
継ぎ目のないシームレスな空を目指して
— DREAMSプロジェクトの開発の過程を教えてください。
DREAMSプロジェクトは、 2009年半ばから技術目的や概念などが作られ、2012年にプロジェクト化されました。最初の年はシステムの設計・製作を行い、2013年から実証実験を行ってきました。当初の開発目標を達成することができ、今後JAXA内でプロジェクト終了に向けた審査を実施する予定です。私たちの成果は、民間航空機の運航ルールを制定する国際民間航空機関(ICAO: International Civil Aviation Organization)にも提案される予定です。
— DREAMSプロジェクトを立ち上げた経緯は何でしょうか?
経済成長が著しいアジア諸国を中心に航空需要が増え、2030年には世界の航空交通量が現在のおよそ2倍になると予想されています。旅客数や貨物量だけでなく、中心となる機材が大型機から小~中型機へと変わることで、航空機の便数が増加することも影響しています。以前は大型機でなければ長距離航行ができませんでしたが、複合材を使った機体の軽量化により、中型機でも大型機並みの航行距離が可能になったことが背景にあります。運航数が増えると旅客の利便性は上がりますが、空港容量が不足してしまいます。とはいえ、簡単に滑走路を増やすことはできません。また、現在の航空交通管理システムでは、将来の航空交通量に対応できないという懸念もあります。
そこで、2003年に、ICAOが、将来の航空機運用における「グローバルATM(Air Traffic Management)運用概念」を提唱しました。ATMとは、航空機をより安全に、より効率的に運航するための航空交通管理のことで、継ぎ目のないシームレスなATMを構築しようというのが「グローバルATM」の概念です。世界中の空を、同じようなルール(システム)でつながるようにしようということです。ICAOでは、この次世代運航システムの運用開始を2025年と定めています。
このICAOの提言を契機として、各国は新しい運航システムの研究開発に着手しました。アメリカでは「NextGen: Next Generation Air Transportation System」、ヨーロッパでは「SESAR: Single European Sky ATM Research」と呼ばれるプロジェクトが進行中で、日本でも国土交通省が中心となって「CARATS: Collaborative Actions for Renovation of Air Traffic Systems」を進めています。CARATSでは、安全性の向上、航空交通量の増大への対応、利便性の向上、運航の効率性向上、環境の配慮などの目標が掲げられ、それを実現するための46の施策が立案されています。その中からJAXAが得意な技術で対応できるものを選び、DREAMSプロジェクトが取り組む技術課題として5つを選定しました。
成果を社会に還元するための活動を継続
— DREAMSプロジェクトで選定した5つの技術課題とは何でしょうか?
DREAMS 気象情報、低騒音運航、高精度衛星航法、飛行軌道制御技術の概念
「気象情報技術」「低騒音運航技術」「高精度衛星航法技術」「飛行軌道制御技術」そして、「防災・小型機運航技術」です。それぞれの技術において、アルゴリズム(ソフトウェア)を作り、これらのアルゴリズムが国際基準となることを目標に開発してきました。技術内容について簡単に説明しましょう。「気象情報技術」では、後方乱気流と低層風擾乱を予測することで、管制間隔の短縮や、気象による影響を低減します。「低騒音運航技術」では、騒音の影響を受ける範囲を予測することで、騒音軽減のための空港進入経路を設定します。「高精度衛星航法技術」では、太陽活動が激しい時に起きる電離圏の異常時でも、GPS航法の信頼性を維持します。「飛行軌道制御技術」では、GPS航法による精密曲線進入を可能にします。そして、「防災・小型機運航技術」は他の4技術とは異なり、災害などの非常時を想定したものです。救援航空機に関わる情報の共有と、最適な運航管理を実現します。防災・小型機運航技術は、アメリカやヨーロッパのプログラムでは行われていない、日本オリジナルの技術です。
— これらの技術によって、どんな成果が期待されますか?
現在よりも多くの航空機が空港を離発着できるようになりますので、空港容量の拡大と就航率の向上が期待できます。また、安全性の向上や環境に優しい運航、そして、救援航空機の効率化が実現できます。
— 今後の展望をお聞かせください。
DREAMSプロジェクトの技術の一部は、民間企業などへの技術移転がすでに行われています。例えば、「防災・小型機運航技術」で開発した「災害救援航空機情報共有ネットワーク(D-NET)」に対応した航空機搭載用の端末です。また、「気象情報技術」で開発した「低層風擾乱アドバイザリーシステム(LOTAS)」は、一部改良を加えて気象庁に技術移転され、2016年4月から運用される予定です。今後も、このような技術移転をきちんと支援していきたいと考えています。DREAMSプロジェクトは国民の皆さんの貴重な税金を使って行われましたので、成果を社会に還元できるようにしたいと思います。
越岡康弘(こしおかやすひろ)
JAXA航空技術部門 DREAMSプロジェクトチーム
プロジェクトマネージャ、博士(工学)
航空機メーカ勤務を経て2012年にJAXA入社。航空機の抵抗低減技術開発に従事。
[ 2015年4月1日 ]
- 航空交通量の増大に対応する技術を確立
- 航空機に影響を及ぼす気象現象を予測
- 気象状況に応じた経路で騒音を減らす
- 着陸時の衛星航法の信頼を高める
- 衛星を使って進入経路を柔軟に設定
- 災害時の救援航空機の情報を一元管理する