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デブリと宇宙機の衝突を防ぐ JAXA 追跡ネットワーク技術センター SSA(宇宙状況把握)システムプロジェクトマネージャ 松浦真弓

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デブリと宇宙機の衝突を防ぐ JAXA 追跡ネットワーク技術センター SSA(宇宙状況把握)システムプロジェクトマネージャ 松浦真弓

デブリを監視・観測して衝突回避の警告を出す

— 日本におけるスペースデブリ観測の現状を教えてください。

上齋原スペースガードセンター上齋原スペースガードセンター美星スペースガードセンター美星スペースガードセンター

 岡山県にある上齋原スペースガードセンターと美星スペースガードセンターにおいて、スペースデブリ等の観測を行っています。上齋原ではレーダーにより、高度約2,000kmくらいまでの低軌道帯のデブリを観測します。観測できるデブリの大きさは、高度にもよりますが直径1m以上で、同時に10個のデブリを追尾することが可能です。一方、美星では光学望遠鏡により、高度36,000kmの静止軌道帯のデブリを観測しています。どちらの施設も一般財団法人日本宇宙フォーラムが所有し、JAXAは提供を受けた観測データを分析することで、デブリの軌道や位置を把握します。

 これらのデータ等を元にデブリが人工衛星に衝突する可能性がある場合には、衛星チームに警告を出します。これが、私が所属する追跡ネットワーク技術センターの役割です。デブリとの衝突を回避するために衛星の軌道を変えるわけですが、当センターでは、どのタイミングでどの方向に軌道を変えたらよいかといった具体策も検討し、提案します。また、大気圏に再突入しても燃えにくいデブリは地上に落下することがありますが、その大気圏再突入予測を出すのも私たちの仕事です。

— 日本で観測できるのは直径1m以上の大きいスペースデブリなのですね。1m以下のデブリについてはいかがでしょうか?

 レーダーの観測施設ができたのは2004年で、当時スペースデブリの問題はまだそれほど大きく扱われていませんでした。一方で、人工衛星の打ち上げに使われたロケットの機体などが大気圏に再突入してくるのを観測するのであれば、直径1mのものが見られれば十分だったのです。ところが、2000年代後半にデブリの脅威を深刻化する出来事が起きます。2007年に中国が自国の衛星をミサイルで破壊する実験を行ったのに続き、2009年にはアメリカとロシアの衛星が衝突する事故が発生しました。これらの出来事によって、デブリの数が急激に増えたことを契機に、宇宙のデブリ問題が世界的に注目されるようになったのです。

 アメリカでは国防総省戦略軍統合宇宙運用センター(JSpOC)がデブリを24時間365日監視していますが、JAXAはこのJSpOCとの間で相互に情報提供を行っています。JSpOCは公称で直径10cm以上のデブリの観測を行っていますが、そのデータを提供してもらうだけでなく、日本からの観測で見つけたデブリの情報を伝えることもあります。また、日本の衛星にデブリが衝突しそうな場合は、JSpOCが警報を出してくれます。これは、2013年に締結された、宇宙状況の監視に関する日米協力の取り決めに基づくものです。

宇宙機に壊滅的な被害を与えるデブリ

— 現在、デブリの数はいくつあるのでしょうか?

軌道上宇宙物体の推移
軌道上宇宙物体の推移ZOOM
地上から見たデブリ観測図(視野角+-10度)
地上から見たデブリ観測図(視野角+-10度)ZOOM

 スペースデブリには衛星を分離した後のロケットの第2段や、運用を終了した衛星だけでなく、ボルトなどの部品や、デブリ同士が衝突したときに発生する破片なども含まれます。その数は、約60年前に史上初の人工衛星スプートニク1号が旧ソ連から打ち上げられて以来、右肩上がりで増え続けていて、現在では、17,000個超の物体の軌道がJSpOCのホームページで公開されています。さらに、地上からは観測が難しい直径1cmより小さいものも含めれば、数千万超とも1億個を超えると言われています。そのデブリの7~8割は、高度2,000km以下の低軌道に分布しています。

— デブリが衛星に衝突した場合の破壊力はどのくらいでしょうか?

