2020年(令和2年)6月理事長定例記者会見

理事長定例記者会見

山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします

日時:2020年(令和2年)6月12日(金) 13:30-14:15

場所:オンライン会見

司会:広報部長 鈴木 明子

はじめに

 5月25日に全国の緊急事態宣言が解除されましたが、新型コロナウイルス感染症の脅威はまだ完全に終息したというわけではありません。
 現在、JAXAは、緊急事態宣言解除を受け、安全確保を第一として、準備が整ったところから、順次、事業所閉鎖は解除いたしましたが、引き続きテレワーク勤務を推奨し、出勤する場合には、マスク着用や消毒の徹底など、必要な感染防止策を講じております。
 今後は、第2波、第3波の発生も起こり得ることを十分に想定した上で、その備えも含め、政府が推奨する「新しい生活様式」や今回の経験を踏まえ、単純に感染症拡大前の元の状態に戻していくのではなく、これからの働き方を模索して、再構築していくことが必要であると感じております。

 さて、先月21日に種子島宇宙センターから打ち上げられました「こうのとり」9号機は、無事にISSに到着し、ISSへ輸送物資の搬入作業も順調に進捗している旨の報告を受けております。あらためまして、地元の皆様、また、各関係機関の皆様のご理解・ご協力いただきましたことに対して御礼申し上げます。
 なお、「こうのとり」9号機は、この後、しばらくISSに係留し、廃棄品等を搭載した後、ISSを離脱して、大気圏再突入をもってミッション完了となります。引き続き、万全を期してまいります。

イプシロンSロケットプロジェクトにおける基本協定締結と打上げ受託について

 イプシロンロケットは、これまで、H-IIAおよびH-IIBロケットの運用が終了した後も切れ目なく運用すること、および国際競争力を強化することを目的として、株式会社IHIエアロスペース殿と「H3ロケットとのシナジー対応開発」の予備設計作業を進めてまいりました。
 この度、この予備設計作業が完了し、本格的な開発に着手するために、「イプシロンSロケットプロジェクト」として名称を新たに設定した上で、プロジェクトに移行いたしました。このプロジェクトをさらに推進していくため、IHIエアロスペース殿と、開発及び打上げ輸送サービス事業の実施に関する基本協定を昨日6月11日に締結いたしました。
 この基本協定では、開発及び運用段階における役割、そして責任分担を定めております。本協定を締結したことは、IHIエアロスペース殿による打上げ輸送サービスに移行するまでの一連の土台が整ったという点で大きな意味があると考えております。
 また、この「イプシロンSロケットプロジェクト」により開発した機体の最初の打上げになります実証機への搭載ペイロードとして、日本電気株式会社(NEC)殿よりベトナム向け地球観測衛星の「LOTUSat-1」(ロータスサット・ワン)の打上げをJAXAが受託したことをご報告いたします。
 「LOTUSat-1」はNEC殿がベトナム向けに開発・製造する人工衛星です。ベトナム国家宇宙センター「Vietnam National Space Center(VNSC)」から受託を受けた住友商事株式会社殿より、本年2020年4月にNEC殿が開発・製造・打上げサービス調達と地上システムの整備等を受注したと聞いております。
 JAXAは、この「LOTUSat-1」をイプシロンロケットで2023年に打ち上げる予定として、こちらも昨日6月11日にNEC殿と契約を締結いたしました。イプシロンロケットが海外衛星となるペイロードの打上げを受託したのは初めてになります。

 イプシロンロケットは、官需に加えまして、民需の取込みにより打上げ機会を確保していくこと、そして民間事業者への移管後には事業者が打上げ輸送サービスを自律的に展開することを目指しております。そして、H3ロケットとのシナジー効果を発揮しながら持続可能な輸送システムとして、我が国の宇宙へのアクセスの自立性の確保および宇宙産業の規模の拡大に貢献してまいりたいと考えております。
 昨今、小型化・集積化の技術進展によりまして、人工衛星も小型衛星、超小型衛星、キューブサットといった国内外の多様な衛星の打上げ需要が高まっております。今回の打上げ受託をきっかけにして、これからも多くの打上げ需要を獲得できるように、JAXAとしても取り組みを進めてまいりたいと考えております。

革新的衛星技術実証3号機実証テーマ選定結果の公表について

 「革新的衛星技術実証プログラム」は日本国内の企業や研究機関、そして大学等の優れた技術やアイディアに宇宙実証の機会を提供することを目的としたJAXAが進めているプログラムです。
 昨年2019年1月に革新的衛星技術実証1号機を打ち上げ、現在2号機も開発を進めています。そして、3号機については、先月5月末に実証テーマとして15件を選定いたしました。内訳は、部品・コンポーネント・サブシステムが7件、超小型衛星が3件、そしてキューブサットが5件です。
 2号機まで、衛星のキー技術の宇宙実証、定期的な相乗り打ち上げ機会の確保による宇宙利用拡大の促進、そしてチャレンジングかつハイリスクな衛星技術/ミッションの開発・実証機会の確保、この3つの目的のもとで「革新的衛星技術実証プログラム」を進めてまいりました。
 今回の3号機の公募におきましては、新たに、衛星開発手法やミッション技術そのものに焦点をあてまして、早いサイクルで宇宙実証を進め、政府衛星等の短期開発、低コスト化と高度化、そして産業界の競争力強化に繋げること、を目的に追加いたしました。
 その目的のもと、「挑戦的ミッション/システムの搭載を通した政府衛星・政府関連衛星の短期開発・低コスト化と高度化を実現するためのフレキシブルな衛星開発手法や革新的なミッション/システム技術の実証」という募集課題も新たに設定いたしました。
 次世代の通信技術となります5G時代に衛星をIoTの中継点として利用するための技術実証を目指すテーマや、先端の民生デジタルデバイスを活用した衛星の知能化と開発手法の革新を目指すテーマなど、選定した15件のうち5件をこの新たな課題設定に対応した案件として選定しております。
 この「革新的衛星技術実証プログラム」を通じまして、多くの新しい技術やアイディアが軌道上で実証できる機会を提供し、宇宙利用の拡大と日本の宇宙産業の発展に繋げてまいりたいと考えております。

