2023年(令和5年)4月理事長定例記者会見

理事長定例記者会見

山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします

日時:2023年(令和5年)4月14日(金) 13:30-14:15

場所:オンライン会見

司会:広報部長 佐々木 薫

 2023年度がスタートいたしました。
 最初に役員人事についてご紹介いたします。
 4月1日付にて原克彦理事が着任いたしました。原理事は大山前理事の業務を引き継ぎ、ワークライフ変革推進、総務、人事、財務、調達などを担当いたします。他の理事には変わりなく、原理事とともに役員一同JAXAの責務を全うしてまいりますので、よろしくお願い申し上げます。

1.イプシロンロケット6号機およびH3ロケット試験機1号機に関する原因究明状況

 イプシロンロケット6号機およびH3ロケット試験機1号機の打上げ失敗につきまして、これまで再現試験や検証試験、およびそれらに基づく原因の絞り込み等を行ってきており、これら原因究明の調査状況等は、文部科学省の調査安全有識者会合にて随時ご報告をさせていただいております。

 イプシロンロケットに関する次回の有識者会合は4月18日に予定されており、原因究明の調査結果について、ご報告させていただく予定です。また、H3ロケットの原因究明の調査状況につきましては、今月中に有識者会合でご報告させていただく予定です。

 H3ロケット試験機2号機以降に向けたLE-9エンジンについて、最適な仕様を選定するためのデータ取得を行う燃焼試験を、種子島宇宙センターにおいて2月21日から4月8日にかけて計5回実施いたしました。試験は概ね計画通り終了し、取得したデータの解析を進めています。今後その結果も踏まえ、試験機2号機以降に向けたLE-9エンジンの開発を進めてまいります。

2.若田宇宙飛行士の地球帰還と現在の状況など

 若田宇宙飛行士は、国際宇宙ステーション(ISS)での約157日間に及ぶ長期滞在を終え、先月3月12日に無事地球に帰還しました。また、今回の宇宙飛行で若田宇宙飛行士の累計宇宙滞在は約504日となり、日本人宇宙飛行士として最長となりました。

 長期滞在中は、様々な実験を、仲間のクルーや地上の関係者と連携して確実に行いましたので、いくつかご紹介いたします。
 帰還が迫った2月末から3月初めにかけては、4回の次世代水再生実証システムの初期検証実験を行いました。これまでの実験でも、部分的な実証は成功しておりましたが、今回は水再生のすべての工程を実施することに初めて成功しました。この技術実証を通して得られた成果は、現在のISSのシステムより、小型・低電力・高再生率で、メンテナンス性を向上させた、次世代型水再生システムの開発に活かされ、将来の有人宇宙探査につながる技術となります。
 また、宇宙の微小重力環境が引き起こす体の変化は、高齢者の方などが抱える骨や筋肉の萎縮、代謝不全など様々な問題と類似しているため、モデル生物の線虫を用いて、宇宙フライトが及ぼす影響を調査する実験を行いました。これは加齢で見られる様々な影響への対処法の確立などの効果が期待されます。
 更に、若田宇宙飛行士初となる、船外活動も2回実施いたしました。今回の船外活動は2030年までのISS運用延長に不可欠な、新型太陽電池アレイを設置するための架台取り付けなどを行いました。

 そして現在、若田宇宙飛行士は、ヒューストンで帰還後のリハビリ等を実施しています。
 軌道上の健康管理や運動について、JAXAの医師や運動担当のチームによるサポートが適切に行われたこともあり、リハビリは順調に進んでいます。地上の重力への再適応も良好で、飛行前と大きく変わらない生活に戻りつつあると報告を受けております。

 この場を借りて、今回のミッションを応援し、支えてくださった皆様、メディアの皆様へ感謝をお伝えしたいと思います。ご支援誠にありがとうございました。

3.直近の宇宙科学・探査ミッション

 昨晩予定しておりました木星氷衛星探査計画JUICEの探査機打上げは、天候判断の結果、延期となりました。新たな打上げは、日本時間で本日14日21時14分に設定されております。プロジェクトメンバーはじめ関係者一同、改めて気を引き締め、今夜の打上げに望みたいと思います。
 このJUICEには10の観測機器が搭載されていますが、日本の研究機関および研究者はそのうちの6つに参画しています。具体的には、JAXAが3つの観測機器を、また情報通信研究機構が1つの観測機器を提供するとともに、JAXAから科学研究メンバーとしてイタリアとイギリスの研究機関が中心となって開発したそれぞれの観測機器に参画しています。参画の意義、日本が担う役割などについては、4月6日に報道関係者説明会にてお伝えしておりますので詳細は割愛いたしますが、これまでの探査ミッション、「はやぶさ」、「はやぶさ2」をはじめ、2007年打上げの月周回衛星「かぐや」、2018年打上げの水星磁気圏探査機「みお」、また2016年に打ち上げた地球近傍の放射線帯を観測する衛星「あらせ」などから得られた理学と工学の成果、それぞれで培った技術を継承し、日本の強みである惑星探査分野でさらなる貢献を目指します。

