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民間の力で宇宙をきれいにする ASTROSCALE PTE. LTD. CEO 岡田光信

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民間の力で宇宙をきれいにする ASTROSCALE PTE. LTD. CEO 岡田光信

新しい宇宙ビジネスへの挑戦

— 民間企業として世界で初めてデブリ除去に取り組んでいると伺いました。

 スペースデブリ問題を解決し、宇宙機が安全に航行できるようにするのが私たちのミッションです。そのために、現在の宇宙の環境を理解したうえで、デブリ除去のビジネスを展開したいと考えています。最初に、宇宙にどれだけのデブリがあるのかを調べます。宇宙には大小さまざまなデブリがあり、大きいものは除去すること、小さいものは密度等をきちんと把握することが大切です。直径10cm以上の大きなデブリは地上から望遠鏡等で把握できるのですが、現在17,000個以上あります。技術が進めば数cm以上のものを把握できるでしょう。他方で、地上から観測できない数cm以下のデブリは、現在1億個以上あると言われています。10cm以上のデブリは地上から検出でき、宇宙機は軌道を変えてデブリを避けることができます。しかし、地上から観測できない微小デブリは避けようがなく、実際に宇宙機に高い頻度でダメージを与えています。ですので、大きいデブリについては衝突して微小になる前に、すなわち見えているうちに除去する対策を、微小デブリは詳細な情報を把握することで、宇宙環境の認識の向上と宇宙機の安全設計につなげる対策を実施することが必要です。

— アストロスケールではどのような衛星を開発しているのでしょうか?

「IDEA OSG 1」の完成図 ©ASTROSCALE「IDEA OSG 1」の完成図 ©ASTROSCALE完成した「IDEA OSG 1」 ©ASTROSCALE完成した「IDEA OSG 1」 ©ASTROSCALE

 2つの衛星の開発を進めています。1つ目は、「IDEA OSG 1(イデア オーエスジー ワン)」という宇宙環境を“知る”ための衛星で、デブリの位置と大きさを調べ、分布図を作ります。初号機の大きさは高さ60cm、幅と奥行きは40cmです。衛星には、JAXAが開発した「フィルム貫通型微小デブリセンサー(SDM)」を搭載します。センサーにデブリが衝突すると内部の導電線が切断され、その切断本数などからデブリの大きさを推定することができます。このデータと一緒にデブリの位置情報を地上に送り、それを解析することでデブリの地図を作るのです。その地図を見れば、どのような大きさのデブリが、どの程度の高度を飛来しているかが分かるというわけです。衛星は、防御材でカバーするなどデブリ防御設計を行いますが、デブリの分布情報は、このエリアに打ち上げる予定の衛星に、どの程度のデブリ防御設計を施せばよいのかを検討するときに役立ちます。

 2つ目は、「ELSA(エルサ)」という宇宙を“掃除する”衛星で、デブリを除去します。初号機は、高さ1m、幅と奥行きは60cmを予定しています。今後5~10年で非常に多くの人工衛星が打ち上げられる予定です。これらの人工衛星は宇宙環境を維持するために、寿命を迎えたら確実に大気圏に落ちて燃え尽きなければなりません。これをPost Mission Disposal (PMD)と呼びます。ELSAは何らかの理由でPMDができない人工衛星を捕獲し、除去することを行います。ELSAは独自に開発した捕獲機構を保有しています。それを使って寿命を迎えた人工衛星を捕獲します。そしてその後、衛星は推進力を使って大気圏に突入し、最後はデブリと一緒に燃え尽きます。500kgぐらいまでのサイズのものを除去したいと考えています。

— 衛星の開発はどこまで進んでいるのでしょうか?

 「会社の設立から7年間でデブリ除去の事業を軌道に乗せる」という計画を立て、それに沿って開発を進めています。2013年の起業から、ちょうど3年半あまりが経ちました。デブリ観測衛星と除去衛星の開発を同時に行っており、観測目的の「IDEA OSG 1」はすでに完成しました。2017年中に、ロシアの宇宙基地から初号機を打ち上げることが決まっています。一方、デブリ除去衛星の「ELSA」は元々「ADRAS1」という衛星名で開発を進めていましたが、潜在顧客ニーズが明確になってきたため、一部の設計を見直している段階です。2018年終わりから2019年にかけて宇宙空間でデモンストレーションを実施する予定です。デブリ除去のビジネスを2020年に開始することを目指しており、その実現に向けて海外機関との調整も行っています。

宇宙ゴミをお掃除する

— デブリ除去に取り組む民間企業は世界でただ1社、アストロスケールだけです。宇宙ビジネスを始めるきっかけは何だったのでしょうか?

 40歳を前にミッドライフ・クライシス(中年の危機)に陥ったのがきっかけです。IT事業で起業するなど、それまで自分なりに結果を出してきたつもりです。しかし、社会に何も貢献していないことに気づき、自分の人生これで良いのかと悩む日々を送っていました。そんな時にふと、子どものころから好きだった宇宙のことを考えたのです。15歳のときにNASAの宇宙飛行士体験プログラムに参加して毛利衛宇宙飛行士にお会いする機会があり、「宇宙は君達の活躍するところ」と書いた直筆メッセージをいただいたのですが、そのときのことを思い出しました。自分は本当に宇宙が好きだなあと改めて感じたときに、この純粋な“好き”という気持ちを大事にしたくて、宇宙で何かしたいと思うようになったのです。今の私の原点は、毛利宇宙飛行士との出会いだったように思います。

 そして、2013年2月に参加した宇宙関連の学会で、デブリが深刻な問題になっていることを知り、さらにどのようなデブリ対策がとられているのか現状を理解したくて、同年4月にはドイツで行われたデブリ専門の学会を訪れました。ところが意外にも、具体的な解決策がまだなかったのです。デブリ問題の解決に向けた研究や提案が発表されるだけで、実際に行動を起こしているという話はありませんでした。そこで、それならば自分がデブリの問題を解決しようと決心し、翌月5月に起業したのです。周囲からは、デブリを除去するという市場はないと言われましたが、市場がないということは競争相手もいないということです。これは大きなチャンスになると確信しました。

お客様の衛星をデブリから守りたい

— 宇宙ビジネスを始めるうえで課題となっていることは何でしょうか?

