理事長定例記者会見
山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします
日時:2024年(令和6年)12月20日(金) 13:30-14:15
場所:JAXA東京事務所 B1F プレゼンテーションルーム
司会:広報部長 佐々木 薫

1. 最近の取り組みなど
● イプシロンSロケット第2段モータ再地上燃焼試験・原因調査チーム
イプシロンSロケット第2段モータ再地上燃焼試験での燃焼異常に関しましては、原因調査チームを立ち上げ、現在、チーム長の岡田理事以下チーム構成員一丸となって、試験データの解析評価、設計・製造・検査データの確認など、あらゆる可能性を考慮して調査及び対策検討を進めております。国民の皆さまをはじめ、関係者の皆さまにはご迷惑とご心配をおかけしており、私としても事態を重く受け止め、できるかぎり早期の原因特定、対策検討に取り組むよう指示しております。
なお12月5日の記者説明会以降における調査の進捗状況につきまして、2回目の記者説明会を12月25日に開催いたします。
● みちびき6号機(準天頂衛星)・H3ロケット5号機打上げ準備状況
また今回の事象発生を受け、H3ロケットの固体ロケットブースタSRB-3への影響について検証評価を行った結果、懸念事項はないと判断いたしまして、H3ロケット5号機による「みちびき6号機」の打上げを来年2025年2月1日に実施する予定です。地元地域や関係企業の皆さまと連携を密にして、打上げに向けた準備を着実に実施してまいります。
● 大西卓哉宇宙飛行士のISS長期滞在、ISS船長就任
打上げ準備という点では、大西卓哉宇宙飛行士の国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在に向けた準備も着々と進んでおります。大西飛行士は現在、米国ジョンソン宇宙センターにて、ドラゴン宇宙船運用10号機(Crew-10)に搭乗する3人のクルーとともに訓練を続けており、順調にこなしていると聞いております。
大西飛行士は今回のフライト期間中にISSの船長に就任する予定です。船長としてミッション達成を牽引するとともに、ISSに滞在する搭乗員の安全確保など、軌道上におけるリーダーシップをしっかりと発揮してもらいたいと思います。当然のことながら、地上から大西飛行士ほかISS滞在クルーを支える運用管制員や研究実験等の関係者もそれぞれ、ミッション達成、日本としてのプレゼンス発揮を目指し、準備に余念がないことはいうまでもありません。
12月17日には、NASAより、Crew-10打上げが来年3月下旬以降になるとの発表がありました。引き続き打上げに向けた最新状況など分かり次第、お知らせいたします。
● 宇宙戦略基金 技術開発テーマ実施機関の決定
続きまして、宇宙戦略基金の公募状況などについてです。
宇宙戦略基金に係る政府の基本方針・実施方針を踏まえ、民間企業・大学・国立研究開発法人等に対して、22の技術開発テーマの公募を実施しております。
10月25日以降順次、各テーマにおける実施機関決定についてお知らせしておりますが、本日は応募の全体概要について簡単にご紹介いたします。
応募全体に対して、まず民間企業からの応募が55%、大学等の教育機関が36%となり、両者で全体の約9割を占めております。
民間企業からの応募についてブレイクダウンしますと、民間企業からの応募数における「スタートアップ企業」の割合は46%となります。このスタートアップ企業が応募全体に占める割合は25%となっています。
また民間企業の応募を「宇宙分野で実績があるか/ないか」でみると、宇宙分野で実績がある企業が60%、実績がない企業が40%となります。
民間企業、大学等の教育機関、その他研究開発法人など技術開発の技術成熟度(TRL)に応じて幅広く支援を行なう宇宙戦略基金の特徴が表れた結果となっております。
なお、応募に際しては、複数組織が共同提案を行うことも可能であり、その応募数は、全体の65%を占めています。こちらは産学官連携やオープンイノベーションを通じた技術開発提案が多いことが表れています。
ご提案いただいた応募につきましては、外部有識者で構成された審査会において、提案内容の審議を行い、本日時点で14テーマの実施機関を決定しています。
今後、残るテーマの審査を進め、順次実施機関を決定していくとともに、先日成立した令和6年度補正予算による基金造成はもとより、引き続き、産学官の結節点としての役割を果たすべく、着実な運営を進めてまいります。
2. JAXA、環境省、国立環境研究所、NASA間の温室効果ガスに関する衛星データ相互比較等の協力継続(実施取り決め署名)
次は、地球観測分野に関する話題です。
地球温暖化対策は、地球規模かつ人類における喫緊の課題であります。地球規模での対策として、宇宙からの観測による利点を踏まえ、JAXAはじめ各国で地球観測衛星によるさまざまな観測データの取得、解析研究が行われております。温室効果ガスの観測もその一つとなります。
この度、環境省、国立研究開発法人国立環境研究所、米国航空宇宙局(NASA)とJAXAの4者は、これまで実施してきた温室効果ガスに関する衛星データ相互比較による観測データの精度向上、地球規模での分布変化の把握等への取り組みの重要性を再認識し、協力を継続することに合意いたしました。
今回の合意では、温室効果ガスの観測を専門で行う世界初の衛星として日本が開発し2009年に打ち上げた温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」、その後継ミッションの「いぶき2号」、米国の炭素観測衛星シリーズとして2014年に打ち上げられた「OCO-2」、2019年に国際宇宙ステーションに取り付けられた「OCO-3」による観測データに加えて、2023年に打上げられたNASA大気質観測衛星(TEMPO)と、日本が開発中の温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)による観測データを追加することで、観測データの精度や均質性の向上、日米のデータ相互利用のなどを加速し、地球規模での温室効果ガス排出削減目標への貢献、地球温暖化対策への貢献を、日米で更に図っていくことを、引き続き目指してまいります。
