪州宇宙庁は、海外との国際協力の窓口として豪州内の様々な機関との橋渡し機能を果たしていく役割を担われておりまして、2018年7月に設立された比較的新しい宇宙機関でございます。
JAXAは、豪州宇宙庁の設立以来、協力に係る協議を進めてまいりました。この度の協定締結をきっかけに、今後、「宇宙利用」「宇宙技術」「宇宙環境利用」「宇宙科学及び宇宙探査」「宇宙教育及びアウトリーチ」の5つの分野について協力を検討し、多くの具体的な案件の創出を目指してまいります。また、小惑星探査機「はやぶさ2」のミッション成功に向けて、豪州宇宙庁と豪州でのカプセル帰還・回収に向けた調整を進めているところでございます。新型コロナの影響も踏まえ、確実に達成できるよう、日豪で協力して進めてまいりたいと考えております。
本協力協定のもと、さまざまな活動及びミッションの協力を通じ、アジア太平洋地域における主要なパートナーとして、共に宇宙活動を盛り上げていきたいと考えております。
月探査協力に関する文部科学省とNASAの共同宣言及びJAXAの取り組みについて
本日、萩生田文部科学大臣と、NASAブライデンシュタイン長官の間で、日米の月探査協力に関する共同宣言が発表されました。この共同宣言は、行政機関としてのNASAと文部科学省との間のものでありまして、これにより日米の政策レベルでの協力の意向が宣言されたものと認識しております。内容は、皆さま既にご承知のように、米国のアルテミス計画の目的を共有し、国際宇宙ステーション(ISS)と月における総合的な協力による利点を認識したうえで日米間での月探査協力を推進し、また、Gateway及び月面での日本人宇宙飛行士の活動機会を可能とするための取決めを策定することを意図したものと承知しております。
このたびの共同宣言の内容も踏まえ、JAXAとしましては、先月改訂されました宇宙基本計画・工程表に則って、国際宇宙探査分野での具体的な取組に向けた海外機関及び国内の調整を進めていくこととしておりますので、実施機関でもありますNASAとのISS並びにGatewayそして月面探査活動に関する技術的な協力の具体化にしっかりと取り組んでいく考えでおります。
具体的には、アルテミス計画への参画として、これまでのISSや科学探査等で培った有人・無人宇宙技術に関する日本の知見を活かして、Gatewayへの居住機能、補給ミッションでの貢献、そして、月面での持続的探査に向けたミッションの技術的な検討を進めております。
また、日本人宇宙飛行士は、これまでISSでの活動において、チーム行動能力の高さやミッション遂行能力と責任感が国際的にも高い信頼と評価を得ておりますけれども、今後、さらに、月での活動機会を実現して、人類としてのフロンティアを拡大すること、そして、特に、次世代を担う青少年が未知への探求心や挑戦する心を育むことへ貢献してもらいたいと思っております。
今後の月探査の本格化に向けては、長年にわたるISS計画を始めとする、民生宇宙分野における日米間の強固な協力関係のもと成り立つものと認識しております。NASAとのパートナーシップの一層の拡大、国際的な協調と協働、また、産業界・アカデミアとの連携のもと、日米両国さらには人類に裨益する活動に取り組んでまいる所存であります。
つくば市との基本協定の締結について
筑波宇宙センターが筑波研究学園都市に設立されてから間もなく50年になります。ご存知のとおり、筑波研究学園都市は、高水準の研究と教育を行うための拠点を形成することを目的に建設されたものであります。
JAXAとしましても、地域社会との密接な連携の強化や交流促進の重要性を認識しており、これまでも、産業技術総合研究所殿や物質・材料研究機構殿、国立環境研究所殿等をはじめとするつくば市に位置する各研究機関との共同研究や、筑波大学殿との連携大学院協定を通じた教育への協力などを推進してまいりました。
その地域連携の取り組みの一環として、先月6月25日に、つくば市との間で「相互協力の促進に関する基本協定」を締結いたしましたことをご報告いたします。
これまでも、JAXAからは、つくば市の学校等へ職員の講師派遣を行ったり、つくば市からは、JAXA宇宙飛行士のフライトそして帰還時に市内での横断幕の掲示やSNSを通じた応援をいただいたりするなど、友好関係を築いてまいりました。今回、締結いたしました協定において、「互いの情報・資源・研究成果等の活用」や「学術研究及び科学技術の振興」、そして「産業振興」「学校教育及び社会教育の増進」などの協力内容を定め、さらなる相互協力を進めていくことを確認いたしました。
