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気象状況に応じた経路で騒音を減らす

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気象状況に応じた経路で騒音を減らす DREAMS プロジェクトチーム 低騒音運航技術セクション 石井寛一

交通量が増えても騒音を増やさない

— DREAMSプロジェクトで開発した低騒音運航技術とはどのようなものですか?

低騒音運航技術の概念
低騒音運航技術の概念ZOOM

 航空交通量が増えると、地上の騒音も増加することが考えられます。ICAO(国際民間航空機関)では「Balanced Approach(バランスド・アプローチ)」という騒音対策の考え方を採用しています。これは4つの方法をバランスよく組み合わせて、国や空港の事情に合わせて実施しようという考えです。その1つ目の方法は「発生騒音低減」で、航空機から出る音を小さくして、静かな機体を作ろうというものです。2つ目は「騒音軽減運航方式」で、静かな飛び方をしようという方法です。3つ目は「運用制限」で、音がうるさい機体や夜間の飛行を制限するものです。4つ目は「土地利用計画・管理」で、空港周辺の騒音が大きいところを緩衝地帯(緑地化など)にするといった方法です。このように、いくつかの騒音対策がある中で、DREAMSプロジェクトは、2つ目の「騒音軽減運航方式」の技術開発に取り組みました。

— 航空機を静かに飛ばせる方法があるのですか?

 騒音が伝わる範囲をこれ以上広げないような飛ばし方を提案する、と言った方がよいかもしれません。風の向きや強さ、温度や湿度など大気の状態から、音の伝わり方は変わります。例えば、風が強い時は聞こえにくいなど、気象条件によって音の伝わり方が変わるのです。しかし、現状、航空機の騒音を検討する際に気象条件はあまり考慮されていません。そこで私たちは、気象条件に応じて音の伝わり方を予測し、騒音の影響を最小にできる経路を導き出す技術を開発しました。近年、導入されつつある地上型衛星補強システム(GBAS)を用いると、精密な曲線進入も可能になると考えられています。気象条件に応じて、航空機の進入経路を柔軟に設定することができれば、たとえ交通量が増えても、現在より騒音の影響を増やさないようにすることができると考えています。DREAMSプロジェクトでは、それを実現するための「騒音予測プログラム」と「経路最適化プログラム」を開発しました。

気象条件による騒音の影響を予測

— 騒音予測プログラムとはどのようなものでしょうか?

係留気球による実験
係留気球による実験ZOOM

 最終的には航空機からの騒音を予測したいのですが、まずは、気象が音の伝わり方にどのような影響を及ぼすかを予測するモデルを作る必要がありました。距離や空気吸収による減衰については理論的なモデルや規格はあっても、航空機騒音の伝わり方に対する気象による影響を精度良く予測するモデルは存在しなかったからです。そこで、気象条件として風の強さや風向き、温度、つまり音速の鉛直方向の分布を273パターン作り、音の伝わり方を予測するモデルを作りました。

 そして、そのモデルの数値が合っているかを検証するため、係留した気球を用いて試験を行いました。上空から音を出し、それが地上でどう伝わるかを測定したのです。具体的には、まず気球の下に全方向に音を出すスピーカーと、マイクを取り付けます。スピーカーから出す音はこちらで決めたものですが、上空でどのような音の状態になっているかをマイクで測ります。また、その時の風向き、風速、温度、湿度などの情報は、ゾンデという風船で飛ばす装置で取得しました。これにより、上空から出ている音と地上で聞こえる音、その時の気象条件を結びつけたのです。また、気象が大きく変わる影響を見たかったため、2012年11月と2013年7月の2回に分けて試験を行いました。

— 試験の結果はいかがでしたか?

着陸時の騒音を計測する様子着陸時の騒音を計測する様子

 気象条件による騒音予測モデルの精度は確認できました。しかし、それだけでは航空機の騒音予測モデルができたとは言えません。実際の航空機の騒音を測って検証する必要もありました。そこで、成田空港周辺の皆さまにご協力いただき、成田空港に着陸する航空機の騒音計測を行いました。計測は1年の間に4回行い、四季それぞれの気象条件における騒音データを計3万点取得しました。その結果、その3万点のデータの90%以上が、誤差3dB以内で予測モデルの通りだったことが実証できました。3dB以内というのはとても高い精度です。

騒音低減に最適な経路を生成

— 経路最適化プログラムについて教えていただけますか?

 今度は、騒音予測モデルをシミュレーションに組み込んで、地上の騒音が広がらない最適な経路を導き出します。それを計算するのが経路最適化プログラムです。例えば、ある経路があるときに、その経路を少しずらしたらどうなるかというのを計算しているようなイメージです。最適化で得られる経路は、水平面内で位置が変わるだけではなく、アイドル(推力最小)の状態で降りてくる連続降下と呼ばれる飛行をします。連続降下は騒音やCO2の排出を抑えることができると言われている飛び方です。さまざまな検証を行った結果、たとえ交通量が1.5倍になったとしても、騒音の影響を受ける範囲を現状維持できることが確認できています。

— 今後の展望をお聞かせください。

石井寛一

 航空機の運航では騒音以外のさまざまなことを考えなければいけません。気象条件に応じて航空機の経路を柔軟に設定して飛行するためには、DREAMSプロジェクトで開発を行った「高精度衛星航法技術」や「飛行軌道制御技術」も必要です。将来的に、DREAMSプロジェクトの技術や他の研究機関が開発した技術を統合したシステムを検討したいですね。もちろん、空港ごとに気象条件や制約が異なりますので、それに対応した経路の最適化を提案するのもありだと思います。気球を使った音の伝わり方を調べた試験や、航空機騒音を面的に測った試験は世界的に見ても珍しいものだと思います。音は、航空以外にも私たちの生活のいろいろなところに関わっているので、計算結果や一部の計測データを公開し、航空以外の分野で利用していただくのもいいかもしれません。いずれにしても、私たちの成果を、次世代に向けて発展させていきたいと思います。

石井寛一(いしいひろかず)

石井寛一

JAXA航空技術部門 DREAMSプロジェクトチーム
低騒音運航技術セクション リーダ

1995年、東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。1997年、東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻修士課程修了。2000年、航空宇宙技術研究所(現JAXA)入所。2012年5月より現職。

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[ 2015年4月1日 ]

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