ここで、4者の協力連携活動の成果が国際的に認知された事例を一つご紹介いたします。
国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)においては、同会議で採択されたパリ協定に基づき、各締約国は自国の温室効果ガス排出量の一覧表(インベントリ)の作成、報告が義務付けられています。この各国が報告する一覧表(インベントリ)の精度向上に貢献する科学的根拠の一つとして、人工衛星による温室効果ガス観測データの有用性が初めて認められ、2019年に、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が採択した「国別温室効果ガス インベントリ ガイドライン2019年版」の中に盛り込まれました。4者の協力は、これ以前よりも長く続いているものです。
2019年に有用性が言及されまでには、日米両国の地球観測研究に携わる研究者や技術者による長い道のりがありました。
日米の協力は、2000年初頭に「いぶき」「OCO」の両プロジェクトが立ち上がった時点から、日米連携の本枠組みのもとで、観測精度向上のための研究開発が進められてきました。両衛星の打上げ後においても、観測データの誤差となる観測時の様々な要因である雲、砂塵、大気の影響などを取り除く処理手法を確立するためなど、両国が観測データを提供し合い、相互比較検証や技術的な議論等を続けることで、「いぶき」による観測が実現される前は不可能とも言われた宇宙からの温室効果ガスの観測、さらに観測精度の向上を実現させました。研究者・技術者が課題に真摯に向き合い、継続的な連携活動が結果をもたらしたと言えるものです。
地球温暖化対策は地球規模かつ人類における喫緊の課題と冒頭に申し上げましたが、この分野において、引き続き日米両国が国際的なプレゼンスを発揮できるよう、さらに努めてまいります。
3. 第30回アジア・太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF-30)の開催結果
11月26日から29日までの4日間、オーストラリア・パースにて、「持続可能で責任ある地域宇宙コミュニティの連携共創」をテーマにした、第30回アジア・太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF-30)が開催されました。今回は、36の国と地域から560名の参加がありました。前半2日間ではAPRSAFに設置している5つの分科会と1つのワークショップが開催されました。5つの分科会は、まず①災害管理、環境監視、気候変動等の分野での地球観測衛星・測位衛星データの活用促進、課題解決やSDGsへの貢献を目指す「社会便益のための衛星利用分科会」、②学校教育、社会教育を問わず幅広く宇宙を題材とした教育機会の提供やSTEAM教育の強化等を目的とする「宇宙教育分科会」、③アジア・太平洋地域における宇宙技術開発能力の向上を目的とした「宇宙能力向上分科会」、④国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟の利用から将来の宇宙探査ミッション、宇宙フロンティアの探求を目指す「宇宙フロンティア分科会」、⑤宇宙活動を推進するうえで重要な法政策分野に関する能力向上を目的とする「宇宙法政策分科会」となります。またワークショップとしてはアジア太平洋地域の宇宙産業発展のための課題等を議論するための「宇宙産業ワークショップ」を開催しております。後半2日間には本会合が開催され、会議期間を通して、参加者一人ひとりがアジア太平洋地域の持続的な社会・経済の発展、貢献を念頭に考え、官民による活発な交流が行われており、APRSAFの取り組みの重要性を再認識いたしました。
APRSAFは、日本からの提案をもとに、1993年に設立され、文部科学省およびJAXA、そしてホスト国の関連機関との共催にてほぼ毎年開催しています。設立から30年を経て、第1回目の14ヵ国、60人の宇宙機関関係者が参加する会議から、近年では、約30の国と地域から、500人以上が参加する会議へと発展しております。参加者の顔ぶれとしては、宇宙機関が約30%、政府関係者が約10%、産業界が約20%、大学・教育関連が約20%など様々な分野からの参加があり、その観点等からもAPRSAFは、アジア太平洋地域の防災や気候変動等の社会課題の解決、宇宙活動に関する同地域のネットワーク形成、政府と連携のうえ国際協力及び宇宙外交の推進、官民のネットワーキング機会提供、ビジネス機会の創出にも貢献してまいりました。
これらのAPRSAFの特徴を維持し、さらに一歩進めるため、今回、節目となる30回目の会議において、APRSAFが多様なパートナーとの共創活動を促進し、アジア太平洋地域の経済発展に貢献するためのプラットフォームとして機能することを目指すことを盛り込んだビジョンが採択されています。
さらに、今回のAPRSAFは、日本とともに豪州宇宙機関(ASA)が共催し、西豪州政府の支援を受け、「Western Australia Space Week」の期間に開催されました。西豪州政府が主導する国際会議(Indo-Pacific Space & Earth Conference:IPSEC)とAPRSAFの共同展示機会やネットワーキング機会を設定したところ700名以上が来場し、活発な交流が行われました。今後もこうしたホスト国との連携機会やそこから生まれる交流を通じ、APRSAFが、政府、宇宙機関、産業界、大学等の多様なプレーヤーが出会い、新たなパートナーシップを構築し、本地域での経済発展の加速に貢献することを期待しているところです。
2025年のAPRSAF-31はフィリピン(セブ島)で11月18日~21日に開催される予定です。また、2026年のAPRRSAF-32は、タイでの開催を予定しています。