理事長定例記者会見
山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします
日時:2024年(令和6年)6月14日(金) 13:30-14:15
場所:JAXA東京事務所 B1F プレゼンテーションルーム
司会:広報部長 佐々木 薫
1. 最近のプロジェクト等の取り組み、成果など
2024年3月に地球へ帰還した古川聡宇宙飛行士が米国ヒューストンのジョンソン宇宙センターでのリハビリを終え、現在、日本へ一時帰国しております。先週以来、岸田総理をはじめ、盛山文部科学大臣、高市内閣府特命担当大臣ほか、政府の皆さまへの表敬訪問を行っておりました。
6月17日には帰国記者会見、また23日にはミッション報告会を開催いたします。ミッション報告会は東京大学安田講堂を本会場とし、全国各地のパブリックビューイング会場にも報告会の様子を配信いたします。ご協力いただく各地の科学館、博物館、団体の皆様に感謝申し上げます。
続きまして、5月29日には、日本と欧州宇宙機関(ESA)が共同開発した雲エアロゾル放射ミッション「EarthCARE」衛星の打上げが無事行われました。
現在、「EarthCARE」衛星、そして搭載されている「雲プロファイリングレーダ(CPR)」という観測装置の初期機能確認など運用が順調に進んでいると報告を受けております。引き続き着実に取り組んでまいります。
また5月末には、種子島宇宙センターにおいて、先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)の衛星機体公開、そしてH3ロケット3号機・極低温点検を実施いたしました。実施後は、6月30日の打上げに向けて、「だいち4号」、そしてH3ロケット3号機ともに射場での準備作業が順調に進んでおります。
「だいち4号」は、これまでの「だいち」シリーズ衛星による合成開口レーダミッションを引き継ぐ衛星で、日本が長年培ってきた合成開口レーダの強みを生かし、4つのミッションに取り組みます。
一つ目は「全天候型観測による迅速な災害状況把握への貢献」、
二つ目は「高精度な地殻・地盤変動の監視による国土強靭化への貢献」、
三つ目は「海洋状況の把握への貢献」、
最後、四つ目は「地球規模課題への対応」となります。
災害等での迅速な対応はもとより、地殻や地盤変動、火山活動等などの異変を早期発見につなげ、また地球規模課題である、森林資源や農作物資源の把握などでの貢献を目指してまいります。
「だいち4号」およびH3ロケットの各プロジェクトメンバー、また、人工衛星・ロケットの開発・運用に携わる三菱電機株式会社様、三菱重工株式会社様をはじめ関係企業の皆さまと一丸となって、6月30日の打上げ、「だいち4号」の運用にむけた準備を入念に進めていきたいと思います。
2. 宇宙戦略基金に関する準備状況
宇宙戦略基金につきましては、 4月26日に、政府より基本方針、そして実施方針が公表されました。基本方針にも記載されておりますとおり、宇宙戦略基金では「JAXA主体の研究開発ではなく、民間企業・大学等が主体となって技術開発を推進する」ことが前提であり、宇宙戦略基金の創設により、民間企業・大学等が主体となる活動への支援が抜本的に強化されると認識しております。これらの方針を踏まえ、JAXAにおいても7月以降、順次公募を開始できるよう、公募要領の作成、事業運営体制の構築、規程類の制定に加え、機構内外での情報発信も鋭意進めているところです。
基金事業の全体運営、総合調整を担うステアリングボードを立ち上げ、その座長であるプログラムディレクター(PD)には、一般社団法人SPACETIDE代表理事である、石田真康様に、6月1日付で就任いただきました。
石田様は、新たな民間宇宙ビジネスの振興のためにSPACETIDEを創設・運営され、20ヵ国・20業種のリーダーが集う国際宇宙ビジネス会合を主催するなど、さまざまな業界横断活動を推進されるとともに、経営コンサルティングファームで20年に渡り宇宙業界を含む多様な企業や政府機関の支援に携わられております。今回の基金運営においては、技術とビジネスの双方の観点を持ちつつ、中長期的に事業を推進する必要があることから、プログラムディレクターをお願いいたしました。
7月1日には、現在の宇宙戦略基金準備室を発展させ、新たに「宇宙戦略基金事業部」を発足いたします。JAXA職員のほか、銀行等での金融関係業務経験者、メーカー勤務経験者、他法人での基金業務経験者、そして中央省庁や地方自治体からの出向者など多様な人材を迎え入れ、JAXAが担う公募・採択手続きのほか、技術とビジネスの両面から事業を推進していく体制を構築しているところです。
このような体制のもと、7月上旬に輸送、衛星、探査の分野から5つのテーマについて公募を開始し、7月中旬以降にも順次公募を行っていく予定です。
今後、公募に関する情報は、JAXA公式ウェブサイトの「宇宙戦略基金事業サイト」にて情報発信してまいりますので、ご参照ください。
3. 新事業促進部の活動紹介(間接出資/企業共創活動)
次も民間等との活動の紹介になります。内容としては間接出資と企業共創活動の2つがございます。企業連携、ビジネス連携の創出などを担っている新事業促進部の活動について2点、ご紹介いたします。
1件目は、JAXAの出資機能に関するお知らせとなりますが、JAXAでは「Frontier Innovations 1号投資事業有限責任組合」に対して間接出資を行いました。
この出資機能による間接出資の対象は、JAXAの成果活用事業者、つまりJAXAの知的財産等を主として利用・活用する事業者等を支援するベンチャーキャピタルファンドとなります。