「IDEA OSG 1」試験中の様子 ©ASTROSCALE「IDEA OSG 1」試験中の様子 ©ASTROSCALE

 課題というよりも、リスクが5つあると言った方がよいでしょう。デブリ除去のビジネスには、「技術的リスク」「ビジネスモデルがないというリスク」「経済的リスク」「法的リスク」「コミュニケーションリスク」があります。デブリを除去するという技術は非常に難しいため、まだ実現されておらず、どこにもビジネスモデルがありません。幸いにも私たちは、2016年3月に、官民ファンドの産業革新機構などから約40億円の資金調達を受けることに成功しましたが、資金が尽きるかもしれないというリスクは常にあります。また、デブリ除去に関しては国際的なルールがまだないため、たくさんの法的な壁にぶち当たります。さらに、デブリの問題は一般の方には馴染みがないため、周囲に理解してもらえるよう伝えるのはとても難しいことです。私は経営者としてこれらすべてのリスクに対応していかなければなりません。

— 宇宙を掃除するビジネスは実現しそうですか?

 宇宙ゴミの除去が有望なビジネスになると見込まれたから、出資を受けることができたのです。今はまだ詳しいお話はできませんが、そう遠くないうちに事業化を実現します。おそらく2020年には除去衛星を量産しているでしょう。簡単にお話をすると、「ゴミを除去したいのでお金をください」と言っても誰もお金を出してくれませんが、「あなたのサービスの継続性を高めるので対価をください」と言えば、もし経済的に整合性が合えばビジネスとして成立します。いま各国で構想・実現が進みつつある衛星コンステレーションがその顧客候補です。コンステレーションの多くは使用している軌道に一定の間隔で衛星を配置したいのですが、もし寿命を迎えてもPMDできずデブリになる衛星が出てくると、その位置に新しい衛星を置くことができなくなります。例えば通信衛星の場合、そのデブリがあるエリアには、通信サービスを提供できなくなってしまいます。一方、このような事態を避けるためにPMD成功率を高めようとすると、追加の機器や推進剤を搭載することになり、コストアップになってしまいます。そのため、「PMD失敗時のみ掃除をしますよ」というビジネスは成り立ち、市場のニーズに十分応えられると思います。

宇宙機が安全に航行できる環境をめざして

— JAXAにどのようなことを期待しますか?

松本零士氏から贈られた作品 ©Leiji Matsumoto  ©ASTROSCALE松本零士氏から贈られた作品 ©Leiji Matsumoto ©ASTROSCALE

 実は、最初にデブリの問題を知ったときは、IT企業での経験を活かしてデブリ捕獲ゲームを作ろうと思ったんです。それで、JAXAに提案書を持参し、ロゴの使用など相談にのっていただきました。これは私にとって初めての宇宙機関との対話でした。デブリの研究者の方々は数人で同席して一緒に議論してくれたのです。結局、いろいろあってゲームではなく衛星を作ることになりましたが、私はJAXAが相談にのってくれたことにすごく感謝しています。彼らの真摯な対応が、宇宙でビジネスをやってみたいと何となく思っていた自分を本気にさせてくれたのです。

 このように、宇宙産業以外の分野の人がJAXAと対話できる機会をもっと増やしてほしいと思います。そうすればきっと、宇宙ベンチャーに参入する人が増えるのではないでしょうか。アメリカでは宇宙ベンチャーが1,000社以上、ヨーロッパでも数百社くらいあるのに、日本ではまだ10社もありません。今私も苦労していますが、50ぐらい会社がないとサプライチェーン(ある製品の原材料が生産されてから、消費者に届くまでの一連の流れ)が成立しませんし、競合相手のいないビジネスには投資もなかなか集まりません。JAXAには宇宙ベンチャーの起業を後押ししてほしいですね。私がそうであったように、JAXAからそのきっかけを与えられる人が必ずいるはずです。

— 今後の展望をお聞かせください。

 アストロスケールの工場内には、漫画家の松本零士さんから贈られた作品があります。列車が宇宙を駆け抜けて地球と月を行き来する絵が描かれていますが、これこそが私の夢です。いつか地球と月との間に定期便ができて、人々が宇宙を自由に行き来できるようになると思いますが、そのときに宇宙機が安全に航行できる環境をつくりたいと思っています。そのためには、地球の周りに一切ゴミがない状態にしなければなりません。これを実現するには、まだまだ越えなければならない山がたくさんありますが、それに挑んでいきたいと思います。

岡田光信(おかだみつのぶ)

河本聡美

ASTROSCALE PTE. LTD. 最高経営責任者

東京大学農学部卒業。大蔵省(現財務省)主計局に勤めた後、マッキンゼー・アンド・カンパニーにて経営コンサルティングに従事。IT企業を経て、2013年5月にASTROSCALE PTE. LTD.をシンガポールに設立。2015年2月には、衛星の研究開発拠点としてアストロスケール日本法人を設立。

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[ 2017年3月13日 ]

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