 デブリの平均速度は低軌道で秒速7~8kmあり、デブリが衝突する場合には相対速度が秒速10km~15kmにもなりますので、かなりの破壊力を持ちます。拳銃の弾丸の秒速が数百mなので、10倍以上速い速度です。そのため、1cm程度のデブリでも宇宙機に壊滅的な被害を与えるのです。

— デブリ衝突の警告が出る頻度はどのくらいでしょうか?

 JSpOCは、デブリがJAXAの衛星に衝突しそうな場合に警報を出してくれますが、そのタイミングは低軌道だと1週間前、静止軌道だと2週間前です。まずは、衛星を中心に少し広い範囲で、デブリが近づいてきそうだという情報を入手しますが、その数が昨年度1年間で9万件ありました。その後、該当するデブリが本当に衛星に近づくかどうか監視し、衝突する可能性が高くなると、衛星の軌道を変える準備をします。衛星の軌道は急には変えられず、準備に2日ほど必要です。低軌道帯の衛星の場合は、デブリと衛星までの距離が1km、高度差で200mほどで、衝突確率が高い状態が継続する場合に軌道変更の準備を始めますが、それが年間で約30件。平均すると2週間に1度の割合で起きました。その中でさらに絞り込み、実際に衛星の軌道を変えて衝突を回避したのは、昨年度は5件ありました。衛星の軌道を変えるためには観測など本来の仕事を一旦停止しなければならないため、最後の手段として行います。

— 国際宇宙ステーション(ISS)がデブリを避けるために軌道を変更したという話を聞いたこともあります。

 国際宇宙ステーション(ISS)には、1cmまでのデブリを防御できるバンパー(防御材)が取り付けられていますが、場合によっては軌道を変更してデブリを避けます。ISSについてはNASAがデブリ接近の評価を行って、軌道修正の要否を判断します。軌道を修正する際には太陽電池パドルの回転を一旦停止し、大きな電力を使う実験を休止するなどの準備が必要です。そのため、本当にデブリが衝突するかギリギリまで見極めます。2011年6月にISS滞在中の古川聡宇宙飛行士らが、デブリの接近でISSに連結されているソユーズ宇宙船に避難したことがありましたが、これはデブリ衝突の可能性があると分かったのが直前で、準備する時間がなかったためです。万が一の場合はISSから離脱する予定でしたが、実際にはデブリ衝突は起きませんでした。

デブリ観測におけるJAXAの貢献

— これまでJAXAの衛星がデブリに衝突して運用できなくなったことはありますか?

JAXAのSSA(宇宙状況把握)システム
JAXAのSSA(宇宙状況把握)システムZOOM

 幸い、JAXAの衛星はデブリによって致命的な被害を受けたことはありません。大きいものは避けていますし、小さいものついては、当たっても故障しないようデブリ防御シールドをつけて衛星を守るなどの工夫をしています。ところが、デブリ衝突の脅威は年々増していますので油断はできません。宇宙空間はますます混雑し、デブリとの衝突リスクがさらに高まることが予想されます。そのリスクから日本の衛星を守るため、24時間365日体制でデブリを観測し続けなければならないのです。現在は海外の支援を受けてデータを補っていますが、将来的には日本国内で10cm級のデブリの観測を行える体制を作る予定です。

— 自国の衛星を自ら守る体制を整えるということですね。

 そうです。外部からの警告を受けて動くのではなく、どのデブリが危険かといった情報を自前で持ち、初動を早くしたいと思います。せめて自分たちの衛星は自分たちで守れるようにしたいのです。そのためにJAXAでは、平成30年代前半を目処に、デブリを観測する高性能のレーダー施設を上齋原スペースガードセンターがある場所に作る計画を進めています。新しいレーダーは現在のレーダーの200倍近い探知能力を目指し、10cm級の大きさのデブリを観測できるようにします。一方、光学望遠鏡については能力的に問題がないため、現在の施設の老朽化部分を更新します。これまでは既存の施設を利用して観測データを提供してもらっていましたが、これからは、JAXAの管轄下で運用を行いデブリの観測を行うのです。

— デブリ観測における国際協力はいかがでしょうか?