官民連携による環境試験設備の運営・利用拡大事業の開始について

 JAXAは筑波宇宙センターに、大型そして小型振動試験や加速度試験、真空試験などの様々な環境試験を行うための日本最大規模の環境試験設備を有し、試験技術を通して高度化する様々なJAXAのミッションの成功を支えております。
 今年度4月からは、環境試験に関わる技術や設備を宇宙開発のみならず、さらに他の産業界でも利用いただくことを目指して、株式会社エイ・イー・エス殿と事業契約を締結いたしました。JAXAでは初の試みとなります民間活力を用いた官民連携的手法(PPP;Public Private Partnership)による設備運用となります。事業期間としましては、2025年3月までの約5年間です。
 皆さまご承知のとおりですが、官民連携的手法(PPP)とは、公共サービスの提供に民間が参画する手法を幅広く捉えた概念で、民間資本や民間のノウハウを活用して、効率化や公共サービスの向上を目指すものです。
 宇宙機は、過酷な環境下でも正しく機能させるために、地上における環境試験による確認が必要不可欠です。近年では、宇宙産業のみならず、宇宙産業界以外の一般産業界におけるJAXAの環境試験設備の利用も増加しております。
 PPP手法により、JAXAは民間事業者の工夫を取り込み、設備の性能を維持しつつ、効率的に試験を行うことができるようになります。また、設備等の運営権を民間事業者に設定しているため、民間事業者の持つ独自のネットワークやノウハウを活用した積極的な営業が可能となり、JAXAの設備をこれまでよりも裾野の広い分野で利用していただくことができるようになります。
 このような民間事業者の方々の創意工夫に期待し、利用拡大事業を推進していくことで、JAXAの中長期目標計画のひとつでもあります「環境試験設備の産業界への利用促進」の達成を図り、我が国の科学技術の発展に寄与してまいりたいと考えております。

知的財産ポリシーの制定について

 この度、JAXAでは知的財産活動の基本的な考え方を示す「宇宙航空研究開発機構 知的財産ポリシー」を制定いたしましたことをご報告いたします。
 JAXAの知的財産活動の目的は、中長期計画の前文にも記載されておりますとおり、「我が国の産業・科学技術基盤の強化を図り、安全保障の確保及び安全・安心な社会の実現、宇宙利用拡大と産業振興、宇宙科学・探査分野における世界最高水準の成果創出、及び国際的プレゼンスの維持・向上、及び航空産業の振興・国際競争力強化を効果的、効率的に実施すること」にあります。
 本知的財産ポリシーは、その取り組みにおきましてJAXAおよびJAXA職員が知的財産に関してどのように業務を行うべきか、その行動指針を示すものとなっております。その内容は単に特許権の取得、ライセンスの供与に留まるものではなく、JAXAの主なミッションであります安全保障の確保、産業振興及び宇宙科学・探査等による人類の知見の獲得という業務の特質に応じて、知的財産権を含む知的資産をどのように識別・保護し社会実装していくかのオープン・アンド・クローズド戦略を示しています。
 安全保障の確保では、JAXAは我が国の安全保障に関わる知的資産を適切に管理します。産業育成では、JAXAは自らが創造した技術成果を知的財産として、適切に民間に移転します。これにより、研究開発成果を活用する事業創出及びオープンイノベーションを喚起する取組を強化し、我が国の経済成長に最大限取り込むことを目指します。また、宇宙科学・探査等による人類の知見の獲得では、JAXAが得た知的資産を公開しアカデミアと協力して多様な科学分野で人類の新たな知の創造につながる世界的な成果を目指します。そして、これらの知的資産を宇宙航空開発利用の意義、及び創出する成果の価値と重要性を示すものとして分かり易く発信します。
 これらの知的財産に関する行動指針を踏まえ、今後もJAXAに対する国民からの幅広い理解や支持を得ることに努めてまいりたいと考えております。

最後に

 最後になりますが、日本時間5月31日未明に、スペースX社の米国商業有人宇宙船クルードラゴンの有人試験機(Demo-2)が、米国人宇宙飛行士2人を乗せて、ファルコン9ロケットによりケネディ宇宙センターから打ち上げられました。その日の夜中にISSにドッキングし、スペースシャトル退役後初めて米国から宇宙飛行士の打上げに成功しました。NASAブライデンスタイン長官にお祝いのメッセージをお送りしましたが、改めましてお祝い申し上げたいと思います。
 この成功により、スペースX社の運用1号機(Crew-1)による野口宇宙飛行士の打上げに向けて一歩前進しました。JAXAとしましては、引き続きISSに貢献していくためにも、安全性評価をしっかりと進めるなど、打上げ成功に向けて万全を期してまいります。

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