本年4月からは筑波宇宙センターにある試験設備は、民間事業者による運営を開始しており、外部利用の促進も期待されるところであります。地元つくば市の宇宙関連企業の皆さまはもとより、他産業の企業の皆さま方にもJAXAの試験設備をご利用いただき、地域産業の活性化につながることを期待しております。
本協定締結を契機としまして、つくば市をはじめ、地域との連携をより一層強化し、地域社会の持続的な発展や地域再生に貢献してまいりたいと思います。
暮らしやヘルスケア分野における新たな事業創出に向けた取り組みの開始について
JAXAでは、将来、人が宇宙に暮らす時代を見据えた、「衣・食・住」分野の宇宙関連マーケットの開拓、事業創出に向けた取り組みを進めております。「食」の分野におきましては、国内食品メーカーの開発した食品を宇宙食として認証する「宇宙日本食認証制度」を2007年より推進しております。また、本年4月に民間企業との共創型研究開発プログラム「J-SPARC」の一環として「SPACE FOODSPHERE」プログラムを開始しております。
今回、これらに続きまして、暮らしやヘルスケア分野における2つの取り組みを開始いたしました。
1つ目は、J-SPARCの一環として取り組む、「THINK SPACE LIFE」プラットフォームです。本プラットフォームは、宇宙生活の課題から宇宙と地上双方の暮らしをより良くすることを目指し、例えば、居住空間や睡眠、遠隔コミュニケーション、メンタルヘルス、モチベーション管理、フィットネスなどの幅広い分野について、アイディアの企画から商品・サービス開発に至るまでのインキュベーション機能を持ち、かつ企業間の連携や産学官の連携を促進するためのコミュニティ活動の場を企業等に提供するものでございます。
2つ目の取り組みは、国際宇宙ステーション(ISS)で使われることを目指した、生活用品アイディアの募集です。宇宙飛行士が使用いたします船内用の衣類や歯ブラシなどの身の回りの生活用品に加え、将来の宇宙旅行や地上生活にも役立つようなアイディアをいただけることを期待しております。選定後は、宇宙飛行士によるフィットチェック等を行いつつ、JAXAによる搭載判断を経て、2022年度以降にISSへの搭載を目指します。
先日改訂されました宇宙基本計画におきましても、SDGsの達成を含む地球規模課題の解決や異業種企業等の参入促進に向けた項目が追加されております。異分野融合によるイノベーション創出の先導や、日本の経済成長のために宇宙が地上の技術に革新をもたらす起爆剤となることなどが、日本の宇宙開発に対して一層期待されているところでございます。JAXAにおきましても、お話ししましたこれら2つの新たな取り組み、そして既存の共同研究や宇宙実証の仕組みなどを有機的に連携させ、宇宙と地上双方でのビジネス化・社会実装の後押しに貢献してまいりたいと思います。
小型実証衛星1号機(RAPIS-1)の運用終了について
2019年1月に内之浦宇宙空間観測所からイプシロンロケット4号機で打ち上げられました「小型実証衛星1号機(RAPIS-1)」ですが、約1年5ヶ月の運用を終了し、先月6月24日に停波いたしました。
RAPIS-1は、企業や大学等が開発した部品・機器や超小型衛星、キューブサットに軌道上実証の機会を提供する「革新的衛星技術実証プログラム」の1号機に搭載されたものでございます。実証テーマとして選定された7つの部品や機器を軌道上で実証し、各実証テーマは優れた成果を上げました。
例えば、RAPIS-1で選定されました日本電気株式会社の「革新的FPGA」では事業化の検討を開始しているほか、「革新的地球センサ・スタートラッカー(DLAS)」では東京工業大学発ベンチャーが設立され、事業化を進めています。中部大学の「超小型・省電力GNSS受信機(Fireant)」については、すでに多数の販売実績が出ていると聞いております。
また、革新的衛星技術実証プログラムの1号機として、実証テーマ選定から技術支援及び実証機会提供といった、産業振興につながる一連の実証プラットフォームを確立し、後続号機に続けられることになった点も大きな成果の一つであると考えております。
これまでRAPIS-1の開発・運用にあたり、ご協力・ご支援をいただいた関係各機関及び各位に深く感謝いたします。「革新的衛星技術実証プログラム」につきましては、2号機、そして先月実証テーマの選定についてご報告いたしました3号機も控えておりますので、引き続き、本プログラムを通じて、宇宙利用の拡大と日本の宇宙産業の発展に繋げていくべく、取り組んでまいりたいと思います。