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デブリ問題に世界で取り組む 外務省 元 総合外交政策局 宇宙室 西田充

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デブリ問題に世界で取り組む 外務省 元 総合外交政策局 宇宙室 西田充

自主的な取組みに委ねられるデブリ低減

— スペースデブリの問題が深刻化していますが、デブリに関する国際的な取り決めはあるのでしょうか?

 スペースデブリ問題に関しては、国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)で原案を作成し、2007年に国連総会で採択された「スペースデブリ低減ガイドライン」があります。これはスペースデブリの発生抑制を目的としたソフトローです。ですから法的拘束力はなく、加盟国の自主的な取り組みに委ねられています。このガイドラインには、ロケットや衛星はデブリが出ないような設計にするとか、低軌道衛星は運用終了から25年以内に大気圏に再突入させるといった内容が含まれています。

— 宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)というのは?

 COPUOSは「宇宙の平和利用」について話し合う場として、1957年の旧ソ連による史上初の人工衛星の打ち上げをきっかけに国連の常設委員会として設置されました。日米露など83カ国で構成され(2016年)、宇宙の研究に対する支援や情報活動、宇宙活動に関する国際的なルールづくりなどを行っています。例えば、COPUOSにおいて作成された条約の一つに、1967年に発効した「宇宙条約」があります。この条約は、宇宙空間の探査および利用における国家の責任を定めた“憲法”のようなもので、宇宙に核兵器などの大量破壊兵器を配備してはならないといったことが明記されています。

すべての宇宙活動を対象にした行動規範を

— デブリに対する問題意識が国際的にも高まっていると感じますか?

 はい。今やデブリが宇宙機にリスクを与えていることは世界共通の認識になっていると思います。そのきっかけとなったのは、2007年の中国のミサイルによる人工衛星破壊実験です。これによりデブリが急増し、宇宙機が危険にさらされていると報道されたことで、一般の方にもデブリ問題が知られるようになりました。

 偵察衛星など軍事目的の衛星によるデブリについては、ジュネーブ軍縮会議にて議論されていますが、デブリの脅威に対する認識が高まったことで、民生と軍事のデブリを別々に考えるのではなく、双方の宇宙活動を対象にするべきではないか、国際社会で共同してこの問題に対処するべきではないかといった意識が持たれるようになりました。しかし、宇宙活動国の増加などもあり、法的拘束力を持つ新しい条約をつくるのは現実的ではありません。そこで、双方の宇宙活動を対象にした行動規範、いわゆるソフトローを策定することが考えられています。

— 行動規範の形成に向けた動きはあるのでしょうか?

 8年ほど前から、「宇宙活動に関する国際行動規範」を形成しようという議論が、多国間で行われています。まず、2008年に欧州連合(EU)が、スペースデブリの発生防止を含む宇宙活動に関する行動規範案を提唱し、日本は2012年1月に、この行動規範策定に関する議論に積極的に参加することを表明しています。私もその議論に参加し、JAXAをはじめとする宇宙機関にも協力してもらいながら、行動規範の内容を検討してきました。

 そして、2012年以来、キエフ、バンコク、ルクセンブルクで多国間協議を行った後、2015年7月には、EUがニューヨークにて多国間交渉会合を開催。我が国を含む109カ国、2国際機関、6NGOが参加して、行動規範の内容や今後の協議の進め方について議論しました。このように、行動規範の実現に向けて一歩一歩進んできたわけですが、すべての参加国から合意を得るのは容易なことではありません。引き続き、行動規範の策定を目指していきたいと思います。

デブリへの理解を深めることが大切

— 国際的なルールをつくる難しさは何だと思いますか?

 デブリに関していえば、デブリがなぜ発生するのか、デブリによってどんなリスクが生じるのかをすべての国に認識してもらうことが課題となります。その認識がないと、世界共通のルールをつくることはできません。そのため、デブリ問題がいかに深刻かを理解してもらう教育的な取り組みから始める必要があります。

2012年12月に行われた宇宙環境保全ワークショップ2012年12月に行われた宇宙環境保全ワークショップ

 次に求められるのは、プロセスの正当性です。誰がどのようにルールを決めたのかという経緯が重要視されるのです。例えば、多国間主義を基本原則とする国連の下でつくられたルールであれば、発展途上国は、対等の立場でルール決定のプロセスに参加したという意識を持てます。しかし、COPUOS が1960年代から70年代にかけて策定した宇宙条約等以来、宇宙活動に関する条約は策定されていないように、国連の下で新たな条約を策定しようとしてもなかなか成果が得られません。他方で、先進国だけで決めたルールを一方的に押し付けられても、途上国は納得できないでしょう。途上国の気持ちも理解したうえで交渉を行わなければなりません。そのあたりに配慮しながら、最も効果的に成果を生み出すアプローチをとる必要があるというのが国際的なルール作りの難しい点だと思います。

— 教育的な取り組みとは、具体的にどのようなことをするのでしょうか?

