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衛星を使って進入経路を柔軟に設定

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衛星を使って進入経路を柔軟に設定 DREAMS プロジェクトチーム 飛行軌道制御技術セクション 舩引浩平

視界不良による欠航を減らす

— 飛行軌道制御技術とはどのようなものか教えてください。

曲線進入曲線進入

ILSによる直線侵入ILSによる直線侵入

 DREAMSプロジェクトでは、着陸時に滑走路へ曲線で進入する技術を開発しました。曲線進入に対して、直線進入もあるわけですが、まずはそちらの話をしましょう。現在の航空機は、霧や雨など天候によって視程(目で見える距離)が悪いときでも、空港に計器着陸システム(ILS: Instrument Landing System)が設置されていれば着陸できます。地上にあるILSから航空機に対して電波を発射して、電波を使った仮想の道を作り、航空機はその道を辿って着陸することができます。これを計器進入といいます。しかし、ILS方式の場合、滑走路に着陸する前の直線部分が少なくとも5km程度必要なため、空港周辺に山や人口密集地があるとILSを設置できず、計器進入ができないのです。日本の場合、その地形から、半分以上の空港が一方向からしか進入できません。ところが、風向きによっては、ILSの設定がない方向からパイロットの目視で進入しなければならない場合もあり、視界が悪いと着陸できません。欠航要因の4分の1を占めるのが、悪天候による視程不良です。

 この問題を解決するため、ILSの代わりに、GPS衛星からの情報で航空機の正確な位置を知ることができる地上型衛星補強システム(GBAS: Ground Based Augmentation System)を用いて曲線進入を可能にするのが、DREAMSプロジェクトの飛行軌道制御技術です。私たちは、直線部分が2km程度の曲線進入の経路を生成し、自動操縦でその経路を追従できる技術を開発しました。進入経路を柔軟に設定できれば、悪天候での欠航が減り、就航率の向上につながります。

地上と機上のデータ結合で柔軟な経路を設定

— 具体的にどのような方式で曲線進入を可能にしたのでしょうか?

GBAS(直線)とFMS(曲線)による進入経路GBAS(直線)とFMS(曲線)による進入経路

飛行シミュレーター飛行シミュレーター

 私たちは、大きく分けて2つの方式の曲線進入の課題に取り組みました。1つ目は、直線部分は地上のGBASが設定した経路を使い、曲線部分は航空機に取り付けられた飛行管理システム(FMS: Flight Management System)に設定された経路を使う方式です。この場合、FMSに設定された経路は空気に固定されていますので、場合によってはGBASの経路と合わないことがあります。

 FMSが空気に固定されているという意味はお分かりになりますでしょうか? 航空機の速度は地面に対してではなく、周りの空気に対してどれだけ速いかで表します。例えば、航空機の速度が100ノットを示している場合、これは周囲の空気に対する速度で、地上から見た速度とは異なります。この時、航空機に対して20ノットの追い風が吹いていたとしたら、航空機の速度が100ノットに対し、地上から見た速度は100+20=120ノットということになります。また航空機の高さも地面からの距離ではありません。航空機の高度計は実際の高度を測るのではなく、気圧を測っていますので、言いかえると、同じ気圧の所を飛行すると同じ高度を示すことになります。海面からの高さが500mだとすると、例えば、外気温が15℃だと気圧高度も500mですが、-25℃になると気圧高度590mというように航空機の高度計が示す値は変わります。

 一方、GBASは地球を基準とした数値なので、FMSが設定した曲線経路を通ってGBASの直線経路とぶつかった時に、お互いの経路がずれてしまう場合があります。標準大気温度の15度から外気温が大きく上下した場合、経路が会合しなくなってしまうのです。これを解決したのが1つ目の方式です。具体的には、曲線経路の降下角度を急にしたり緩くするなどいろいろ変えて、どの形が外気温の影響を受けにくいか飛行シミュレータを使って調べました。その結果、ある機種については、急降下の場合は低い温度の範囲で、緩降下の場合は高い温度の範囲で会合しやすくなることが分かりました。気温に応じて経路の形を変えれば、広い温度範囲でGBASとFMSの経路は会合できます。曲線進入といった柔軟な経路設定が可能になるのです。

自動操縦による曲線進入を実証

— 2つ目の方式とはどのようなものでしょうか?

自動操縦による曲線進入実験の様子自動操縦による曲線進入実験の様子

 地上に設置したGBASから、GBASに対応した装置を搭載した航空機に、直線と曲線のすべての経路情報を送るという方式です。しかし、既存のオートパイロット(自動操縦装置)では、曲線進入に対応していないため、曲線進入が可能なオートパイロットのアルゴリズム(プログラム)を作る必要がありました。そこで、新しいアルゴリズムを開発し、JAXAの実験用航空機「MuPAL-α」(ドルニエ式Do2208-202型)に搭載して実験を行いました。電子航法研究所や航空会社の協力のもと、地上のGBAS実験局から実験用航空機に信号を送り、それに基づいて自動操縦できるかどうかを試験したのです。実験は、風が強く経路からずれが大きくなるような日にも実施しましたが、直線も曲線の部分もほとんど同じくらいの精度で飛ぶことができました。私たちが開発した曲線進入の技術は、十分に使えることが実証できたのです。

— 実用化を期待できそうですか?

 新しい運航方式が実用化されるためには、さまざまな視点から、沢山の機関がそれぞれに技術データを持ち寄って議論を進めます。それらの議論は国連機関のICAO(国際民間航空機関)でまとめられ、新しい基準になります。十分な安全性を確保するために、大変長い時間と技術的検討が必要です。DREAMSの成果もこのような国際標準化団体に報告され、世界的な基準作りに役立てられています。

— 今後の展望をお聞かせください。

舩引浩平

 DREAMSプロジェクトの飛行軌道制御技術は、今の航空機だけでなく次世代の航空機も視野に入れて開発が行われました。特に自動操縦による曲線進入の技術は、装置の改良に関わりますので、航空機をゼロから作るときに検討されるような将来的な技術です。その技術を最終的にエンドユーザーに届くよう、どのように進化すれば良いか、検討していきたいと思います。

舩引浩平(ふなびきこうへい)

舩引浩平

JAXA航空技術部門 DREAMSプロジェクトチーム
飛行軌道制御技術セクション リーダ

航空宇宙技術研究所(現JAXA)に入所後、パイロットの状況認識やワークロードの研究、コックピットと人間のインターフェースに関する研究等に従事。また、多種の飛行実験やシミュレーション実験に参加。専門は航空ヒューマンファクタ。JAXA航空技術部門 飛行技術研究センター 人間工学セクションリーダを兼務。

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[ 2015年4月1日 ]

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