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宇宙環境の利用 宇宙環境を利用した研究

宇宙環境を利用した研究とは

宇宙環境は、微小重力、高真空、良好な視野、宇宙放射線など、地上では容易に得ることのできない特徴があり、その宇宙環境を利用することにより、極めて広範な分野にわたる研究や実験、観測などを行うことができます。

JAXAはこれまで、小型ロケットやスペースシャトル、国際宇宙ステーション(ISS)などを利用して科学実験を行ってきました。「きぼう」日本実験棟が完成してから、その規模を拡大して、宇宙医学や文化・教育利用など様々な分野の研究を開始しています。その成果は、私達の暮らしを豊かにしたり、日本の産業競争力を高めたりすることなどにつながります。

宇宙環境における主な研究

1. 微小重力環境での物質科学研究

地球を回るISSは自由落下運動しているため、その中は地上の100万分の1ほどの重力しかなく、「微小重力環境」と呼ばれています。そのような環境では、重さや比重の違いで物質が移動したり分離したりせず均一に混ざるため、新しい物質・材料の研究が可能です。

例えば、「きぼう」日本実験棟の船内実験室に設置された流体実験ラックを使用して、「氷結晶成長実験」を実施しました。地上と違い、温度差による対流や重力の影響を受けない微小重力環境では、その成長のメカニズムを調べることができます。このように「きぼう」日本実験棟では、様々な材料を作る上で重要なポイントである結晶の成長とその仕組みと周囲の対流現象にフォーカスし、材料創製プロセスに関連する物理現象の基礎的なメカニズムを解明する知見を得ることを目指しています。

「きぼう」日本実験棟船内実験室で実施した「氷結晶成長実験」の様子

2. 宇宙環境における生命科学の研究

私たち地球上の生物は、地上の重力(1G)の影響を絶えず受けて進化してきました。長期間「微小重力環境」に生物がさらされることにより、重力が生物にどのような影響を与えているかを調べることができます。例えば地上の植物は、重力に逆らって倒れず成長できるように、体を支える細胞壁を発達させてきました。宇宙で細胞壁の変化を調べることによって、植物が地上で成長するメカニズムを調べることができます。またメダカなどの魚は、微小重力環境では平衡感覚が混乱し、回転して泳いでしまうことがわかっています。このような実験は、重力が人へ及ぼす影響の研究にも繋がります。

JAXAでは以前よりタンパク質の結晶生成実験を行ってきました。生物を構成するタンパク質はその機能と構造の解明が注目されている物質で、病気治療のため、分子レベルに基づいた薬剤設計で重要な役割を果たします。高精度の解析には、単一の分子からなる結晶が必要ですが、宇宙ではこうした良質な結晶が得られ、病気の解明や医薬品の開発が期待できます。

宇宙が地球の環境と大きく違うもう1つのポイントは、「宇宙放射線」の存在です。宇宙には太陽や遠い銀河からやってくる宇宙放射線があります。地球は磁場や大気のバリアーにより、これらの宇宙放射線が地表に達することを防いでくれていますが、宇宙ではそれらの影響を直接受けることになります。放射線は細胞の中にあるDNAを傷つけることが知られており、大量に浴びるとDNAがうまく機能しなくなったり、突然変異を起こしたりします。将来、人類が宇宙に進出するにあたって、宇宙放射線の影響を研究することは、非常に重要なことなのです。

ISSではこれまでの小型ロケットやスペースシャトルに比べ長期にわたって研究ができるため、生物が世代交代を繰り返すことによる、宇宙環境の影響を調べることも可能となります。

植物実験を行う古川宇宙飛行士

3. 宇宙曝露環境を利用した船外実験

ISSは地上約400kmを周回しており、その付近の大気圧は10-5Paとほぼ真空な世界のため、地上に比べ大気に妨害されることなく天体観測を行うことができます。また、ISSは約90分で地球を1周しており、1日に地球を約16周しています。このため観測機器を宇宙空間に向ければ広い範囲の宇宙を短期間で観測することができ、地球側に向ければ地表の広範囲を観測することが可能です。

「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォームには、宇宙空間に直接さらされている環境に複数の実験装置を設置することができます。これを利用して、X線による全天観測、ISS周辺の宇宙空間環境の計測、地球上のオゾン層破壊物質の計測などの実験が既に始められています。

MAXIのガススリットカメラによる全天X線画像
©JAXA/RIKEN/MAXIチーム

4. 宇宙で生活するための研究

人類が宇宙に進出するためには、宇宙環境や宇宙船内の閉鎖された環境が心身に与える影響を調べることが不可欠です。そこで、その環境下で引き起こされる諸症状への対策法の確立を目指す「宇宙医学」も重要な研究対象です。さらに、宇宙・地球間の往来や、宇宙での生活を快適に過ごすための有人宇宙技術(宇宙での活動や環境の制御、人間工学に関する技術)も必要です。その他、将来の宇宙活動に必要なロボット・通信・エネルギーなどの技術・理工学研究装置を実際に宇宙空間にさらして耐久性や作動状況を調べていきます。こうした宇宙での研究の成果は、宇宙活動での問題を解決するだけでなく、地上での生活や病気等の治療に役立つことも期待されます。

例えば、微小重力環境では地上に比べ骨量が減少し骨がもろくなりやすいことが、これまでの宇宙飛行士の滞在の結果からわかっています。この減少量を抑える対策法を研究することで、地上の骨粗しょう症対策などにも応用されることが期待されています。

宇宙に長期滞在する宇宙飛行士が、良好な栄養状態を維持し、精神的ストレスを低減するためには宇宙食も重要です。そこでJAXAは2007年から「宇宙日本食」の認証を始め、既に日本人宇宙飛行士のミッションなどで多くの「宇宙日本食」が食されています。

制振装置付きトレッドミル2でトレーニングする若田宇宙飛行士
(ISS第38次長期滞在中の若田宇宙飛行士)

5. 文化・人文社会科学や教育への応用

「地球は青かった」「そこには国境はなかった」

宇宙に飛び出した人類はこれまでにさまざまな言葉を残し、地球や宇宙に対する新たな視点を得ています。私たちの心を大きく動かす宇宙。この環境を単に物質的な科学分野に利用するだけでなく、芸術表現などを通じて驚きや感動を発見することを目的とした取り組みを始めています。

「きぼう」日本実験棟を利用し、教育的な活動や文化・人文的な試みによって、「地球人育成」「人類未来の開拓」「宇宙利用による新たな価値の創出」を目指します。未来を見据えた芸術表現を宇宙で試みることは、やがて人類が宇宙で豊かな日々を送るためにも欠かせない活動となるでしょう。

文化・人文社会科学利用(EPO)テーマ「Spiral Top」で使用した反転する彫刻により得られた光跡
Plan:Takuro Osaka Execution:JAXA

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