 例えば、2012年12月には、マレーシアにおいて外務省主催で宇宙環境保全ワークショップを開催しました。これは、文部科学省およびJAXAが主催する第19回アジア・太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF-19)の開催にあわせて行ったものです。「宇宙の環境を保全する」というテーマで、デブリの現況やその影響に関する説明があったり、デブリの発生を最小限に抑えるための対策を意見交換するなど、アジア太平洋諸国の宇宙関係者にデブリ問題を知ってもらう良い機会になったと思います。特に「宇宙環境を守るためには規範づくりが必要」という意識をみんなで共有できたのは大きな成果だったと思います。

JAXAの外交面での貢献に期待

— スペースデブリ問題におけるJAXAの国際的な貢献についてはいかがでしょうか?

 私が直接関わったものとしては、「宇宙活動に関する国際行動規範」への貢献があげられます。規範作成に向けた協議にあたって、JAXAの方から多大なるご支援をいただきました。例えば、他の国の衛星に危険な接近をもたらす可能性がある場合は事前に通達するという内容がありますが、何をもって「接近」というのか、技術的なことが私たちには分かりません。このような技術面で、JAXAからいろいろな知見をいただきました。

 JAXAは前身の機関の時代からデブリ問題に積極的に取り組んできたと聞いています。デブリの増加は以前から懸念されており、COPUOSが1999年に「スペースデブリに関する技術報告」を発表して以来、デブリが宇宙機に危険を与えていることが共通の理解となりました。そんな中、JAXAの前身の機関のひとつ、NASDAは国際宇宙機関間デブリ調整会議(IADC)に世界共通のデブリ対策規格の作成を提案し、自らリーダーとなって、2001年に「IADCスペースデブリ低減ガイドライン」を制定するに至りました。このガイドラインこそが、2007年に国連が採択したガイドラインの基礎となっています。

— JAXAにどのようなことを期待しますか?

 デブリ問題に対する国際的な認識を深めるという点で、途上国の宇宙機関への教育的なアプローチをしてほしいと思います。JAXAは途上国に、国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟からの超小型衛星の放出機会を提供していますが、その際、衛星の技術だけでなく、デブリ低減の教育もしてくれればと思います。なぜなら、宇宙の関係者同士が共通の言語で話すと政治的な問題にならず、純粋な問題として「デブリは危ない」と理解してくれることが多いからです。デブリ問題を理解してもらうことは、法規範を形成するうえでも大切なことです。

 また、JAXAはデブリ除去の技術研究をしていますが、それでぜひ世界をリードしてほしいと思います。技術面でリードすると、規範づくりの面でもリードできる可能性があります。自動車の技術を最初に開発した会社が一定の規格をつくり、他はそれを見本にしたと思いますが、これと同じです。特に日本の宇宙開発は平和利用でずっとやってきましたので、クリーンな組織というイメージがあり、また技術に対する信頼度もすごく高いです。善意を持った日本の宇宙開発がこのような技術をつくったと言うと、世界はきっと信用してくれるでしょう。JAXAの技術は、外交面でも貢献してくれるのではないかと期待しています。

西田充(にしだみちる)

河本聡美

外務省 軍縮・不拡散専門官

モントレー国際大学院国際政策学修士。大量破壊兵器不拡散研究専攻(ジェームズ・マーティン不拡散研究センター)。その後、外務省大量破壊兵器等不拡散室、不拡散・科学原子力課、ジュネーブ軍縮会議日本政府代表部、総合外交政策局宇宙室兼軍縮不拡散科・科学部軍備管理軍縮課を経て、現在、ワシントンD.C.の在米日本国大使館に所属。

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[ 2017年3月13日 ]

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