 デブリの観測は日本だけでなくアメリカやヨーロッパの宇宙機関でも行われています。彼らとデータをシェアしながらデブリを観測しようという動きはありますね。特に静止軌道帯に関しては、日本の上空は日本で観測する方が精度が良く、ヨーロッパからは見えないため、お互いに情報交換するといった協力が考えられると思います。宇宙の環境問題は地球規模で取り組まなければならないものですので、国際協力は不可欠だと思っています。

デブリ衝突予報の精度を上げたい

— 以前は宇宙ステーション補給機「こうのとり」のフライトディレクタをなさっていて、デブリの情報を受ける側だったんですよね。

 そうです。「こうのとり」は種子島から打ち上げられた後に、徐々に高度を上げながらISSに接近しますが、デブリが飛んできたら予定の軌道を変更してデブリを避けなければなりません。当時は、デブリが「当たるかも」という情報ではなく、もっと精度のいい情報を出してほしいと思っていましたね。ぶつかるかもしれないと無駄にドキドキしたくないので(笑)。でも、何時何分にどのくらいの大きさのデブリが飛んでくるというのは計算上分かりますが、それが本当に「こうのとり」にぶつかるという予測を出すのが実はとても難しいんです。

— デブリ衝突の予測をするのが難しいのはなぜでしょうか?

 低軌道帯のデブリ衝突の予測精度を左右するのは大気の密度で、その予測が難しいからです。宇宙は真空といいながらも微妙に大気があり、その密度が濃いとデブリは抵抗を受けて高度を下げていきます。高度が下がれば下がるほど、「この時間に来ます」と言われた時間よりも早く到達するのです。一方、大気の密度が薄いと予定よりも遅く到達します。大気密度モデルがあって、それを使って計算をするものの、実際の大気の密度は地上の気圧配置と同じように、その日の太陽活動などによって変わってしまいます。それを数日前に完璧に予測することは不可能に近いことかもしれません。デブリ衝突の確率を正しく出すためには、大気密度を予測する技術を上げるしかないと思います。JAXAでは、デブリ予測精度を高めるための研究を行っています。

— 最後にご自身の目標をお聞かせください。

 岡山に新しく作るデブリ観測施設を予定通り完成させ、デブリの監視・観測体制を充実させることが近々の目標です。本格的なデブリ観測設備をJAXAが整備するのはこれまでになかった業務で、新しい挑戦でもあります。研究開発機関として、デブリ観測技術の向上に貢献できることにとてもやり甲斐を感じています。

 また、デブリ衝突予報の精度を上げたいですね。天気予報で台風の進路予想の円がありますが、最近はその円のサイズが小さくなったと、ある天気予報士の方がおっしゃっていました。それはつまり、台風の進路を予測する精度が上がったからなのだそうです。私たちがやりたいのはまさにそれで、デブリと衛星が衝突するかもしれない予測の円をできるだけ小さくしたいと思います。

松浦真弓(まつうらまゆみ)

河本聡美

JAXA 追跡ネットワーク技術センター SSAシステムプロジェクトチーム

1986年、NASDA(現JAXA)に入社し、中央追跡管制所(現追跡ネットワーク技術センター)に配属。1992年、打上管制部射場運用課を経て、1998年に宇宙環境利用推進部(現有人宇宙技術部門)へ。日本実験棟「きぼう」、宇宙ステーション補給機「こうのとり」のフライトディレクタとして業務にあたる。2015年、追跡ネットワーク技術センター 軌道力学チームに異動。2016年、SSAシステムプロジェクト発足にともないプロジェクトマネージャ就任。

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[ 2017年3月13日 ]

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