 日本の宇宙探査活動としましては、日本の宇宙スタートアップ企業、株式会社ispaceによる民間月面探査プログラム「HAKUTO‐R」ミッション1の月着陸船が、4月26日に月面に着陸する予定との発表がありました。
 民間企業の月面探査チャレンジが着々と進められております。運用に携わっております皆様のご努力、またご苦労も多いかと思いますが、引き続きエールを送りたいと思います。
 また、この月着陸船には、月面でのデータ取得を目的とするJAXAの“LAMPE”ミッションの変形型月面ロボット1機も搭載されております。変形型月面ロボットは、JAXA、および株式会社タカラトミー、ソニーグループ株式会社、同志社大学の4者で共同開発したもので、過酷な月面環境で稼働可能な超小型・超軽量の自走型ロボットです。
 LAMPEミッションでは、変形型月面ロボットを月面で走行させてレゴリスの挙動や画像データ等を月着陸船経由で地上に送信する予定です。
 取得したデータを用いて、アルテミス計画で重要な役割を担う月面与圧ローバの実現等へ貢献することを目指し、本ミッションを通じて「将来の月探査ミッションに灯りをともす」ことを狙いとしています。
 月着陸後の状況等は今後随時情報発信していく予定です。

 そして先日11日には外務省にて、火星衛星探査計画(MMX)の日米政府間協力に関する交換公文に、林外務大臣・エマニュエル駐日米国大使が署名をされました。政府間の合意に基づき、NASAからは火星衛星の中性子やガンマ線を観測するセンサーやサンプル採取機構の提供を受けます。また探査機のデータ通信やサイエンス面でも協力を行います。これを受けて、来週にはJAXAとNASAでMMX協力内容を具体的に定める了解覚書(MOU)に署名する予定です。JAXAは、NASAをはじめとする国際パートナーの協力を受け、MMXミッションの成功に向けて取り組んでまいります。

 またMMXミッションを活用した教育関連の取り組みの一つとして、MMXを題材にした個人で学べるデジタル教材『火星衛星探査計画MMX 君もJAXAのエンジニア』を宇宙教育センターが制作し、3月22日に公開しました。この教材は、小学校で使用している端末に対応しており、ゲームスタイルで自学自習ができる教材となります。理系、文系の枠にとらわれない、課題を自ら発見して解決する能力を育むSTEAM教材として効果的と考えております。学校、ご家庭、お友達同士などさまざまなコミュニティの中でご活用いただきたいと考えております。

4.小型実証衛星2号機(RAISE-2)運用終了

小型実証衛星2号機RAISE-2は、「革新的衛星技術実証2号機」を構成する一つの衛星であり、超小型衛星4機、キューブサット4機とともに、2021年11月に内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられました。
 打上げ後、2022年2月に定常運用に移行し、本年2月には約1年の運用期間が経過いたしました。これを受け、先日4月7日に停波、運用を終了いたしました。

 RAISE-2は、公募で選定された企業や大学等が開発した6つの部品や機器を搭載し、提案機関からの要求に基づき、衛星運用を行ってまいりました。
 約1年間の運用において、複数の実証テーマがフルサクセスを達成しており、すでに軌道上実証の成果を踏まえて製品化等の動きが始まっております。詳細の状況については、各実証テーマ提案機関にお問い合わせいただきたいと思いますが、主な事例を申し上げると、ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社の次世代宇宙機器用として活用可能なマルチコア・省電力ボードコンピュータでは、今回の宇宙実証を受けてキューブサット等での引き合いが増加していると伺っています。そのほか、多摩川精機株式会社の姿勢制御用の国産光ファイバジャイロも製品化が進められているとのことです。また、東北大学の軽量・省電力熱制御デバイスと、JAXAの冗長機能を持たせた微小電力機械システムを用いた小型慣性センサユニットは、それぞれ共同開発企業において製品化に向けた準備が進んでいると聞いています。

 これまでRAISE-2の開発・運用にあたり、ご協力・ご支援をいただいた関係各機関及び各位に深く感謝いたします。  なお、「革新的衛星技術実証プログラム」につきましては、昨年のイプシロンロケット6号機の打上げ失敗により、「革新的衛星技術実証3号機」として、小型実証衛星3号機(RAISE-3)と、キューブサット5機が失われましたが、この革新3号機の実証テーマのうち11件については再チャレンジの機会として、革新的技術実証衛星4号機および5号機に搭載することといたしました。さらに、革新3号機に選定されていた金沢大学、東京工業大学、静岡大学の超小型衛星3機につきましても、打上げに向けた開発などの支援を引き続き行っていきます。
 宇宙利用の拡大と日本の宇宙産業の発展の歩みを止めることがないよう、今後も着実に革新的衛星技術実証プログラムに取り組んでまいります。

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