今回、出資いたしましたファンドは、宇宙関連分野における持続的なベンチャーエコシステムの創出・育成・拡大を目指し、スタートアップ等に投資を行うファンドとして新たに立ち上げられたファンドです。
宇宙分野だけでなく、新たな変革が期待できる宇宙分野とシナジーのある異分野の技術領域のスタートアップにもバランス良く投資される方針であることから、宇宙産業エコシステムの構築や、異分野との糾合を図るオープンイノベーションの促進が期待できるとして、JAXAは本ファンドを初の間接出資先に決定いたしました。
本出資は、「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」に基づく間接出資であり、研究開発法人としては国内初の事例となります。
JAXAは、先程ご紹介した宇宙戦略基金における資金供給機能と、宇宙関連産業への金融機関や投資家など民間からのリスクマネーの呼び込みに繋げる出資機能の2つを両輪として最大限に活用し、グローバルに拡大する宇宙産業の更なる発展、国内のスタートアップの成長の後押しをして参ります。
もう一つが、企業共創活動J-SPARCの事例についてのご紹介となります。J-SPARCは、民間事業者等とJAXAの間でパートナーシップを結び、共同で新たな発想の宇宙関連事業の創出を目指す新しい研究開発プログラムとして実施、活動しております。これまで約200社にのぼる企業・機関に参画いただいております。
その活動の一つとして、昨日6月13日より、株式会社電通様と群馬県の嬬恋村農業協同組合(JA嬬恋村)様と事業共同実証を開始いたしました。
本共創活動は、2022年7月から約1年9カ月の間、株式会社電通様とマーケット調査や事業のコンセプトを検討するコンセプト共創活動を実施してきました。このコンセプト共創活動を通して、事業性が確認できましたので、2024年度から、事業化手前のフィジビリティスタディを行うフェーズである事業共同実証に移行しました。
本活動では、野菜、例えばキャベツの収穫適期を衛星データと天候情報を用いて予測し、キャベツの収穫量が多くなるタイミングにあわせて、テレビコマーシャルや小売店などでの販売促進を高めることで、関連食品、例えば調味料などの販売促進につなげることや、収穫量過多による廃棄を未然に防ぎ、農作物の廃棄ロス低減などの社会課題の解決に取り組むことを目指しています。本年度から新たにJA嬬恋村様に共創メンバーに加わっていただくことで、キャベツの出荷情報、天候情報含めた現地情報の正確な把握や、収穫時期予測の解析結果に対するフィードバックを得ることで、出荷時期や出荷量、市場価格の予測精度を向上させ、関連する広告出稿タイミングについてリアルタイムで最適化を図っていきます。
電通様、JA嬬恋村様、JAXAの三者は、本共創活動を通じて、データを活用した農作物の需給最適化を推進し、持続可能な社会の実現に貢献していきたいと考えております。
4. D-NET能登半島地震技術支援およびD-NET後継プロジェクト
航空技術部門では、D-NETと呼ばれる災害や危機管理時に各防災機関の活動を一元的に管理・共有することを目的に開発した通信プラットフォームシステムの研究開発を、災害対応・危機管理対応を行う省庁等と連携して行っています。これまでも、熊本県を中心とした令和2年7月豪雨のような災害対応や、東京オリンピック・パラリンピック等での危機管理対応において、対応機関等が個別に運用しているヘリコプターがより効率的かつ安全に飛行するために活用していただき、複数の航空機の運航管理調整に要する時間を、従来の手法に比べ大幅に短縮できた点を高く評価いただきました。
今年1月に発生した能登半島地震においても、消防庁との技術協力の推進に係る取り決めに基づき、JAXA職員を石川県庁の災害対策本部に派遣してD-NETによる技術支援を実施しました。これにより緊急消防援助隊航空部隊の安全な運航を支援し、人命救助に貢献したとして、先月5月23日に消防庁長官より感謝状を頂きました。
一方で、この技術支援により被災地内での無人機も含めた航空機運用、特に情報共有体制が課題であること、また無人機自体の機能・性能向上も重要であることが明らかになりました。明らかになった課題は、今後の研究開発で改善を目指してまいります。
関連して、災害時など航空機の運航管理技術に関しては、政府が推進する「経済安全保障重要技術育成プログラム(略称Kプロ)」の研究開発構想のひとつとして“災害・緊急時等に活用可能な小型無人機を含めた運航安全管理技術”が設定されております。この度、JAXAを研究代表機関とする2つの課題を提案し、採択されました。
一つ目の課題は「運航安全管理技術」、二つ目の課題は「小型無人機技術」です。課題一つ目の「運航安全管理技術」はD-NETを引き継いだプロジェクトとして、また課題二つ目の「小型無人機技術」では、これまで航空技術部門で培ってきました小型無人機技術を引き継いで研究開発を行います。
それぞれの課題においては、研究分担機関である大学、民間企業と連携することで、多様な機関が運航する有人機・無人機の効率的かつ連携した運航につなげるための情報共有・判断支援技術の開発や、夜間や目視できない状況下での長時間、長距離運用可能な小型無人機開発などを実施いたします。
これらの研究開発で有効性が認められた技術・知見については、実用化に向けて取り組んでまいります。その際には、航空宇宙分野での連携にとどまらず、災害対応を行う民間企業での取り組みや、災害対応に関連する他分野での研究開発機器、システムについても動向調査を行い、積極的な連携を図ることで日本の災害・危機管理対応能力の向上と、国民の安全・安心の確保に貢献することを目指してまいりたいと思います。